暗黒錬金術師伝説8 暗黒!リディー&スールのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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万の挑戦の果てに。

ついに双子は未来を開きました。

この先は、未知の世界です。


3、雷神の死と

目が覚めると。そこはブライズウェスト側の村だった。まあ、アトリエまで運ぶ余裕はなかっただろうし、当然だ。

 

最初はどこだか分からなかったけれど。

 

リディーは魔力を使い果たしただけ。

 

歩くことも問題なかったし。

 

外に出てみれば、水が既に引き始めていて。前に見たことがある光景だったので、すぐに分かった。

 

ただ、騎士団が総出で、水の処置をしていたが。

 

魔術を使えるものもいるし。

 

錬金術の道具も使っている。

 

川にどんどん水を流し込んで。

 

過剰な水を海にまで押し出す。

 

空には雲一つない。

 

本当にファルギオルは死んだんだなと。その時やっと思い知ることが出来た。

 

ネージュが弱らせてくれていたからだ。

 

全盛期のファルギオルだったら、とてもではないけれど手に負えなかっただろう。

 

復活したての病み上がり。

 

そして究極までの弱体化。

 

それだけ条件が重なって。

 

やっと殺す事が出来た。

 

まだまだ一流には遠すぎる。

 

それを、リディーは自分に言い聞かせながら、スールや、他の皆も探す。

 

「よう、起きたかねぼすけ」

 

「マティアスさん」

 

振り返ると、マティアスさん。側にしらけた目のアンパサンドさん。

 

一番最後まで寝ていたという。

 

まあ、魔力を最後の最後まで絞り出したのだから当然だ。

 

会ったのならば、当然聞く事がある。

 

「ルーシャは?」

 

「イルメリアどのが連れていって、助けてくれたそうだ。 もう王都に帰っている、って話だぜ」

 

「そう……良かった」

 

「どう見ても助かる傷ではなかったのです。 摂理を越えた回復を促す技術。 やはり尋常な存在ではないのですよ」

 

アンパサンドさんが冷たいことをいうけれど。

 

確かにその通りなのだ。

 

ファルギオルの金色の剣が突き刺さり。

 

更に雷撃が全身を焼き尽くしたのだ。

 

普通だったら、即死しなかっただけで。

 

苦しみに苦しみ抜いて死んだはずである。あんな状態からどうやって助けたのか、見当もつかない。

 

だがイル師匠ならやってくれる。

 

その信頼感も確かにあったので。安心して、胸をなで下ろすばかりだった。

 

パイモンさんは、さっそく声を掛けられて、各地の災害復旧に出向いているという。アルトさんやプラフタさん。

 

そしてあのソフィーさんも。

 

フィンブルさんは、村周辺の復旧のための土木工事に既に参加。オイフェさんは、ヴォルテール家に戻ったそうである。

 

「とりあえず、少し休んどけ。 それだけの活躍はしたんだからよ」

 

「はい。 それで、スーちゃんは」

 

「彼奴なら、何か思うところでもあったのか、外でぼーっとしてたぜ」

 

「そうですか……」

 

アンパサンドさんに促されて。

 

そのまま部屋に戻る。

 

粥を作ってくれたので食べる。あまり美味しくは無かったけれど、栄養は豊富だろう事は良く分かった。卵も入っているのが嬉しい。

 

「手伝いは、しなくても良いんですか」

 

「他の一線級が全員仕事をしてくれているので問題ないのです。 今はとりあえず、休んで回復する事。 それと、王都に戻ったら王城に顔を出すのです。 今回は試験どころではなかったですけれども、功績を認めてCランクに昇格だそうなのです」

 

「そうですか……」

 

「嬉しくないのは分かるのです。 自分も、これから騎士一位で、王子に並んだのです」

 

アンパサンドさんも、あまり嬉しくは無さそうだ。

 

そもそもこの人、指揮官向きじゃあない。

 

というよりも、ホムという種族が、軍事に向いていないし、軍指揮官にはもっと向いていない。

 

多分騎士一位というのは、この人にとっての最高位だろうし。

 

それで充分なのだろう。

 

今回の功績が認められた、というのは嬉しいだろうけれども。

 

それでも気分は複雑なのだろうか。

 

休めと言われたので、後は言葉通りに、しばらく無心に眠る。

 

ファルギオルは死んだ。働くのは、他の錬金術師達でも出来る。最前線でファルギオルとの戦いにて全力を絞り尽くしたリディーとスールには休む権利がある。

 

アンパサンドさんはそう言ったが。

 

確かにその通りだ。

 

それから、翌朝まで眠る。

 

スールは戻ってきていて。石を見せてくれた。

 

見るからに、とんでもない魔力を秘めている石だ。

 

「イル師匠に貰ったの。 邪神を殺すと、たまにこういう凄い素材を落とすんだって。 多分これはその凄い素材だね」

 

「見た事がない素材だよ、それ」

 

「うん。 イル師匠も殆ど見ないって。 帰ったら、図鑑を見て調べて見よう」

 

「そうだね」

 

スールは無理をして元気に振る舞っている。

 

リディーも、無理をして笑顔を作っている。

 

しばらく笑った後。

 

二人とも、殆ど同時に黙り込んでいた。

 

涙は流れてこない。

 

少し前まで、二人して激情に駆られて。怖くて。散々泣いていたのに。

 

やっぱり、深淵を覗いてしまったからだろうか。涙が、出なくなっていた。

 

「ルーシャがあんなになって、それでも助かったって。 ルーシャを守れなかったの、明らかにリディーとスーちゃんのせいだよね」

 

「……うん」

 

「弱いね……」

 

「そうだね」

 

口惜しくて。

 

ハラワタが煮えくりかえりそうだ。

 

それでも、なお涙は流れてこない。

 

ルーシャのあの献身。

 

尋常な覚悟でできる事じゃない。自分達だったら、できたか。いや、恐らくだが、絶対に出来なかった。

 

「まず、王都に戻ろう」

 

スールに言い聞かせる。

 

返事が来るまで。

 

たっぷり時間が掛かった。

 

 

 

マティアスさん、アンパサンドさん、フィンブルさんと、王都に戻る事にする。ちなみに持ち込んだお薬は、全部騎士団にその場で譲渡した。これからどうせ幾らでも必要になるのだから。

 

騎士団にはホムの役人も来ていて、契約書をその場で作ってすぐに受け取ってくれた。もうミレイユ王女は王都に戻ったようで。現場の指揮官である魔族の騎士隊長が、大喜びしてくれた。

 

「助かる。 今は幾らでも薬がいる。 それが何の薬であろうと同じ事だ」

 

「アトリエに戻った後、作れるお薬は作れるだけ作ります」

 

「頼むぞ。 そして有難う。 ファルギオルを倒した若き英雄達よ」

 

英雄か。

 

勿論その場では笑顔で応対するが。

 

しかし、違う。

 

英雄なんかじゃない。

 

不思議な絵の具の技術を完成させたのは、多分深淵の者。それを洗練させたのはネージュ。要するに、双子がやったのはコピーのコピーである。

 

戦闘だって、アルトさんを筆頭に、皆に助けて貰わなければ絶対に勝てなかった。

 

特にルーシャが守ってくれなかったら、リディーは確実に真っ二つだっただろう。

 

流石に真っ二つにされていたら、イル師匠だって助けられなかったに違いない。

 

自分達は。

 

英雄なんかじゃない。

 

帰り道を歩く。

 

水は急速に引いているが。

 

隣で歩いているスールも、笑顔を取り繕っていた。

 

「この様子だと、気を付けないと疫病が流行るな」

 

「井戸が水没した場合が最悪なのです。 幾つかの村では、既に報告例が挙がっていると聞いています」

 

「アン、もう同格になったんだし、ため口で良いぜ」

 

「……流石にそれはまずいのです」

 

マティアスさんは、この辺りとても気さくだ。

 

多分自分は王にはなれないし。

 

そもそも向いていないことを知っているから、なのだろう。

 

ミレイユ王女という圧倒的な存在に才覚を吸い取られ。

 

影に追いやられた無能の権化。

 

だからこそにできる事を出来る範囲内でやる。

 

マティアスさんは、それを実際にやっている。

 

王族と呼ばれるほどの事は出来ていないし今後も出来ない。

 

だからせめて騎士として盾となる事を最大限に続けていて。

 

王族では無い目線で物を見るように必死に努力している。

 

同じ状況に置かれた時。

 

同じ事が出来る人が、どれだけいるだろうか。

 

勿論無能という大前提はある。これについては、リディーも擁護しきれない。

 

だがマティアスさんは、無能である事を自覚して、足を引っ張らないように最大限考えて動いている。

 

それもまた立派だ。

 

リディーも、最初にあった時は大嫌いだったけれど。今は別にそんな事もない。

 

少なくとも。

 

この人を指さして笑える人は、そんなに世界にはいない。それが結論だから、である。

 

アンパサンドさんが咳払いして、話を振ってくる。

 

「二人とも、レシピはあるので、帰った後たくさん疫病の特効薬や化膿止め、後は人間用の栄養剤など、色々薬は作ってもらうのです」

 

「はい、分かっています」

 

「それにしても、綺麗な空だ。 ファルギオルの凄まじさが、逆の意味でよく分かる」

 

フィンブルさんが言う通り。

 

空は本当に、ずっと曇り続けていた状態とは思えない。

 

ほどなく、王都が見えてきた。

 

森さえ生き生きとしているように見える。

 

久しぶりに差し込んできた優しいお日様の光。

 

元気になった植物たち。特に農作物は、これから元気を取り戻してくれると信じたい所だ。

 

ギリギリだっただろう。

 

もっと長引いていたら。未曾有の凶作がアダレットを襲っていたにちがいない。

 

そうなっていたら、多分雷神がわざわざ殺して回らなくても、アダレットは崩壊していた筈だ。

 

それに、である。

 

深淵の者がそもそも何を目論んでいるのか。

 

鍵とは何なのか。

 

バトルミックス程度の火力、イル師匠やアルトさんを見ていると、深淵の者が喉から手が出るほど欲しがるとも思えない。

 

リディーとスールが、どうして目をつけられたのかが分からないのだ。

 

これから突き止めていかなければならない。

 

未来と言っても、よく分からない。これから未曾有の災害でも起きるのか、それとも。

 

いずれにしてもはっきりしている事は。

 

力が足りなさすぎる、と言う事だ。

 

このまま踊らされるのは嫌だ。

 

このまま行けば、お父さんもルーシャも危険にさらされる。

 

これは確定事項である。

 

ルーシャだって、今回は本来助かりそうにもない重傷を受けたのだ。

 

もしも深淵の者が、「此処で殺しておいた方が良い」とでも判断していたら、そのまま死んでいただろう。

 

同じ程度の負傷をした時に。

 

助けられる程度の技量は絶対に必要である。

 

城門で解散。

 

後は、酷く臭う王城の道を歩く。

 

晴れたからって、ずっと雨が降っていて。道という道が汚れきっていたという事実に変わりは無い。

 

さっそくミレイユ王女が手配したのか、騎士団が先導して清掃を開始しているが。

 

これは清掃しないと、疫病が流行るからだ。

 

リディーとスールだって、疫病にやられるかも知れない。

 

ただでさえファルギオルと、命を削ってまで戦った直後なのだ。

 

体は弱り切っている。

 

急いでアトリエに戻ると。

 

蒸留水を使って手洗いうがいを済ませ。

 

在庫にあるお薬を、すぐに王城に納品しに行く。

 

ナイトサポートも、手持ちはあるだけ使ってしまった方が良いだろう。材料はまだまだコンテナにあるからだ。

 

レシピをすぐに受け取った後は。

 

スールに中心でお薬を作ってもらい。

 

リディーはアンパサンドさんやフィンブルさん、それにマティアスさんと一緒に連携して、不思議な絵画の中。特に幽霊達の森や、ネージュの要塞に行って、高品質の素材を集めて来たい所である。良い素材は幾らでも必要だからだ。

 

今の実力なら、スールがいなくても、充分見て回れるだろう。

 

王城に着くまでにその話を済ませ。

 

ありったけのお薬を納品した後に。

 

素材を大量に取りに行くために、護衛の申請をする。

 

受付はいたが、かなり不慣れなヒト族の若い役人で。

 

手際が悪く。

 

ベテランがだいたい現場に出払っているのが、一目で分かった。

 

少し待たされる。

 

スールが苛立つかと思ったのだけれど。

 

思ったよりもずっと冷静だ。

 

「スーちゃん、落ち着いてるね」

 

「うん。 焦っても仕方が無いし、この無駄な時間を使って少しでも休んでおきたいし」

 

「ふふ、変わったね」

 

「次にファルギオルと同レベルの相手と戦う時、どうやって殺すのかも考えておきたい」

 

そうか。

 

やっぱり、スールも。

 

リディー同様、壊れ始めているのか。

 

リディーが、周囲のものの声が聞こえはじめていると言ったら、スールはどう反応するのだろう。

 

激高するのだろうか。

 

それとも、自分も聞こえはじめていると返すのだろうか。

 

いや、調合の手際を見る限り、まだ聞こえていないはずだ。

 

王城のエントランスには、忙しそうに人が行き交っていて。待たされている人も相当に多いようだったが。

 

流石に貴重な戦略物資であるお薬を大量に納入しに来たからか。

 

そして戦略級の仕事をする錬金術師だからか。

 

他の人よりは待たされなかった。

 

優先しないと、戦略級の作業が滞るから、というのが理由だろう。

 

さっきの、不慣れそうなヒト族の若い役人が、大量の紙束を持って戻ってくる。

 

ホムの役人はこの辺りとても優秀なのだなと、どうしても客観的に分かってしまう。

 

権力欲や、相手にごますりするだけで出世する。

 

そういう仕組みは、どんどん何とかしなければならない。それを、この様子を見ていても分かる。

 

「ええと、まずは此方を」

 

あたふたしながら出されるのは、レシピ。

 

そしてリスト。

 

このレシピの薬を、これだけ作って欲しい、というものだった。

 

なお此方は、持ち込んだお薬をリスト化している。

 

レシピも目を通したが。

 

どうにか作れるものばかりで助かった。あからさまに身の丈に合わないものを要求される可能性も想定していたのだ。その場合はイル師匠の所に行って、相談しなければならなかっただろう。

 

これならば。

 

そうしなくても良いから、時間を短縮、節約できる。

 

「それと、マティアス王子、アンパサンドどのは二日後に動けるという事です。 迎えに行く際に、アトリエランクについての話があるとか」

 

「分かりました。 有難うございます」

 

「報酬金は後で届けさせます」

 

幾つかの書類にハンコを要求される。

 

ハンコといっても、魔術によるもので。

 

本人の魔力を識別し、後で照合することが出来る。誤魔化すためには超高度な魔術が必要になってくる上、王宮で使っているような書類には、錬金術の処置がされているのが普通である。

 

要するに生半可な魔術師にはそもそも突破の可能性がなく。

 

タチの悪い錬金術師でも腐敗官吏に荷担しなければ、絶対に突破出来ない。

 

そしてその手の連中は、片っ端から深淵の者が消してしまうだろうし。

 

今は書類改ざんなんてやろうとしても出来ないだろう。

 

とはいっても、今押印した書類の幾つかは、本当に重要な局面での判断が要求される際に、用いられるものばかりだったようだ。

 

それはそうだ。

 

こんな高度錬金術の施されたゼッテル。

 

そうそう作れる錬金術師もいない。

 

重要書類くらいにしか、用意は出来ないだろう。

 

作ったのは多分ルーシャのお父さんだなと思ったけれど。

 

それは口にせず。

 

待っている他の人の事も考えて、手続きが終わった後はすぐに戻る。

 

鍛冶屋の親父さんが、豪快に汚泥を荷車に積み込んでいるのが見えた。荷車はすぐに人夫が運び出していく。

 

王城の外の荒野にまで一旦運んで、其処で焼却を経てから捨てるのだろう。

 

似たような、酷い臭いを立てている荷車が、多数行き交っているのが見えた。

 

また、水を吸い出す機械が彼方此方で動いていて。

 

まだたくさんある汚い水たまりを、処置している様子だった。

 

この水も、外の荒野に捨てに行くのだろうと思った。

 

親父さんが手を振って来る。

 

「おお、二人とも、やり遂げたな」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「親父さんのおかげだよ」

 

「ふん、何を言っていやがる。 まだまだお前達の技量じゃ、俺の最高傑作を使いこなすには足りねえよ」

 

ガハハハハと笑う親父さん。

 

本当に機嫌が良さそうだ。

 

だが、不意に表情を改めると。

 

周囲で働いていた人夫や傭兵達に。

 

声を張り上げる。

 

「おい、お前ら! ファルギオルを倒す中核戦力になったのはこの双子だ! お前達がいつも馬鹿にしていたこの双子だぞ」

 

「……」

 

ひそひそと声が聞こえる。

 

マジかよとか、本当か、とか。

 

嫉妬と嫌悪の視線もあったが。親父さんが一睨みするだけで、すぐに消えた。この人を怒らせたら、もうまともな仕事なんて来るわけがないのである。武器だって、一度壊したら、取り返しがつかない。

 

少なくともアダレット王都には、この人以上の腕の鍛冶屋は存在しないのだから。

 

「以降は敬意を払え」

 

親父さんの声は低く、怖かった。

 

愉快な親父さんだけれど。

 

荒くれ達を腕尽くで黙らせる実力も持っている。それが一目で分かる、そして味方をしてくれることも分かる。

 

ただ、リディーは思う。

 

この人さえ、深淵の者の関係者では無いのかと。

 

それが下衆の勘ぐりであれば良いのだが。

 

もう、何も信用できないと思い始めている自分がいるのも、事実だった。

 

アトリエに戻る。

 

薬の材料と、作る薬について確認。

 

すぐに二人で手分けして、まずは蒸留水から。そして優先度が高い薬から。順番に作っていく。

 

この量の薬なら、二週間もあれば作りきれる筈で。

 

疫病の蔓延を抑えるための最も優先度が高いお薬を最優先すると。

 

素材をかなり消耗するものの。

 

恐らく三日くらいでいけるだろう。

 

今、現在進行形でお薬がたりない。

 

だから毎日、出来たお薬を順番に納入した方が良いはずだ。その時に、追加でのお薬の注文も、受けられるようなら受けるべきである。

 

疲れはまだ取れないが。

 

調合の難易度はそれほど高くは無い。

 

昔に比べれば、手際は比較にならない程上がった。

 

ようやく一人前というレベルに過ぎないけれども。それでも、二人だけでやっていた時とは比べものにならないほどだ。

 

釜は一つしかないので。

 

適当なタイミングで交代して休みながら、作業を続けていく。

 

第一弾の薬が出来たのが、夕暮れ。

 

食事については、炊き出しもしているようだが。

 

今日は他の人たちの事も考えて。

 

コンテナに入っている干し肉などを使って、食事を作る。自分で用意できるのなら、炊き出しがないと厳しい人の事を考慮するべきだ。そう考えたからである。

 

食事を作っている間には、スールに調合をしてもらい。

 

調合が終わった後は、二人でようやくちょっとした休憩を取ることが出来る。

 

「井戸の水、だいぶ濁りが収まっていたよ」

 

「でも、しばらくは蒸留水の作成効率が凄く落ちそうだね」

 

「うん。 それとね、プラティーンの鉱石がコルネリア商会に売ってた」

 

「そう。 買ってきてくれる?」

 

もう買ってきたと、スールが見せてくれる。

 

確かに、前にイル師匠に見せてもらったものと同じだ。

 

プラティーンは加工も難しいが。

 

今まで使っていた合金と違って、手を加えなくてもその性質全てを備えている。

 

軽い。

 

錆びない。

 

魔術との親和性が高い。

 

これらが極めて高レベルでまとまっている。今まで手間暇掛けて、シルヴァリアとゴルトアイゼンの合金を作り、それで近づけようとしていた到達点に君臨している。特に軽いというのが大きく。これはシルヴァリアとゴルトアイゼンの合金では、どうしてもクリア出来ない問題だった。

 

「荷車を飛ばす飛行キットだっけ。 これのレシピも見聞院で買えるみたい。 今後の事を考えて、買っておこう」

 

「そうだね。 荷車を引くの、大変だったでしょ」

 

「うん。 それに荷車に命令を出すと、自動でついてきてくれるみたいだし、すごく負担が減ると思う」

 

話あっている内に、食事も終わる。

 

味が、どんどんしなくなってきている。

 

スールも味については何も言わなかった。

 

人間ではなくなってきている。

 

それが露骨すぎるほどだ。

 

だけれども、それをもう嘆いていても仕方が無い。下手をすれば、お父さんごと、一瞬で握りつぶされてしまうのだ。

 

深淵の者にはまだ逆らう事は絶対に出来ない。

 

力をつけて。

 

経験を積んで。

 

文句を言うのは、それからだ。

 

地下室に様子を見に行くが。お父さんはいない様子。何をしているのかは分からないけれど。

 

きっと、何か目的があって動いているのだろうと。

 

今は建設的に考えるようになっていた。

 

「しっかりお父さんと話したいね」

 

「うん……」

 

後は、眠る事にする。

 

激しい戦いを経て。

 

まだ体は本調子ではない。

 

やらなければならないことは、それこそ幾らでもあるのだけれども。焦っていてはその一つとして出来なくなってしまう。

 

だから、今はしっかり休む。

 

その判断は、リディーにも出来るようになっていた。

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