蒼白のリヴァイアサン   作:黒木箱 末宝

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最新式端末

「随分とマシになった……」

 

 数百年ぶりに外へ出た。そして移動用の強化アクリルパイプの中から周囲の景色を見れば、外の海が僅かに青みを取り戻した事に驚いている。この星は(かつ)てあった戦争により血と油脂によって汚れ、兵器の残骸によって汚染されていた。(えら)にこびりつく汚れによって呼吸の(まま)ならない、正しく地獄の時代……それを変えたのは、戦争を偉大な力によって調停した我等が神──海龍様だ。

 その海龍様の力を持ってしても、星の水全てを浄化することはできなかった。私は関わってはいないと言えど、自身の祖父母の世代犯した愚かさに泡を吹く思いだ。その祖父母が立てた武功によって優雅に独身貴族を楽しめているのだから、私は彼等を責め立てたりはできないが。

 

「我等が神、海龍様。どうか我等を見守り下さい。そして、御身帰郷の願いが叶います様に……」

 

 思い立ったが吉日と海龍へ祈る。愚だった我等をその素晴らしき力により圧倒し、気高きオーラを放つ荒々しくも美しい、純白の鱗に蒼い鰭を持つ龍に。

 

「帰郷か……」

 

 祈りの言葉に入っているから口にしてはいるが、実際に海龍様の帰郷を真に願っているものはいないだろうに。ふと罰当たりではないかとも思ったが、特に何もなされていないようなので、考えるだけなら大丈夫なのだろう。

 

「おっと……ハァー……ったく」

「──……」

 

 考え事をしながら泳いでいた所有で目的地から反れるところだった。新型の端末なら確りと知らせて未然に防いでくれるらしいが……。改めて旧式の端末に嫌気が差した。

 

 

 

 端末ショップで各種の契約や支払いを終え、後は受け取りを待つ。貴族故に特別な個室で物事が行われるが、私としては家に出向いて欲しいとも思う。まあ、契約関係でそうは行かないがな。新型端末が来るまでの間、出されたドリンクゲルを摘まみながら旧式の端末を弄ぶ。些か顔色(光量)が暗い。やはり買え時だったか。

 

「お待たせいたしましたヴォズマー様。DAGONー2020 タイプ:エルセラヒューム【(メス)型】パールホワイト、フルカスタムバージョンでございます」

「──おお……!」

 

 改めて旧式端末のデザインに自画自賛していると、蟹型種族の店員が新型端末を持って現れた。そしてその美しいデザインに、それを指定した私は天才だと改めて自覚した。

 シェルサンド族が一生を掛けて作り出す真核(真珠)色の毛。聖乳を思わせる暖かみのある白いボディカラーに、それを包む最高級かつ最硬の純白な一枚布と、それを彩る金のパーツがあしらわれた神聖な巫女装束(端末カバー)。そして何より、偉大なる海龍が星を調停する最に見せた真紅のカメラレンズ()

 

「パーフェクトだ……!」

「ありがとうございます」

 

 蟹型種族の店員が胸元にハサミを寄せ頭を下げる。称賛したのは私自身に向けたものだったのだが……。まあ、種族が種族……その体色故に勘違いしている様子だが、それも仕方がないことか。()()()()に頷いてやれば、定員はそれに何を思ったのか──は、この際どうでも良い。早く手続きに移れ。

 

「それでは組み込まれた機能についての説明を──」

「いらん」

「……で、ではデータの移行の説明は──」

「それもいらん。知っている」

「わ、解りました……あ、では不要に成った端末は、データの移行が御済みに成りましたらこの住所にお送り下さい。処分のサービスを行っておりますので……」

 

 ……下賤(げせん)な考えが見て取れる。旧式とは言え私の端末だ。その価値に欲が出たのだろう。端末の回収サービスなど《私の知る限り》違法だと言うのに。や はり死体漁りで繁栄した下蟹(けがに)は駄目だな。どうしてこの仕事に着けたのか。

 

「で、では新しい端末の本登録を……」

「自分でできる」

「そ、そうですか……では、お支払の方を……」

 

 端末の代金を払い店を出る。次は店を変えるかと考えながら、私は手に入れた最新で最高の端末を弄びながら、次の目的地へと向かった。

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