暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ブライズウェストにてあくびをしているソフィーの所に、報告が順番に舞い込んでくる。一つ目の報告は、ロジェを確保し。記憶を消した上で、強力な眠りの魔術を掛け。そしてファルギオルが死ぬまで。つまり双子のエサを処理し終えるまで、起きないようにすること。
二つ目は、双子がネージュより。
世界の塗り替えの技術を教わった事。
交代で状態維持のために、イルメリアちゃんとフィリスちゃんと、ブライズウェストに留まっているのだけれども。
そろそろ、良い頃だろう。
ファルギオルが弱すぎると、双子のエサにならない。
双子が作りたての世界の塗り替えでは、ファルギオルをやっと倒せる、くらいの状態が望ましい。
丁度状態の固定をしたばかりだ。
別にファルギオルに双子が殺されても一向にかまわない。
あの壁を越えた状態からやり直せるのだから。
既にソフィーは、もう一億年や二億年くらいの時間を過ごすことなど、何とも思っていない。
世界の終焉を、何をやっても止められない以上。
今更焦っても仕方が無いのである。
人間は愚かだ。
放置しておけば、必ず資源を使い果たしたあげくに、共食いをして滅びることになる。自称知的生命体とは思えない愚かさだ。創造神が何をやってもそれを食い止められなかったように。
フィリスちゃんは洗脳をしてしまってはどうか、という提案をして来る事もあるのだが。
それは却下。
そもそも、このようなことをしているのも。たった四種族で一緒に生きていけないなら、多数の知的生命体が暮らす宇宙で、生きていける訳がないから、である。助けたからには責任をとる。
ペットを飼うのではないのだ。
そういう責任感がパルミラを動かしているし。
それについてはソフィーもよく分かる。
だから協力に関しては、手を惜しまない。
ただしソフィー流のやり方でやらせて貰うだけだ。
困惑した様子で、伝令が来る。
雨の中、ルーシャが歩いて来るという。たった一人で。オイフェも連れていないと言うことだった。
まあ何をしたいのかは分かる。
だから、どうでもいい。
そろそろ再教育が必要だと思っていた頃である。
ルーシャが姿を見せたのは、間もなくだった。
無言のままルーシャは、背中を向けたままのソフィーに傘を向ける。
「もう貴方のおぞましい計画に双子を巻き込まないでくださいまし」
「あたしに言ってる? ひょっとしてだけれど」
「ソフィー=ノイエンミュラー! 深淵から来た邪神よりも邪悪なもの! 貴方以外の誰にこんなこ……」
ルーシャが崩れ落ちる。
珍しく、真顔になっているティアナちゃんが、その後ろに立っていた。
上下両断されたルーシャは即死。
剣を振るって血を落とすと。雨の中、ティアナちゃんは吐き捨てる。
「低脳。 ソフィーさまに何をほざく」
「ティアナちゃん。 それを斬っては駄目だっていったよね」
「だってソフィーさま! この低脳が! よりにもよってソフィーさまを!」
「気持ちは分かるけれど、これは大事な駒なの。 だから、次からはやったら駄目だよ」
時間を巻き戻す。
今のソフィーには難しくも無い技術だ。
ただし、世界そのものの時間を巻き戻すのは少しばかり難しい。ある程度の準備がいる。更に言えば、巻き戻せる時間も限られる。
自分自身が一人だけ過去に飛ぶ事は出来るけれど、それはいわゆる「存在の矛盾」を引き起こすので、長時間は世界にとどまれない。
この技術は、主に世界の終焉に、知識と物資を輸送するために用いているものだ。
世界そのものを平然と何千年も巻き戻す事が出来るのは。
世界そのものであるパルミラ本体だけである。
呆然と立ち尽くしているルーシャ。斬られる前の記憶も埋め込んでおいたのだから、当たり前だろう。
傘を取り落とし。
大雨の中へたり込む。
ティアナちゃんが、ふんと鼻を鳴らすと、ルーシャの背中を蹴飛ばした。
泥の中に突っ伏すルーシャ。
「今、斬られたことは分かっているね。 まだ、恐怖の仕込みが足りなかったかな」
「おだまり……なさい。 あんなに可愛らしかった双子の目が、ドブ沼のように濁ってしまいましたわ! 絶対に、絶対に……許せない!」
「駒だから生かしているって理解出来ない?」
「例え差し違えてでも!」
またティアナちゃんが斬ろうとするが、笑顔で制止。
立ち上がったルーシャが、傘から光弾をありったけ放ってくる。ソフィーは、避けずに、それを全弾。
勿論防御もせずに受けきった。
ファルギオル戦の時より火力が上がっている。
必死に調整して、自分にできる限りの強化改造を施したのだろう。
でも、それでもだ。
ファルギオルにも届かないし。
勿論ソフィーにも通用しない。
光弾が止まり。ルーシャが真っ青になって立ち尽くしている中、肩をすくめてみせるソフィー。
勿論無傷だ。
「それで終わり?」
「まだまだあっ!」
再び、ルーシャが無理矢理魔力をひねり出しながら、光弾を撃ちだしてくる。
ソフィーは歩きながら、光弾を防御せず、そのまま進んでいく。そして、光弾の巻き起こす爆炎を吹き飛ばしてルーシャの至近に出ると。
首を掴んで、つり上げた。
足をばたつかせて、必死に抵抗するルーシャだが。ちょっと力を入れただけで傘を取り落とす。
意識が落ちない程度に締め上げながら、ゆっくり言い聞かせる。
「この世界はね、どうしても詰んでいるんだよ。 実際に24万回近く見てきたあたしが言うんだから間違いない。 あたしが介入しようが介入しまいが関係なくね。 人間はこのままだと、確実に滅びる。 未来の可能性は、0%なんだよ」
「……っ!」
「だからあたしは手段を選ばない。 あの双子を育てきれば、ひょっとしたら那由多以下かも知れないけれど、人間を生存させる可能性が出てくるからね。 まああたしだけ生き残るのは容易だけれど」
手を離し。
落ちたルーシャは、受け身も採れなかった。
激しく咳き込むルーシャに、言う。
ルーシャは爆弾を取りだすが。
そんなもの、指を鳴らすだけで、世界から消失させた。
唖然としているルーシャは。ソフィーの言葉を、硬直したまま聞く。
「なんでルーシャちゃんを洗脳しないと思っているのかな? そうやって無様にあがいてくれればあがいてくれるほど、双子は此方のもくろみ通りに動くからだよ。 あの双子の側には、客観的に双子を見られる「普通」が必要なの。 そしてルーシャちゃんはその「普通」にもっとも適している。 貴方はね、双子の守り手だけれども。 あたしにとっては都合の良い道化なんだよ。 これまでもそうだったし、これからもずっとそう」
完全にルーシャの心がへし折れたのが分かった。
顎をしゃくる。
ルーシャの両腕をとり。傘も拾い。
深淵の者の戦士達が、ルーシャを連れていった。
敗北感に打ちのめされていれば良い。
どの道、あの娘は、双子を守るという選択肢以外がない。ならばファルギオルと、双子と一緒に戦うしかないのだ。
その後もコントロールは容易である。
守るものがある人間は。強くなることもあるが。その一方で、巨大な弱点も出来るのだから。
さて、計画は次の段階に移る。
今まで準備してきた次以降のエサは、そもそも双子にぶつけられなかった。それらも、順番にぶつけていく段階に来た。
そして双子が賢者の石を作った時。
世界に超越級の錬金術師が五人揃い。
世界の詰みを打開する可能性がようやく生じる。
この世界の未来。
ソフィーは深淵から、それを作る。
(続)
文字通り次元違いの相手の前には。
どれほどの抵抗もねじ伏せられるだけです。
慟哭を踏みにじり。
ソフィー先生は、目的に向けて着々と進みます。
今までに見てきた地獄など天国に等しい現実が。
彼女を究極のリアリストとして動かすのです。