蒼白のリヴァイアサン   作:黒木箱 末宝

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すれ違い

 時は僅かに遡る。

 

 流児とシエラが出会った暖かい海。そこには、あらゆるモノを破壊し、残骸を撒き散らす、悍ましい異形の存在が居た。

 

 頭は深海鮫(ラブカ)の様で、そこには三対六つの、暗夜に浮かぶ満月の様な目を持つ、黒い人形の異形。

 

 ──VAOZMAR。もしくはヴォズマーと呼ばれた存在。

 

 そんなヴォズマーは、その姿から伝わり辛いが内心でド派手に焦り散らかしていた。

 

「■■■■……」

 

 海面を見上げてみれば、そこには色彩の違う蒼い海が広がっていた。

 それは異界を繋ぐゲートであり、今のヴォズマーを焦らせている原因の一つでもあった。

 異界とのゲートを開きっぱなしで放置する事は、自身の母星に適応されている星系法律に違反する行為だからだ。

 

 故郷とは違う、血も脂も金属屑も微量にしか浮いていない、信仰する海龍の故郷。その美しい海。

 密入星までしてその身で味わった海に見惚れ、テンションが上がって大人気なくジャンプまでしてしまった。

 

 その所為で、ゲートを閉じるための方法や自身に課せられる罰の内容を調べるための端末を落とす始末。

 

 物思いにふけている場合ではない。ヴォズマーは端末を探すために海底に這いつくばると、見たくもない石油(黒油)で出来たアスファルト(汚い海底)を六つの目をギョロギョロと動かして痕跡を探す。

 

「■■■■……」

 

 有り余る資産を投じて手に入れた、最強全能カスタム端末(海龍ホワイト)の最新モデル。その海龍巫女モデルである自身の愛機を探すため、ヴォズマーは視界を塞ぐ障害物の悉くを不可視の一撃により粉砕した。

 

 灰色の建造物も、海藻の森も、珊瑚礁も。魚の群れでさえ、その一撃によって残骸を底に晒している。周辺は荒れる一方だった。

 

「■■■■……!」

 

 すると、ヴォズマーの目の一つが、海底に残された一つの痕跡を見付けた。

 それは、二種類の足跡だった。

 

 片方は自身の愛機である端末のものだ。しかし、もう一つの痕跡に見覚えは無い。

 

 ──いや、一つ想定したくはないが、一番その痕跡の持ち主であろうものをヴォズマーは知っている。

 

 大人気なくジャンプした際に見た、見てしまった。巫女モデルに似た形状の、黒と茶色のボディに変なカバーを着けた生物(なまもの)

 おかしなもの、恐らく端末(武器)を向け、こちらに威嚇するよう牙を剥き睨み付けてきた原生生物(害虫)

 

「■■■■~~~~!!!」

 

 異形の瞳が深紅に染まる。

 船の汽笛とも鯨の叫び声ともつかない不可思議の音を放ち、ヴォズマーは狂いそうになる気を怒りとして吐き出した。

 

 確かに形状は巫女モデルに近いしが、あれは自身に取ってのゴキ◯リ(害虫)でしかないモノ。

 巫女モデルは神の巫女かつ美しい白だからこそ惹かれるのだ。尊いのだ!

 

 それをあんな……あんな……ッ!!

 

「■■■■■■■■■■ーーーー!!!!」

 

 ヴォズマーは海龍()に祈りを捧げ願った。

 どうかあの害虫が大切な端末に近付いていませんように。もしくは塵になっていますように。

 

 それと、御身が帰郷を願う星に勝手に入ってしまった事への謝罪を込める。

 

 ヴォズマーは、できるだけ害虫の足跡を見ないようにして、自身の端末の痕跡を追って泳ぎ出したのであった。 

 

 

 

 遠ざかる異形のシルエットを、一つの光が見つめていた。その光は細長い、蛇の様なシルエットをしていた。体表は白く、蒼い鰭を持つ角と髭の生えた蛇の様な姿の光。

 

『────』

 

 光は異形の姿を睨みつけると、何処かへと消えて行った。

 

 

 

 

 

「そーら餌だぞー」

 

 シエラと呼ばれている少女は、自身に登録されたミッションを完遂。その結果で完成した海、そこでヨクトマシンで生成した擬似餌を使い、生成生物達に餌やりをしている流児を眺めていた。

 

「──任務……完了……」

 

 シエラが本登録を済ませる前に課せられた任務──海の完成であったが、無事に済ませる事が出来た。

 その際、迷い込んだ異種族がこの海の主となり生成物の父となったが……まあ、後で変更可能な事だし大した問題ではないと、シエラは問題を先送りにする。

 

「──南海 流児」

 

 帰投プログラムに従い、持ち主の元へ向かう途中に出会った異種族。

 シエラと類似形状のそれは有機部品のみで構成されており、どのデータにも当てはまらない存在。

 それが放つ音を言語一覧で検索し、類義した音のデータを言語フィルターに当てはめる。

 そして聞えてきた言葉に反応し、会話が可能だと判断。すると、対象から助けを求める言葉が放たれた。

 

『俺、()()みたいで……あの、ここの()()()()()って──』

 

「──迷子案内プログラム……正常稼働中……」

 

 その言葉()によって、帰投プログラムより優先されている迷子案内アプリが起動した。

 発言する際に言語を当てはめる時に発生する遅延(ラグ)を課題として記録する。

 

 シエラの製造された星では、その広さや四方八方に流れる海流から多発する迷子が問題視されており、迷子案内アプリもその対策によって義務化された産物だ。

 

 それにより、シエラは自身の持つデータから流児のサイズから対象を子供と仮定し、安心させるように微笑みを浮かべ、質問に答え、要求に対応したのだ。

 

「──お前、お手柄」

「……!」

 

 側を浮遊するガザミに、形式上のコミュニケーションを取る。

 現地で親しまれている、ある程度の意思表示が可能な形状の水生生物……その型を借りた監視システム。それがガザミの正体であり、シエラを流児のもとまで導いた立役者だ。

 

 そんなガザミは、施設や端末の持ち主が正しく義務を果たしているかを監視する、星系公認のシステムでもある。

 

 かつてあった迷子大量監禁事件によって、封入を義務化されたシステムは、正しく機能しているようだ。

 

「あ、一緒に写真撮っていい? 良いの? ありがとう!」

 

「──写真……」

 

 流児がポケットから端末を取り出す。一瞬顔をしかめたが、即座にそれを自身と水生生物に向けて何かをしている。その言葉()から察するに、撮影器具だろう。

 

 カシャッという音の後、流児は端末を確認すると、水生生物に端末を向けて見せている。

 

「ピ──ピュイィ!」

「おー、写真が分かるのか? 賢いね~」

 

 流児と遊戯(追いかけっこ)をしていたイルカの所有権が登録されたようだ。

 自身と自他判断の出来る対象物を同枠内で撮影し、その写真を対象物に掲示することで、対象物の所有者に所有権が発生する。

 なんてことのない行為だが、シエラの生産惑星ではこの行為に確かな法的権利が発生する。

 擬似餌を使った直接的な餌やりによる、生成生物への刷り込みと同じくらいに重要事項な行動だ。

 

「──賢明な行動です」

 

 自身との所有権を発生させずに遊び始めた仮所有者と比較し、シエラは感情表現アプリに登録された“呆れ”を表した。

 

 シエラから見て、流児は優秀な子供だった。

 指示には従うし、泣きわめいたり暴れたりしないし、何かしたくなるとちゃんと許可を得てから行動する。

 それに生物生物との追いかけっこでヨクトマシンを使いこなしていた。ヨクトマシンは意思の力(脳波)を関知して望んだ現象を再現する機械だ。それが子供

 には難しいが、流児はそれが出切るようになっていたのだ。

 

 流児の優秀さを記録していたその時だった。上海層(じょうかいそう)より、仮所有者の怒声とシエラへの帰投命令が届いたのだ。

 

「──仮所有者の命令を確認……最優先事項、迷子案内が途中なため、帰途は不可能です」

 

 しかし、その命令をシエラは“後にしろ”と蹴り、流児の案内に掛かる時間とそのルートを再検討するのだった。

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