西エウロペ戦役―砂塵の中の虐殺竜―   作:Ocean501

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真面な戦闘シーンを久しぶりに書き始めるので初投稿です。


6th Sortie 紅眸嘲笑

 本当に始まってしまった……

 

 〈ネーメズィス〉のCICの一角に設けられたオペレーター用のコンソールの前で、エイルは未だにこの作戦が悪い冗談の類なのではないかと信じたがっていた。

 数日前に惨劇の舞台となった山岳地帯の谷底を南北に走る隘路上には、友軍を示すアイコンが南へ向けて移動している。その後方の谷の上には、また別のアイコンが同じ様に(こちらはあくまでも想定位置だが)先頭を追従していた。

 戦場を俯瞰する寒色基調の戦域マップの横には、二小隊が掌握するゾイドのヘッドカメラ映像が彼らのバイタルと共に表示されているが、谷の上を進む警戒班のデータは無線封止のため送られてきていない。

 

 ジェノトルーパーは強力なゾイド、それは間違いない……はず。

 

 エイルは目前に流れる情報を処理しつつ、唯一鮮明な映像を送り続ける小隊長機のヘッドカメラに意識の一部を向けた。

 

 ミレニアム計画に、リバース・センチュリー計画。新型ゾイドの開発ではなく、既存ゾイドの近代化改修による戦力の底上げがトレンドになって、ジェノザウラー系列が保有していたアドバンテージは目減りしつつある。けど、ディバイソン程度なら、向こうが最新モデルでもキルレシオは1:5を優に超える。 

 

 士官学校の戦術シミュレーターで散々撃破し、撃破された共和国軍主力戦闘機獣(MBZ)の一角たる鉄牛の姿を思い起こす。

 鈍く光るツインクラッシャーホーンに背部の105㎜17連突撃砲、制圧前進と言う言葉にゾイドコアを搭載したような機械獣。シミュレーター上とは言え、あの情け容赦のない突撃によって同期生が失った単位はいかばかりになるのか。教本に乗せられたキルレシオの一覧表に、恨みがましい落書きが描き加えられるのも無理はなかった。

 

 でもキルレシオはあくまでも平均化された戦闘効率のモデル。5倍の戦力差を単純にひっくり返せる訳じゃない。

 

 肩を落としてシミュレーターから出てきた友人の姿を記憶の端に追いやりながら、モニターの端に表示された予想敵戦力の編成を一瞥する。

 

 5機のディバイソンに一斉に殴りかかられたら、骸を晒すのは大抵トルーパーの方。キルレシオなんて、同数の部隊がぶつかった時に戦果と損失がその程度になるだろうという目安にしかならない。

 

 それを踏まえてみれば、大隊長が降した命令は冷酷を通り越して異常とすら(少なくとも、彼女の中の常識に則せば)断言できる。実質、2機のジェノ・トルーパーで共和国の機動打撃中隊を潰してこいと言っているのだ。もしも1年前までエイルがいた場所でアストリッドと同じような答案を出せば、教官は大きなため息を吐いて補修を告げるだろう。

 しかし、エイルの悩みの種は大隊長の不可解な命令ではなかった。

 

 そんなことより、一番良く解らないのは──

 

『少尉、聞こえるか?』

 

 この人だ

 

「問題ありません、小隊長殿」

『リンダはパーティーに間に合ったのか?』

「ええ、なんとか間に合いました。ドレスを赤にするか青にするか迷ったそうですが、結局青にするらしいですよ」

『それは良い。彼女の目に映えるだろうさ』

 

 回りくどい符丁を解読するならば「支援機発艦完了、無誘導爆弾装備」となる。用心に越したことはないが、実に呑気な会話だとエイルの頭の片隅で呆れが沸き上がる。

 そして、その感情の一部は通信の向こうの青年士官に向けられていた。

 

 本当に、コトの重大さ解ってるのかな? この人──

 

「なぁに、心配いらんさ小娘」

「大隊長殿?」

 

 ふわりと甘ったるい紫煙の香りが鼻を擽ったかと思えば、いつの間にか自身の背後に回った大隊長が肩越しに身を乗り出していた。ご立派なモノが肩に乗り、エイルの女としてのナニカが軋みを上げる。なまじ自身のスタイルにそれなりの自信がある分、この分野で完膚なきまでに敗北したのは初めての経験だった。

 

 まあ、そもそも図体(フレーム)からして規格が違うと思えば……

 

「なにか益体もないことを考えてないか小娘」

ふぁひ(はい)ふぉふぁひふぇふふぁひふぁひひょふほほ(誤解です大隊長殿)

 

 ニマニマと嗜虐的な笑みを浮かべたまま片頬を鉄扇の先端で潰され、必死に弁明する。言葉どころか、ポーカーフェイスにも少々長けていると自負していたはずが、この女傑には通用しないらしい。

 

「ポーカーフェイスというのは、モニタの向こうのピクニック気分のバカの事を言うのだ。精進しろ、少尉」

「当然のようにボクの心を読まないでください、大隊長殿」

「バカめ、他人の腹の中をのぞけなくて貴族なんぞやってられるか。そんなことより、気になるか?」

「まあ……はい……」

 

 はぐらかしても無駄だと言うことが良くわかったので、視線をコンソールに戻しつつ素直に答える。仕え始めて数日と経っていないが、この女伯爵が自身の部下に率直な物言いを求めるという程度の事は理解していた。

 

「いくら小隊長殿のストライク・ジェノザウラーが新型機とは言え、所詮はジェノトルーパーの改良型です。実質、トルーパー2機でブレードライガーやディバイソンの中隊に対峙するのは余りにも」

「役不足だな」

「はい……え?」

 

 一瞬頷きそうになったが、即座に湧き上がった違和感に上官を振り返る。愉しげに鉄扇をもて遊ぶアストリッドは、素っ頓狂な質問をする新兵をからかうような顔をしていた。

 

「言い間違っておらんぞ、少尉」

 

 ただし、その声には確かな確信が覗く。

 

フリッツ(ヤツ)にとって、この程度の敵など役不足も甚だしい」

 

 役不足、それが意味する事実に気づかないほど彼女の血の巡りは悪くない。

 

「そう言えば。貴様は恩賜の時計組だったな?」

「は、はい」

「ならば、よく見ておけ」

 

 エイルの疑念を断ち切るように、アストリッドの手の中の鉄扇が小気味よい音を立てる。

 

「貴様がいったい何の手綱を握らされているのかを、な」

 

 青白い光が弱弱しく輝くCICの中で、憎むべき女(大隊長)は酷く冷徹に嗤っていた。

 予定針路を無防備に進むストライクジェノザウラーは、数km先で東へ90度進路を変える地点──昨日補給部隊が襲撃を受けたポイント──へと足を踏み入れた。

 

 

 ◇

 

 

 

『ヤツの進路は?』

 

 ヘッドセットに届く上官の声には、僅かに苛立ちが含まれていた。

 その原因となった"招かれざる客"は、無造作とすら呼べるほどの歩みを止める気配はない。

 砲塔上部に備え付けられた微光暗視装置(スターライト・スコープ)が切り取った風景は、メインモニターではなくヘッドレストから覆いかぶさるように展開されたバイザー型の火器管制モニターに表示されている。青白い火炎を微かに足にまとわせ、月明りだけが降り注ぐ谷底の道を駈ける虐殺竜。敵機の肩部装甲には、最早見慣れたガイロスの国章が刻まれていた。

 

「敵進路、速度変わらず」

〈必中距離まで、60秒〉

 

 無機質なコンバットシステムの合成音声と、視界端の画面表示には寸分の狂いもない。ガンスナイパー並みの超長距離狙撃を可能とした優秀なFCSが弾き出すリミットは刻々と減り続けている。有線で繋がれた僚機のデータを見る限りでも、大きな問題は見て取れない。

 

『了解』

 

 頭部のコクピットに収まるエリック・ディクソン伍長の短い返答に、背部砲塔でガンナーを務めるロバート・デイビス上等兵は知らずジョイスティックを握り直した。

 では敵の予想進路と着弾予想点が重なり、コンバットシステムが"SHOOT"の文字を明滅させて彼を急かしている。

 

 しかし、本当にただの()()()()()なのか?コイツ

 

 中隊司令部は目の前の敵をジェノトルーパー系列の新型と認識したが、ディクソンはどうにも違和感を拭い去れないでいた。

 確かに、フレアパンツの様に大型化した脛部の大型スカートはジェノ・トルーパーの最大の特徴と合致はしている。しかし目標は、背部にジェノブレイカーに似た大型ブースターを背負い、背部射撃兵装をその側面に搭載していた。

 特徴的なのは、胸部背面で構えられた一対の盾。折りたたまれた待機状態故に全貌は判然としないが、丁度肩甲骨の辺りから伸びるサブアームが小盾を保持しているように見える。ジェノブレイカーのエクスブレイカーユニットを連想させる姿だが、背部兵装の射線を塞がない用にかなりの小型化が施されている点に注目すれば、むしろシュトゥルムテュランのアクティブ・シールドに類似していた。

 無論、中隊司令部の言う様にジェノトルーパーの改修機という解釈も可能ではある。異質なシルエットではあるが、背部ブースターとエクスブレイカーモドキ以外は正直ジェノトルーパーと見分けがつかない。ライガーゼロのCASのように新しい装備パッケージが配備されたと判断できる領域だ。

 しかし、中隊の判断に対するデイビスの疑念は、敵の姿が画面上で膨れ上がるにつれて大きくなっていく。

 

『ロバート、命令に変更なし。必中射程に入り次第ぶっ放せ』

 

 思考の海に沈みかけていた彼は、それなりに長い付き合いになった上官への返答が一瞬遅れた。

 

『――どうした、ボブ。なんか気になることでもあるのか?』

 

 幸い、ディクソン伍長は相方となる上等兵の返答に含まれたナニカを無視するほど豪胆ではなかった。

 あえて愛称を口にすることで、彼が感じ取った違和感の言語化を促すが、デイビスは自身の内に湧き上がった不安を意図的に押しつぶした。

 軍隊の厄介になってかれこれ3年。娑婆とは比較にならない、奇妙奇天烈な世界に生息する兵隊と言う生物について、彼なりに要領が解ってきたが故の判断だった。

 

「はい。いいえ、そうではありません。伍長殿」

 

 殆ど定型句のような否定を返す。これで問題ない。敵の戦力評価は、オレの仕事じゃない。

 

『フン、ま良いさ。多少は真新しい機体だが、コイツの主砲で潰せないわけではあるまい。もちろん、貴様が外さなければ、だが』

「前回の射撃大会での負けは整備上の問題です。今度は当てますよ」

 

 惜しくも2位に破れた先日の中隊対抗射撃大会の事を蒸し返され、僅かに口の端が歪む。自身の乗機も「ほんとかよ?」とばかりに茶化すような唸り声を上げた。

 コイツ──ディクソンとデイビスが搭乗する中型砲戦ゾイド、RHI-112G〔カノンフォートG型〕は、リバースセンチュリー計画によって生まれ変わった機体の一つだった。

 コアの出力強化により駆動系や装甲がアップグレードされた他、主砲たる重撃砲はゾイドコア直結式の208㎜可変速度プラズマ砲に換装され、Eシールドに対して一定以上の有効性が担保されている。

 カノンフォート乗り達の間では、もっぱらGカノンと通称される鉄牛ならば、ジェノザウラーを一撃で撃破、乃至(ないし)擱座させることも不可能ではない。

 モニターの照準に捉えられた敵影が攻撃地点に迫る。戦闘を前にした心臓が強く鼓動し、ゾイドコアの鼓動と重なるような感覚。最後にもう一度砲撃システムを見渡し、正常に動作している事を確認してからジョイスティックを握り直した。渇いた唇をわずかに舐める。急な喉の渇きを覚えたが、水筒を取り出している暇はもはや存在しなかった。

 

 3、2、1──0! 

 

 トリガーを引き絞ると、モニターがプラズマの閃光で満たされた。

 

 ◇

 

 月明かりを掻き消す閃光が、ザリアス渓谷と名付けられた峻険な隘路の2箇所から迸った。

 進行方向正面──東へ折れる突き当たりの岩棚から2条、(西)の崖の上から2条、さらに数瞬遅れて左側(東)の崖上からも2条。

 合計6条の紫電が迂闊にも罠に入り込んだ虐殺竜へと注ぎ込まれ──

 

 その全てが僅かに残されたイオンの残滓を貫き、崖を穿った。

 

 左後方へと飛び退ることでプラズマの一突きをするりと躱して見せたジェノザウラーは、殴り掛ってきた獲物に歓喜するかのように赤い双眸の色を深くする。至近距離を通り抜けた青白い閃光が暗色の装甲を冷たく照らし出し、着弾により生じたプラズマ混じりの爆煙が黒竜に絡みついた。

 直後、ジェノザウラーの背後の岩陰から無数の砲を生やした大柄な鉄牛が土煙と共に飛び出してくる。

 カノンフォートの2段階狙撃が失敗した場合に備え、予め狙撃地点の背後を取る様に岩塊に偽装していた切り札の一つ――ディバイソンだった。

 偽装ネットを振り払ったディバイソンが爆煙を纏うジェノザウラーを射線に捉え、背部に揃えた105㎜17連装突撃砲を間髪入れずに咆哮させる。

 発砲遅延装置が許す限りの速度で放たれた鉄の暴風は、ついコンマ数秒前に放たれたプラズマの轍を踏むように空を切った。

 17の中口径榴弾で構築された投網を縫うように、直線で構築された青白いイオンの残光を引きずった黒龍が鉄牛の懐へと飛び込んだ刹那――

 ジェノザウラーの右側の小盾が展開され、右側面をすれ違うディバイソンの頭部を()()()()()

 金属が拉げる大音響が、目標を外して岩盤を穿つ中口径榴弾の轟音にかき消された。

 小盾前方の打突面がディバイソンの装甲化された頭部をパイロットごと一撃でスクラップへと変換し、指揮中枢を失い硬直したゾイドだったモノを、ジェノザウラーは間髪入れずにまだ敵が潜む方向――進行方向正面へと蹴り飛ばす。

 大立ち回りを演じるジェノザウラー目掛けて、正面の岩棚から紫電が迸ったのはその直後だった。

 引き金を引いたデイビスが叫ぶ間もなく、宙を舞う首無しのディバイソンに収束口径208㎜のプラズマビームが命中。たっぷりと詰め込まれた105㎜多目的砲弾が一時に誘爆を引き起こし、哀れな骸を閃光の中に飲み込んだ。

 

 閃光と轟音、そして爆炎が隘路を舐め、吹き抜け、中隊で最もディバイソンの扱いに長けていた戦友を手も無く捻った黒竜を未練がましく撫でていく。

 

 狙撃用スコープをのぞいていたデイビスは、爆炎に照らされた中でも煌々と輝く敵の赤黒い双眸が。確かに、”嗤った”のを認識した。

 

 

 





ストライク・ジェノザウラーの突然生えてきた小盾は、ぶっちゃけゲル〇グMのスパイクシールド(スパイク無し版)です。

ノーマルのジェノトルーパーでは背部武装の側面にサブアームで保持する中型盾を装備しますが、クソデカブースターのお陰でスペースが背部マウントの重量を超過した結果、ストライク・ジェノザウラーでは肩甲骨の辺りに小型化され移設されました。

技研職員A「せっかくだし格闘兵装としても使える様にしようぜ」
技研職員B「現行のトルーパーのアームだと構えるだけで精一杯なんですがそれわ」
技研職員C「と言う事でアイアンコングの開発チームから腕の設計図面パチッて来たZE!」
技研職員D「ほなパワー余るしなんか仕込むかぁ」
技研職員E「クソデカHEAT弾頭仕込んで、殴った瞬間に装甲ごとコア焼くとかどうよ?」
技研実験小隊長F「盾に爆発物を仕込むな」(まがお)
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