暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ファルギオルとの決戦は、原作ではアトリエシリーズ屈指の難易度です。

歴代シリーズでも非常に強い中ボスで、本作でも話の節目に相応しい格の相手として描写しております。

双子達にとっては、少なくともそうです。


2、決戦

絶叫したファルギオルが、金色の剣を振り回す。その一撃に、真っ先に躍り出たマティアスさんが、シールドを展開。押されつつも、その一撃を防ぎ抜く。

 

やはりだ。

 

前とは、比べものにならないほど弱体化している。

 

だが、マティアスさんも、こんなのは何度も受けられないだろう。

 

ファルギオルの左側に回り込みながら、スールが銃弾を乱射。ファルギオルの全身に弾丸が食い込む。

 

ルーシャは少し飛び退くと、傘から光弾を連射する。避けるファルギオルだが。

 

文字通り雷の速度で避けていた以前とは、比較にならない程遅い。

 

リディーは詠唱開始。

 

最大級の魔術をぶち込む。

 

その至近に、ファルギオルが出現するが。

 

無言で動いたオイフェさんが、顔面に渾身の拳を叩き込み。更に、脇腹にフィンブルさんがハルバードを突っ込んでいた。

 

「ぎゃあああああッ!」

 

見苦しい悲鳴。

 

相手より強ければあれだけ調子に乗っていたのに。

 

自分が少し傷ついたらこれか。

 

相手に敬意はまったくなく。

 

そして冒涜することを何とも思わない。

 

こんな幼稚な存在に。

 

この世界は蹂躙されかけたのか。

 

いや、現在進行形でそうか。

 

だって、此奴と普通の人間の精神は、殆ど変わることがない。「自分から見て劣っている相手」に、「何をしても良い」と考えるのが普通の人間だ。ファルギオルのやっているのは、まさにそれなのだから。

 

リディーは詠唱を続けながら跳び離れ、回復が追いつかないファルギオルが絶叫するのを横目に。スールがルフトを投げ込むのを見る。

 

ファルギオルはハルバードが刺さったまま即応、剣で切り捨てるが。

 

それはそもそも、ただのルフト。

 

意識をそらした瞬間、アルトさんが放った無数の剣が、ファルギオルの全身に突き刺さり、そしてその表皮にひびを入れる。

 

最初に遭遇したときの圧迫感などない。

 

だが、ファルギオルも、意地を見せる。

 

凄まじい雷撃が、その体から迸り。

 

一瞬後に、この空間全てを蹂躙していた。

 

とっさにシールドに切り替えたが。

 

それでも吹き飛ばされかける。

 

動きは捕捉できる。前は稲妻そのものだったのに。

 

攻撃も受け止められる。此方の攻撃も通る。

 

攻防走揃って此処まで衰えながら。

 

まだこんな攻撃を放つことができるのか。

 

「侮ったなあ、にん……」

 

最後まで言えなかった。

 

ファルギオルの頭に、ナイフが突き刺さっていたからである。それも目に当たる部分に、だ。

 

抜こうとするファルギオルだが、ナイフがかき消え。

 

残像を作って動いたアンパサンドさんが、ナイフを両手に、ファルギオルを冷たい目で見下していた。

 

見上げている、というにはおかしい。

 

今の攻撃を。

 

回避したのか。

 

無言で、アンパサンドさんに続く。アンパサンドさんに、奇声を上げて剣を振るい上げたファルギオルが、全身から雷撃を放出する中。

 

シールドを展開して、防ぐパイモンさんを盾に。

 

スールがフラムを放り込む。

 

炸裂したフラムが、ファルギオルの足を一本爆破。吹き飛ばしていた。

 

絶叫しながら、ファルギオルは、突き刺さったままのハルバードを引き抜こうとするが。顔面に思いっきりアンパサンドさんの靴裏が入る。

 

手数が違いすぎると判断したのだろう。

 

此処で、ファルギオルが新しい手に出る。

 

「おのれ人間共がああああっ!」

 

絶叫しながら、周囲に雷の球体をまき散らし。

 

それが、形をとりながら。

 

それぞれ、人間大の獣になって行く。

 

こんな隠し玉を持っていたのか。

 

或いは、イル師匠達と戦っていたときには、作る瞬間に潰されていたのかも知れないが。此方の実力を、相手も見切り。

 

作っても対応出来ると判断したのかも知れない。

 

手数で押しに来るファルギオル。

 

だが、弱体化は否めない。

 

ルーシャが弾幕を作って、無数の雷撃の獣を押し返しつつ。

 

フィンブルさんがいつの間にかファルギオルの背後に接近。

 

抉りぬくようにして、ハルバードを引っこ抜いた。

 

勿論傷をそのまま更に拡大し、酷くするための行為である。

 

体がぐらつくファルギオルの顔面に。

 

攻勢に転じたマティアスさんの剣が叩き込まれる。

 

絶叫しながら、剣を滅茶苦茶に振り回すファルギオル。

 

衝撃波が周囲を消し飛ばすが。

 

それは、せっかく作った手駒を、幾らか削ってしまうことも意味していた。

 

ファルギオルが顔を押さえている間に。

 

リディーは詠唱を完了。

 

そして、床に手を突く。

 

魔術を発動。

 

ネックレスの増幅効果で発動した高難易度魔術。それも、もはや人間の出力では追いつけないレベルまで増幅している。

 

高位の錬金術師なら、更に火力を上げられるのだろうが。

 

今のリディーにはこれでベストである。

 

全員に、対雷シールドを展開。

 

それも最大出力で、である。

 

本来だったら、ファルギオルの雷撃に紙くずの様に貫通されるだろうが。

 

だが、今なら。

 

オイフェさんが無言でファルギオルの懐に潜り込むと。

 

コンビネーションブローを叩き込み、即座にバックステップ。

 

あからさまに、無理矢理ハルバードを引っこ抜いた傷口が、更に醜く、大きく拡がった。ファルギオルが苦痛の声を上げる中。

 

フィンブルさんが、その背後から斬り付け。

 

更に、左側に回り込んでいたスールが、拳銃を乱射。前は意にも介さなかっただろう攻撃を、必死に盾で防ぐファルギオルだが。

 

さっきの全周囲攻撃もあって。

 

展開していた雷の獣たちが、既にルーシャの弾幕に制圧されているのに気付くのが遅れたのが、致命的な結果を生む。

 

巨大な剣が。

 

アルトさんが召喚した巨大な剣が。

 

文字通り、上空から飛来して、ファルギオルを。

 

標本の虫同然に串刺しにする。

 

斜めに突き刺さった剣は。

 

ファルギオルの盾を持った右手を消し飛ばし。

 

体を文字通り、半分にしていた。

 

リディーの額の血管が破れ、血が流れ出ている。精神負荷が大きすぎたのだ。

 

これは短期戦だと言う事も分かっている。

 

何より、この絵の具の力。

 

長時間はもたないのだ。

 

総攻撃を。

 

叫ぶ。

 

ファルギオルは必死。全力で再生しようとするが、させない。マティアスさん、オイフェさんが、纏わり付いて徹底的に打撃剣撃を浴びせかけ。更にアンパサンドさんがハラスメント攻撃を仕掛けて徹底的に気を削ぐ。

 

必死に振り回そうとする剣だが。

 

その剣先を、フィンブルさんが押さえ込んだ。

 

流石に幾らリディーがフルパワーで雷撃を押さえ込んだと言っても。

 

相当にダメージが来るようだが。

 

歯を食いしばって、耐えるフィンブルさん。

 

雷神が、恐怖の声を上げるのを、確かに聞いた。

 

「な、なんだ貴様らは! あれほどの恐怖を見せつけてやったのに! どうして、どうして此処までやろうとする!」

 

「この空間にいるお前など、以前戦った邪神の半分にもみたぬわ」

 

冷徹な言葉と共に。

 

パイモンさんが指を鳴らす。

 

同時に皆が飛び退き。

 

床から突きだした杭のようなものが、ファルギオルを滅多刺しに貫き、そしてその場に完全に固定した。

 

そして、準備は整った。

 

「スーちゃんっ!」

 

「おっけい!」

 

スールが、取りだしたるは。

 

ルフトを束ねに束ねた、今回のとどめとするべく作り出した、究極の風爆弾。それを見て、流石にファルギオルも危険を悟ったのだろう。

 

恐らく無理矢理に。

 

遠隔で、その金色の剣を手を触れずに操る。

 

フィンブルさんに抑えられていたのをはねのけ、空中に引っ張り上げると。

 

スールに向けて飛ばした。

 

だが、その最後の一撃を。

 

完全に読んでいたアンパサンドさんが。

 

上空からの蹴りを叩き込むことで、軌道をそらし。

 

そして、スールの頬を少しだけ掠めた金色の剣は、床に突き刺さり、火花を散らしながら弾かれ、飛んで行った。

 

絶望の声をファルギオルが上げる。

 

「わ、我の剣が! このような小虫も仕留められぬのか!」

 

その情けない繰り言には一切返さず。

 

スールが、究極ルフト改を投擲。

 

同時に、シールドを張れる者が、全員でファルギオルの周囲にシールドを展開した。勿論ファルギオルを守るためなどではない。

 

ファルギオルに、風爆弾の威力を乱反射させ、増幅させて叩き付けるためだ。

 

もはや抵抗する手段すらもなく。

 

串刺しになったまま、必死に再生しようとするだけのファルギオルの至近で。

 

風爆弾が。

 

バトルミックスで極限まで増幅されたあげくに。

 

炸裂した。

 

それは、もはや風と呼べる代物では無かった。

 

白く輝き。

 

触れた全てを溶かすようにして、ファルギオルの全てを粉々に打ち砕いていった。

 

絶叫するファルギオルの声が消えていく。

 

やがて、風が収まると。

 

その姿は。

 

もはや微塵も残っていなかった。

 

 

 

呼吸を整えながら、立ち上がる。

 

一つ、言われていた事がある。

 

邪神はコアを砕かないと死なない。

 

そして、ファルギオルは消し飛んだが。本当に死んだのかは、まだ確認できていない。

 

あれだけ弱体化したところを、木っ端みじんにされたら、無事で済むわけがない。それは確定だ。

 

少なくともネージュと同じく、数百年の時間は稼げたはず。

 

だが、何だろう。

 

この嫌な予感は。

 

顔を上げる。

 

その予感が、適中したことを悟る。

 

金色の剣が。

 

凄まじい勢いで、此方に飛んでくる。

 

あれが、ファルギオルのコアだ。

 

ルーシャが、躍り出ると。

 

フルパワーでシールドを展開。

 

だが、金色の剣は、シールドを貫いていた。

 

ルーシャのおなかに突き刺さる金色の剣。更に、雷撃がルーシャの体を蹂躙する。

 

「ルーシャっ!」

 

思わず絶叫する。それを嘲笑うように、ファルギオルの笑い声が響く。

 

そして、金色の剣から触手が生え、少しずつ、体積が増え始めている。

 

まずい。

 

この状態から、再生する気か。

 

しかも、絵の具の効果時間は、少しずつ近づいている。

 

もしも絵の具の効果が切れたら。

 

その時には、完全に形勢逆転だ。

 

「まずはその赤いのから、消し炭に変えてくれよう! 調子に乗ったのが徒になったな人間共が!」

 

けたけたと笑いながら、ファルギオルが更に剣先を押し込む。

 

ルーシャは悲鳴一つ上げない。

 

それどころか。

 

金色の剣を掴む。

 

意図は、嫌になるほど分かった。

 

だが、絶対にやらせない。

 

最初にフィンブルさんが動く。

 

金色の剣を掴む。

 

まだリディーの魔術は効いている。だが、それでも、この状態でだ。雷撃でのダメージが凄まじい筈だが。

 

それでも、無理矢理引き抜いた。

 

放り投げる。

 

倒れ伏すルーシャを、リディーが抱き留めるのと。

 

スールが、ほとんど神業に等しい乱射を、ファルギオルコアに叩き込むのは殆ど同時。剣から再生しようとしていたファルギオルの触手やら何やらを、まとめて木っ端みじんに消し飛ばす。

 

だが、余程コアの強度に自信があるのだろう。

 

ファルギオルの声には、打って変わってさっきにはなかった余裕が溢れていた。

 

「感じるぞ。 この忌々しい空間、間もなく壊れる! そうなれば我は即座に全身を再生出来る! お前達など、瞬く間も与えず焼き尽くしてくれよう!」

 

「根性見せろ、俺様ァっ!」

 

浮き上がり、空中に逃れようとする金色の剣を。

 

マティアスさんが、渾身の一閃で地面に叩き落とす。

 

そして、其処へ更に上空高くから、オイフェさんがストンピングをぶち込む。

 

これでもか。

 

だが、金色の剣は罅さえ入れど。それでもなお壊れない。

 

むしろ余裕の声は増すばかりだ。

 

「このファルギオル、コアの強度は他とは違うぞ! ネージュはこのコアさえも砕いて見せたが、お前達には無理なようだなあ!」

 

「それはどうであろうな」

 

「ふん、大言壮語はやってみせてから吐け虫が!」

 

浮き上がろうとしつつ、周囲に雷撃をブチ撒ける金色の剣。皆離れるしかない。

 

スールが走っているのが見える。

 

空間が揺らぎ始めているのも分かる。

 

絵の具をもう一度展開する事は出来るが。

 

展開する間に、ファルギオルは再生を完了してしまうだろう。

 

つまり勝ち目はない、と言う事だ。

 

ルーシャをよこたえると、詠唱。

 

のこる全ての力をつぎ込む。

 

魔力を使い果たし。

 

廃人になる覚悟で、詠唱を開始。

 

これが、最後の一撃になる。

 

だが、それを悟ったからか、ファルギオルは浮き上がり、そしてリディー向けて飛んでくる。

 

そう来ると。

 

思っていた。

 

地面に手を突いて、展開したのは。

 

ただの。

 

極限まで強化したシールドの魔術である。

 

それを、ファルギオルは貫いた。

 

そう、貫く止まりだった。

 

身動きが取れなくなり。

 

ついにファルギオルは、心底からの恐怖の絶叫を上げた。スールが二つ目の、究極風爆弾を手にしているのを見たからである。

 

雷撃を放とうとするが。

 

アンパサンドさんが、さっきオイフェさんが全力でストンピングを入れた罅に、フルパワーでタックルを叩き込む。

 

それが、金色の剣をねじ曲げた。

 

フィンブルさんがアンパサンドさんを抱えて飛び退き。

 

更に、アルトさんが放った無数の剣が、ファルギオルの周囲に突き刺さる。完全に動きが封じられるファルギオル。

 

パイモンさんが叫ぶ。

 

「今じゃ、やれい!」

 

「任せてっ!」

 

スールが投擲する究極ルフト改。

 

炸裂する瞬間。

 

ファルギオルを包むようにして、ドーム状にシールドを張るパイモンさん。

 

ファルギオルは誤った。

 

剣にコアを集中させるのでは無く。

 

逃げに徹していたら。

 

つまり雷か何かになって、この空間が壊れるまで、逃げまくれば。

 

此方も、前回と同じ結果。

 

数百年後に完全討伐を先送りすることしか出来なかっただろう。

 

だがファルギオルは、自分にとっての最大の武器である金色の剣に、あまりにも信頼を置きすぎた。

 

剣士にとって剣は魂だとか聞くが。

 

それを勘違いしたのが、ファルギオルの運の尽きだった、といえる。

 

「ま、まてっ! 我はファルギオル! 貴様らの知りたい知識もある! 最強の力も授けてやれる! だ、だから、やめ……!」

 

「消し飛べ」

 

スールの死刑宣告は。

 

あまりにも、静かに、崩壊しつつある不思議な世界で響いていた。

 

ドーム状のシールドの中で。

 

炸裂する究極ルフト。

 

一瞬置いて、シールドがぶち抜かれる。

 

だが、もうファルギオルの気配は感じない。

 

今の瞬間で、コアが完全に砕かれたのは確実だった。

 

封印では無い。

 

全盛期ファルギオルの実力は、こんなものではなかっただろう。だからこその勝利だったとも言える。

 

しかしながら、勝利は勝利。

 

ネージュが果たせなかった事を。

 

ついにやりきることが出来たのだ。

 

シールドをぶち抜いた風は、不思議な空間の天井をブチ抜き、空に空に、まるで白い光の矢のように、飛んで上がっていく。

 

そして、ほどなく。

 

不思議な空間は、完全に消え去っていた。

 

雨は止んでいる。

 

周囲は泥沼のよう。

 

そして、現実として。

 

意識を失い、腹部に重傷を負ったルーシャという現実は変わっていない。

 

即座にアリスさんが駆け寄ってきて、状態を確認。荷車を持ってくるとルーシャを載せ、揺らさないようにして運んでいく。

 

任せてしまって、良いのだろうか。

 

泥沼にへたり込んだまま、リディーは呆然としている。

 

フィンブルさんが、頭にぽんと手を置いて、言ってくれた。

 

「見事だった。 もはやお前達を、半人前と呼ぶ事が出来る奴はおらんさ」

 

笑顔を、返せただろうか。

 

そのままリディーの意識の糸は。

 

ふつりと切れていた。

 

 

 

イルメリアは拾い上げる。

 

邪神はコアを砕いて殺すと、高品質の素材を落とす事が多い。ファルギオルも例外では無かった。

 

これは石、か。

 

ただの石では無い。

 

雷という存在を、究極まで圧縮した。それこそ最強の切り札となり得る素材だ。使い路はありとあらゆるものを想定できる。

 

双子に後で届けてやるとしよう。

 

これは、戦利品として申し分のない品だ。

 

そして、イルメリアは、後始末を終える。

 

空中に残っていたファルギオルの残骸。

 

コアを砕かれて、拡散しつつある力を全て吸収し尽くす。そして、大きな溜息をついた。これで、完全にファルギオルは死んだ。

 

普段の周回では、ソフィーが次元を圧縮して、文字通り消滅させてしまうのだが。

 

正規の手順を踏むと、こうも面倒くさい。

 

更に言えば、双子は完全に倒したと思っていただろうが。

 

こうやってわずかな残滓が残っていた以上。

 

ネームドが周囲に無数に湧いただろうし。何より数千年後には復活も果たしただろう。世界の監視端末に過ぎないが。

 

逆に言うと、だからこそ強靱な存在でもあるのだ。

 

それもコレで終わった。

 

後ろから声が掛かる。

 

振り返らずにも分かる。

 

ソフィー=ノイエンミュラーだ。

 

「イルメリアちゃん、お疲れ様。 此方の損害は」

 

「ルーシャが重傷。 だけれども、私が助けてみせるわ」

 

「死なせてもいいんじゃないの?」

 

「心にもない事を言わないで」

 

ソフィーがルーシャを活用する事を考えていることは、イルメリアにも分かりきっている。

 

当て馬として。

 

ルーシャの弱みを完全に握り。

 

今後も双子を操作するための駒として活用するつもりだ。

 

双子が育ったら。

 

今度はルーシャを弱みとして、双子を操作するつもりかも知れない。

 

つくづく。

 

とことん。

 

反吐が出るほど不愉快だ。

 

だが、ソフィー自身が自分に都合が良い世界を作ろうとしているわけでもないし。知的生命体の可能性を模索している存在だと言う事も事実。

 

あらゆる実験に真摯に取り組み。

 

場合によっては、可能性を信じて何も干渉しない周回もあった。

 

その悉くにて人間が期待を裏切った。

 

故にソフィーが採る手段は冷酷になっている。

 

もしも人間が、もっとマシな生物だったら。

 

ソフィーは或いは、とても暖かい慈愛の存在として、世界に君臨して、崇拝の対象になっていたかも知れない。

 

結局の所、人間という生物が。

 

知的生命体の共存というものの可能性が。

 

あまりにも駄目すぎることは、イルメリアにだって分かっている。

 

だからこそ、悔しいけれど。嫌だけれど。もはや従うのは罪悪感さえ覚えるけれど。それでもソフィーに従わざるを得ないのである。

 

ソフィーは。相変わらず淡々と言う。

 

「では、計画を次の段階に。 ん、良い空だね。 それで、ファルギオルの置き土産がその石?」

 

「ええ。 素晴らしい品だわ」

 

「そうだね。 双子にあげておいて」

 

「……そのつもりよ」

 

計画は次の段階に進む。

 

次は、双子に父親との問題を解消して貰う事になる。

 

それは双子にとって、今まで以上の問題にもなる。

 

既に双子は、父親……ロジェの事を憎んではいない様子だが。逆に今度はロジェが、双子に対して絶望を抱いてしまっている。

 

深淵に引きずり込まれた双子。

 

そして、何もしてやれなかったこと。

 

多分このままだと、ロジェは数年以内に衰弱死するだろう。

 

既に無力感で、いつ自殺してもおかしくない状態だ。

 

ファルギオルとの戦いの偽装を解除したから。

 

アダレット中に晴れの空が広がりつつある。

 

一気に水害が解消され。

 

農作物も元気を取り戻すだろう。

 

ソフィーはいつの間にかいなくなっていた。

 

大きくため息をつくと、戻ってきたアリスに告げられる。

 

「手術の準備が整いました」

 

「分かったわ」

 

「状態はよくありません。 内臓は幾つか破損し、体内からかなり重度の火傷が……」

 

「それくらいならどうにでもなるわ」

 

普通だったら助からない。

 

だが、エリキシル剤を一とした、摂理を越えた回復薬も、今やイルメリアの手に掛かれば難しいものではない。

 

ソフィーの凶行は頭に来るが。

 

彼奴がやっている事が正しいのも事実で。

 

それは悔しいが認めざるを得ないのである。

 

扉を通って深淵の者本部に。

 

既に無菌室にて、オペの準備が整っていた。

 

何名かの、医療用に特別に作られたホムンクルスのサポートを受けながら、ルーシャの手術を開始する。

 

勿論失敗はしない。

 

現状復帰には、しばらく掛かるだろうが。

 

まだルーシャに死んで貰っては困るのである。

 

ルーシャは苦しそうにはしていなかった。

 

話を聞く限り、ファルギオルの最後の悪あがきからリディーを守ったのだ。それは満足だろう。

 

思わず口をつぐんでしまう。

 

この子は、昔のイルメリアと同じ立場だ。

 

フィリスを育てるために用意された。そう、イルメリアは後で聞かされた。そして絶望した。

 

あんなに無邪気で天真爛漫だったフィリスが壊れて。

 

そして、今では破壊神としか呼べない存在になっているのを見て、誰よりも悲しく思っている。

 

だがイルメリアは人間であることを捨てるつもりはない。

 

今後どれだけ苦しくてもだ。

 

手際よくルーシャの生命維持を確保。内臓を一つずつ修復していく。もはや人間とはかけ離れた技術で。本来だったら絶対に助からない命を救う。そんな事をしているのに、人間を自称するのは滑稽だ。そう笑う者もいるかも知れないが、知った事か。

 

イルメリアは人間だ。

 

「破壊」の権化になったフィリスをサポートするべく、「創造」を担当しているが。

 

それでも人間であることを止めるつもりはない。

 

寿命がなくなろうが。

 

不老不死になっていようが。

 

その心は人間のつもりである。

 

ほどなく、手術が終わる。ルーシャは本当に双子が好きで、双子を大事に思っている。だからこそに、命を賭けて双子を守る事を、なんのためらいもなく行えた。

 

眠ったままのルーシャを、ヴォルテール家に届けさせる。

 

手を洗って汚れを落とした後。

 

イルメリアは思う。

 

この茶番。

 

血塗られた永遠の輪転は。

 

いつ終わらせることが出来るのだろう、と。

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