BSSは最高だよなぁ!?
時が止まったらいいのに、なんて馬鹿なことを思ったことはない。
だけど、歳を取らなかったらいいのに、なんて馬鹿なことを思ったことはある。
好きな漫画の続きは読みたいけど、世界情勢やら社会やらに巻き込まれたくない。
足るを知るというやつだ。
ほどほどに心地いい巣に小ぶりで綺麗な石をつんで、それを温めているだけでいい。
何も孵らなくても、気づかないうちにぽっくり死ねたらそれでハッピーエンドだ。
だから私、
「なんでクラT黄色にしちゃったかなー、わたしブルベだから似合わないんだけど」
「出た、らんかのブルベ自慢。そんなの考えてたら何も着れなくね?」
「うっさい淡木。あーあ、当日はずっと仮装したままでいてやろ」
「血まみれのナースが校内をうろつくのはやばいって。なぁ、なずみ?」
「逆に合ってるんじゃない。学祭ならナースくらい化けて出るでしょ」
「どんなお祭り映画だよ」
まだ風が気持ちいい9月半ばの木曜日。水門近くの橋の上。
私たちは学校までの道のりに横たわる退屈と憂鬱を中身のない会話でかき消していた。
男子は
四月の校外学習の班組みから始まり、今では教室でだべったり遊びに行ったりという、いわゆるいつメンと呼ばれるものになった。
なので、朝にみんなで登校するということもすっかり見慣れたイベントだ。
別に何か約束しているわけではない。
ここフジヨキ台には大きな川が横切り、南の住宅街に住む生徒は橋のあたりで自然と集まるような街のつくりになっている。
もっとも、女子だけで好きなコスメの話に花を咲かせたり、時には一人でただ空模様を眺めて歩いたりと、毎日このメンバーというわけではない。
ただ、この5人での通い道は一番足取りが軽かった。
「蓬くんは似合いそうだよね、黄色。ヘアピンみたいな感じの」
らんかの愚痴大会を回避するために、私は後ろを歩く男の子、蓬くんに話を振った。
蓬くんは髪の片側を留めている黄色と黄緑のヘアピンに触れながら答える。
「えっ、そうかな。あんま着たことないや」
「たしかによもくん似合いそう。GAPとかぽくない?」
「絶対パーカーのイメージでしょ」
ロゴドンのやつね、と付け足しながら淡木が軽いつっこみを入れる。
らんかも自分で話していてツボに入ったようで、笑いながらこんな提案をした。
「ねね、今度プラザ行く時みんなでよもくんの着せ替えしない?」
「えぇ、なんで。嫌だよ俺、この面子におもちゃにされるの」
蓬くんはしかめっ面でそう返す。
本気で嫌がってそうだけど囃し立たら押し通せるんだから、かわいいものだ。
私はちゃちゃを入れながら、らんかの思いつきを現実にするために動き出した。
「いいじゃん、楽しいよ? 私たちが」
「いやよくないって」
「今週の土曜とかみんな空いてるよね?」
「はい、じゃあ土曜プラザで決定で〜すっ。他二人にも見繕ってやりますか!」
「「「えぇ〜……」」」
男子が嘆息を漏らすけれど、こういう時のらんかのエネルギーは男子の発言権を亡き者にする。
ついでに彼女はこの中にいる秘密の彼氏に好きな服を買わせたいのだろう。
もしかしたら公然とペアルックする機会なんかを狙っているのかもしれない。
ほんと、らんかはいい友達だ。
「ていうかその日無理だ」
「あれ、蓬バイト?」
「あー、うん。労働」
なずみの疑問にあいまいにうなづく蓬くん。
「へー。よもさん、ちなみにそのバイト、らんかたちの買い物とどっちが楽っすか?」
「…………どっちもどっち、ですかねぇ」
「は〜? うちらの厚意をむげにすんなし!」
淡木のちゃちゃに乗る蓬くんにむっと返すらんか。
うん、これは拙い流れ。
「蓬くん、日曜は用事あったりするの?」
爆発しそうならんかの言葉を遮り、私はそう問いかける。
こういうのはとっとと日程を確定させるに限る。
「あ、その日わたしが無理だ。今週公開の映画あるじゃん? あれ見るんだよね〜」
「……らんかってそういうとこあるよね」
「ごめんごめん」
いや、私はそういうとこも好きだよ。一周回って。
そうして私があたまを抱えているうちにも話は続いていった。
「蓬君、最後に怪獣が出たあたりからまた付き合い悪くなってない?」
「よもギルティが加速してるよね」
「いや、だからよもギルティってなに。移動してるの?」
淡木となずみの茶々に蓬くんがつっこみを入れる。
「よもくん、バイトって入れすぎたら扶養外れちゃうんだからね?」
「ちゃんと計算してるって」
「そんな態度だと確定申告手伝ってやらねぇぞ」
「いや、なずみもできないでしょ」
らんかも蓬くんいじりに参加し始めたところで私は諦めて遠くに目線を移す。
橋を超えた先にある巨大な水門に向かってこの不満をぶちまけたら、あれは受け止めてくれるのだろうか。
「さーあー、翔ぶーがいーいー」
そんな私の空想を見透かしたように、どこかから聞き慣れたフレーズが聞こえた。
少年の日はいま。合唱曲の定番だ。
「南さん……?」
蓬くんのつぶやきに私は
私たちのクラスメイトで、私の友達の友達で、クラスで浮いている女の子。
「ほんとだ、南さんじゃん」
「土手で何してんだろ。登校中だよね」
らんかとなずみが歌声の出どころを見つける。
水門の近くの土手の下。階段もないところで、しゃがんで歌を歌っていた。
誰に合わせるでもない、ひとりきりの合唱曲。
そんな歌を誰の目もはばからず歌っているから、私は耳をふさぎたくなる。
「前さ、水門の上で歌ってたの。あれやばかったよね」
「あそこらしいよ。うちの生徒がむかし自殺したって場所」
「危ないどころじゃないじゃん! 化けてでるかも――あ、気づかれた」
らんかと淡木の噂話が聞こえたのか、南さんの歌声が止まった。
南さんはこちらを数秒じっと見てきたあと、おしりを払いながら立ち上がり、指定の通学路へと戻っていく。
彼女に見つめられて思わず固まっていた私たちは、こらえきれないとばかりに漏らしたらんかのため息で動きを取りした。
「やっぱ南さん、何考えてるかわからんわ」
「四月からずっとあんな感じだよね」
「なずみが認知する前からだよ。中学でも浮いてたし」
少なくとも、私が南さんを知ったときから彼女はあんな感じだ。
「金石って南さんと中学同じなんだっけ」
すると、蓬くんがそう問いかけてきた。
「まあね。同じクラスになったことはなかったけど」
「三年間で?珍しくない?」
「だいたい3割くらいか。なくもない感じ」
「おー、なずみくん計算早い。確定申告できそう」
へー、と思わずらんかに流されそうになった思考を元の話に戻す。
「まあ、だから全然詳しくはないよ? 大体噂か又聞きでしか聞いたことないし。南さん友達少ないしね」
「やめたげなって。友達少なくてもいいと思うよ? わたしは」
「悪いとは一言もいってないじゃん。揚げ足取んなし〜」
らんかの茶々をかるくあしらって目線を蓬くんに戻す。
「だから、気になる南さんの好きなものとかはわからないの。ごめんね蓬くん?」
「いやそんなこと言ってないじゃん」
「またまた〜、夏休み前同じタイミングでズル休みしてたの知ってるんだよ? 絶対何かあったじゃん」
「よもくん、南さんはやめといた方がいいって。絶対重いよ」
「いや、重くは……わっかんないけど、だからそういうのじゃないから!」
「「またまた〜」」
らんかと二人で蓬くんをからかいながら彼のつながりを確かめる。
うん、これでいい。
蓬くんにとって南さんは遠い存在で、私たちはからかいながらも親身に付き合うお友達。
いつメンなんてクラスが変わってしまえば変わってしまうものだろうけど、まだ学祭もクリスマスも、バレンタインだってある。
だから今は、これでいい。