西エウロペ戦役―砂塵の中の虐殺竜―   作:Ocean501

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公式から見たいものをお出しされたので初投稿です

ゾイド公式は現代の作画技術でゴリッゴリのバトスト風味アニメ作るんだよあくしろよくださいおねがいしますなんでもしますから





7th Sortie 残光

 

「クソッタレ!」

 

 悪態を吐きつつ、ディクソンは射撃位置から飛び出し、東へと延びる隘路へ針路を向ける。本能的に危機を感じたらしい愛機も素直に彼の指示に従い、盾にしていた岩を放棄し小石を弾き飛ばしながら岩棚を駆け下りていく。

 彼とデイビスが潜伏していた岩棚から背後の岩壁の上に続く道はあったが、尋常ではない敵の前面で遮蔽物の無い急斜面を駆け上がる蛮勇までは持ち合わせていない。まずは一刻も早く岩棚から退避し敵からの射線を切る必要があった。

 とはいえ、単純な速力勝負ならばカノンフォートはジェノザウラーの足元にも及ばない。東へ延びる谷底の隘路をただ逃げるだけでは、二階級特進への階段が数ミリ後ろにずれるだけだろう。

 

「デイビス! 当てなくてもいい! とにかく撃て!」

『りょ、了解!』

 

 味方撃ちをして呆然自失としているかと思ったが、背部砲塔に陣取る相方は意外にも状況に対応できていた。

 激しく揺れるカノンフォートの巨大な砲塔が滑らかに旋回し、敵を最後に確認したあたりの砂煙へ矢継ぎ早にプラズマを突き立てる。横に向けられた主砲が咆哮する度に、少なくはない衝撃が鉄牛を揺るがせる。

 

「シール2! シール・リーダー! 奇襲は失敗! 現在ポイントβへ退避中!」

『了解! シール3、援──』

『隊長⁉がっ──』

 

 通信機に相次いでノイズが走り、同時に小隊のデータリンクシステムが僚機のシグナルロストを告げる耳障りな電子音を響かせる。

 

『伍長殿! シール3の伏撃地点付近で爆発!』

 

 引き金を引き続けるデイビスの声には怯えが混じっていた。

 無理もない、彼は黒煙の中から伸びた閃光が戦友を貫き、火球に変える様を目の当たりにしたのだ。東側の崖の上に潜伏していた隊長機も、似たような末路を辿ったのだろう。

 サブモニターで砲火を向けている左後方を確認し、ディクソンは僅かに舌を打った。

 敵の射界を遮る砂煙が晴れるまでの猶予はあまりなさそうだ。熱探知はプラズマビームの連続着弾でまだ誤魔化せるだろうが、微光暗視装置ならば狙いをつけられてしまう。

 ようやく斜面を駆け下りたカノンフォートが、隘路の砂利道に僅かに足を取られながらも加速していく。コンソールにサーボモーターの過熱を示す表示が一瞬浮かぶが、すぐにコンバットシステム側から強制解除され、変わりに緊急戦闘出力(WEP)の毒々しい赤文字が躍った。

 

「スモークだ! 全弾バラまけ!」

『了解!』

 

 愛機をランダムに左右に跳ねさせながら、ディクソンは叫んだ。

 間髪入れずに、カノンフォートの砲塔側面にへばりついた多目的ランチャーから、気の抜ける音とともに数発のグレネードが連続発射される。弧を描いた発煙弾が弾けると、月明かりに照らされた隘路に白煙が湧き上がる。

 爆煙の中から崖上の味方を正確に射抜いた敵に、単なるスモーク・ディスチャージャーがどの程度の時間稼ぎになるのかを計算し、ディクソンは操縦桿を握る手を震わせた。

 西エウロペ(ここ)に来てから潜った死線の数は両手両足の指を合わせても足りないと戦友に語り聞かせてきたはずだが、この状況と比べれば遠足同然だと確信した。

 カノンフォートの時間差をつけた一斉射撃を躱し、至近距離の後方から放たれたディバイソン突撃砲の連射を躱し、そのディバイソンを盾で殴りつけて潰し、味方の犠牲を許容した一撃を嘲笑った。そして現状から考える限り、次に()()()()のは自分達だ。

 鋼鉄の蹄が固く踏み固められた隘路を叩くごとに、機体は前に進む。生命の危機を本能的に察知したゾイドコアは設計限界を超える出力を発揮し、背部砲塔が吐き出すプラズマの砲火を増幅させる。速度計が示す数値は舗装路でも見た事のない自己新記録を更新中。味方との合流地点まで、残り382m。今のところ、被弾なし。

 だと言うのに、逃げ伸びていると言う実感はまるでなかった。

 

「デイビス! 敵は──」

 

 見えたか? とディクソンが言葉を絞り出すよりも早く操縦席の真上を閃光が前へと走り抜けた。

 カノンフォートの絶叫とコンソールを埋め尽くす致命的な警報の濁流を他所に、ディクソンは正面の夜空に自分を追い越していく火球を見つける。

 突如出現した流星が、後方から襲い掛かったビームに切り飛ばされた愛機の砲塔の残骸だと認識した瞬間。

 

 第二撃として放たれた背部15cm高エネルギーライフルの一撃が、彼のカノンフォートを背部から刺し貫いた。

 

 ◇

 

「次だ」

 

 爆発したカノンフォートの残滓を突き抜けた先でフリッツとストライク・ジェノザウラーを待ち構えていたのは、隘路の先で開けた盆地を、こちらに向けて突っ込んでくるブレードライガーの1個小隊だった。楔形の突撃隊形、反撃を行う元気はあるらしい。

 ざっと周囲に視線を走らせる。元は谷間の湖だったらしい盆地は、緩やかなすり鉢状。植生は斜面の縁を除いて殆ど無い。天然のコロシアムと言った所だ。

 

『ポイントDに到達、大型高速ゾイドが機動戦を行える程度の盆地です。壁上からの狙撃に注意してください』

 

 エイルの報告とともに、盆地を取り囲む坂の頂上付近にいくつかのアイコンが表示される。この盆地は、敵の予想伏撃地点の第二候補とされた場所だった。

 事前の情報によれば、まだ敵にはディバイソンが2機にカノンフォートが1個小隊存在する筈だが、共和国軍は幾度となく祖国の窮地を救って来た獣王を投入しケリをつけるつもりらしい。

 その判断は間違ってはいない。

 近接格闘へとコンバットシステムを切り替えながら、目前に迫る3機の獣王にフリッツの口が歪む。

 登場当初、ジェノザウラーは確かに強力無比なゾイドではあったが、現在では格闘戦及び攻城戦も可能な近中距離砲戦ゾイドという立ち位置に収まっている。

 並の格闘ゾイドならば一方的に葬ってきたが、本来は素体の戦闘能力とオーガノイドシステム頼りの近接格闘戦闘能力であり、同じオーガノイドシステム搭載機のブレードライガー程に近接格闘に重きを置いた設計ではない。

ディバイソンを一撃で殴り倒した怪しげな装備を搭載している事を加味しても、彼らが得意とする(そしてこちらが不得手故に小細工を弄したと信じている)接近戦に活路を見出すのは無理からぬことだった。

 

「ッ──」

 

 軽く息を吐き、スロットルを全速に入れる。背部ブースターが暴力的なイオン流を吐き出し、追加装備によって150tに迫るストライク・ジェノザウラーを弾き飛ばした。強烈な加速度によりシートに押し付けられた体に、直ぐ傍のゾイドコアの脈動が木霊する。

 

「──そうとも」

 

 自身の趣味と愛機の性癖が過不足なく一致している事に歪な満足感を覚えながら、フリッツは今回の出撃に何とか間に合った左右一対の複合武装付属肢――オルトアームに再び意識を向けた。

 

 ◇

 

 イオンの輝きを背負ったジェノザウラーが、背部両舷のビームライフルのそれぞれ直下に据えたレールカノンを発砲。虚空を走った閃光は楔状の突撃体形を形作った先頭機を襲う。

 ブレードライガーの象徴の一つたるEシールドは、実体弾兵器に対して効果を持たない。また、現在のゾイドに広く普及している実体弾防御システムも、この状況では効果は薄い。

 並のブレードライガー乗りならば頭部をカチ割られていた射弾を、青色のブレードライガーは間一髪で左へ飛んで躱して見せる。四足捕食生物特有の靭やかな胴体を、至近距離を交錯した極超音速にまで達する12.8cm砲弾のソニックブームが震わせる。

 だが、回避によって僅かに乱れた隊列こそジェノザウラーが欲したモノだった。

 僅かに針路を左に修正し、孤立する形となった正面左の敵へ狙いを絞ると右オルトアームのロックを解除。L字型の小盾が僅かに身動ぎし、先端の打突面を獣王へと向ける。盾の先端をサブアーム側に90度折るようにして作られた打突面の中央には、無数の傷に囲まれた穴が一つ空いていた。

 対するブレードライガーにとって、そもそも正面戦闘は元から望むところだった。左右に展開したレーザーサーベルが月明りを掻き消す黄金の輝きを放ち、黒竜へと振りかざされる。

 

 一瞬の交錯の後、ブレードライガーだったモノが時速200㎞を越える速度で大地を転がった。

 

 大地を削りながら反転した残りの2機は、撃破された僚機──地面にたたきつけられ盛大に転がった頭部の残骸を一瞥し、ほぼ同時に戦慄する。

 

 共和国伝統の有視界キャノピーが存在しないのは、理解できる──機体が分解するほどのクラッシュで無事な方がおかしい。

 

 キャノピーの中の戦友が存在しないのも、了解できる──キャノピーごと吹き飛ぶのは、近接格闘機を操るゾイド乗りの宿命だ。

 

 だが、コクピットが存在した筈の頭部から下顎に向けて穿たれた大穴は──彼らの常識を超えていた。

 

 二人ともジェノザウラーとの戦闘経験は積んでおり、先ほどレールカノンを回避させられた小隊長に至っては、見知った相手ですらあった。そんな彼であっても、3番機をあのように料理する武装を、かの虐殺龍が備えていたという記憶はない。

 小隊長は意識を再び正面へと向ける。前方約800m地点で、敵は自分たちの反応を愉しむかのように悠然と構えていた。

 肩甲骨の辺りから小盾付のサブアームを生やした異形のシルエットを持つジェノザウラーの口には、輝きを失ったレーザーブレードが無造作に加えられている。

 威嚇するように掲げられた両のサブアームの内、右の小盾に太く長い槍のようなモノが吸い込まれていくのが目に留まり――3番機の武運がどのように刈り取られたのか大凡の察しがついてしまった。

 

 すれ違いざまにアームを伸ばし、盾に仕込んだ射突型ブレード(パイルバンカー)(おそらく、メタルZi製)で頭部を一撃。惰性で進むだけになった3番機の横をすり抜けながら、邪魔なレーザーブレードを咥えて圧し折りすれ違う。

 

 理屈は通る、戦場における反応速度という常識さえ無視すれば。

 

「なんてやつだ」

 

 怖気か、怒りか、悲しみか、あるいは――歓喜か。小隊長自身の口から零れた音が、酷く震えている事を一瞬遅れて知覚する。今更ながら、自身が対峙する相手が、これまでの相手とは文字通り格が違うと理解した。

 

 だが──

 

「ショーテル2! ブレイク!」

『了解!』

 

 虐殺竜を相手に引き下がったのでは、閃光師団(レイフォース)の名が廃る。

 ショーテル1、エルヴィス・ボイド准尉。前大戦に於いて目覚ましい活躍と凄烈な最期を遂げた部隊の生き残りは、今だ戦火の中に身を置いていた。

 

 ◇

 

 獣王が咆哮し、鋼鉄の四肢が大地を抉った。2機のブレードライガーが跳躍し、未だに様子を伺っているジェノザウラーを挟むように機動する。大型ゾイドに分類されるブレードライガーにとって、この一帯では比較的開けたエリアであるとは言えども、手狭なことには変わりは無い。

 

『敵隊長機にパーソナルマークを確認。おそらく、閃光師団の部隊章のアレンジです』

「残光か、ご苦労な事だ」

 

 焦りを滲ませるエイルに対して、フリッツの返答はどこか呑気さすら感じられた。

 共和国の最精鋭部隊であった閃光師団自体は、思いつく限りの栄光と凋落を存分に味わった前大戦の後に解隊されていたが、人員までも絶滅したわけではない。

 過去を懐かしんで(或いは部下、恩人、戦友、恋人を偲んで)、閃光師団の師団章をベースにしたパーソナルマークを用いるライガー乗りは多く、真偽不明ではあるがその総数はかつての師団の規模を凌ぐと噂されていた。

 一方で、そのような起源を持ち()()と呼ばれる彼ら彼女らは、当然のように玉石混交であり、敵対するものからしてみれば程度の予想がつかず面倒な相手であった。

 動き出した獲物に対応し、フリッツのジェノザウラーも咥えていたレーザーブレードを無造作に吐き捨てスラスターに灯を入れた。手始めに、左オルトアームの盾裏に搭載された3.7cm突撃速射砲をバラ撒きつつ、片方のブレードライガーに向けて突撃を試みる。

 直後、フリッツは自身の直観に従いジェノザウラーを横飛びに跳ねさせた。コクピットに響く警報から僅かに遅れて、盆地の淵から打ち下ろされた見覚えのある青白いプラズマが虚空を貫き、

大地を抉る。

 

『盆地の淵にカノンフォートを確認! 発砲位置のマーカーをハイライト表示します!』

 

 あらかじめコクピット上に投影されていた、敵の潜伏位置を予想していたマーカー群の一つが明るく光る。場合によってはこの盆地まで追撃すると決まってから、彼女が手動で打ち込んだマーカーだが、誤差は殆どない。戦場における正確な予測は、金塊よりも価値があった。

 確かに、これならば士官学校で主席を争う位置に居たのも頷ける。

 

「他に敵は見えるか? ディバイソンは?」

『ネガティヴ。ですが、一射目の配置から或る程度は絞りこみました。ディバイソンは捜索中です』

「了解。ツィーテン、撃っていいぞ」

 

 命令を下した直後、先ほどフリッツへ砲撃を仕掛け陣地転換中のカノンフォートに、彼方から迸った紫電が突き立つ。集束口径20.8cmの閃光に打ち抜かれた中型砲戦ゾイドは、誘爆する間もなく鋼の肉体を四散させた。

 

『もうちょっと独演会を続けてもらっても良かったんですがね、小隊長殿』

 

 鮮やかな狙撃には似つかわしくない、鳥撃ちでもしているかのようなツィーテンの声がインカムに響く。

 

「いつまでも観客では君も暇だろう。なんならライガーも片付けてくれても構わない」

『それも悪く──ッと!』

 

 通信が乱れ、ノイズの向こうから弾着の轟音が遠雷のように響く。向こうもカウンタースナイプを行う程度の余裕はあるらしい。

 

『お気持ちだけ有難く、こっちはこっちでドンパチしときますよ』

『ツィーテン機、カノンフォートとの交戦に入りました。数は2』

「空爆はそっちに回せ、全弾使っても構わない」

『未発見のディバイソンへの抑えが無くなります』

「君の目で十分だ」

 

 通信中に右から突っ込んできた隊長機のブレードライガーを、シールドバッシュで無造作に弾いた。宙を舞うブレードライガーに、左の小盾裏に搭載した3.7cm突撃速射砲を浴びせる。1秒強の斉射で吐き出された10発の炸裂徹甲弾が、青い装甲の表面で戯れるように弾けるが目立った効果は無かった。

 相手が器用に空中で体をひねり、最も装甲の厚い部分を向けてきたのもあるが、所詮は対人対非装甲兵器に過ぎない。大型ゾイドに対する効果は期待するのが野暮だった。

 やはり通信中に近接戦闘などやるものではないと自戒しつつ、右盾のコンデンサ容量を確認。チャージ完了まで残り3秒。

 

「2分隊から連絡は?」

『ありません、以前捜索中』

「よろしい。ではもう少し揺さぶる。未発見のディバイソンが攻撃を開始したらツィーテンに連絡。最優先で攻撃」

『了解──』

 

 打てば響くような返答の後に、逡巡するような間があった。

 

『お気をつけて』

 

 ◇

 

 そのセリフが自身の口から飛び出した事実に、エイルは僅かに動揺する。

 不必要な通信は戦闘中の通信士官のあり方として正しくはなく、害悪ですらある──という生真面目な部分が発露したわけではない。

 

 なぜ、ボクは……

 

 問題はそれよりもずっと深く。彼女のあり方の根幹に対する疑問だった。

 背後でニマニマと愉しげに観戦する女伯爵と同程度。否、自身にとって■■■■■■■■は、モニターの向こうであの時と同じように再び虐殺に興じようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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