裂空の竜と終極魔精   作:椎名真白

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第2話「聖教会」

 紫の空は少しずつ青みを取り戻し、オルファ・ストラグルの紫炎が消えていく。チアー聖教会の力により、一時的に鎮まったものの、フムタンの心には依然として重い不安が渦巻いていた。

 

「一体、これからどうすればいいんだ……」

 

 フムタンは神殿の外に出ると、崩壊しかけた飛空庭の一角を眺めた。オルファ・ストラグルの力で一部の建物が焼かれ、広がった紫色の焦土が不気味に残されている。

 

 その隣に立つゴン・メッコータラは鋭い目で周囲を見回していた。彼の鎧が冷たく光を反射し、どこか戦士としての強さと共に、聖教会の厳粛さを感じさせた。

 

「これ以上、この竜を放置するわけにはいかない。お前がオルファ・ストラグルを制御できるか、試させてもらう」

 

 ゴンの言葉には、フムタンの意志を試す厳しさが込められていた。

 

「まずは私たちの教えに従ってみるといいわ」

 

 聖女チアーリンが優しく微笑みながら、フムタンに歩み寄る。彼女の小さな体から発する光は柔らかく、心を落ち着かせる力があった。だが、その笑顔の裏にある深遠な知識は、ただの子供ではないことを強く感じさせる。

 

「チアー聖教会では、長い間ドラゴンの力を研究してきたわ。だからこそ、オルファ・ストラグルを封じることができた。でも……」

 

 チアーリンは一瞬、瞳に影を落とし、そして再び微笑んだ。

 

「完全に制御するためには、あなた自身がその力を受け入れなければならない」

「受け入れる……?」

 

 フムタンは驚きながら問い返す。チアーリンは頷き、彼に近づくと、小さな手で彼の手を握った。その瞬間、フムタンの心に、オルファ・ストラグルの強大な力が再び響いてきた。

 

「ドラゴンとの契約は一方的ではないの。あなたが彼を恐れる限り、彼はあなたを受け入れないわ。オルファ・ストラグルはあなたの力を試しているのよ」

 

 チアーリンの言葉がフムタンの胸に突き刺さる。恐れ――確かに、オルファ・ストラグルの圧倒的な力に対する恐怖が、彼を完全に制御できない原因だったのかもしれない。

 

「どうすればいいんだ……? 僕は、どうすれば……」

 

 フムタンは力なく呟いたが、チアーリンは柔らかく微笑みながら答えた。

 

「私たちと一緒に祈りましょう。その力を受け入れるために必要な心の準備を整えるの。祈りはあなたの心を清め、恐れを取り除く力を持っているわ」

 

 その頃、飛空庭の遥か北方、浮遊する荒廃した島にある廃墟――そこでは、暗い影が動き始めていた。エルフェンリート――禁忌の魔法を操る秘密結社であり、裂空陣を使って世界を破壊しようと企む闇の勢力である。

 

 彼らは、フムタンがオルファ・ストラグルを召喚したことを知り、その力を利用しようと目論んでいた。

 

「どうやら、我々の計画が進みそうだな」

 

 低く冷たい声が廃墟の中に響いた。声の主は、エルフェンリートのリーダー、アーカス・ノクターン。彼の赤い瞳はまるで闇そのものであり、黒いローブを纏ったその姿は、死の神のように不気味だった。

 

「裂空陣の力を引き出すには、オルファ・ストラグルの完全なる覚醒が必要だ。それを成し遂げるために、フムタンの動向を監視しろ。そして、機が熟した時には……我々の手で竜を支配する」

 

 アーカスの命令に応じ、部下たちは沈黙のまま頷いた。

 

 彼らの魔法は飛空庭全域に広がり、フムタンの行動を密かに監視し始める。そして、チアー聖教会とフムタンが持つ力を奪うための陰謀が動き出そうとしていた。

 

 

 その夜、フムタンはチアー聖教会の祭壇に招かれた。そこは飛空庭の中心に位置し、魔法士たちにとって神聖な場所であった。祭壇の周囲には無数の祈りの書が置かれており、紫色の光が淡く照らし出されていた。

 

「ここで祈ることで、あなたの心の中にある恐れを取り除くことができるわ」

 

 チアーリンが静かに語りかけると、フムタンは深く息を吸い込み、目を閉じた。

 

「僕は……オルファ・ストラグルの力を受け入れなければならない」

 

 フムタンの心の中では、未だに葛藤が続いていた。強大な力を持つドラゴンを召喚したという事実は、彼の中で誇りでもあり、同時に恐怖でもあった。しかし、それを乗り越えなければ、この世界を守ることはできない。

 

 祭壇の上で、フムタンは静かに祈り始めた。聖教会の教えに従い、心を清めるための言葉を繰り返す。チアーリンやゴン、そしてアストラが彼の周囲に集まり、共に祈りの力を与えていた。

 

「今はただ、力を信じて……」

 

 チアーリンが囁いたその瞬間、フムタンの心に異変が起こった。彼の意識が深い闇の中へと引き込まれていく。そして、その闇の中に一筋の紫色の光が現れた。

 

 その光は、オルファ・ストラグルの目だった。

 

「我と契約するか、小さき者よ……?」

 

 重々しい声がフムタンの心に響いた。彼は瞬時に悟った。これは、オルファ・ストラグルの意志そのものだ。彼がドラゴンを恐れ続ける限り、完全な支配は不可能だった。

 

「僕は……僕は恐れない。お前の力を受け入れる!」

 

 フムタンは強く叫び、意識をオルファ・ストラグルの目に集中させた。次の瞬間、紫色の炎がフムタンの心を包み込んだが、それは以前感じた恐怖とは違い、温かさと共に力強さを感じさせるものだった。

 

「よかろう。ならば、我が力を全て授けよう……」

 

 その瞬間、フムタンの身体に紫色の光が溢れ出し、祭壇全体を照らした。祈りを捧げるチアーリンやゴンも、その光を感じながら、フムタンが新たな力を手に入れつつあることを理解した。

 

 オルファ・ストラグルとの本当の契約が、今ここで結ばれたのだ。

 

 だが、この瞬間を見逃さなかった者たちがいた。エルフェンリートの影が、フムタンの覚醒を察知し、次なる攻撃の準備を始めていた。

 

「すぐに行動を開始しろ。奴が力を手に入れた今、我々が動かねば世界は失われる」

 

 アーカス・ノクターンの命令が静かに響く。

 

 フムタンとオルファ・ストラグルの物語は、まだ始まったばかりだった。彼が手に入れた新たな力は、この世界を救うための希望となるのか、それとも破滅の引き金となるのか――。

 

 

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