『天空の明星』   作:みなつき

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『第十一話』

 ぼーっと想は空を眺める。

 まだ先日の一件が尾を引いていた。

 予想以上にショックが大きかったようで、穂波と話したことは誰にも打ち明けられていない。

 授業をいくつかサボって屋上に来ていたが、前みたいにスマホから音楽を流すこともしていなかった。

 我ながら重症なんだと思う。

 アレ以来色んな事に身が入らない。この間に一回入ったバンドでの練習で散々志歩に叱られた。

 それでらしくないと幼馴染三人ともに心配されたのだから世話が無い。

 

「そろそろ切り替えないとなぁ」

 

 いい加減この調子ではいけないと想自身も分かっていた。

 穂波の件をすっぱり諦めるにしろ、もう一度なんとか取りなすにしろ周りに心配をかけるようではいけないだろう。

 ひとまずスイッチ入れるためにとスマホの音楽アプリを開いた。

 そのタイミングで、

 

「おや、先客がいたとは」

 

 屋上に繋がる扉を開いたのは背の高いどこか飄々とした雰囲気を纏った男。

 その相手を見て、想はスマホを一旦閉じた。

 

「授業サボりはどうかと思うよ、類」

「ふむ、それはさすがに今の君に言われたくはないかな」

 

 なんかこの前も似たようなやりとりした気がする。

 そんなことを考えている想に構った様子もなく屋上へ入ってきたのは神代類。

 この神山高校には変人ワンツーと呼ばれる二人がいる。

 一人は天馬司。常に大声で、変な事を言っていれば変人と称されるのに不足はない。

 そしてもう一人がこの神代類。

 ショーと称して、何かしら騒ぎを起こすのは日常茶飯事。こちらも変人である点は司にも劣らない。

 そんな類とも想はそれなりに知った仲だ。

 司とは別の意味で年上なのにため口に躊躇いの無い相手。

 しかし、司と類とも関わることで下手したら想も変人スリーとして仲間に加えられかねないという話があったりなかったりするらしい。

 遺憾だと思う。

 

「と、言うか一応こっちの高校から授業には出るほうじゃなかったっけ類は」

 

 めずらしー、と想はからかい口調。

 

「そうだね……まぁ今の君と同じ、少し風に当たりたくなったのさ」

「さいですか」

 

 前に志歩に分かっている風なのがムカつくみたいなこと言われた気がしたが、今なら想もその気持ちが分かる気がした。

 類はどこかこちらのことを見透かしたような喋りをする。

 これと同類かぁ、と想はどことなく複雑な気持ち。

 とはいえ、類は瑞希と似た独特の距離感があるため下手に踏み込んでこない。類のほうから距離を保っているともいうか。

 類と瑞希とはままこうやって屋上で話すことがあり、お互いがお互いに独特な距離を保っていたなと思い出す。

 当の類は適当なところに座り込んで、カバンから取り出したドローンを弄っている。

 変人ながらこういった機械技術には長けている人物だ。

 それでしょっちゅう校内にドローン飛ばしているのだから風紀委員や教師からはいい迷惑だろう。

 

「そう言えば司に誘われて、今はフェニランのほうでショーしてるんだっけ?」

「……どうして知っているのか、なんて言うのは野暮かな」

「まぁ情報源は司から」

 

 そもそも、司が類を探している時に情報を渡した一人が想だ。

 ちなみに司がショーの人材を探している時に想の姉である廻にも声をかけたがあっさり振られたらしい。

 閑話休題。

 

「それにしても、何かあった? 喧嘩でもした?」

 

 助走もなにもなく投げられた言葉に類は一瞬目を瞠った。

 だが、すぐに人を食ったようないつものうさんくさい笑みに戻る。

 

「なんでそう思ったんだい?」

「殆ど勘。だけど、司の話が出た瞬間、ちょっとささくれ立った」

 

 ほんの一瞬だが先程の類の言葉には棘を感じた。気のせいだと言われれば流れてしまいそうほど些細なものだったが。

 

「おやおや想くんのセンサーは僕が思っている以上に敏感みたいだ。ふふ、何かに使えるかもしれないね」

「……誤魔化すなよ」

 

 煙に巻こうとした類の態度に想は少し躊躇ったものの追及を止めなかった。

 いつもなら、煙に巻かれても気にしなかったかもしれない。

 

「まぁ、司がなんか言ったんだろうけど許してあげなよ。そりゃ余計なこと言いがちなやつだけど」

 

 どっかで失点を取り返そうとしているのかもしれない、と想はぼんやりと思う。

 ここで取りなせたとしても何も取り返せたりはしないのに。

 

「何かやったのは彼のほうって決まっているのかい?」

「お前ら二人でやらかすなら司だろうなってくらいには」

 

 少なくとも何かやった時のリカバーは類の方が圧倒的に上手い。

 

「まぁでも喧嘩で傷を比べ合っても意味ないんだし、大人な方が許してあげないと」

 

 それに、

 

「けっこー似た者同士なんだから、喧嘩別れなんてしたらもったいない」

 

 想がそんなことを口にした瞬間気配が剣呑になった。

 類はいつもの笑みを携えているが、絶対心の中では笑っていない。

 地雷踏んだなぁ、と自分事ながら俯瞰。

 

「どうして、そう思うんだい」

「どうしてって……」

 

 改めて訊かれると返答には困るが。

 

「表面的なところってよりは本質的なところ、かな。改めて言葉にするのは難しい」

 

 多分、『セカイ』でミクが言っていた『想い』みたいなところだろう。

 明瞭な言葉にするのは難しい部分で似ているのだと想は感じていた。

 

「そういうものかな」

 

 いつの間にか剣呑な気配は消えていて、それでも類の笑みはどこか困っているように見えた。

 

「ま、俺が言えた義理じゃないんだけどね。ホント」

 

 これ以上深く追求しても類は何も口を割らないだろう。と、言うかこれまで決定的な言を引き出せていない時点で撤退安定。

 適当に自虐を入れて誤魔化そうとして、

 

「おや、想くんこそ何かあったのかな?」

 

 盛大に墓穴を掘ったことに気づいた。

 

「何かあったっていうか、俺が盛大にやらかしただけ」

 

 どうせ瑞希と同じように、屋上に来た時点で想になにかあったと察しがついていたのだろう。

 それならばいっそ開き直って、つつき返された分は盛大に愚痴らせてもらう。

 まったくお互いにらしくないと思うが。

 

「古い馴染みと久しぶりに会って、泣かせた。それでいたたまれなくなってここにいるわけ」

「想くんは結構口が上手い方だと思うけど、それで泣かせたって言うのは相当だね」

 

 ほっとけ、と小さく悪態を吐いて想は空を見上げる。

 

「正直、どうにかしたいと思ってる。けど、どうしたらいいか分からない」

「どうすればいいか、なんて謝るしかないんじゃないかな」

「ド正論」

 

 類の口から放たれた正論に想は思わず顔を覆う。

 言われるまでもなく分かっていることなのだが、改めて他人に言われると穴があったら入りたくなる気持ち。

 

「まぁ謝っても許してくれるかはその人次第だけど──」

 

 ふと、類の視線がどこか遠くなった。

 

「もしかしたらその人も許し方が分からなくなっているのかもしれないね」

「……類?」

 

 すっと想のほうに向けた類の顔はいつもの食えない顔。

 気のせいではないだろうが、多分さっき以上に類は触れられたくないのだろう。

 

「しかし想くんから女の子のことで相談があるなんて、貴重な経験かな」

「相手が女の子って言ってないんですけど?」

「いやいや、君の語り口から予想できるさ」

 

 確かに男が男を泣かせた話なんて正直気味が悪いから普通は想像しないだろうが。

 それでも性別に触れて無かった部分にわざわざ触れるあたり性質が悪い。

 それに、

 

「瑞希も類も、人のことなんだと思ってんの。相談事したくらいで」

 

 瑞希の時もそうだが、相談事している時に想を見る目が珍生物を見る目なのだ。

 そんなに可笑しいことでもないはずなのに。

 

「おや瑞希にも似たような事したのかい。しかし想くんを何だと思っているか、かい」

 

 ふふっ、と微笑を浮かべる類。

 あまりいい予感はしないなぁと想はぼんやり思う。

 

「『人』という漢字が「人と人が支えあってできている」なんて言葉を知っているかな?」

 

 勿論この俗説は間違っているのだけれど、と類は丁寧に注釈まで入れてくれる。

 

「ドラマの影響で広まった言葉でしょ。それが?」

「ああ、そうだね。だけどそれに対して『人』という漢字は支えあっているのではなく片方が支えているのだと唱える人もいる」

 

 何かの講義を受けているような遠回りな説明。

 しかし、類はこういう話させるの異様に似合うなと想は半目。

 

「君はその支えている側なんだよ、想くん。誰かを支えて『人』という漢字を成り立たせている」

「なにそれ」

「分かりにくかったかな?」

「いや、言いたいことは分かるんだけどそんなご大層なモンじゃないが」

 

 この前も志歩に献身的だなんて言われたが、想自身がそんな立派な志を持っているとは思っていない。

 

「そうかもしれないね。でも君は自立しているというわけでもない、誰かを支えることで『人』を成していたのだと僕は考える」

 

 その類の言葉で少しだけ腑に落ちた。

 独立独歩というわけでもない、誰かを支えるということで他人を必要とした生き方。

 そしてそれは誰かを頼るより──

 

「なんか歪」

「そういう認識はちゃんとあるんだね」

 

 苦笑を浮かべる類。

 

「でも、今の想くんは誰かを支えるだけじゃない支えあえる『人』になろうとしているように見えるよ」

 

 前ならこんな相談僕にはしなかっただろうしね、と類は付け加える。

 

「わざわざ他人のこと切開しておいてその言い草」

 

 先程の類の言葉は想自身が分かっていなかった一側面をつまびらかにした。

 本当に歪だったんだと思う。

 だけど、類の言う通りならそうじゃなくなってきている。

 それは言わずもがな、幼馴染達の手によって。

 で、あるならば現状はまだ足りない。

 想が取り零してしまったひとかけら。そのピースは本当に大事なものだと。

 少しだけくよくよしていた気持ちが晴れた気がする。

 

「なんかありがと。類」

「ふふ、どういたしまして。まったく僕もちょっとらしくなかったかな」

「それは言えてる」

 

 少し前なら類は想のことをここまで深掘りしなかっただろう。

 適度な距離を保って、その距離感に安堵を覚えていた。

 想が変わっていると言うように、類にも少しくらい変化があるのかもしれない。

 そんな事をぼんやりと考えていると、スマホに着信が入った。

 

「失礼」

 

 類に断りを入れて、少し離れた場所で着信に応じる。

 画面に表示された相手の名前は天馬咲希。

 いつの間にか授業が終わっており、放課後の時間を告げている。

 

「もしもし、咲希。なんかあった?」

 

 珍しく催促の電話か。そうでもなければ急用か。

 電話口の咲希の声音で後者であることは察しがつき、

 

「は?」

 

 告げられた内容に想は思わず素っ頓狂な声を上げた。

 類の方を一瞥すると、気にせずドローンを弄っている。それを確認し、もう少し距離を取る。

 

 

 

「一歌と穂波がいなくなった……?」

 

 

 

─────

 

 

 

 一歌に手を取られて、やってきたのは『セカイ』。

 案外簡単に来られるのだと、かすかに残った冷静な部分で穂波はそんなことを考えていた。

 放課後に一緒に来てほしいと言われ、断ることもできず気づいたらこんな場所に来ている。

 

「穂波、こっちだよ。屋上に行こう」

「屋上?」

 

 一歌に誘われるままに穂波は後ろについていく。

 ──心がひりつく。

 あの時の想の顔が忘れられない。穂波が傷つけたと分かる想の顔を。

 また、また自分は同じことを繰り返してしまうのではないか。

 曇った心のまましばらく一歌についていくとやがて開けた場所に出て、

 

「……! 星が……こんなに……!」

 

 穂波が見た光景は満天の星空。

 

「こんなにきれいな星空……初めて見た……」

 

 恐らく都内でこのレベルの星空はお目にかかれないだろう。

 ここまで澄んだ空を見るにはどこまでいかなければいけないのか。

 

「うん、驚いちゃうよね。咲希も志歩もびっくりしてたよ。想は驚いていたのかな……? どこか納得してた顔してた」

 

 この光景を目の当たりにした幼馴染達の様子を伝えられ、穂波にはその様子が鮮明に思い浮かぶ。

 

「……昔、近所の公園に、流星群見に行ったの覚えてる?」

「……うん」

 

 忘れるはずがない幼かったころの思い出。

 その流星群は穂波の原風景とも言えるようなもの。忘れていいはずがない。

 

「いつも遊んでる公園なのに夜だと雰囲気が違ってて、みんなで公園に行くまでの道も、冒険みたいな感じがして……」

 

 子供たちだけで夜の公園に向かったのはどこか背徳的で、一歌が語るように穂波も幼心に冒険心をくすぐられたものだ。

 

「そういえば咲希が、あの時みたしし座流星群のこと、カニ座流星群だっけ? って言ってたよ」

 

 その後の想のツッコミもキレがよかったな、と一歌は楽しそうに語る。

 

「……もう、咲希ちゃん、あの時、何回も説明したのに……」

 

 中々流星群の名前を覚えない咲希に半泣きになるくらいに説明を繰り返した思い出が甦る。

 それにしても想が咲希にツッコミを入れる光景は傍で見ていたかったと思ってしまう。

 

「咲希は途中から、変な星座作り出してたよね。パンダ座とか、ツインテール座とか」

「ふふっ、そうだったね。志歩ちゃんまで『こっちからだとベースに見えない?』って言いだして……」

 

 星座自体、昔の人が星々の形から連想したものが伝わってきたもので咲希や志歩が適当に星座をあてがった行為は別段おかしくない。

 でも当時の穂波はその適当さを許せなくて、咲希と志歩に何度も何度も違うと説明した。想まで巻き込んでいたのはご愛嬌。

 そんなことを思い出して、どこかおかしくなって穂波はいつの間にか笑っていた。

 

「……よかった、穂波、笑ってくれた」

「あ……」

 

 穂波が笑ったことに安堵したように一歌は微笑む。

 少しでも穂波の心を解そうと、一歌は昔の話をどこかおかしく話したのだ。

 

「ねぇ、穂波」

 

 名前を呼ばれて穂波の肩が小さく震える。

 

「私、やっぱり五人でバンドやりたい」

 

 改まった一歌の言葉。

 その言葉はどうしようもなく穂波の心の奥深くへ刺さる。

 

「それで、穂波にもっとそうやって笑っててほしい。──もっと一緒に笑ってたい」

「一歌ちゃん……」

 

 その言葉は先日想にかけられた言葉と似ていて、それよりもっと直截な、

 

「穂波。私達、もう一度一緒にいられないかな」

 

 

 

 一歌の言葉に手が震える。

 脳裏に思い浮かぶのは中学生の時の級友の心無い言葉。

 酷く傷つき、裏切られたと思った。

 もう二度とあんな思いはしたくないと。

 

 

 

「わたしは……わたし、は……」

 

 

 

 震える手をもう片方の手で押さえ、強く握る。

 

 

 

『ほなちゃんには、今の友達を大事にしてほしいなって思ったの!』

 

 勇気を振り絞って、寂しさを隠して穂波のことを想ってくれた幼馴染。

 

『わからない? 誤魔化さないでよ。穂波は、咲希が泣いてていいの!?』

 

 穂波の弱さを糾弾しながらも、その言葉は穂波を想っていた幼馴染。

 

『──もっと一緒に笑っていたい』

 

 穂波を想って、もう一度と言ってくれた目の前の幼馴染。

 

 

 

「……っ」

 

 

 

『傍にいるってのは嘘にしない』

 

 

 

 ああ、本当に馬鹿だな。

 もうとっくに心はあの時に振れていて、それでも都合のいい逃げ道を探していた。

 こんなにも想ってくれている幼馴染達を、今度は穂波が裏切っていた。

 『本当の想い』を無視して、それで自分が傷つかない振りをしていただけ。本当は心が悲鳴を上げていたのに。

 『もう一度』という言葉は二回目で、ここで振り払ってしまえば三回目はない。

 反射で振り払った一回目には本当に申し訳ないことをした。

 だからこそ、

 

 

 

「……わたし、本当にダメだね……」

 

 

 

─────

 

 

 

 栗空想は『セカイ』をひたすら走っていた。

 咲希から一歌と穂波がいなくなった報を受けて、即座に『セカイ』に行ったのだと判断を下した。

 その判断を咲希に伝えた後、類に適当言って屋上から駆け出してから人目に付かない場所で『セカイ』へ飛ぶ。

 いつもの教室には誰もいなくって、咲希や志歩との合流を後回しにしてその教室から想は飛び出して走った。

 いくつかの教室を開けた後、一歌が穂波を連れて行くなら一つしかないとその思考の鈍さに臍を噛む。

 そしてひたすらその場所に向かって走っていた。学校の廊下は走ってはいけませんなんて当然のルールは無視。

 想は自身が走っている行為は無駄な行為だと思う。

 急がなくったって一歌がなんとかしてくれる、心のどこかでそう囁く。

 でも、それではいけない。

 先日、穂波と話していた時のことを思い返す。

 あの時自分は本気で穂波と向き合っていたか?

 小賢しい理屈をこねくり回して、穂波を説得しようとしていなかったか?

 穂波を泣かせるのは当然だ。結局『本当の想い』を伝えていない。

 だから、このまま決着を迎えたらしこりを残す。

 後悔しないために、走って、走って、

 

 

 

「穂波!!」

 

 

 

 開けた屋上で目的の人物を見つけて、名前を叫んだ。

 驚いた顔をして振り返った穂波は、

 

「想くん……!?」

 

 小走りで慌てながら近寄ってくる。

 そんなに長い距離を走っていたわけではないが想の息は上がっている。

 前傾姿勢で息を整える想を心配そうに穂波は窺う。

 

「ごめん、穂波」

「え……?」

 

 唐突な謝罪に穂波は疑問符を浮かべている。

 

「この前穂波を泣かせて、俺が悪かった」

 

 あっ、と小さく声を漏らして穂波はバツの悪そうな表情を浮かべた。

 

「そんなの……アレは私の方が悪くって……」

「どっちが悪かったとかじゃない。俺が、俺の都合で穂波を泣かせたってことに謝りたかった」

 

 じゃないと納得できない。自分自身へのけじめ。

 

「想くん……ううん、いいんだよ」

 

 かぶりを振る穂波。

 ひとまず泣かせたという件については和解の成立。

 

「その上で──」

 

 息を整え、顔を上げる。

 これから先言う事は少しだけ勇気がいる。

 でも、

 

「俺は穂波と一緒にいたい!」

 

 この『想い』は伝えなければならない。

 

「────っ!?」

 

 穂波の顔が一気に真っ赤に染まった。

 

「こんな当たり前のこと先に言うべきだった」

 

 そうだ、『本当の想い』を言わずに小賢しい理屈を並べたって空虚なだけだ。

 そんな仮初の言葉に意味はない。穂波を泣かせたのも当然の成り行きだ。

 

「こんな単純な事今まで口にしなかった。だけど、俺は幼馴染『皆と』一緒がいい。誰か一人が欠けるなんて嫌だ」

 

 だから、と言い連ねようとして咽た。

 走ってきて、その勢いのまま喋った反動。

 

「想、大丈夫!?」

 

 げほっとせき込む想に一歌が心配そうに近寄ってきた。

 

「ああ、だいじょう……ぶ」

 

 

 

 そう、一歌だ。

 

 

 

 穂波と一緒に想を心配しているのは星乃一歌。

 

「あーあー……」

 

 今度は想の顔が真っ赤に染まる。

 勢いのまま自分は何を喋っていた? この一瞬で既に思い返したくない言葉の数々。

 そもそも一歌と穂波が一緒にいなくなって、想だって『セカイ』に来た当初は当然そのことは頭に入っていた。

 だから穂波を探した先には一歌が一緒にいるのは当たり前で。

 そんな当たり前に気付かず、穂波を見つけた時に傍にいる一歌に気づかないほどにいっぱいいっぱいだった。

 ディテールを気にしている余裕はなく、穂波に言った言葉の数々は飾り気のない本音。

 その上、今思い返すとここにたどり着いた時点で穂波の表情はどこか穏やかだった。

 で、あるならば既に一歌によって穂波の心は解けており。

 

 

 

 ──最悪なタイミング。

 

 

 

「想くん……?」

「想、やっぱり大丈夫じゃないんじゃ……」

 

 フリーズしてしまった想に二人は心配そうに声をかける。

 だが、返事をする余裕は想にはない。

 確かに一歌に穂波が説得されている可能性なんてことは頭に入れていた。

 その上で『本当の想い』をぶつけるのはしこりを残さないために必要なことだっただろう。

 だけどよりにもよってその説得直後はなんとも間が悪い。

 その上、想は自分自身が言った何の装飾も無い恥ずかしい言葉を思い返し、

 

 

 

「ギャース!!」

 

 

 

 屋上に叫びが木霊した。




いよいよメインストーリー編が終わりに近づいてまいりました。

大筋は原作プロセカと同じにしつつ、オリ主の存在がどう影響を与えるか。
本当に小さなことですが、『Leo/need』の彼女たちの心を揺らせていたらと書いています。

最初の類とのやり取りは割とお気に入り。細かいところですが類だから吐かせられた重要な情報もあったりなかったり。
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