暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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敵対勢力がわんさかいる不思議な絵がもっとも危険なわけではありません。

双子は今までの状況がぬるま湯も同然の、薄氷を渡る交渉を続けることになります……


3、どうにか鉄柵をこじ開けろ

ずっと無言だった。

 

今後、下手な事は口に出来ない。

 

それを理解出来てしまった。

 

深淵の者。

 

そんな組織が実在するのであれば、色々と不可解な事に説明がついてしまうのである。そしてほぼ確実に、三傑もアルトさんも、関係者だと見て良い。アダレットの先代王を幽閉するのにも、多分一枚以上は噛んでいるだろう。と言う事は、ミレイユ王女も存在は認知しているか。

 

あっち側かも知れない。

 

掌で踊らされている。

 

それは確実だ。

 

ネージュが嘘をついている可能性はまずない。

 

というか、今まで周囲に蠢いていた違和感が、全て説明できてしまうのである。得体が知れない巨大な存在がいることは分かっていたのだ。

 

そして、それが決して味方では無い事も。

 

敵ではないだろう。

 

少なくとも世界の敵ではない。

 

でも、リディーとスールの味方かと言われると。

 

違う。

 

ソフィーさんだけでも、あまりも恐ろしすぎて、もう何も考えられないくらい怖いのに。他の人も、みんなグルだったと考えるだけで。

 

怖くて、呼吸困難を起こしそうだった。

 

スールも真っ青になったまま。

 

ドアをノックされたとき、二人揃って思わず悲鳴を上げてしまったが。

 

そもそも、考えてみれば、フィリスさんも、何の障害もなくアトリエに入ってきていたのだ。

 

今更である。

 

ドアから入ってきたのは。

 

ルーシャだった。

 

「ルーシャ……」

 

「もう、用心しても無意味なのは分かっていますわね」

 

「うん……」

 

「どうにもならないよ」

 

泣きそうだ。

 

ルーシャは頷くと、周囲を見回してから、話してくれる。

 

「深淵の者の話は本当ですわ。 というよりも……ある程度以上の実力を持った錬金術師は、皆存在を知っていますわ」

 

「うん。 今までおかしいと思っていた事が、そういう組織があると仮定すれば、全て説明できるもん」

 

「ルーシャ、下手な事喋って大丈夫?」

 

ルーシャは哀れみの目でリディーとスールを見ていたが。

 

それでも、頷いた。

 

「わたくし達全員は、とっくの昔に監視下にありますわ。 今更警戒しても仕方が無いし、無用なことをしたと判断したら即座に殺されますわよ。 覚悟は出来ていますし、もうかまいませんわ」

 

「ちょっと、ルーシャっ!」

 

「静かに。 落ち着いて聞いてくださいまし」

 

そういえば今日は。

 

ルーシャはオイフェさんを連れていない。

 

まさか。

 

オイフェさんも、ということか。

 

監視役ということなのだろうか。

 

あの異常な無機質さ、おかしいとは思っていたけれど。そうだとすれば、確かに説明はつく。

 

「良いですか。 今はとにかく、力を蓄えるしかありませんわ。 わたくしに言えるのは、それだけです」

 

「……ルーシャは」

 

「わたくしは才能でも貴方たちにも及びませんし、いずれ追い越される定めですわ。 錬金術は残酷で、才能が全ての学問ですもの。 でも、まだ力が上の間は、全力で貴方たちを守りますわ。 それが……おばさまとの約束ですもの」

 

「お願い、無理はしないで」

 

首を横に振ると。

 

ルーシャは、もうこれ以上は無理だろうと判断したのか。

 

アトリエを出て行った。

 

頭を抱えるしかない。

 

分かってしまった。

 

恐怖そのものが。

 

今まで想定していた規模とは、桁が三つも四つも違っていたことを。

 

その場で吐きそうになる。

 

アンパサンドさんは多分あの様子だと無関係だと思うけれど。多分マティアスさんは知っているだろう。

 

この街の有力者、みながそも深淵の者関係者かも知れない。

 

そういえば、この街に匪賊が入り込まないのも不思議と言えば不思議だ。

 

匪賊は見かけだけは人間なのだ。

 

実際、治安とかが駄目な街では、匪賊が入り込んで害を為すとも聞いている。

 

深淵の者が動き。

 

匪賊を水際で皆殺しにしているとすれば。

 

全ては説明がついてしまう。

 

水を飲んで、とにかく気持ちを落ち着かせる。このままだと、壊れてしまう。深呼吸を何度か繰り返して。

 

少しずつ情報を整理する。

 

それにしても、ネージュと仲良くなるどころか。

 

とんでも無い爆弾を投下されて、此方は精神が崩壊寸前である。

 

スールはへたり込んでいて、腰が抜けている様子なので。リディーが何とか、雨の中出来合いを買いに行く。

 

騎士団の負傷した部隊が戻ってきていて。

 

再編成して、また出ていくようだった。

 

食い止めてくれている、という話だが。

 

騎士団はどれだけ動いているのだろう。

 

正直な話。ソフィーさん一人で充分な気もするのだが。

 

その辺りは、もはや疑う事さえ許されないのだろう。もしもおかしな行動をしたら、その場で首を刎ねられる。

 

そういう状態なのに。

 

単に今まで気づけていなかった。

 

それだけだと言う事だ。

 

リディーとスールは、やっと最近自分達がバカだと自覚できたが。

 

現実は、その遙か上を行っていた。

 

この世は、これほどに恐怖に満ちていたのか。それを単に知らなかっただけ。いつでも握りつぶすことが出来る相手の掌の上で。ただ無様に踊っていただけ。それがリディーとスールの現実だった。

 

雷神ファルギオルの脅威は事実だろう。

 

だけれども、それさえも掌の上のような気がしてならない。

 

出来合いを買う。

 

そして、アトリエに戻る。

 

へたり込んでいたスールを何とか椅子に座らせて。一緒に食事にする。そもそも食べないと、まともに思考する事も出来ない。勿論さっき不思議な絵画の中で食べたけれど。先ほどからの精神消耗が激しすぎて、そんなものはとっくに燃え尽きていた。

 

おいしくもない。

 

当たり前だ。

 

これだけ長雨が続いていて。

 

物資もかなり厳しい状態になっているのだから。

 

しばらくもぐもぐと口だけを動かして。

 

おいしくもない出来合いを食べると。

 

完全に目が死んでいるスールに、話しかける。

 

「スーちゃん」

 

「うん……」

 

「ファルギオル、どうにかしないと」

 

「分かってる」

 

しばらく沈黙が流れる。

 

ネージュが知っているなら。恐らく深淵の者も知っているはずだ。

 

だけれども、深淵の者にアクセスする方法なんて分からないし。例えばアルトさんに、直接深淵の者に関係しているのか、とか聞いたら。多分その場で殺されると思う。勿論物理的な意味でだ。

 

匪賊なんて問題にもならない。

 

ドラゴンや邪神をも上回る脅威。

 

それが深淵の者だと思って間違いないと思う。そしてそれは、この世界の秩序にもがっちり食い込んでいるのだ。

 

ソフィーさんは恐ろしいが、或いは深淵の者には更に恐ろしい人がいるかも知れない。怖くて、体の震えが止まらなかった。

 

ネージュはこれでも来るかと、笑って見ているのだろう。

 

勿論深淵の者について、リディーとスールが知った事だって。深淵の者には既に知られている筈だ。

 

ある程度の実力を持つ錬金術師は皆知っているという話だけれども。

 

それでも、何らかのペナルティがあるかも知れない。

 

ネージュの絵が焼かれたりしないか。

 

それが不安でならなかった。

 

今日はもう無理だ。

 

そう判断して、スールを促して、早めに寝る。

 

お父さんは帰ってこない。

 

何をしているのかと憤るよりも。

 

明らかに、心配の方が、今は勝っていた。

 

 

 

一晩寝ても、不安は消えない。当たり前の話で、今まで以上の爆弾が投下されたも等しいのである。

 

何もかも。

 

廻りの誰もが信じられない。

 

その恐怖は、心身を打ちのめすのに充分だった。

 

ファルギオルを倒すのは絶対。

 

だから、動かなければならないけれど。

 

深淵の者がそれに噛んでいるとなると。

 

或いは、リディーとスールがファルギオルを倒す事に、何か意味があるのかも知れない。それも世界的な規模での。

 

ファルギオル自体は。

 

或いは、深淵の者の戦力では、一瞬で始末できる程度の物でしか無いのかも知れないし。もしそうだとすると、どうすればいいのだろう。

 

しばらく俯いていると。

 

裏庭でいつものうねうね動く奴をやっていたスールが戻ってくる。

 

雨がまだ降っているのだけれど。

 

雨に当たらないように、上手に工夫してやっていたらしい。

 

アトリエの中だと、機材に触れて落としたりしかねないので、裏庭でやることにしているようだけれど。

 

精が出るなあと、感心してしまった。

 

「リディー、考えよう」

 

「うん……」

 

スールに手を引かれるのは。

 

時々あることだ。

 

そして、リディーもお姉ちゃんだけれども。

 

誰かに助けて欲しいとは時々思う。

 

双子なら。

 

互いに助け合うものではないのか。

 

スールは恐がりだけれど。

 

一線を越えたとき、それでも戦う勇気に関しては、多分リディーより上だと思う。

 

冷静な判断力には欠けるかも知れないけれど。

 

それは羨ましい話だった。

 

「スーちゃん、まずはどうやって攻める? アダレットの人達を、では多分ネージュの心は動かないと思うよ」

 

「うーん……」

 

「でも、誰にももう相談は出来ないね」

 

「相談はしたでしょ。 シスターグレースから聞いた言葉に、間違いは無いと思うけれど」

 

確かに。

 

それは同意できる。

 

例えシスターグレースが深淵の者に噛んでいたとしても。

 

あの人は、聞かれたことには誠意を持って応えてくれる人だ。立派な大人だと判断して良い。

 

深淵の者という組織の恐ろしさは分かったが。

 

所属している人が、みんな人外の者とは限らないし。

 

シスターグレースが所属していたとして。

 

必ずしも常に非人道的にものを考えるとも思えない。

 

ならば、そのアドバイスを元に。

 

やはり、順番にやっていくしかないだろう。

 

「プレゼント作戦は?」

 

「見た目は子供だけれど、あの人中身はおばあちゃんだよ。 ぬいぐるみとかだと、多分怒られると思う」

 

「うーん、そうなると……友達の遺品とか、かな」

 

「……」

 

そうだ。

 

マティアスさんが、短期間で調べてくれていた。

 

ネージュには少ないながらも友達がいて。

 

迫害に巻き込まれて命を落としている。

 

何かしらの情報が無いだろうか。

 

ならば、まずはそれが一つ。

 

もっと、だめ押しになるものが欲しい。

 

ドアがノックされる。

 

二人とも跳び上がりそうになったが。

 

ドアを開けたのは、アンパサンドさんだった。

 

相変わらず口をへの字に結んで、気むずかしそうな顔をしているけれど。この人が誰よりも立派な、弱者の盾たる騎士であることを、リディーはもう微塵も疑っていない。スールも同じだろう。

 

「アンパサンドさん、どうしたの?」

 

「二人ともいるのですね。 何やら様子がおかしかったので見に来たのです」

 

「それは……」

 

「うん、ごめんなさい。 ちょっと話せない」

 

アトリエに入って貰う。

 

合羽を着て来たアンパサンドさんは、撥水性の強い素材らしいそれをはたいて雨水を落とすと、アトリエに入って、見回す。

 

目を細めているのは、やっぱり家庭環境とかを観察しているのだろう。

 

この人の戦闘スタイルには観察が必要不可欠で。

 

計算を得意とするホムにも噛み合ってはいる。

 

致命的な欠点である身体能力の低さも努力で補っているので。

 

騎士として、既に一人前になっているし。

 

戦闘では、とにかく頼りになる。

 

「ネージュに何を言われたのです」

 

「……」

 

「その様子だと、どうせ深淵の者の事でも言われたのですね」

 

「!」

 

絶句。

 

この人も、知っていたのか。

 

ため息をつくアンパサンドさん。

 

考えてみれば、ある程度以上の力を持つ錬金術師はみんな知っている、というような組織だ。

 

この人は騎士二位で、アダレットでも結構偉い騎士になる。

 

知っていても不思議ではない、だろう。

 

「深淵の者は、確かに何を考えているか分からない所がある組織で、何より非常に強大なのです。 しかしはっきりしている事は、基本的に何処の国家でも出来ない事をしてくれている、と言う事なのです」

 

「ええと、ドラゴンや邪神を倒したり、汚職官吏を成敗したり……」

 

「そうなのです。 勿論彼らが正義の味方、などと言うことは言わないのです。 ただはっきりしているのは、彼ら深淵の者は、どうやら全体の利益になる事を前提に動いている、と言う事なのです」

 

理由が分からない匪賊の壊滅や。

 

犯罪組織の消滅など。

 

深淵の者の手による行いはアンパサンドも幾例か知っていると言う。

 

従騎士時代から噂は聞いていたらしく。

 

例えば、汚職官吏と通じていて騎士団でも迂闊に手を出せなかった犯罪組織が、汚職官吏ごと丸ごと殺されたりとか。

 

街の近くまで侵攻していたネームドが、一晩で切り刻まれていたりとか。

 

アトリエランク制度が始まる前から、そういう事は何度もあり。

 

その度に、対応に出ていた騎士団で、「深淵の者がやったらしい」という噂が流れていたそうだ。

 

「本来、アダレットはこんなに長持ちする国家ではなかったのです。 200年前の愚行を例に出すまでも無く、人間が運営する国家なんて、500年もまともではいられるはずがないのです。 深淵の者は多分国家中枢に噛んでいる。 騎士団にも、公認スパイがいるという話もあるのです。 誰かは知っていますが、危ないから教えないのです」

 

「アンパサンドさんは、その……」

 

「怖くないか、ですか?」

 

「はい」

 

先読みでもされているかのように言われる。

 

正直な話、この人には、リディーの頭では勝てない。

 

勿論武勇では、騎士団長や、本当に強い魔族の騎士には勝てないだろう。

 

だけれども、部隊を勝たせるという点では。

 

この人は騎士団屈指の人材の筈だ。

 

ただ非常に脆くもあるので。

 

投入には勇気もいるだろうが。

 

「そんなもの、怖いと思ってもどうしようもないのです」

 

「……」

 

「恐らく今回の茶番、ファルギオルの復活から何から、深淵の者が手を引いているのでは無いかと自分は思っているのです。 それには何か理由がある……。 状況を見る限り、リディーさん、スールさん。 貴方たちの成長が、その理由の一つであるだろう事は、確実なのです」

 

である以上、と。

 

アンパサンドさんは言葉を切った。

 

「ならば、ネージュからの情報を引き出すという過程を辿る限り、深淵の者が貴方たちに害を為す事はないのです。 人間が作る組織はどうしても無能な者が重要なポストについたり、感情論で愚行をしでかすものですけれども。 どうやら深淵の者を運営しているのは、精神的な超人らしいのです」

 

小さな手に息を掛けて、温めるアンパサンドさん。

 

顎をしゃくると。

 

合羽を被り直し、ついてこいと促す。

 

言われるまま、外に出る準備をして、ついていく。

 

アンパサンドさんは、ガンガン歩いて行って。

 

やがて、シスターグレースのいる教会じゃない。

 

裏路地にある、小さな汚い教会に出た。

 

働いているのは、獣人族の小柄な中年女性で。雨の中、アンパサンドさんが来たのに気付くと、頭を下げる。

 

此処は、この人しかシスターがいないのか。

 

幾つかの話をしていたが、特に問題は無い様子で。頷くと、アンパサンドさんは戻ってくる。

 

丁度入れ違いに荷車が来て。

 

従騎士が、食糧らしいものを渡していた。貧しい格好の子供達が出てきて、わいわいと中に運び込んでいく。

 

「スールさんは、見た事がありそうですねこう言う場所。 リディーさんは、此処まで王都の暗部に来るのは初めてですか?」

 

「あ、はい……」

 

「違和感を感じませんか?」

 

「……はい」

 

そうだ。言われるまでも無くおかしい。

 

この周囲。

 

斬り付けるような嫌悪感と排除の意思が、向けられてきている。

 

そもそもこんな貧しい生活をしていて、心が貧しくならない筈も無い。

 

この小さな教会を襲い。

 

援助物資を奪おうとする輩だって、出るだろう。

 

だけれども、まるで何かに守られているかのように。

 

此処に近付こうという者はいない。

 

騎士団も、巡回を回す様子も無い。

 

ファルギオルに対する戦線に大半が出払っているとしても。

 

だからこそ、こう言う場所には、巡回を回すだろうに。食糧支援をするだけだ。

 

しばらく遠くから伺うが。

 

誰も教会にちょっかいを出す様子は無い。

 

腐敗した孤児院や救貧院は、子供を売りさばいて利益を上げたり。子供を虐待するのが当たり前だと聞く。教会は孤児院や救貧院を兼ねているとも聞く。

 

あんな小さくて。

 

貧しそうな教会が。

 

どうしてやっていけているのか。

 

「あの教会には噂があるのです。 忍び込んだ賊が、翌日にはみじん切りにされて路地に捨てられていたとか。 孤児を売買しようとシスターになった女が、翌日には上下二つに切られて捨てられていたとか。 そしてそれは噂では無く、実際に起きている事を、少し前に記録を見て確認したのです。 この辺りのならず者も絶対にあの教会には近付かないし、関係者だと言うだけで怖れて逃げるのです」

 

「深淵の者の仕事……ですか?」

 

「間違いないのです。 あのような治安が行き届かない小さな教会を守るような面も持っている。 深淵の者がそういう組織である以上。 今は、怖れるより先に、まずは力をつけて、動きを見ることに注力する方が良いのです」

 

そうか。

 

そういうものなのか。

 

少しだけ、心が楽になった。

 

そのまま、貧民街を抜けて、大通りに出る。

 

アンパサンドさんは任務に戻ると言うことなので、頭を下げてアトリエに帰る。

 

かなり、気持ちが楽になった。

 

これならば、少しは思考に柔軟性も戻るかもしれない。

 

とにかく、ネージュの心をどう開くか。

 

どうやってネージュに雷神に対抗する方法を教えて貰うか。

 

その二つだ。

 

時間はないが、できる事は全てやっておきたい。

 

「スーちゃん、あのさ、私今から王城に行ってくる」

 

「うん。 マティアスに話聞くの?」

 

「スーちゃんはさ、ルーシャと何か対策がないか、話をしていてくれる?」

 

「合点」

 

そのまま、その場で別れる。

 

雨の中、小走りで行く。

 

まず、ネージュの哀しみを知らなければ行けない。

 

そして、ネージュの心に触れなければ行けない。

 

今までの不思議な絵画も、思えばそうだった。

 

違うルールの世界で。

 

其処に生きている存在に、話を聞いて、学ぶ場所だった。

 

恐らくは、ネージュの絵も同じ。

 

ネージュと話をして、そしてしっかり理解出来たときにこそ。きっと雷神を倒した方法を教えてくれる。

 

雷神を倒さなければ、いつまでも雨が続いて、アダレットは大凶作に見舞われることになる。

 

そうなれば、多くの人が苦しむ事になる。

 

いつまでも足踏みはしていられない。

 

王城の受付で、手続きをする。幸いマティアスさんはいたので、話をする。機密だから、王子に話した方が良い。そういう事だ。

 

マティアスさんは難しい顔をしたが。

 

しばらく悩んだ末に。

 

分かったと、頷いてくれた。

 

後は、次に絵に入るまでに、此方もやれることを全てやっておかなければならない。

 

雷神を恐れ。

 

深淵の者を怖れているばかりでは。

 

何も変わりはしないのだ。

 

雨の中を走る。

 

これから皆で話しあって。打開策を、割り出さなければならなかった。

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