西エウロペ戦役―砂塵の中の虐殺竜―   作:Ocean501

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続いちゃうんだなぁ!これが!(お久しぶりですの意)






3rd Sortie 〈ネーメズィス〉

 

 重厚な対爆ドアが黄色回転灯の明滅に彩られながら上がると、機体に纏わりついた夜気を払うような活気が後部エレベーターシャフトへ流れこんで来た。

 

「102の固定完了! 下げます!」

「おい! 21番のエネルギーケーブルの在庫はどこだ?」

「〈フェアトラーク〉飛行隊から重整備受け入れの要請です!」

「またか! 仮病じゃないだろうな⁉」

「噂のご新規さんが来るぞ! トラクター持ってこい!」

「鹵獲コアは7番のコンテナだ。何? 博士が? ──知ったことか! 見たけりゃこっちまで来いって言っとけ」

 

 完全機獣化された一個大隊規模の部隊を輸送できると謳われる、ホエールキング級航空輸送艦(ルフトトランスポーター)。そこから派生した改ホエールキング級は、武装を妥協してより作戦支援母艦としての性格を強く打ち出した性質を持っていたが、陸上基地とは全く様相の異なる内部格納庫を持つのは変わらない。

 陸上基地の格納庫では、正面のドアに向けて横隊を汲むように横一列に頭を揃えて並べるのが基本だ。

 その方が整備がしやすいというのもあるが、緊急時の即応性を重視した結果とも言える。出撃直前に、ハンガーごと重砲の直撃でスクラップにされてしまうのは、機動兵器たるゾイド乗り達にとって最も避けたい最期の一つだった。

 無論、これは土地(と予算)さえあれば、自由に箱のレイアウトを決めることが出来る陸上基地ならではの贅沢に他ならない。

 一方、容積が固定されているホエールキングの格納庫は、さながら詰め放題サービスに供される安物のビニール袋と形容できる。輸送艦に求められるのは、即応性よりもとにかく大量に(もちろん、機関出力と艦体が許す範囲で)詰め込む技術だった。

 レドラーによってフリッツが運び込まれた改ホエールキング級35番艦〈ネーメズィス〉も、その例には漏れなかった。

 この全長500mに達する巨大な鉄鯨の大部分を占める格納庫周辺は、艦首側から順に前部ハッチ通路、整備格納庫、主格納庫、後部甲板エレベーターと艦の根幹となる設備が並ぶ。格納庫の中央には、前後を行き来するために設けられた大型ゾイド一機分の幅を持つ通路が開けており、その通路の左右に多様なゾイドがひしめき合っている。また、それぞれの区画は必要時以外は対爆ドアで仕切りが施されており、ある程度のダメージコントロール能力を持たされていた。

 フリッツの正面を映すモニターには、対爆ドアの隙間を通り主格納庫へ引き出されるサンドブラウンに塗装された大型ゾイド──ジェノトローペンの姿がある。つい先程整備が終わったらしく、まだ()()()()いない真新しい補修パッチが装甲の彼方此方に見られた。

 ややあって足元に走ってきた牽引車が、フリッツの機体を乗せたパレットを連結しモーターの唸り声とともに主格納庫内へと引きずり込む。彼は左右から注がれる物珍し気な視線を無視するように、ゆっくりと流れていく格納庫の景色へと意識を向けた。

 招き入れられた〈ネーメズィス〉の格納庫は、よく言えば実利優先、悪く言えば雑然と形容できる。

 今まさにフリッツが輸送されている中央こそ、後部エレベーターや整備格納庫を行き来するためにスペースが開けられているが、その両側はまさしく寿司詰めと言う他無い。

 後部エレベータに近い両サイドには細長いコンテナがハチの巣のように天井まで積まれ、それぞれのコンテナの開口部から丸い頭が僅かに顔を出していた。すれ違いざまに巣房の中を覗き込めば、キャノリーユニットやAAユニットを担いだモルガが、窮屈そうに押し込められているのが見える。装甲擲弾兵を搭乗させるGCZ型の場合は多少余裕があるが、それでもビジネスホテル崩れの安宿の方が寝心地は良さそうだった。

 次に見えてきたのは、帝国では今時珍しい赤いキャノピーを寝床であるコンテナから延ばしているヘルディガンナーの群れ。全長の半分以上を占める長大な尾はコンテナの中で器用に可能な限り折りたたまれているが、それでも余るのか頭の下に置いて顎置きのようにしている機体が多かった。昼寝中のイグアナを連想させ何処か牧歌的な雰囲気すら醸し出すが、背部に備えた主砲は大型ゾイドの装甲を打ち抜ける十分な火力を有している。改良に改良を重ね、遂には外付けジェネレーターにまで手を出すことによって得た大火力は、あのゴジュラスギガにさえ彼等の伏撃への警戒を強要している。

 フリッツ自身も、実験小隊に居た頃に彼らのデタラメな火力に手を焼かされたことを思い出す。

 「背中にも目を付けろ」と無茶ぶりをしてくる中隊長の言葉を実行できるようになるまでに、どれほど撃墜判定を貰ったか解らない。逆に言えば、彼らが後方に陣取っている時ほど動きやすい戦場は無かった。

 最後に共闘したのは何時だったか?と記憶の中を漁ろうとした時、インカム越しに目的地に着いたことが知らされる。

 アタックゾイド程度の図体しかない牽引車に載った整備員が指さす先には、大隊の主力を成す複数の大型ゾイドが並んでいた。

 とはいえ、格納庫の前方区画に集められた彼らは、これまで見てきた小型・中型ゾイドよりもぞんざいに扱われていると言えるかもしれない。なにせ、サンドブラウンの巨獣が押し込められているのは、これと言った構造体は見つからない駐機スペースと表現できる場所なのだ。設備らしい設備は天井から垂れ下がるクレーンフック程度。クレーン自体も酷く簡易的なモノで、精々整備員を乗せたゴンドラを昇降させる程度の仕事しか期待できそうにない。

 【大型機用】と定められた区域は両舷側に2×2の4機ずつ、計8機分のパレットが固定できるようになっている。左舷側には、前後互い違いになる様に2列縦隊で駐機されたジェノトローペンが4機、右舷側には艦首方向に2機が横に並び、艦尾側の壁際にはレブラプターDが6機押し込められていた。フリッツよりも一足早く整備格納庫から引き出されたジェノトローペンはすでに左舷側に固定されている。

 フリッツの機体が乗るパレットは、右舷側の空いたスペースへと手慣れた様子で押し込められる。整備格納庫から数えて、前から2番目の通路側だ。彼のすぐ横に当たる壁側のパレットでは、6つの頭が見覚えのある新参者を見上げ数機が軽い鳴き声を上げた。同時に、6機から歓迎のメッセージが大量に送られてくる。熱烈を通り越してDDoS攻撃染みたメール攻勢に、ストライクジェノザウラーが呆れたように喉(正確には、レッゲル移送用の胸部ターボポンプ)を鳴らした。

 

「ま、懐かしいと思っておこう」

 

 宥めるようなフリッツの台詞に、再び唸り声。今度はどこか拗ねたような響きはあるが、これが彼なりの消極的了承であること位は読み取れた。同時に、怒涛のようになだれ込んできたメールが全てゴミ箱に投げ込まれ、返信が一斉送信される。コンパイルを行えば、彼がどのような返事を送ったのか読む事は出来るが、それが気になるほど乗機のことを知らないわけではなかった。

 不要となったシステムを全て落とし、ハッチを明ける。当然ながら自走昇降機などと言う代物は健常なパイロット相手には出動しない。ずいぶん使っていなかった地上降下用のウィンチを引き出し、簡素なつくりの鐙に足をかけた。

 降下ボタンを押す前に、灯の落ちたコクピットへと一瞬視線を投げる。

 

「ともかく、まずは休め。その分の働きはしたはずだ」

 

 返答は無い。というより、何かを期待して投げた類の言葉では無かった。

 地上に降りると同時に、こちらに駆け寄ってくる若い男の姿を見つける。着任する前に目を通した資料によれば、これから自身の2番機となる下士官で間違いない。つまりは当分の間、死なない限り背中を任せる相手だった。

 

 ◇

 

「〈ネーメズィス〉へようこそ、中尉殿」

 ヴィルヘルム・ツィーテン軍曹と名乗った下士官は通り一遍の挨拶を交わした後、ゲストを迎え入れる主人のように片手を広げて見せる。

 背は(正しく平均的な体格の)フリッツよりも拳一つ分は高く、どこか斜に構えた雰囲気を感じる男であるせいか、その仕草はどこか舞台役者じみたモノがあった。

 襟元に縫い付けられているのは、真新しい軍曹の階級章。常ならば、その階級章を身に付けられるのは30を超えたあたりからだ。歳と経歴を考えるならば、それなり以上に期待をかけてよい下士官なのかもしれない。

 フリッツの推察を裏付ける様に、彼の左胸にはセイバータイガーゴールドの横顔の意匠を組み込んだ、真新しい勲章──盾虎章(シルト・ティーガー)が輝いている。無論、少々昇進が速い程度の下士官が佩用できるものではなかった。

 

「ああ、これですかい?」彼の視線に気づいたらしいツィーテンの顔には、誇らしさではなく、幾らかの自虐が浮かんでいた。「ちょっとしたお零れというやつです」

「酷い戦いだったと聞いたが、それほどか」納得するようにフリッツが頷く。彼が西方大陸の彼方にまで派遣された元凶の戦いの事を言っている。戦闘詳報には目を通したが、彼は文字だけで戦場の全てを理解した気になる性癖は持ち合わせていなかった。

 

 盾虎章(シルト・ティーガー)とは、友軍を守るための勇戦を讃えて送られる勲章の一つだった。現時点で授与された勲章の内、戦死者への追贈が6割を超えると言えば、この勲章が何を意味して贈られるのかが良く解るだろう。

 

「そりゃあもう。中、いえ、大尉殿がゲリラのパイルバンカーにやられちまったんで、伍長に上がりたてのヒヨッコが小隊の残骸を握ることになっちまいまして」ツィーテンは今朝の悪夢を思い返すような顔で続ける。「ベルタとドーラが居なかったら、運の悪い下士官がもう一人、中尉殿のお供でいらっしゃったでしょう」

 

 皮肉気な台詞とは真逆の感情を表に浮かべながら軍曹は肩をすくめた。なるほど、とフリッツは思う。

 無理と無茶と無謀が理不尽の弾幕と共に進撃してくる軍隊という世界で、彼は冗談と皮肉の傾斜装甲で精神を鎧う事で折り合いをつけているらしい。無論、それらの発揮に必要な愛嬌を意図的に振るえるからこそ成せる業だろうが。

 直接兵卒を叱咤せねばならない擲弾兵であれば良い顔はされないスタンスだろうが、とにもかくにも操縦技能が要求される騎兵ならば話は別だった。

「またお時間のある時にでも、詳しくお話させていただきますよ。さ、大隊長殿が執務室にてお待ちです、此方へどうぞ」ツィーテンを先頭に、彼が此処まで来た道を辿る様に歩き出した。

 

「運ね──確かに、幸運よりは悪運に好かれている自覚はあるよ」

 

 格納庫の喧騒を聞きながら、フリッツは自嘲するように口の端を歪めた。ほぼ並んで歩いているツィーテンも「奇遇ですな」と同じ顔を造る。

 

「とはいえ、アテにならん幸運の女神よりは、気まぐれな死神の方が役に立ちます。こんな場所(戦場)では特に」

「至言だな。額に入れて飾っておこうか」

「誠にあいすみませんが、当艦は可燃物の持ち込みが禁止されておりまして」

「そう言う割には、特級の危険物がズラッと並んでいるような気がするが?」

 

 フリッツは中央通路の両側に居並ぶサンドブラウンの虐殺竜たちをざっと眺め渡す。赤く光るライン状の無機質な眼が、新参者を見定めているように見えた。残念ながら、彼等から(そして機体の傍にいるパイロットらしい人物たちからも)友好的な雰囲気は感じ取れない。其処に在るのは、懐疑と警戒と一握りの嫌悪だった。

 

「30年も前なら、ジェノザウラーで完全充足された中隊なんて悪夢でしょう──敵にも味方にも」

 

危険物の意味を意図的に誤解したツィーテンが、話を強引に修正する。

内心では、いきなり内輪もめを起こそうとする1小隊の青年貴族(ボンクラ)共に殺意すら湧き上がっていた。同時に、自身の上官が向けられた敵意を楽しむような危険人物であることを察してしまう。さて、血と恋慕に巻かれて突撃を繰り返した前任のバカとどちらがマシだろうか。内面の天秤にそれらをかけようとして、あまりの馬鹿馬鹿しさに口を更に歪めたくなった。

 

「ま、ご安心ください。此処に有るのは全部トローペンですので」

 

 内心を押し隠しながら、ツィーテンは不穏な空気を醸し出すパイロットから、彼等の虐殺竜へ努力して視線を外した。整備格納庫から引き出された機体の固定が終わったのか、先ほどまで群がっていた整備員が三々五々それぞれの仕事に戻りつつある。

 EZ-026D〔ジェノトローペン〕、量産型ジェノザウラーを元に30年の月日をかけて漸くデメリットの克服に成功したオーガノイドシステムの改良型を搭載した機体であり「この機体を持ってジェノザウラーというゾイドは完成した」と豪語する者がいるほどの次世代量産機だった。

 背部武装もゾイドコアの出力向上によりビーム兵器の搭載が可能になり、収束口径155㎜のロングレンジプラズマビーム砲を単装で2基搭載。更に、ビーム砲の機関部と基部を守る様にサブアームを介して対ビームコーティングが施された盾を両側に備えている。搭載兵器の火力が優越し装甲による防御がアテにならない近年では、彼らのように盾を装備する事は珍しくなくなってきていた。とはいえ軽量化と取り回しに重点を置いたため、搭載された直線主体の盾はフリーラウンドシールド程の防御力は無く、搭載火器と同程度のビームの直撃を2,3発やり過ごせれば良しとされている。

 使い所が難しかった口腔部荷電粒子砲は、射程を妥協して加害半径と即応能力の拡大を図った拡散型も採用された。名目上は収束型との換装による選択式になっているが、拡散型では脚部アンカーの展開や射線の固定と言った制約が緩和されたこともあり、改良はされているモノの収束型を使い続けているパイロットは一握りだった。

 また重装備化による重量増と砂漠地帯への対応の為に、脚部に防塵フィルター付きの大型ブースターを装備している。最終的に両足首付近に袴の様なカバーが取り付けられたような見た目になったせいか、共和国やネオゼネバスからは『スカート付き』と呼ばれるようになった。

 機体に銘打たれた()()()()()とは熱帯を意味する単語(=熱帯地域戦仕様)だとされているが、本機の開発人員が開発中止となった空挺強襲型ジェノザウラーの開発チームを流用して構築されたことから、事情を知る者達はある種の執念としてつけられた名だと確信していた。

 とはいえ、そのような与太話がどうでもよくなる程度には次期主力戦闘機獣(Main Battle Zoids)として満足できる能力を発揮しており、帝国はジェノトローペンの増産と更新を着々と進めていた。

 

「それは頼もしいな」と、どこか明日の天気を眺めるような声で同意したフリッツは逆側に顔を向け、ストライクジェノザウラーの前に駐機したややゴツイ印象を持たせるジェノトローペンを見上げる。全体的なフォルムは中央通路を挟んで駐機された4機と同一だが、背部や頭部の装備に決定的な差異が見られた。

 

「君の機体はこれかな?」

「ええ、そうです。背部武装を折り畳み式203㎜プラズマビーム複合砲に、頭部の連装レーザーCIWSを中長距離狙撃管制システム複合体『タクトⅡL』に換装した選抜射手仕様(マークスマン・カスタム)、トローペンMCです。先進技研には無かったので?」

 

 意外そうに眼を丸くするツィーテンにフリッツから苦笑が漏れる。実際問題、実戦投入された機体の産まれが何処にあるかなど、最前線の人間が興味をもつ事柄では無かった。とはいえ、正式採用(生存権)を勝ち取ろうと躍起になっているのは、前線だけの話ではないのも事実であるのだが。

 事実、先進技研ではトローペンはある種の仮想敵として忌み嫌われていたと言っても良い。

 

「トローペンは古巣(あそこ)が開発したわけじゃないからね。しかもMCは犬猿の仲のチェピン陸軍技術工廠の製品だ。シミュレーターでは何度もやり合ったが、僕も現物は初めて見る……が、やはり頭部のセンサーユニットはケーニッヒウルフに似ているな」

「似ているどころか、頭部はウルフのヘッドギア周りの丸パクリも良い所ですからね。ですが性能は悪くは無いですよ。何なら試してみますか?」

「いいや、結構――っと」

「失礼、急いでいますので」

 

 格納庫に口を開けた通路へ足を踏み入れようとした時、フリッツは通路から足早に表れた長身の男と危うくぶつかりそうになる。軍服の上に羽織った白衣を棚引かせながらするりと衝突を回避した男は、ギリギリ彼が聞き取れる程度の早口を残して風のように立ち去っていった。

 その怜悧な顔を視界に入れたのは一瞬の出来事だったが、見覚えのある顔だと彼が認識するにはそれで十分だった。

 

博士(ドク)は何時もあの調子かな?」

「ええ、まあ。そう言えばドクも、中尉殿の古巣からの出向組でしたね」

「古巣で僕にジェノザウラーとラプターを押し付けた張本人だよ」

「ああ、それはそれは――なんともご愁傷さまです」

 

 複雑な笑みを浮かべた軍曹に続いて、薄暗い通路の中へと足を踏み入れた。

 

 

 





ド……ジェノトローペンのサブアーム盾は某雷電宙域でジャズ鳴らしながら無双してたアイツな感じで想定してます

アニメとかだと作劇の都合でビーム直撃→爆煙に巻かれてゴロゴロ的な描写が多かったですが、本作だと高速戦闘ゾイドはクリーンヒット→しめやかに爆発四散になるレベルで火力偏重です()

ストライクジェノザウラーも次の出撃迄には在庫のサブアームと盾が装備されるでしょう(共通ユニットなので輸送時は未装備)
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