暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ついに準備を重ねて来た時が。

そして万のリトライの結果が出ようとしています……


1、暴悪顕現

全身グシャグシャになりながらも、何とかアダレット王都に帰還する。ドナーエンデカーを急いで王宮に届ける。向こうにも解析班が控えている筈で、すぐに動いてくれるはずだ。

 

少し、王宮前の受付で待たされる。ルーシャも同じ任務を受けていたようで、同じく待たされる。

 

フィンブル兄には、待機していて欲しいと頼んだ。

 

ドロッセルさんは、フリッツさんともども、国から仕事が来ているらしい。多分この後の、雷神との決戦に声が掛かっている、と言う事なのだろう。

 

まだ少し時間はあるけれど。

 

それでも、受付で、待たされている時間が、色々ともどかしくてならなかった。

 

ミレイユ王女が来る。

 

いつ以来だろう。

 

アトリエランク制度に参加したとき以来だろうか。

 

王族用らしい青い鎧を着ていて。

 

非常に険しい表情だった。

 

「三人とも、ご苦労様でした。 総力での解析の結果、恐らくファルギオルは137時間ほど後に復活すると結果が出ました」

 

「それで、私達は……」

 

「勿論戦って貰います。 既に「三傑」は前線に出向いています。 貴方たちは、ファルギオル復活のあと、第二陣として出て貰います」

 

休むようにと言われて、頷くと。

 

すぐにミレイユ王女は戻っていった。

 

庭園趣味の上、太りきっていた先代の王様の娘とはとても思えない。勿論ミレイユ王女は前線に出るのだろう。

 

隣で青ざめているマティアス。

 

スールは疑問に思って聞いてみた。

 

「マティアス、逃げないの?」

 

「バカ言え。 ……第二陣の先陣は俺様だ」

 

「ええっ!?」

 

「ファルギオルを通したら、どの道アダレットはおしまいだ。 王族が最前線で指揮を執るのは当たり前だろ。 姉貴は当然その役割。 俺様は、もしもの時の保険だよ」

 

先代の王様だったら、すっ飛んで逃げていただろうに。

 

青ざめて震えてはいるけれど。

 

それでも少しだけマティアスを見直した。

 

ともあれ、一度解散。

 

アトリエに戻ると、準備を徹底的にする。

 

既に外では、避難訓練が始まっているが。

 

ブライズウェストの防衛線を喰い破られたら、多分逃げる暇も無く王都は黒焦げだろう。あくまで皆を安心させるための行動であって。こんな事をしても無駄な事は、スールにも分かった。

 

アトリエに戻ると。

 

後は黙々と、ネックレスを作る。

 

まずはスール用。

 

スールはバトルミックスを駆使しての、メインアタッカーになる事が要求される。スール自身の身体能力を上げても仕方が無いので、伝承にある雷神の一撃を、一瞬でも良いから防げるようにしたい。

 

其処で、ネックレスに仕込む強化はシールドにする。

 

続けてマティアス。

 

此方も最前線で戦って貰う。

 

回避盾のアンパサンドさんと違って、マティアスは動きもあまり早くない。ならば、スールと同じく防御強化で良いだろう。

 

フィンブル兄は、身体能力強化で。

 

多分これしか選択肢は無い。

 

ネックレスを黙々と作る間に。

 

浮遊避雷針を増やす。

 

戦闘中に、雷撃を防ぐためのものだ。戦闘前に落雷で死んだりしたら、話にもならない。

 

刻まれている魔法陣はレシピ通りに作るが。

 

この魔法陣、バステトさんも分からないと小首をかしげていたほど複雑で。

 

正直まださっぱり仕組みが分からない。

 

分からないものをそのまま言われた通り作っているので。

 

ちょっと悔しい。

 

リディーは何とか解読したいと言って頑張っているが。

 

それはファルギオルをどうにかした後にするべきだろう。

 

勿論、イル師匠がファルギオルに遅れを取るとは思えない。

 

保険として、最大限の準備をするという事だ。

 

フィリスさんも、更に恐ろしい三傑最後の一人も戦場には出向くという話だし。

 

多分問題は無いと思うのだけれど。

 

それでも徹底的に準備をしなければならないのが。

 

悲しいところだった。

 

準備を黙々と進め。

 

体調を崩さないように、徹底的に気も配る。

 

その間に、騎士団の大半が前線に出向いた様子で。

 

傭兵も相当な数が集まり、ブライズウェストに出向いている様子だった。

 

ただ傭兵の中には、雷神の名を聞いて怖れて逃げ出したものもいるようで。街の治安維持のために、既に一線を退いた騎士達まで動員されているようだ。

 

食事は全て出来合いで。

 

こんな状況でも、お店はやっている。

 

ネックレスをどうにか作り上げる。

 

そして、眠って、起きて。

 

呼び出しが来た。

 

マティアスが急いで来るようにと言う指示を出してきたので、悟る。スールも、びりびり感じる。

 

ブライズウェストの方に、何かとんでも無いものがいると。

 

雷神が、復活したのだ。

 

 

 

王城のホールには、錬金術師が数人と、騎士が数名いた。

 

揃っているのは。リディーとスール。ルーシャ。それにアルトさんと、パイモンさん。

 

ルーシャのお父さんは前線に行っているという話だ。

 

騎士はアンパサンドさんとマティアス。

 

それに魔族の騎士が数名。

 

いずれもが、多分ルーシャやパイモンさん、アルトさんの専属護衛として働いている人なのだろう。

 

咳払いしたのは。

 

モノクロームのホムだった。受付を時々してくれる役人である。

 

「現在戦力になると判断した錬金術師に来て貰いましたのです。 三傑は前線で、騎士団と共に雷神と戦闘を開始しています。 ミレイユ王女は既に前線にて、戦闘の指揮を執っている状況です」

 

「すぐに行かなくて良いんですの!?」

 

「此方は第二陣です。 本命戦力は最初から全部ぶつけています。 もしも戦況が悪いようなら……」

 

「伝令っ!」

 

飛び込んできたのは、黄色い肌をした魔族の騎士だった。

 

騎士三位らしいが。

 

騎士が伝令をしていると言うだけで、この戦いの重要性が分かるというものである。

 

「雷神ファルギオルとの交戦開始! 現在三傑の内イルメリアどの、フィリスどのが雷神を相手に攻勢を掛け、一進一退の戦いを繰り広げております! 三傑最後の一人、ソフィーどのは遅れている模様!」

 

「分かりました。 援軍要請は」

 

「現時点ではありません!」

 

「わかりました、引き続き伝令を」

 

頷くと、伝令は大雨の中、戦場に戻っていく。

 

あの人は、生きて帰れるのだろうか。

 

不安になる中、王宮に残っていたらしい獣人族の侍女が、暖かい紅茶を入れてくれる。ずっと緊張状態にあっても、心が切れてしまう。

 

だから、少しは良いだろう。

 

紅茶を飲んで、少しだけさっぱりするが。

 

その後、第二陣が来て、思わず腰を上げる。

 

「伝令!」

 

今度は若いヒト族の女性騎士だ。

 

ずぶ濡れだが、荒々しい姿で、臆している雰囲気も無かった。

 

「ファルギオルの猛攻にて、現在乱戦状態が続いております! 騎士達を集中的にファルギオルは狙い、負傷者が続出! ミレイユ王女から、出撃要請が出ました!」

 

「分かりました。 すぐに出るのです」

 

「はっ!」

 

「ふん、弱点から狙いに来たか。 邪神らしい姑息なやり方だ」

 

肩をすくめてみせるアルトさん。

 

手を叩くと。

 

役人は、若干緊張を声に含ませた。

 

「それではみなさん、出撃してください。 ご武運を」

 

敬礼されたので。

 

ぎこちなくだけれども、敬礼を返す。

 

そして、雨の中、飛び出した。

 

パイモンさんとアルトさん、ルーシャもいる。生半可な相手に負けるような面子ではない。

 

更に前線にはイル師匠とフィリスさん。

 

フィリスさんは怖い人だけれど、実力に関しては圧倒的だ。それはスールの身に、恐怖とともに刻まれている。

 

この面子だったら、ドラゴンだって恐るるに足りないはず。

 

そう自分に言い聞かせながら。

 

雷と豪雨が降り注ぐ中を走る。

 

城門は、此方を見て、すぐに通してくれた。

 

そのまま全速力で前線に急ぐが。

 

その途中で、豪雨にもかかわらず、見えてしまう。

 

嫌でも見えるのだ。

 

とんでもない雷撃が、前線で飛び交っている様子が。

 

復活したばかりで、弱体化しているという話の筈なのに。

 

何だあの雷撃。

 

横方向に飛んでいるし、自然発生した雷だとは思えない。

 

あれじゃあ、200年前。

 

騎士団が壊滅寸前まで追い込まれるわけだ。

 

イル師匠が動きを止めてくれると言っていた。

 

それならば。それを信じる。

 

作戦はリディーと話しあった。

 

動きを止めたところに、全力でバトルミックスによる、ルフトを束ねた爆弾を叩き込む。今までに集めたレンプライアの欠片全てを投入する。

 

それで勝負を決める。

 

敵の攻撃は、一瞬でも食い止められればいい。

 

最悪、相討ちに持ち込む覚悟で。

 

風を散らし。

 

大気を乱す。

 

雷にとっては、もっとも相性が悪いだろうルフトの総力強化に全てを賭ける。

 

攻防走ともに最強。

 

そんなバケモノに勝機を見いだすには。

 

それ以外に方法などないのだ。

 

一つ目の街を走り抜ける。

 

けが人が多数出ていて、後方にどんどん下げられているようだった。

 

馬車がひっきりなしに行き交っている。

 

これは、例え勝ったとしても。

 

騎士団は半壊状態なのではあるまいか。

 

200年間準備をしてきたはずなのに。

 

復活したての状態でこれか。

 

一体200年前に、全力で暴れていたときは、どれほどの怪物だったというのだろうか。まさに究極最強の邪神だ。

 

二つ目の街を通り過ぎた頃には。

 

雷撃が飛び交っている様子が、はっきり見えるようになった。何かがとんでもない雷撃を撃ちだしていて。

 

それをシールドが防ぎ抜いている。

 

それも、右や左から、見境無く雷撃が飛び交っている。

 

伝承の通り、稲妻のようにファルギオルが動いては、雷撃を滅茶苦茶に放っているのはほぼ間違いない。

 

ぞっとする。

 

あんな所。

 

足を踏み入れて、生きて帰れるとはとても思えない。

 

それでも行かなければならない。

 

アルトさんを一瞥する。

 

多分この中で最強なのはアルトさんだ。

 

だけれども、この人もスールが見たところ、手を抜いているくさい。

 

実際の所、前線で戦っているイル師匠とフィリスさんだって。

 

何処まで本気で戦ってくれているか。

 

正直、あまり自信は無い。

 

三つ目の街に到着。

 

呼吸を整えながら、増援到着と叫ぶ。馬に乗ったまま此方に来たのは、ミレイユ王女だった。

 

相変わらず、青黒い、重厚な鎧を着ているが。

 

それが稲光を受けて、まるで軍神のような威厳ある姿を見せつけている。

 

普段はすらりとした体型なのに。

 

こんな鎧を着て戦えるほどの武闘派だと言う事も、ミレイユ王女は示していた。

 

「現在ファルギオルとの戦闘が続行中です。 前線に急いでください」

 

「はいっ!」

 

「お父様は!」

 

ルーシャの言葉に。

 

ミレイユ王女の側にいた騎士が、負傷して後方に下がった、とだけ教えてくれる。

 

そうか。

 

死んでいないのなら、何とかなるかも知れない。

 

むしろ、こんな悪夢みたいな場所にいるよりかは。

 

負傷して、下がった方が、どれだけマシか分からなかった。

 

ともかくだ。

 

自分の頬を叩く。

 

雨の中だから、あまり決まらなかったけれど。

 

それでも、これからやらなければならない。

 

出来る準備は全てしてきた。

 

どう戦えば良いかも、何度も何度も話しあった。

 

これで駄目なら。

 

もう他に方法は無い。

 

皆にも伝達はしてある。

 

後は戦うだけだ。

 

リディーに促されて。戦場に急ぐ。

 

とはいっても、ファルギオルが超高速移動を繰り返しながら戦っているようだし、何処が戦場なのか。

 

ブライズウェストに出ると、もう人はいない。獣さえいない。

 

騎士団は戦闘で殆どが負傷して下がったのだろう。

 

或いは、あまりに動きが速すぎるファルギオルに、ついていけていないのか。

 

風の音がして。

 

気付くと、目の前にイル師匠がいた。

 

ボロボロである。

 

ぞっとした。

 

この人が、此処まで痛めつけられるほどの相手なのか。時間を止められるほどの錬金術師なのに。

 

「増援として来てくれて感謝するわ。 今フィリスが戦っているけれど、多分そろそろ来る筈よ」

 

「アリスさんは」

 

「……来た」

 

イル師匠が振り返るより先に。

 

光る剣を手にしたアリスさんが、大上段から降り下ろされた輝く一撃を、受け止めていた。

 

数合渡り合った後、跳び離れる。

 

それは、間違いなく。

 

資料にあったままの。

 

リディーが作ったままの。

 

あまりにも、あまりにも恐ろしすぎる姿をしていた。

 

虫に似ている。足は四本。

 

手には巨大な剣を握っていて、それはスパークしていた。頭などはやはり虫にしか思えない。

 

究極まで強くなったカマキリ。

 

表現するならば、それが適切だろうか。姿を見るだけで、意識が消し飛びそうになる。

 

唸り声を上げながら、ファルギオルが叫ぶ。

 

その叫び声だけで。大地が揺れる。風が叫ぶ。雨が消し飛ばされる。

 

もう一度、失神しそうになる。必死に耐え抜く。姿だけで、声だけで。違いすぎるのだと、分かってしまう。まさに目の前にいるのは雷の支配者。神、なのだ。

 

一瞬遅れて、フィリスさんが来る。

 

此方も、多少の手傷を受けているようだった。

 

フィリスさんがひゅうと口笛を吹いたように思ったが。

 

それは呪文詠唱だった。

 

ファルギオルの残像を、岩が押し潰す。

 

ファルギオルは超高速で移動しながら、フィリスさんが次々に繰り出す岩の雨をかいくぐり。

 

接近戦を挑みに掛かる。

 

アリスさんが横殴りに一撃を浴びせるが。

 

それも金色の剣で全て防ぎ抜く。剣が余りにも速すぎて、動きが見えない。

 

イル師匠が、置き石で剣を多数出現させるが。

 

その全てが、ファルギオルの体をすり抜ける。

 

違う。回避されたのだ。

 

もう、介入できるレベルの戦いじゃない。

 

「おのれ人間共! 絶対に許さぬぞ!」

 

怒号がぶちまけられ、一瞬後に意味を理解する。

 

それほど、あまりにも強烈すぎる声で、聞いているだけでまたしても意識が飛びそうだった。駄目だ、今まで見てきた相手と、何もかもが違いすぎる。

 

でも、やるしかない。

 

「イル師匠、彼奴の動きを止めてくださいっ!」

 

リディーが叫ぶ。

 

同時に、ルーシャとアルトさんが動いた。

 

ルーシャが光弾を乱射。ファルギオルは、盾でそれを全て弾き返す。光弾を、盾で。どうやっているのか。アルトさんが、無数の剣を放つが、それも全て回避される。

 

上空に躍り出るファルギオル。

 

同時に、パイモンさんが、雷神の石から、極太の雷撃をぶっ放す。

 

嘲笑ったファルギオルが、雷撃を吸収しようとするが。

 

それは途中でかき消えた。パイモンさんが、むしろ嘲笑い返す。

 

「効くわけが無かろう。 分かっておるわ」

 

至近。アリスさんが、雷撃に隠れて接近。

 

ファルギオルの顔面に一太刀入れた。

 

触っただけで感電するという話だ。

 

あの光る剣、何か細工がされているのだろう。

 

イル師匠が放った剣が、直後。

 

一斉に、前後左右から、ファルギオルに突き刺さった。

 

アリスさんが跳び離れる。

 

この時を待っていた。

 

ルフトを束ねた爆弾を放り込む。

 

今まで集めたレンプライアの欠片を、全て投入した、究極の風爆弾だ。勿論リディーとスールが作れる範囲内での。

 

剣を全てはじき飛ばしたファルギオルが、何か叫ぶが。

 

次の瞬間。

 

ファルギオルの全身を、爆風が蹂躙していた。

 

雷雲が消し飛ぶ。

 

地面がえぐれる。

 

それほどの凄まじい風が、天地を一瞬にして貫き、つないでいた。

 

アンパサンドさんが躍り出る。

 

マティアスとフィンブルさんも。

 

とどめを刺す。

 

しかし、あまりにも。あまりにも雷神は強大だった。

 

絶句したのは、今の究極ルフトで、ファルギオルが傷一つ受けていなかったから。いや違う。多分超回復力によるものだ。

 

あんな程度の傷では。装甲を削りきれなかった。

 

今の火力では、とても倒せない、と言う事だ。

 

「リディーッ!」

 

リディーを、叫びながら突き飛ばす。

 

リディーが、いやにゆっくり飛んで行くように見えた。

 

次の瞬間、至近に降り立ったファルギオルが、金色の剣を降り下ろしてくる。

 

見上げながら弾丸を撃ち込んでやるが、効くわけが無い。

 

一瞬だけ抵抗したシールドも即座に破れた。

 

今までの比では無い死の臭い。濃すぎる。あまりにも。

 

死んだな。そう思った瞬間、アンパサンドさんがスールに飛びつくようにして、突き飛ばす。

 

地面が、雷撃に爆裂していた。

 

あの剣、やはり雷撃を常に纏っている、と言う事か。

 

アンパサンドさんが、傷だらけになりながら立ち上がる。もう、動けそうには見えない。戦略的に見て、スールを生かした方がまだ勝機がある。そう考えて動いてくれたのだ。ボロボロなのに、それでもナイフを構える。この人は厳しい事ばかり言うけれど、真の戦士だと分かる。

 

真の戦士の小さなしかし大きな背中。

 

それに応える事が出来ないのが、悔しすぎる。

 

「小賢しい真似を。 あのネージュを思わせる小虫どもだ……」

 

「くそっ! これ以上好き勝手させるかバケモノッ!」

 

マティアスが斬りかかる。

 

駄目、と叫ぼうとして、届かない。

 

マティアスの一撃は、確かにファルギオルに突き刺さったが。しかし、一瞬後、吹っ飛ばされる。

 

多分雷撃対策はしていたのだろう。

 

だが、それを超えた雷撃が、マティアスを吹っ飛ばしたのだ。

 

更にフィンブルさんが、突き刺さったマティアスの剣を蹴り込んで押し込むが。同じように吹っ飛ばされて動かなくなる。恐らく同じ原理だろう。

 

とどめの追撃を二人に掛けようとするファルギオルの顔面を、アンパサンドさんが縦二文字に切り裂く。最後の、渾身の一撃の筈。痛々しくて、見ていられない。そして、案の定、殆ど痛打にはならない。

 

ナイフは何か加工されていたのだろうが、それでもマティアスやフィンブルさんのように、アンパサンドさんの手からはじき飛ばされた。戦士が武器を手から簡単に離すわけがない。それだけ、もう力が残っていなかったのだ。鬱陶しそうにアンパサンドさんを払うファルギオル。直撃はしなかったが、風圧だけで、ボロボロだったアンパサンドさんが吹っ飛ばされて、岩に叩き付けられ、動かなくなる。一瞬でも視界を塞がれたからか、ファルギオルが不快そうに唸る。

 

ファルギオルが無造作に体に刺さっていた剣を引き抜いて捨てると、やはり一瞬で傷が回復した。そうだ、あのルフトも、超回復でいなしたんだ。

 

何てことだ。攻撃、防御、速度だけじゃない。超絶の、瞬間回復も備えている、と言う事。

 

それを突破しない限り、勝ち目なんて無い。

 

先のルフトが最大火力だった。これ以上の攻撃なんて。

 

「はああっ!」

 

リディーが叫ぶと同時に、地面に手を突き。巨大な魔法陣を出現させる。アンパサンドさんにとどめを刺そうとしていたファルギオルが止まる。

 

頷くと、アルトさんが一斉に剣を投擲。

 

余裕を持ってそれを受け止めようとしたファルギオルが、全身串刺しになった。

 

「何ッ!」

 

更に其処へ、パイモンさんとルーシャが息を合わせ、魔術の光弾を連続して叩き込む。およそ数百発の光弾が叩き込まれ、辺りは煙に包まれる。

 

リディーが力を使い果たして、その場に崩れ伏す。

 

今の魔術、多分拘束用のものだ。それも、相当無理して、ネックレスの力も借りて、無理矢理引きだした超高等魔術と見て良い。

 

後は。スールがやる。フラムを束ねる。回復する前に、此奴を叩き込めば。

 

だが、煙が晴れる前に。まるで最初からそこにいたように。スールの至近に、ファルギオルが。金色の剣を振り上げて立っていた。

 

勿論無傷だ。

 

雷神が振り上げた黄金の剣に、纏わり付いている稲妻が。

 

一瞬後に、スールが黒焦げになる未来を、嫌と言うほど予見させる。

 

あれ。なんだか、何度も何度も、此奴に炭クズにされた気がするような。

 

ゆっくり、時間が流れるように動く中。

 

ルーシャがオイフェさんと一緒にファルギオルに躍りかかり。吹っ飛ばされ。パイモンさんが張ったシールドが、秒で引き裂かれ。そして、もう動けない皆が見えた。イル師匠とフィリスさんは姿が見えない。アルトさんもいない。

 

あれ、どうしてだろう。どこに行ったんだろう。そういえば、そもそもパイモンさん達の護衛の騎士は。いつからか姿が見えない。

 

ファルギオルが、宣告を下した。絶対の、死の宣告だった。

 

「終わりだ。 忌ね」

 

剣が、降り下ろされる。

 

だけれど、スールは、寸前、雷神の顔面にフラムを放り込んでいた。

 

爆裂。

 

多分、完全にとどめを刺すつもりだったのだろう。敢えて狙ってゆっくり剣を降り下ろしたのがあだとなる。

 

爆裂するフラム。

 

顔面を更に傷つけられて、激高するファルギオル。

 

凄まじい怒気が、スールを痛打していた。それだけで吹っ飛ばされて、何度か地面をバウンドして、転がる。

 

呼吸を整えながら、立ち上がろうとする。

 

倒れて立ち上がれないルーシャ。側に倒れているオイフェさん。

 

リディーは、無理に高度な魔術を使って、気を失っている。

 

もはや、為す術は、ない。

 

だけれど、それでも。

 

立ち上がろうとするスールを、ファルギオルは剣など使わず、その巨大な足で踏みつぶした。しかも殺さないように、敢えて手加減して、だろう。ひぎゃっとか、情けない悲鳴が出る。

 

愉悦にファルギオルの声が揺れている。

 

「徹底的にいたぶってやろう。 寸刻みにした上で、その後に黒焦げにしてくれようか」

 

「……」

 

痛みが酷すぎて、もう何も返せない。

 

更に足に力が込められ、めりめりと、体中が潰れていく音がした。

 

抵抗さえさせない気だ。

 

目の前に、黄金の剣が突き刺される。

 

強烈な電流が、スールの全身を走った。

 

もはや、悲鳴さえ上げられなかった。

 

「まずはその顔面を切り裂いてやるとしようか」

 

勝手にしろ。

 

でも、ただで死ぬもんか。

 

みんな動けない。スールも動けない。だけれど、まだ意識はある。だったら。少しでもスールに注意を向けさせれば、イル師匠かフィリスさんが。何かしてくれるかも知れない。だから、必死に、押し潰されながらも言う。

 

「……不細工な三下雷神」

 

「……なんといった人間」

 

「お前なんて大っ嫌い」

 

「ハッ。 増殖するしか能がない下等生物の分際で、我を侮辱するか。 良い度胸だ」

 

意識が薄れる。

 

今の声を発するのが、最後の力だった。

 

もう動けない。

 

意識も、途切れた。

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