暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
深淵に染まったシリーズ最強の錬金術師がどれだけ凄まじい存在であるのか……
ご堪能ください。
(原作でも普段は0.5%くらいしか力出していませんが……)
思わず大興奮である。
一万回以上失敗した。そして、今回、ようやく成功した。やっと、ノウハウがあるにも関わらず、どうしても上手く行かなかった双子が。
気絶するまでファルギオルの攻撃を生き抜くという。予定通りの壁を、突破することに成功したのだ。
ソフィーは笑う。
心の底から。
久々だ。フィリスちゃんがものになった時以来だろうか。イルメリアちゃんもあの時は同時に上手く行った。
あれから随分体感で時も経った。
万を超える人類の滅亡も見てきた。
それでも、なおも揺れなかった心が。
ついに、動いた。
雷神の側に、高次元空間を通って出現。
そして、スールにとどめを刺そうとしている雷神を、軽く払う。
それだけで、雷神は消し飛んでいた。
正確には、地平の彼方で、爆裂して、粉々になっていた。
舌なめずりする。
「プラフタ。 イフリータさん。 双子と負傷者の回収をよろしく」
「……っ! みな、急ぎなさい! イルメリア、フィリス、ル……アルト! 全力でシールドを!」
意識を失っているか、気絶寸前まで追い込まれている者達を。
深淵の者の精鋭が担ぎ上げ、戦場から離脱していく。そんな中、ソフィーは久しぶりに「本気で遊ぶ」ことにした。
故にプラフタは叫ぶのだ。
「防がねばアダレットが丸ごと消し飛びます! 急いで!」
ファルギオルが戻ってくる。
超再生力を駆使して、一瞬で回復して。
そして激高し。
苦戦していたフリをしていたイルメリアちゃんと、フィリスちゃんが、シールドを全力で張る。
二人とも、表情に余裕が無い。
ルアードさんも同じく。
今のソフィーが全力で暴れる事の意味を。
皆知っているからだ。
深淵の者が、バトルフィールドから離脱。
雷神が、吠え猛った。
「おのれ、貴様何……」
素手で。
雷神の顔面を打ち砕く。拳を叩き込んだだけで、雷神の上半身が消し飛んだ。
黄金の剣が吹っ飛んで、近くの地面に突き刺さり、消えていく。
勿論その過程で膨大な雷撃がソフィーを包むが、はっきりいってかゆくもない。
「ほら、再生して? 急いで急いで」
「お、おのれっ! 我はら……」
再生途中のファルギオルの顔面にもう一撃。
言葉を発しきるまでもなく。
雷神の体が、木っ端みじんになる。
それで、流石に完全にブチ切れたのだろう。
瞬時に全身を再生させると。
黄金の剣を復活させ。
雷神が斬りかかってくる。唐竹割りにしようと、剣を振るい下ろしてくる。
その剣が、ソフィーの頭で止まる。そう、手で掴んで受け止めるまでもない。笑みを浮かべたままのソフィーの頭にて。
地面が凹むことさえない。
雷撃も、通常の雷の数万倍に達するものがソフィーの全身を通っている。雷神もそれを知っている。
それなのに、笑顔のままのソフィーを見て、雷神は硬直した。
無造作に拳を振るい、鬱陶しい黄金の剣を粉々にすると。
息を吸い込み。
10万発の拳を、瞬時に叩き込む。
勿論手加減して。
そうしないと雷神は哀れこの世から消滅してしまう。
周囲が爆裂するが、フィリスちゃんとイルメリアちゃん、ルアードさんの展開したシールドが、どうにか破壊の波及を食い止める。
再生しようとする雷神の頭を掴むと。
恐怖の声を雷神が上げた。
「き、貴様っ! パルミラ様ですら、これほどの力は……っ!」
「普段はあの双子が駄目だから、次元を圧縮して倒しちゃうんだけれどね。 今回は、「ある程度弱って貰う」必要があるから、こうやって遊んでるんだよ」
「ひっ!」
雷神から漏れる悲鳴。
駄目だ。
笑いが止まらない。
雷神の頭をそのまま握りつぶすと。
成層圏まで蹴り挙げ。
一瞬で追いついて。地面まで蹴り落とす。
更に加速して追い抜くと。
落ちてきた雷神を、拳で迎撃して。ぺしゃんこになるまで叩き潰す。
一回、全力での一撃を許してあげたのだ。
しばらく遊び相手になって貰わないと割に合わない。
雷神は再生する度に、一瞬で木っ端みじんになる。
勿論、その度に作り替えてやる。
痛みを感じるように。
此奴のコアを壊さないように、粉みじんにして行くのは色々骨だが。
しかしながら、面白いのだし。
やる価値はある。
双子は、見事に壁を突破した。
ならば細工をして行くのはソフィーの仕事だ。
「な、何者だっ! き、貴様の背後に! パルミラ様の姿がっ!?」
「覚えておくといいよ、三下雷神」
拳を叩き込み、地面に雷神をめり込ませる。
もう相当脆くなっているので、地面が吹っ飛ぶと同時に、瞬時にファルギオルもバラバラになる。少し再生を待ってやる。
周囲の雷雲は減り始め。
雨も収まりつつある。
此奴から放出されている力が。
それだけ弱まっている、と言う事だ。
「錬金術は深淵の学問。 深淵とは知識。 そして知識の中心点にいるのは?」
「そ、そんな、そんなっ! 貴様は、特異点とでもいうのか!」
「ご名答」
もはや狙いもなく振り回された黄金の剣を掴むと、そのまま素手で握りつぶしてやる。悲鳴を上げた雷神が、とうとう逃げようと背中を見せるが。
雷より早く動く雷神より、ゆっくり歩いて先回りし、顔面に蹴りを叩き込み。
止まった所を、無造作に左右に引き裂いた。
もはや身動きも出来なくなった雷神に告げる。
「さて、どうやって殺してあげようか?」
「ひ、ひいいっ!?」
「冗談。 三週間後、もう一度あの双子が来る。 その時まで此処で大人しくしていれば、殺さずにおいてあげる。 ついでにその時にあの双子に勝てれば、生かしておいてあげる」
返事など聞かない。
そのまま、再生途上の顔面を蹴り砕く。
舌なめずりしているソフィーを見て。
全力で恐怖を刺激されたらしいファルギオルは、泣きながら虚空へと消えた。
追いつくことも簡単だが。
今いったとおりにするだろう。
笑いが漏れる。
そして、やがてそれは爆笑に変わった。
「あはははははははは! あーっはっはははははははははは! あは、はははははははははははは!」
実、に!
愉快!
これほどの悦楽はいつぶりか。
ふと周囲を見ると、シールドは崩壊寸前だった。
ソフィーが戦闘態勢を解除すると、イルメリアちゃんと、フィリスちゃんがへたり込むのが見えた。
ルアードさんも相当消耗しているようだった。
「ソフィー! 本当にアダレットが消し飛ぶ所だったわよっ……!」
肩で息をつきながら、悪態をついてくるイルメリアちゃん。
実に可愛い。そのまま引き裂きたくなるほどに。
フィリスちゃんは、青ざめたまま、肩で息をついている。
「ちょっと戦闘時の動きが不自然だったかな、二人とも。 もう少し自然な苦戦を装わないと、双子に疑問を持たれていたよ」
「……っ! 分かっているわよ……」
「そういうな、ソフィー。 二人とも、嫌になるほど双子がエサに返り討ちにされるのを見ているんだから。 それは毎回毎回、迫真の演技なんて出来はしないさ」
「それもそうか」
ルアードさんのフォローに肩をすくめると。
一度引き上げる事にする。
二人には此処に残ってもらう。
イルメリアちゃんが、空に打ち上げたのは、雷雲を発生させる道具。雨も間もなく降り始める。
しばらくは、二人が「雷神を抑えている」という話で進める予定だ。
そして双子には、ネージュの描いた不思議な絵である、「凍てし時の宮殿」に入って貰う。
彼処には、まだ。
ネージュの残留思念が残っているのだ。
既にリディーの方は深淵に濁り始めているという朗報を得ている。
ならば。
ネージュの残留思念と接触し。
ネージュがファルギオルを退けるために使った、「世界の塗り替え」の技術を獲得すれば。
更に双子は深淵に近付く。
計画を大きく前進させることが可能になるだろう。
そして、雷神の力は、これからイルメリアちゃんが吸収し続ける。
さっきまで苦戦していたのは勿論フリ。
既にイルメリアちゃんには、ファルギオル程度、単独で倒せる実力が備わっているのである。勿論フィリスちゃんもそれは同じ。
その力の回復を阻害し続けるくらいは簡単簡単。
そして雷神は狡い奴だから。
さっき言ったとおりに、三週間後に、また姿を見せるだろう。
それ以外に、生き延びる道がないからだ。
本来は世界の監視装置である邪神なのに。
ファルギオルは強い自我を持ちすぎた。
だから、死も怖れるし。
幽閉されていたことも逆恨みしている。
他の邪神はこんな事は無いのに。
ある意味失敗作と言えるだろう。
それにしても、世界に働く四つの力。強い力、弱い力、電磁力、重力のうち。一つを管轄している程度で、よくもまあ彼処まで偉そうになれるものだ。
ソフィーでさえ、自分が偉いなどとは思っていない。
多分パルミラもそれは同じだろう。
いずれにしても。
ようやく壁は、越えたのだ。
すっきりした。
一度、深淵の者の本部に戻る。
此処までで良いだろう。一度事象の固定を行う。今回以上に、双子の育成が上手く行くことは、今後十万回繰り返しても起こりえない。それは確信できた。そして双子は、ファルギオル相手に、彼処まで戦えた。ならば充分。
さあ、計画を。
次の段階に進める。
賢者の石を使って、パルミラを呼び出すと。ソフィーは、ついに上手く行ったことを告げ。
パルミラも見ていたと言って、にんまりと笑った。
「やっとここまで来たね。 後半分って所かな」
「では事象の固定を」
「了解。 後も任せるよ、特異点」
「お任せあれ」
少し冗談めかして言う。
それくらい。
今のソフィーは、機嫌が良かった。
目が覚める。
どうやら、フィリスさんのアトリエにいるらしい。知らない綺麗な女性が、手当をしてくれていた。
「目が覚めましたね。 もう動けるはずです」
「……みんなは」
「大丈夫。 あの戦場にいた者は、皆無事です。 貴方が一番最後に起きました」
「スーちゃんっ!」
いきなり抱きつかれる。
リディーだった。
そうか、意識を失っていたし。傷もそれほど酷くはない、と言う事か。
勝てなかった。
勝つとか、そういう次元の相手では無かった。
みんなのために、気を反らすのが精一杯だった。
でも、どうして生きているのだろう。
見回すが、周囲には綺麗な女の人と、ツヴァイさん以外は、誰もいない。綺麗な女の人は、プラフタと名乗る。美しいプラチナブロンドの、穏やかな雰囲気の人だ。優しそうだなとスールは思ったけれど。何だか、それ以上に厳しい人であるように思えてしまう。
粥を貰ったので口にする。
あれから、一日が経過しているという。
色々と聞きたいことがある。
「どうして、スーちゃんたち、生きているんですか」
「三傑最後の一人が来てくれたから、ですよ」
「!」
フィリスさんより恐ろしいという人か。
そして、その人は。
ファルギオルを撃退してくれた、と言う事なのだろう。
怖気が走る。
あの状態から、誰も死なせずに、ファルギオルを撃退した。本当に一体、どうやったのだろう。
次の瞬間。
背筋が凍るかと思った。
リディーが、青ざめてぎゅっと抱きついてくる。
スールも、全身の震えが止まらなかった。
誰かが、来た。
それは、ヒトの形をしていたけれど。
ヒト族とは思えなかった。
何というのか。
目が違う。
深淵にまで濁りきった目。
笑顔を浮かべているし、とても綺麗な人だけれども。
同じ生物だとは思えなかった。
ファルギオルを遙かに超える力を持つのではないのか。そんな気さえしてくる。震えが、止まらない。
「ソフィー、遅れましたね。 ファルギオルは?」
「適当に痛めつけてお帰り願ったよ。 後はイルメリアちゃんとフィリスちゃんに見張りを頼んで来た」
「そうですか……」
「ああ、もう目が覚めたんだね」
優しい声。
ソフィーと呼ばれた人が微笑むが、目はまったく笑っていない。
どうしてだろう。
助けて貰った筈なのに、まったくそんな気がしない。
もうその場で漏らしそうなほどの恐怖が。
全身を駆け巡っていた。
邪神を目の当たりにした時の比じゃない。
邪神に踏まれていたときでさえ。もっと絶望感は薄かった気がする。
この人は、本当に。
一体何なのだ。
思い当たるのは。
三傑最後の一人。
マティアスが、フィリスさんの比では無いほど恐ろしいと言っていた人。だとすると、この世界最強の錬金術師がそうだろう。ほぼ間違いなく。
「改めて。 あたしはソフィー=ノイエンミュラー。 通称特異点の錬金術師」
「リディ=マーレン……です」
「スール=マーレン……、……ですっ」
挨拶を返すので精一杯。
意識を保っていられるのが奇蹟に近い。
全身を脂汗が流れ落ちているのが分かる。
あの状況から。
単独で、ファルギオルを撃退し。誰も死なせなかったような人だ。一体どれだけの異次元の存在なのか。
特異点という言葉が何を指すのかはよく分からないけれど。
異次元過ぎて、今のリディーとスールでは、及びもつかないことだけは分かった。
「早速で悪いんだけれど、ファルギオルにとどめを刺すためにプランがあってね。 出来るだけ急いで身支度と道具類を整えて、王城のエントランスに来て貰えるかな。 あたしはファルギオルの見張りに戻らなければならないから。 その代わり、アルトさんに必要な話はしてあるからね」
「……はい」
「じゃ、よろしく。 プラフタ、面倒は見てあげてね」
「分かっています」
プラフタさんは頷くと。
暖かい内に、粥を食べるようにと頷いた。
それにしても、どんな薬を使ったのか。
ファルギオルに痛めつけられた体が軽い。コンテナから道具類を取りだしたら、即座に出られそうだ。
プラフタさんに頭を下げると、フィリスさんのアトリエを後にする。
急ぎ足で、自宅に。
荷車は、多分誰かが届けてくれたのだろう。コンテナに、残った装備品なども格納されていた。
安堵の声が漏れる。
腰が、抜けそうになった。
また、外で雨が降り始めている。ファルギオルは健在だと言う事だ。
あいつは。
絶対に倒さなければならない。
分かっている。
とんでも無い事に巻き込まれていることくらいは。
そして、恐らくあのソフィーという人は。
その中心に、極めて近いと言う事も。
だけれども。
ファルギオルを倒さなければならないことは事実だ。彼奴は、絶対に許してはおけない。騎士団も壊滅状態。戦える人も、そう多くは無い筈だ。
身繕いをして。
装備品の確認をして。
それから、王城に出向く。
すぐに役人が手続きをしてくれた。騎士団は人員の殆どが行動不能。戦死者は想像以上に少ない様子だが、それはフィリスさんとイル師匠が庇ってくれたから、なのだろう。フィリスさんが恐ろしい人だというのは分かっている。
でも、騎士団の人は。
その恐ろしい人に、たくさんが救われたのだ。
やらない善よりやる偽善である。
エントランスに出向く。
アンパサンドさんがいて。フィンブル兄と、マティアスもいた。
良かった。
本当にみんな無事だ。
パイモンさんとルーシャ、オイフェさんもいる。
そして奥から歩いて来たのが。
アルトさんと、プラフタさんだった。
この様子なら、多分アリスさんも無事だろう。ファルギオルとまともに渡り合っていたほどなのだから。
はて。
そういえば、イル師匠やフィリスさん。それにアリスさんは、どうして途中から戦闘時姿が見えなくなったのだろう。
いや、そんな疑問は後だ。
今は、まず。
あの雷神を、どうにかしなければならない。
アルトさんが咳払いし、若干劇場的に言う。
「やあ皆無事で何より。 それでこれより、この絵にて、調査を行って貰いたい」
「この危急時に、不思議な絵の調査などしている暇など……」
「それが必要なんだよパイモンどの」
パイモンさんが、真っ先に正論を言うが。
それに対して、アルトさんは余裕を持って返す。
納得出来る内容を返せるという自信があるのだろう。
見せてきたのは、宮殿のような絵だった。
あれ、これ、宮殿と言うよりも。
何だか、要塞と言うか。
外からの攻撃を、一切受け付けない、城のように見える。
何だこれ。
「これはネージュが描いた絵でね。 アダレット王家に伝わる秘蔵の品だよ」
「!」
「勘が良い人は気付いたかも知れないが、この中にはネージュの残留思念がいる。 不思議な絵画は、描いた人間の心が反映されることは、この場にいる全員が知っている事だと思う。 ネージュは知っての通り、アダレットに迫害されて王都を離れた。 その後は寂しく孤独な余生を送ったが。 この絵の中に、孤独な心が閉じ込められている、というわけさ」
肩をすくめてみせるアルトさん。
そもそも、ネージュをアダレットが迫害しなければ。
ファルギオルにどう対抗したのか、具体的な話が伝わっていた可能性が高い。
そもそもネージュにして見ても。
今更アダレットを助ける義理なんてないだろう。
残留思念がこの中にいるとしても。
助けを頼むなんて。
あまりにも、あまりにもムシが良すぎる話だと、スールでさえ思う。もしスールだったら、帰れと一喝するかも知れない。
つまり、土下座して。
ネージュに雷神にどう対抗したかを、確認しなければならない、と言う事か。
マティアスが前に出る。
「その……俺様が、最悪の場合は首を差し出すよ」
「えっ……」
「マティアスさん!?」
「ネージュを迫害したのは、アダレットだ。 主に腐敗した文官達だったと聞いているが、アダレット王家はそれを止めなかった。 理由は簡単で、雷神を倒したネージュを怖れたからだ。 いつかは蘇るって分かっていたのにな。 だから、俺様には、ネージュに首を差し出しても、謝罪をしなければならない責任もあるし。 何より、ネージュが雷神を倒せる方法を知っているなら、それを記録しなかった先祖の責任もとらなければならない」
また少しだけ。
マティアスを見直したかも知れない。
自分をミレイユ王女のスペアに過ぎないと知っていて。
それでこれだけの行動が出来るのは。
立派だと思う。
確かに残念イケメンだけれど、これだけの行動が出来る人がいるか。恐らくそんなにはいない。
すくなくとも。
少し前のリディーとスールなんかよりもずっとずっと立派だ。
リディーが前に出る。
「まずは、その前に話を聞いてみるべきです」
「……」
「ネージュが、どんな気持ちだったのか、分からないですし」
「そうかもな」
或いは、王宮のような魔窟から離れられて、清々したと思っていたかも知れない。
残留思念があったのなら。
それに聞いてみなければ、分かるものも分からない。
ただ、である。
この絵は、何というか。
来る者を拒んでいるような、強烈な威圧感を発しているのだ。
そして、である。
そもそも最初から、躓く事になった。
絵に近付くと、強烈な斥力を感じる。
一瞬後。
リディーが思いっきり吹っ飛ばされて。アンパサンドさんが、それを身を挺して受け止めていた。
エントランスに、激しい摩擦音が響く。
ふうと、アンパサンドさんがぼやいた。リディーは失神していた。装備品のシールドがなければ、死んでいたかも知れない。アンパサンドさんも、上手に受け止めてくれたものだ。
普段は回避専門だが、最悪の場合はこうやって受け流す事も出来るのかも知れない。ただ、かなりやっぱりきついようで、すぐにプラフタさんが、回復の薬を使ってくれていたが。噴霧するだけで、見る間に楽になるようなので。リディーやスールが使っているものより、数段格上の薬と言う事だ。
アンパサンドさんは、治療の間も。
眉一つ動かさなかった。
そして、自分の傷などどうでもいいというかのように言う。この辺り、徹底しすぎていて、もはや少し怖いかも知れない。恩人に対して失礼だと、すぐに思い直したが。
「どうやら、まずは入る所から、のようなのです」
「この絵、要塞みたいだなって思ったんだよね。 ファルギオルがいつ戻ってくるかも分からないし、急がないと……」
「まずは調べて見ようか?」
アルトさんが肩をすくめる。
何だか、この人。やっぱり中身はお爺さんだと、スールは思った。