金石が脳を破壊される話   作:淵岳 月夫

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-第3回ー(全7回)

「金石、何気にうちらってIKEA初だよね」

「だね」

 

 土曜のおやつ時、私は蓬くんを除いたいつものメンバーと都心に繰り出してインテリアショップ内のカフェエリアに来ていた。

 6月に新しくオープンした店舗らしく、三ヶ月経った今でも多くの人が訪れている。

 

「このあたり、最近いつも混んでんね」

「怪獣の被害に遭ってないし来やすいんじゃない?」

 

 席に座る淡木となずみの話に耳だけ貸して、私は青いリサイクルバッグに入れた今日の戦利品を漁っていた。

 

「どしたの金石ちゃん」

 

 すると、背中にひとり分の重みが加わってくる。

 後ろから回された手には撮影中のスマートフォンがバッグの中をのぞいている。

 もう片手にはツンブロードというクレープみたいなのという欲張りセットだ。

 らんか様は今日のストーリーズを取るのがお望みなようである。

 

「買いすぎた。いぇ〜い」

「いぇーいじゃないじゃんっ」

 

 カメラ向けの私のボケにらんかがはしゃぎ声でツッコミを入れる。

 その通り、全然よくない。

 今日の散財は私のお小遣い事情をより厳しいものにしている。

 青×黄のケーブルや大きなサメのぬいぐるみはともかく、入れるものもないのに買った収納ケースはさすがにはしゃぎすぎだ。

 

「どうしよ」

「売るか返金すればいいじゃん」

「でも初IKEA思い出の品だし」

「かわいいかよ〜、ひと口あげるっ」

 

 私の返答がウケたのか、らんかストーリーズの上限時間が過ぎてもらんかはじゃれついてきた。

 二人羽織の要領で差し出されたツンブロードをほおばり、私は自分の中で一番ホットな話題を提供する。

 

「そういえば昨日、南さんとまともに話した」

「南さんと? 何話したの」

 

 季節外れのアイスを食べていたなずみが意外そうに問いかけてくる。

 

「あー、なんかたまに歌ってるけど合唱好きなわけじゃないらしいよ」

「なにそのいらない新情報。ネットニュース?」

 

 演奏会に誘った上断られた、というバツの悪い話を適当な話で回避すると、らんかにそうつっこまれる。

 ネットニュースでもまだマシな記事を書くんじゃないだろうか。

 

「まあ、そんな悪い感じじゃなかったよ。変な子だけど」

「金石交子(15)、南に高評価『わるくない』」

「うざっ」

 

 芸能系の記事を真似した淡木の茶々を適当に流してみんなの反応をうかがう。

 別に南さんをこのメンバーに加えたい訳じゃない。ただ、彼女と蓬くんとの距離感を測るためにそれなりの交流は築きたくなったのだ。

 しかし、その交流で関係に悪影響がありそうならプランを考え直す必要がある。

 

「えぇー、よもくんに加えて金石まで南さんに取られちゃうのー? 泥棒猫がよー!」

「ソフトクリーム50円ってマジやばいね。コンビニより安いとか」

「やばいね」

 

 ジェラシー一票、無関心二票。

 うん、まあ問題ないでしょ。

 目的は達成したしあとは適当に流せばいいと考えていたのだけれど、らんかの不満に火をつけてしまったらしく矛先を私に向けて来る。

 

「ていうか、南さんの悪口一番言ってたの金石じゃん。どんな風の吹き回し?」

「え〜、そんなの言ってたっけ」

「エロい下着つけてたとか言ってたじゃん!」

「ぜーんぜん覚えてない」

 

 嘘だ。全然覚えている。

 まあだいたい噂だったし、尾ひれはつけてないし。多分。

 あとエロい下着は悪口じゃないし。いいと思うよ? 今日の私は。

 

「こ〜れだから浮気者は!」

「ごめんごめん。らんかもちゃんと本命だよぉ」

「らんかさん、こいつ反省してませんぜ」

 

 らんかに軽く首を絞められている私をなずみが告発する。

 男子はソフトクリームの話でもしてなさい。

 

「どーせ私なんてどうでもいいんでしょ! グループLINEはすぐ返すのに私には遅いし二人っきりの時間少ないし!」

「すげぇ具体的じゃん。実体験か〜?」

「えっ、いやー……」

「…………」

 

 らんかのボケに淡木が突っ込もうとするけれど、興味が優ったのか声色が質問のそれになっていた。

 熱演するのはいいですけど、変に反応するのはいけませんよらんかさん。

 話が話だから彼氏さんもフォローし辛そうじゃないですか。

 

 仕方ない、と私ははっちゃけすぎたらんかに助け舟を出す。

 

「反省してます……」

「いや、金石の余罪かよ」

 

 そうなんだ淡木。

 私は返信遅くないしちゃんと女子だけでも遊びに行ってるけど全部私が悪いんだよ。

 

「らんか、あっちにでかいソファあったじゃん、名誉挽回にリール取りにいこ」

「あっ、うん」

「ちょ、俺らまださらえてないんだけど」

「男子はみんなの荷物番〜」

「ひっでえ」

 

 淡木をあしらいながら、適当に理由をつけて席を立つ。

 アフターフォローは彼氏さんに任せるとしよう。

 

 らんかの手を引き、映え目的にIKEAのバッグを持って同じ階にあるだろう黄色いソファに向かう。

 一人がけみたいなのにやけに大きく二人でも座れそうな見た目だった。

 明らかに客寄せ狙いだったけれど、今はその思惑に乗ってやろう。

 バッグのロゴも見えるように徹底的にだ。

 

「金石……」

 

 カフェエリアを抜けたあたりで、らんかが不安そうに私を呼んだ。

 

「何がとは言わんけどさ。不意に愚痴が出るくらいなら本人と話し合いなよ?」

「すいません……」

 

 先ほどのおふざけとは立場を逆転させたような、らしくないしおらしさが少し面白い。

 

「言いたくないなら別にいいからさ。私も知らないし」

「うん……」

 

 らんかが誰とのどんな関係を隠しているかくらいはわかる。

 理由の全てはわからないけど、私たちのためでもあるということはわかる。

 私も彼女も、今の関係性を変えたくない。なら、それだけでいい。

 

「パパっと撮ってパパっと戻ろっか。並んでるかもだけど――」

「蓬、ここ座って。インスタ撮るから」

「えぇ〜、俺はいいって。買わないのに迷惑なるでしょ」

 

 ソファコーナーに近づいたところで、聞こえるはずのない声が聞こえてくる。

 

「こんなでかいソファ誰も買わないよ。インスタにあげる方がお店のためだって」

「それでも俺いらないじゃん」

 

 黄色いソファの前で、ひと組の男女が腕を組んではしゃいでいる。

 

「じゃあ一緒に撮ろ?」

「南さん、最初からそれ目当てだったでしょ」

「バレたか」

 

 それは、私のよく知る男の子と、知り始めようとした女の子だった。

 

「これは……大スクープじゃん」

 

 隣でつぶやいたらんかの声が遠く聞こえる。

 

「二人とも、写真撮るなら俺がスマホ持つ係――あれ、蓬?」

 

 らんかの様子が気になったのだろう、後ろから現れたなずみが蓬くんに声をかける。

 

「金石さん? あと……あと……」

「……あー……」

 

 なずみの声に二人がふり向く。

 らんかたちの名前が出ない南さんと、悟ったようにため息をこぼす蓬くん。

 振り向いた後も、ふたりは組んだ腕を崩そうとしない。

 

「みんな今日プラザ行ってるんじゃなかったっけ?」

「プラザは蓬が来なかったからたち消えた……。二人こそなんで、ていうか腕……」

 

 事態を飲み込めていないなずみが、答え合わせを始めてしまった。

 

「蓬」

「南さん、これ無理だよ。腕組んじゃってるし」

 

 黄色いソファの前で、蓬くんは静かな声色で南さんをたしなめる。

 彼はこういう時でも落ち着いてられるような人だったろうか。

 

「実は、俺たち付き合ってまして」

 

 荷物番も任せたのに、なんでわざわざ持って来たのだろう。

 ただ、IKEAのバッグが重かった。




IKEA原宿には開店当初はどでかい一人掛けの黄色いソファが置いてありました
自分が来店したころには既になかったので、当時写真を撮ってた人がうらやましいです
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