暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
深淵の者の本部で会議が行われる。
深淵の者幹部及び、重要な協力者はあらかた揃っている。ただし、その場から皆いなくなると不自然だから、時間を止めてそれで会議をしているが。
一瞬だけ持ち場を離れ。
そして会議を終わらせたら帰る、という寸法だ。
ソフィーはまず最初に。
事象の固定をした事を宣言。
万を超える繰り返しに。
ついに終止符が打たれたことを知ると。
おおと、声が上がった。
苦虫を噛み潰しているイルメリアちゃん。
少しほっとした様子のフィリスちゃん。
イルメリアちゃんは、双子が上手く行かず、ファルギオルに惨殺される度に心を痛めていたようだったので。
今回の結果で、それがなくなり。
比翼が心を痛めなくても良くなった結果を見て、フィリスちゃんは安心しているのだろう。
もっとも、これで半分。
まだまだ双子用のエサは用意してある。
元々双子の素質はフィリスちゃんどころかイルメリアちゃんにも劣る。
苛烈に激しく試練を叩き込んでいかないと。
成長なんて見込めないのだ。
「まさか弱体化を極限までしているとはいえ、あのファルギオルの攻撃に死なずに耐え抜くとは……」
「今後の展開が期待出来る」
幹部達が口々に言うが。
咳払いしたのはアルファさんだった。
「あー、ちょっと問題なのです。 予想以上に資産の放出が早いのです。 このまま行くと、蓄積してある資産だけではなく、表経済で動かしている資産にまで手を出さなければならなくなるのです」
「ふむ、何か対策は」
「双子の負担は増えますが、アダレットに対して、今後も新規でアトリエランク制度を続けるように宣告するのです。 新人錬金術師をもっと取り込ませて、予算の圧縮をさせるのです」
「……なるほど。 確かにそれが一番良さそうだ。 ファルギオル戦を越えた後であれば、後は高出費はインフラ事業だけになる。 フィリスどのに任せれば、その辺りはかなり余裕を持って捌けるだろう」
フィリスちゃんに、期待の目が向けられ。
フィリスちゃんも頷く。
挙手したのは、最近深淵の者の食客として扱われているオスカーである。
痩せたり太ったりが激しいが。
今は痩せている。
この辺りは、幼なじみだから良く知っている。
なお、フィリスちゃんとイルメリアちゃんを育てる頃からの、24万回近い繰り返しの中で、オスカーがアンチエイジングを選んだことは殆ど無い。
全世界の植物と友達になりたいと言う巨大な野望は。
一度もかなっていない。
それは毎回事象固定の時、つまり滅びから戻ってきた時に告げてはいるのだが。
それでもオスカーは、アンチエイジングに興味を見せることが殆ど無かった。
「フィリスの腕は知ってるが、おいらから言わせると、今までアダレットがさぼりすぎていたツケがあまりにも酷い。 今後もインフラ整備作業に関しては、当面おいらが貼り付きで見ないと駄目だろうな。 さっさとファルギオルで遊ぶのも終わらせて貰わないと、おいらとしても困る」
「ああ、それなら大丈夫。 三週間後に終わるから」
「本当かよソフィー。 まあ、お前が言うなら大丈夫か」
ソフィーに洒落臭い口を利くのは、もはやこの場ではオスカーしかいない。
同じ幼なじみのモニカは、最近はソフィーの事を悲しそうな目で見るだけで。深淵の者に誘っても首を横に振るだけ。
他の周回でもそうだったが。
モニカは、キルヘン=ベル周辺の仕事を手伝ってくれることはあっても。
ダーティーワークなどは嫌がるし。
どんどん闇に染まっていくソフィーを見て、一番悲しんでいたからか。
深淵の者を積極的に手伝ってはくれない。
それはそれで残念ではある。
あれほどの人材を捨てるのは、ソフィーとしてももったいないと思うからだ。
「それと、報告が」
立ち上がったのはシャノンである。
公認スパイとしてアダレット騎士団に潜り込んでいる彼女は。
最近は会議でも話をする。
なお兜に細工がしてあって、声を切り替えられるようにしている。外では恐ろしい声で部下を威圧するが。実は素の声は、結構可愛かったりする。
「双子の父親であるロジェですが、居場所を掴みました。 どうやらブライズウェスト近くの街で、状況の推移を見ている様子です」
「記憶は消し飛ばしてやった筈なんだけれどなあ。 まさかファルギオルに挑むつもり?」
「そうされると困るので、騎士団から手を割いて監視をつけていますが、腐っても公認錬金術師です。 本気で抵抗されると、一介の騎士では手に終えないかと。 かといって、人員は今かなり厳しい状態ですので」
ルアードが、それならと。
顎をしゃくる。
ティアナを監視につけろ、というのである。
ソフィーは少し考え込んだ後。
ティアナちゃんに言う。今、周辺の匪賊は大体殺し尽くしたし。それにティアナちゃんが殺す必要のある汚職官吏や腐敗錬金術師もいない。手は確かに開いている。懐刀だが、別にこの子がいなくても、ソフィーはまったく戦力的に困らない。ファルギオル戦でも、「本気で遊んでいた」だけで、「実力」は殆ど出していなかったのだ。
「ティアナちゃん、監視を頼めるかな。 専属で」
「えー。 ソフィーさまのご命令ならやりますけど……。 あ、そうだ、斬っても良い?」
「あのおじさんは今後使い路があるから駄目。 そうだなあ、今度邪神狩りに連れていってあげるから、それでいい?」
「えっ! 邪神狩りっ! 分かりましたあっ!」
よだれを拭いながら目をきらっきら輝かせるティアナちゃんを見て、眉をひそめる幹部もいるが。
それでいい。
多くの思想が此処にあり。
その思想に基づいて意見が出せる。
そんな状態でないと。
この完全に詰んだ世界を打破するのは不可能なのだ。
此処に超越級の錬金術師となった双子を加え。
それでやっと完全に詰んだ世界と勝負が出来る。
ティアナちゃんは狂犬に等しい存在だが。
剣術の腕前で言うと、現在恐らく世界最強。人格に問題があろうと、こういう人材も使いこなしていかないと。
この詰みは打破できないのである。
ヒュペリオンさんが咳払い。
「それでは、後は双子が上手くネージュに接触して、世界の塗り替えの技術を手に入れられるか、だが……」
「その辺は僕が監視する」
「分かりました。 それではお任せいたします」
「うむ」
ルアードが頷くと、皆を見回した。
「万を超える試行錯誤の末、ようやくこの時が来た。 皆の努力がようやく実ったのだとも言える」
プラフタはぐっと唇を噛んでいる。
双子をもてあそんでいると、いつも批判をしていた。
だが、双子を効率よく育てるには。
これくらい厳しくやらなければ駄目だったのだ。
そしてその理論は。
成功例で、実証されたのである。
「これより、世界の終焉を打破するために、一丸となって我等は動く! あのパルミラですら、9兆に達する試行錯誤を経てどうにもならなかった世界の終焉! 我等でそれを打破し、無だった可能性に有を生じさせる! それには皆の力が必要だ! 協力して欲しい!」
「おおっ!」
喚声を挙げて、イフリータさんが立ち上がる。
ティオグレンさんも、拍手しながら雄叫びを上げる。
皆が燃え上がる中。
ソフィーは静かだった。
さて。ここからも手は抜けない。
何しろ、超越級の錬金術師が五人揃って。やっとそこから、本番が開始できるのだから。
世界を詰みから打破する、世界に可能性を作る、その本番が。
(続)
限りなく全能に近い存在でもどうにもできない世界の詰み。
ついにそれの打開が見えてきています。
ソフィー先生も割と大喜びです。そうは見えないかも知れませんが。
長らくお待たせしました。
更新再開します。定期的に出来るかはわかりませんが。