暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、切り札はまだ

ミレイユ王女は、ブライズウェストそばの街で、まだ陣を張ったまま過ごしていた。

 

王都に戻る訳にもいかず、色々と不自由だが仕方が無い。

 

騎士団の犠牲者が最小限で済んだことや。

 

負傷者も回復が進んでいることが幸いだが。

 

問題はブライズウェストで、三傑がまだファルギオルと交戦していること。

 

否。

 

交戦しているので近付くな、と言われていることだ。

 

実際凄まじい雷が飛び交っているので、安易に近づける状態ではないのも事実なのだけれども。

 

しかし、どうもおかしい。

 

騎士団の面子にはこんな話は出来ないが。

 

何か茶番につきあわされているのではないのだろうか。

 

三傑がそろって深淵の者の幹部である事くらいは分かっている。

 

何とか調べ上げたことだ。

 

深淵の者と正式にコンタクトをとることに成功したのは数年前の事だが。

 

それ以降、深淵の者の動きの不可解さには、常に頭を悩まされている。

 

アダレットやラスティンよりも、何か優先しているように思えてならないのである。嫌な予感がする。

 

怖気が走るような、醜悪な宮廷闘争で、随分支援を受けた。

 

年ばかり重ねた無能で貪欲な官吏や。

 

野心ばかり先行し、出世のために何でもするような輩を排除し。

 

能力のある人材を抜擢して。

 

国を改革するのに、随分手を借りた。

 

だがそれさえも。

 

深淵の者には余技に過ぎないように思えてならないのだ。

 

今だってそう。

 

本当に三傑は、戦っているのだろうか。

 

「伝令!」

 

「如何したか」

 

天幕に騎士が駆け込んできた。

 

すぐに話を聞くが。

 

どうやら、三傑の一人イルメリアが戻ってくるつもりらしい。少し休憩したら、また出撃するそうだ。

 

「分かりました。 休憩のための天幕を確保しなさい」

 

「はっ! 直ちに」

 

「陛下もしばしお休みになられては」

 

「無用」

 

配下の騎士の言葉に、即答。

 

実際、前線で指揮を執ってはいるが。既に騎士団は事実上動いていない。ブライズウェストを囲んで、そのまま動けない状態だ。

 

たまに獣がしかけてくるので、それに対策するだけ。

 

それも大した獣はいない。

 

どうやら事前に三傑が、手近な所にいる大物はあらかた片付けてしまったらしいのだけれども。

 

騎士団が苦労している相手を、それこそ片手間に処理してしまうのだ。

 

やはりアダレットとしては、危険視せざるを得ない。

 

彼らが翻意したら、それこそ一晩でアダレットが消し飛んでしまう。

 

それを、周囲の騎士達は理解していない。

 

間もなくイルメリアが戻ってきたらしく。

 

天幕でふて寝を始めたらしい。

 

護衛をつけておくように、と指示をして。

 

ミレイユは、しつこい騎士の言葉を聞き流せなくなり。

 

少し休む事にした。

 

雷の音は相変わらず凄まじい。

 

ソフィーが現れてから。あの雷鳴はずっと収まっていない。

 

三傑最後の一人、ソフィー=ノイエンミュラーが次元違いの実力者だという事は知っていたが。

 

ファルギオルでさえこうも簡単に押さえ込まれているのを見ると。

 

もはや言葉も無いのが事実だった。

 

また伝令が来る。

 

軽く居住まいを正して、話を聞く。

 

どうやら王都の方でも動きがあったらしく。

 

ネージュの絵に入った双子が、突破口を開き。ネージュとの会話を始めているという。上手く行けば、ファルギオルを撃破する可能性が出てきた、とも言う事だった。

 

伝令を下がらせ。

 

思う。

 

本当に、そうなのだろうか、と。

 

ソフィーがその気になれば、雷神なんてすぐにでも倒せるのでは無いのか。その疑念が、どうしても消えない。

 

杞憂なら良いのだが。

 

どうにも、そうとは思えないのが実情だった。

 

 

 

ロジェは何となくだけれども、ファルギオルの倒し方に心当たりがあった。

 

そして、それが故だろう。

 

今組み伏せられて。

 

剣を突きつけられている。

 

殺気が凄まじすぎて。

 

身動きすら出来なかった。

 

恐怖云々の話では無い。体が本能的に、動く事を拒否してしまっているのである。目の前にいる存在が。あまりにも危険だと言う事を、嫌でも理解せざるを得ない。

 

ブライズウェストに行こうとして。

 

途中で捕まった。

 

周囲には手練れらしい魔族の戦士が数名いるが。

 

一番危ないのは。

 

縛り上げたロジェの背中を踏みつけている、ヒト族の女だ。見覚えがあるような気もするが。とにかく、発している殺気と血の臭いが、尋常では無かった。

 

「斬りたいなー。 まあソフィーさまが駄目だって言ってるから仕方が無いけどさ」

 

「ティアナどの」

 

「分かってる。 それに後でもっといいもの斬らせて貰えるみたいだし、我慢しないとね、うふふ」

 

たしなめる魔族の戦士に、ティアナと呼ばれた女は笑って応える。

 

完全にいかれている。

 

本当に強い戦士の中には、人間を精神的に止めてしまっている者がいる、という話は聞いたことがある。

 

強くなるために人間性を捨てたような者で。

 

古い時代には、薬物を使って、その状態を作り出す事があったのだとか。

 

たまに、人間の中にはシリアルキラーという危険な存在が出現するが。

 

この女は、先天的なのか後天的なのか。

 

分からないけれども。

 

シリアルキラーで。

 

そして、それこそドラゴンとも戦えるような次元の剣士。

 

勿論素の身体能力だけでは無理だろう。

 

それだけの錬金術装備を与えられていると言う事で。

 

強大な錬金術師が背後にいることは確実だった。

 

「あーめんどくさい。 後どれくらいコレ見張ってればいいんだっけ」

 

「後二週間ほどです」

 

「はあ。 あの双子も斬りたいなあ」

 

「なりませんティアナどの」

 

双子。

 

間違いない。リディーとスールも此奴は目をつけていると言う事だ。何とかしなくては。そう思うのに。

 

やはり動かない。

 

どうしても本能は正直だ。

 

巣穴をつつかれた獣は必死の反撃に出るという話もあるけれど。

 

この場合、相手が強大すぎて。

 

もはや反撃どころでは無い、即座に退却を選ぶという状況。しかもこのシリアルキラー。もしロジェが不審な動きを見せれば、即座に何のためらいもなく斬るだろう。

 

口惜しくてならない。

 

何もできない。先手先手を打って相手に動かれる。

 

もはやどうしようもない。

 

双子のために、せめてこの衰えた身でも何かしたいと思うのに。それさえ許されない。

 

天は我を見捨てたか。

 

どうしてこうも苦難ばかり。

 

雨が降り注ぐ中。

 

殺気は相変わらず。

 

ロジェの全ての動きを、封じ続けていた。

 

 

 

(続)




全てはソフィー先生の掌の上です。

ちなみにソフィー先生は今回無茶苦茶上機嫌です。ただこの人、機嫌で行動を変えることはありませんが……
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