暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ 作:dwwyakata@2024
今まで万の回数敗れた相手についに借りを返すときが来ました。
王城の受付に、皆で集まる。
マティアスさん、アンパサンドさん、フィンブルさんにはそれぞれ、リディーとスールが作った装備品を配る。
獣の腕輪の更改を行ったことで、更に身体能力が上がっていることを告げ。
軽く体を動かして、感触を試して欲しいとも。
そしてフィンブルさんには、預かっていたハルバードを返す。
ハルバードは合金で更に強化され。
雷撃対策のコーティングも施した。
更に、皆に告げる。
決戦の場では、ファルギオルの力を極限まで弱める切り札を展開すると。恐らく、接触しただけで感電死することはなくなる。勿論素手で触ったりしたら話は別だろうが、少なくとも対策をした武具で触る分には、受けるダメージは致命傷ではなくなるはずだ。
念のため、オイフェさんにも装備を渡そうかと思ったが、ルーシャが首を横に振る。
あれ。
ルーシャが泣きはらしたような目をしている。
どうしたのだろう。
何かあったのだろうか。
深淵の者関連でペナルティでも受けたのか。もしそうだとしたら、少しばかり許せない。
パイモンさんが咳払いした。
「それで、その弱体化する道具というのは試験済みか」
「はい。 アルトさんと一緒に効果を確認しています」
「雷神めの動きを止めるのは三傑に任せるとして、弱体化をどれほど出来るかが課題になるな……」
「ドナーストーンで実験しましたが、殆ど効果を示しませんでした。 雷神は我々で手が届く範囲まで弱体化すると思います」
アンパサンドさんが咳払い。
頷いて、話を聞く。
「それでも接近戦組が直接しかけるのは最終手段にするべきなのです」
「はい。 接近戦組は、あくまで相手の足を止めることに最初集中してください。 マティアスさんはシールドを展開して、可能な限り防御を。 パイモンさんもそれでお願いします。 ただ、もう一つ切り札を用意してあります。 それを使った後は、接近戦をしかけても大丈夫です」
「おう、分かったぜ」
「心得た」
後は、そもそも接近する必要がないスールとアルトさん、ルーシャによって集中攻撃。オイフェさんはガードに徹して貰う。
バトルミックスには、高純度のレンプライアの欠片を使う。
今回は、ネージュのアトリエから回収してきた欠片を用いるが。
下手をすると、空間そのものが消し飛ぶ。
だから、加減についてはスールに任せる。
そしてスールは。
拳銃の真の力を引き出せるようになった。
実際に見せてもらったが。
今までの護身用にもならなかった拳銃と違って、お母さんから受け継いだ拳銃は、充分な打撃力を持つようになっている。
邪神の虚は確実につける。
前とは何もかも違うと言うことを、見せつける。
「あー、いいか。 邪神も二百年前の事で懲りていて、何か対策をしている可能性は」
「邪神には、そういう概念はないとネージュに聞いています」
「ふえっ!? そ、そうなのか」
マティアスさんに、咳払いして説明する。
邪神とは、どうやらこの世界に創造神が配置した監視端末らしいのだ。
そもそもどうして、そんなものが人間を襲うのかは分からない。
だけれども、世界に対して監視することに特化した存在だというのなら。
世界から切り離してしまえば、見るも無惨に弱体化するのは言うまでもない話である。それを説明すると、マティアスさんは納得した様子である。
フィンブルさんが、少し考え込む。
「だが油断は禁物だ。 可能な限りの速攻を心がけるべきだろう」
「はい。 それと、邪神にはコアというものがあるそうで、それを壊す事によって殺す事が出来るそうです。 前のネージュとの戦いでは、ファルギオルが強力すぎることが原因で、封印に追い込むまでしか出来なかったのだとか。 だからこそ、今回こそは殺して、悲劇の連鎖を断つつもりです」
フィンブルさんが眉をひそめるが。
しかしながら、これで悲劇を終わらせられるのなら。
リディーは、多少の代償など、何も惜しくない。
質問に対しては、全て応えておく。
終わった所で、手を叩いて、皆を見回した。スールは既にストレッチを終えて、邪神を殺す準備を整えていた。
「では、行きます。 今度こそ、この世界そのものに仇なす邪神を殺します」
「……ああ」
どうしてだろう。
フィンブルさんは、少し不愉快そうである。
その理由が。
リディーには、よく分からなかった。
大雨の中、走る。
空中に自動展開する避雷針は以前と同じ。雷撃を防ぐ靴も前と同じだが。前よりもずっと体が軽く感じた。
貧弱だったリディーだが。
とにかくここのところ、徹底的に鍛えられたこともある。
走る事はまったく苦にならなくなっていたし。
今も雨の中、雷が落ちているけれど。怖くも何ともない。
肝が据わったと言うよりも。
驚いたり、怖がったりする必要がないものに対して。
恐れを抱く必要がないと、体が判断したと思って良さそうだった。
アダレット王都を守る森を抜けて、街道に。そのまま走り続ける。時々騎士団に物資を輸送している馬車を追い越す。
馬車は別に急いでいる風でもなかった。
騎士団だけではなく傭兵もいるし、規模は千人くらいだろうか。
千人となると、食事だけでも相応の量になる。
馬車がたくさん行き来するのは当然の話で。早くこの戦いを終わらせなければ、疫病とかも流行る可能性が高い。
一つ目の街を走り抜ける。
騎士団が布陣していたが、コレは多分最終防衛線だろう。
なお、住民は既に避難を終えているようで、家の中に気配はなかった。
そういう気配も、いつの間にか読めるようになっていた。
そのまま無言で走り抜ける。
二つ目の街。
同じように、騎士団が布陣していた。キホーティスさんがいたので、通り過ぎながら、挨拶。向こうも気付いて、敬礼してきた。或いは、既に状況を知っているのかも知れない。
錬金術師がいなければ。
アダレットは守れない。
200年前の人間達は。
そんな事も分からなかった。
恩を受けた人間には。
相応の礼をしなければならない。
200年前の人間達は。
その程度の事も出来なかった。
今、そのツケが、ファルギオル復活という最悪の形で、アダレットに降り注ぎ。そして恐らくは、深淵の者に利用されている。
深淵の者は、今後どんどんリディーとスールに恐ろしい試練をぶつけてくるのだろうか。
それとも、ファルギオルを倒した事で、ある程度満足するのだろうか。
鍵とは何か分からない以上。
現状では、悔しくとも従うしかない。
雨の中走り抜けると。
ついに騎士団の本隊が見えてきた。
三つ目の街をそのまま本陣にして布陣している。ブライズウェストは、凄まじい雷撃が飛び交っていて。
どうやら見た感じでは、現在絶賛戦闘中に見える。
見た感じでは。
本当はどうなのかは分からない。
あのソフィーさんが、雷神ファルギオルに劣っているとはとても思えないから、である。
到着すると、ミレイユ王女が馬に乗ったまま来る。
一月近い滞陣の筈だが。
少なくとも、疲れている様子を周囲に見せてはいなかった。
「貴方たち、状況は聞いています。 少し休んでから、すぐに前線へ」
「分かりました」
「……ファルギオルを倒すための手段を、本当に準備できたのですね」
「はい」
即答に、ミレイユ王女は一瞬だけ感情を動かした様子だが。
それで良い。
宿を借りる。
中には騎士団の戦士達がいたが、魔術師も何人かいて。リディー達に、回復の魔術を掛けてくれた。
体力だけの回復でも有り難い。
殆ど消耗はしていないとはいえ。
出来るだけベストの状態で戦いたいからだ。
如何に弱体化しているとは言え、相手はあの雷神ファルギオル。どんな事故が起きるか分からない。
不確定要素をねじ伏せてこその勝利。
勝つ側に理由はなくとも。
負ける側には必ず理由がある。
この間、見聞院で読んだ本にそんな事が書かれていた。
その本自体は、いわゆるただの戦記物だったのだけれど。
その言葉は真実だなとリディーは思ったし。今後は身に刻んで行こうとも思っていた。
だから、負ける理由になりうる要因は。
徹底的に潰さなければならないのだ。
回復を済ませた後。
最後の打ち合わせをする。
ここから先は、生きて帰らない覚悟で戦う。そもそも、深淵の者の掌の上で踊らされているとしても。
邪神ファルギオルは絶対に倒さなければならない相手だ。
もしも倒せなければ。
この雨による大凶作で、どの道アダレットは滅ぶ。今回が、最後の機会。これを逃したら、もはや再起の可能性は無い。
今のアダレットは、少なくともミレイユ王女ががっちり政治をしてくれるおかげで。
先代の庭園王のような愚物が仕切っているわけではない。
それに悔しい話だけれど。
アルトさんがいうように、そもそもアダレットは本来こんな年月もつような国じゃあないし。
アルトさんの言葉を信じるなら。
深淵の者の力は、昔よりずっと強くなっている。
深淵の者が未来のために動いているというのなら、アダレットは今後もっと良くなるはず。
勿論鵜呑みにはできない。
だから、力をつけるのだ。
そして力をつけるためには。
ファルギオルは、必ず倒さなければならない。
最終確認を終えると、宿を出る。
外は彼方此方が長雨で沼のようになっていて、非常に危険な状態だった。普段は何ともないような溝が、そのまま死の罠になるような状態である。
何よりこの水量。
近くに雷が落ちたら、尋常では無い損害が出る。
パイモンさんが前に出ると、詠唱。そして、術式を展開した。
ドーム状の光の壁が展開される。
「これで更に雷撃を弱められるはずだ。 ただし、あまり早くは動かせぬぞ」
「有難うございます」
「パイモンさん、後でこれ教えて?」
「かまわぬが、それは戦って勝った後だ」
軽口をパイモンさんが叩いたので、無理矢理にマティアスさんが笑った。誰も笑わないが、フィンブルさんだけは、あわせて苦笑だけした。
そのまま急ぐ。
少し様子が気になるのがルーシャだ。
戦場が近付けば近付くほど、どんどんくらい表情になっている。
何かあったのかも知れない。
でも、今聞く事は藪蛇だ。
勝率を下げることは、ほんの少しでも行いたくなかった。
ほどなく、ブライズウェストに到着。
途中何度か、川のようになっている場所があって。迂回したりしなければならず。少し到着が遅れてしまったが。
見える。
プラフタさんとイル師匠が、ファルギオルと絶賛戦闘中だ。
プラフタさんは、一対の巨大な腕のようなものを浮かせ。更に大量の魔法陣を展開して、ファルギオルと交戦。真正面から、一歩も引かずに戦っている。
イル師匠が此方に気付き。
次の瞬間には、もう目の前にいた。
「貴方たち、例のものは」
「はい、ばっちりです!」
「そう。 じゃあ、ファルギオルの動きを止めるわよ。 それにあわせて、しっかり奴に対して、切り札をぶち込んでやりなさい!」
「分かりました!」
元気よく応えたのはスールだが。
スールの身からは、隠しきれない殺気が迸っていた。
ファルギオルを殺す。
スールも、やはりおかしくなってきている。
作る道具に、殺意が増していると思っていたのだ。
だが、それがスールの身につけた強さなのだとしたら。リディーはそれに対して、何もいう資格は無い。
足を止めて、プラフタさんと殴り合っているファルギオルへと走る。
ファルギオルは凄まじい速度で動き回りながら、とんでも無い雷撃をプラフタさんに叩き込んでいたが。
全て防ぎ抜かれていた。
いきなり、目の前に剣が突き刺さる。
手を横に。
止まれ、というアンパサンドさんの合図だ。
絵の具はリディーが扱う。
そう事前に決めている。
いきなり、目の前にファルギオルが出現。
無数の雷撃をプラフタさんに浴びせながら、剣を振るい上げる。
「いつぞやの双子か……! 我にこのような屈辱を味あわせおって、絶対に許さぬぞ小虫が……!」
屈辱。
一体何のことだ。
だが、振り上げた剣が、アリスさんの輝く剣に受け止められ。
直後、飛来した無数の剣が、ファルギオルの全身を串刺しにする。
こんな程度でダメージを受ける奴じゃない。
それは分かりきっているからこそ、即時散開。
そういえば、ソフィーさんは。
いや、いなくても疑問はない。あの人は、そもそもこのファルギオル関連の出来事を、裏で操っている可能性が高いし。それにリディーが気付いている事を、恐らくもう知っている。
悔しいけれど。
今はその悪辣なやり方に乗るしかないのだ。
絵の具は、文字通り半液体状のもので。
特定の魔術を唱えながら、握りつぶすことにより。
周囲100歩四方ほどを、別世界へと塗り替える。
既にイル師匠には、さっき話したときに伝えた。
プラフタさんは、100歩以上離れている。
だったら、これで。
逃がさない。
ぐっと絵の具を握りつぶしながら。
リディーは、詠唱を終えていた。
「新しい世界よ、顕現せよ!」
雨が、消える。
泥だらけの、沼地のような地面も消える。
周囲に拡がっているのは。
まるで音がしない、要塞のような場所。壁と天井と床。巨大な建物、それこそアダレット王城よりも巨大な建物の一室に見える。
其処に、全身串刺しになったファルギオルと。
リディーとスール。ルーシャとパイモンさん。アルトさん。
前衛のマティアスさん、アンパサンドさん。フィンブルさんと、それにオイフェさんが。
皆、展開を終えていた。
リディーとスール、それにアルトさん以外の全員が、多少なりと驚いていたが。
一番驚いていたのは、剣を吹き飛ばし、自由の身になったファルギオルだった。
「こ、この空間は……! あの忌まわしきネージュの!」
がいんと、音がした。
リディーが拳銃を撃ったのだ。
今までと違う。
ファルギオルに直撃し、そしてその顔面に、確実な傷を穿っている。しかもこの拳銃、連射と速射が効くのである。
ルーシャさえ、今の威力に驚いていたようだった。
捨て身の接近戦と、爆弾の投擲しか戦闘手段がなかったスールが。
今、ついに遠距離射撃という攻撃手段を身につけたのである。
そしてもう一つ。
今の攻撃で、はっきりしたことがある。
ファルギオルは避けられなかった。
それどころか、喰らった傷が再生していくのが、恐ろしい程遅い。前はバトルミックス最大強化ルフトで受けたダメージすら、一瞬で回復していたのに。傷が治るのに、十数秒も掛かっていた。
これだけで。
どれだけファルギオルが弱体化したのは、いうまでもなく。
目に見えるほどだった。
「お、おお、おのれええええええっ! ま、またしても、またしても我をこのような巫山戯た空間に閉じ込める暴挙に出るか! 卑劣なる罠にて、貶めるか!」
「黙れただの端末!」
「な……!」
「どうして貴方が人間を攻撃するのかは分からない。 でも、貴方がただの世界を監視するための端末だって事は分かってる! 人間を攻撃する理由は分からないけれど、それだったら人間より偉いわけでも、貴方が偉いわけでもない! 貴方はドラゴンのフリをしたただのトカゲが、何かの間違いで力を持って偉いと勘違いしただけの存在! そんな存在が偉いわけがない!」
スールと、リディーが、口々に言うと。
邪神は一瞬黙り込んだ後。
憤激した。
全てが図星。
恐らくは、この邪神は、自我を持ってしまったのが失敗だったのだろう。
ただ監視だけをしていればよかった。
人間を攻撃する理由は分からないけれど。本来の目的どおりの存在だったら、此処まで過剰な攻撃など必要なかったはず。
それが、あからさまに分不相応な自我を得て。
その結果暴走した。
その結末が、この哀れな。
滑稽な。
自分を強いと思い込んだ愚かな存在。
まるで普通の人間のようだ。
自分より弱い存在を痛めつけて悦に入っている、普通の人間が。今のファルギオルと、まんまそっくりだった。
弱いと思っている存在に反撃されて、激高するところもそっくりだ。
或いはファルギオルほど、普通の人間の精神にもっとも近い存在はいないのかも知れない。
「おのれ……! もはや貴様らなど、欠片も残さず焼き尽くしてくれる! 絶対に、絶対に許さぬぞ!」
「最初から殺すつもりのくせに、随分と勝手な言いぐさなのです」
「ああ、アンの言う通りだ。 お前の底は見えたぜファルギオル! お前は雷神なんかじゃねえ、単なるつまらん薄っぺらなアホだ! 俺様以上のアホだな!」
「力を振り回すだけの幼児に等しい愚かなる存在を、神と呼ぶのは無理があるな。 ファルギオル、低俗で敬意を払うに値せぬ貴様を此処で葬る!」
アンパサンドさんも、マティアスさんも、フィンブルさんも。
それぞれ口々に、ファルギオルの全てを否定した。
これは殺しあいだ。
そして、相手が冷静さを欠くほど、勝率は上がる。
故に当然の戦術である。
スールが構える。
リディーも、その隣で構えた。
他の皆も、戦闘態勢を取ると同時に。
完全にプライドを粉砕されたファルギオルが、聞き苦しい絶叫を上げ、剣を降り下ろしてくる。
死闘が。
開始された。