『天空の明星』   作:みなつき

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『第十六話』

「栗空、なんでお前がここに呼ばれたか分かるか?」

「まぁ先日の遅刻の件でしょうかね」

 

 想は生徒指導室で強面の生活指導の教師と顔を突き合わせるはめになっていた。

 理由は勿論先日遅刻した件について。

 

「分かっているならいい。まぁ俺もそこまで口うるさく言う気はない」

 

 腕を組みながら大仰に溜息を吐く大寺吾朗先生──通称ゴロー先生。

 顔は強面ながら生徒思いであり、生徒人気は悪くない。

 ただし怒らせれば鬼の形相。生活指導の教師ということもあり、札付きどもには恐れられている。

 今現在生徒指導室で詰められている想はあっけからんとしていた。

 

「一応お前んちの事情は理解している。サボるのはともかく遅刻に関しては多少のお目こぼしはしよう」

 

 想の家──栗空家では両親が忙しくしており家を空けがちだ。

 そのため家のことは廻と想の二人で回すことになっている。

 家の雑事で慌ただしくすることもあり、想が遅刻することがままある事情だ。

 先日幼馴染に対しては笑い話にしたがそれなりのワケあり。ただ、こんなことを引き合いに出してもしょうがないのでわざわざ話したりはしないが。

 

「とはいえ、今回でイエローカードだ。今後はもう少し気を付けるように」

「委細承知いたしました」

 

 慇懃無礼に頭を下げる想にゴロー先生は渋い顔。

 何も生徒指導室で向かい合わせになるのが初めてではないので、想の態度が若干気安い。

 

「まったく馬耳東風とはお前のことを言うな」

 

 やれやれと言わんばかりにもう一度大きく溜息を吐くゴロー先生。

 ただし、想がギリギリのラインを見極めているのは理解しているのもあって小言は、

 

「そもそも栗空姉のほうは無遅刻無欠席を一年生から通しているんだ。お前のお目こぼしは相当な温情ってことを理解しろ」

 

 全然控えめにならなかった。

 確かに姉の廻は一年の頃から無遅刻無欠席だ。姉弟がいるとこういう時比べられるのが痛しかゆし。

 一応、想が家のことで忙しくていたのはバイトを詰めていたのも理由の一つ。

 理由は言わずもがな咲希のお見舞いを増やそうとしていたからで、高校生になって大手を振ってバイトできるようになったため日数と時間を増やしていた。

 とはいえ、咲希も早い段階に退院となったため、その事情で遅刻していたのは少し前までのこと。

 だから、

 

「まぁ最近のお前さんは遅刻に関しちゃ滅多にしなくなっていたんだがな……何かあったのか?」

 

 本題はそこかー、と想としては何とも言えない部分を突っつかれる。

 詳しい事情は当然話せない。話したとしても教師の立場から理解してもらうのは難しい。

 ならば簡潔にまとめるに限る。

 

「環境の変化ってところですかねぇ。それが先日ちょっと崩れたんで遅刻と相成りました」

 

 ざっくりまとめるとこうなる。

 咲希が退院したことも、その咲希の登校に付き合うようになって早めの通学になっていたことも。

 結局のところの環境の変化だ。

 とはいえこんな風に説明したところで理解は得難い。

 当然ゴロー先生は眉根を寄せている。

 

「からかっている──ってわけでもないようだ」

 

 強面ながらこういった機微には結構敏感なゴロー先生。

 そういった裏の事情を勘案してくれたりするから生徒人気が顔の割に高いんだよなぁと想は俯瞰気味。

 

「まぁいい。その環境の変化とやらで今後はどうなる?」

「先のことまではなんとも言えませんが、しばらくは問題ないですよ。今回みたいに崩れたりしなければ遅刻も滅多にしないでしょう」

「ならいい。まったく暁山といい神代といい生活指導としては問題児が多くて頭を抱えたくなる」

「すみません、その二人と一緒に数えられるのは心外なんですけど」

「こっちからしたら一緒だボケ」

 

 ボケときたかボケと、と想は半目。

 確かに問題児という括りでは想も同類か。細かな違いなど指摘したところで意味はない。

 

「今日のところはここまでだ。ほら、さっさと出ていけ」

「呼び出しかけといて終わったら追い出すの酷くないです?」

「お前も茶が出るわけでもないところにいつまでもいたくないだろ」

 

 確かにいつまでもいたいわけではない。

 しっしと追い払われて想は生徒指導室を退室する。

 

 

 

「あれ、想じゃん。ここから出てくるってことは何か悪いことしたの?」

 

 生徒指導室を出たところで一人の女子生徒と出くわした。

 白石杏。

 彰人や冬弥と同じくストリートで活動している女の子。

 今はその二人ともう一人──彼女曰く『相棒』を加えた四人で活動を始めたとかなんとか。

 

「まぁ、ちょっとね。そっちこそ風紀委員の用事かなんか?」

「そんなとこ。ちょっと先生に呼ばれてねー」

 

 生徒指導室は職員室の隣に併設されており、今みたいに職員室から出てきた知り合いの生徒と出くわすなんて話は少なくない。

 生徒としてはこんな風に出くわすのはバツが悪いが職員室の隣に生徒指導室があるのは職員側の利便性か。

 

「でもちょうどいいね。これからウチに来る予定だったでしょ、一緒に行こうよ」

 

 確かに今日の放課後想は杏の家──彼女の父親が経営している喫茶店に向かう予定があった。

 理由は杏の相棒と会うため。

 以前想が零した会ってみたいという言葉を拾った形だが、引き合わせて何を企んでいるかまでは想には見当がつかない。

 とはいえ想自身が零した言葉が切っ掛けだ、今更その言葉を翻したりはしない。

 

「──って、もう引っ張ってるじゃん」

 

 

 

──────

 

 

 

「父さん、ただいまー!」

 

 カランコロンと扉の鈴が鳴る音と共に杏と想はストリートの奥にある喫茶店へと入っていく。

 

「お邪魔しまーす。謙さん、お久しぶりになりますね」

「ああ、帰ったか。そして久しぶりだな、想」

 

 ライブカフェ&バー「WEEKEND GRAGE」。

 その主人たる渋い顔した壮年の男性、白石謙はカウンターから顔を二人に向けるさっぱりとした挨拶をする。

 

「弦のやつは元気か?」

「ええ、元気ですよ。この前友達連れて行ったら余計なことペラペラ喋るくらいには」

 

 杏の父親である謙は、想の叔父である弦とは旧友の関係だ。

 ストリートでは『伝説の夜』と呼ばれるイベント『RAD WEEKEND』。

 謙はそのイベントを行った張本人の一人。

 そのイベントには弦も携わっていたという話は想も聞いている。

 

「そいつは、弦のやつもさぞかし楽しかったんだろう。お前がわざわざ友達を連れて行ったってんなら」

「さいで」

 

 杏と一緒に適当にカウンターの席に座りながら想は半目になった。

 謙の見解はともかく、まるで人が友達も連れていかないぼっちみたいな扱いはいたたまれない。

 

「連れて行った友達ってアレ? 前にバンドを組んだっていう」

「それであってる」

 

 ふーん、と杏は適当に頬杖をつきながら想を見やる。

 

「私はてっきり彰人達と組むんだと思ってたよ。それでバンドやるのも意外」

「意外っていう程? それに彰人達とは合わないって前に話したでしょ」

「そうだけどさー」

 

 バンドを始めたら意外と称され想としては複雑な面持ち。

 そんなに向いてないとも思わないのだが、杏としては違ったようだ。

 

「だって想ってば──」

 

 杏が何かを言おうとした瞬間、店の扉の鈴が鳴る音が響く。

 誰かが来店したのか想と杏は同時に振り向いた。

 そこにいたのは、

 

「やっぱ想のやつ先に行ってたじゃねぇか」

「しょうがない、一緒に行くという話はしてなかったからな。入れ違いになったのだろう」

 

 不機嫌そうな面をぶら下げた彰人と淡々とした冬弥。その二人──否。

 二人の影に隠れているがもう一人いる。

 

「こはねー!」

 

 杏が椅子から降りて、彰人と冬弥に隠れてる少女に向かい抱き着いた。

 

「あ、杏ちゃん……」

 

 帽子を被った小柄な少女は杏に抱き着かれてあわあわしている。

 

「それにしても珍しいね二人がこはねと一緒に来るなんて」

「別に、ちっせぇのが見つからなかったら別のちっせぇの見つけただけだ」

「ここに来る途中で小豆沢と会ってな。どうせ同じ場所に行くのだからと一緒になったんだ」

 

 へぇ、と適当な相槌を打つ杏。

 しかし想としては聞き捨てのならない言葉が聞こえていた。

 

「おい、彰人。誰が小さいと誰が」

「お前以外に誰がいんだよ」

「喧嘩売ったな? 買うぞ?」

「その言葉はせめて席から離れて言え。のんきに水飲みながら言うことじゃねぇよ」

 

 売り言葉に買い言葉だが丁々発止とはなっていない。

 お互いに臨戦態勢にもなっていなければ剣呑な空気もない。この程度では喧嘩に発展しない気安い関係ゆえの軽いジャブだ。

 

「はいはい。こはねが困ってるでしょー。とりあえず紹介しなきゃなんだから」

 

 そう言って杏は帽子の少女を引っ張ってきて想と彰人の間に割って入る。

 そして想に向かって帽子の少女を前に出した。

 

「この子が私の相棒のこはねだよ」

「えっと、小豆沢こはねです」

 

 ぺこりとお辞儀をして丁寧な挨拶をする帽子の少女──小豆沢こはね。

 それに倣って想も頭を下げる。

 

「俺は栗空想。よろしく、小豆沢さん。急に得体のしれない男と会わせられて困惑しているよね。こっちのわがままでごめんなさいね」

「い、いえそんなことはないです」

 

 手を振って迷惑でないとアピールをする。その姿はどこか小動物を彷彿とさせた。

 

「ったく、人のことを猫かぶりだとか言ってるやつも大概じゃねぇか」

「聞こえてるぞ、彰人ー。小豆沢、さんみたいな子に対して、初対面でつっけんどんに接するわけないでしょー」

 

 呆れたような彰人の声に想は反駁する。

 地獄耳かよ、と悪態が聞こえてきたがこれ以上の追及はよしておいた。

 

「あっ、栗空くん、もしかして気をつかってる?」

 

 彰人につっかかっている様子を見てこはねが小首を傾げた。

 

「喋りやすい風に、名前も好きに呼んで大丈夫……だよ」

 

 彰人とのフランクなやり取りを見て──その前の杏とのやり取りも含めて。

 更に苗字で呼ぶのを不慣れなところまでバレバレだ。

 気をつかわせたなぁ、と想は反省。

 わざわざ相手の方から口調を砕けさせてきた辺り大分気をつかわせた。

 

「喋り辛そうだったかな? まぁそういうことなら普通に接させてもらおうか、こはね」

 

 とはいえここで頑なになると相手の方に負担をかけるので、気兼ねなく想も口調を砕けさせる。

 昔から幼馴染を筆頭に相手の事を苗字ではなく名前で呼ぶ癖がついているため、名前で呼び捨てにしていいということなら気が楽だ。

 

「それで、想から見てどーよ私の相棒は」

 

 杏としてはこはねは相当自慢の相棒なのだろう。わざわざ胸を張りながら想に感想を訊ねてくるとは。

 ふむ、と想は改めてこはねを見る。

 そして、

 

「意外、というか普通な感じだね」

 

 直截に明け透けに想は言い放った。

 

「そ、そうだよね……私にこれといった特徴無いし……」

「想ー」

 

 しまった、と想は臍を噛む。

 いくらなんでも言い方が不躾だった。杏に睨まれるのもやむなし。

 

「気を悪くさせてごめん。ただ、『普通』ってのは悪い意味で言ったわけじゃない」

 

 弁明も兼ねて想は言葉を続ける。

 

「このストリートの人達は良くも悪くも個性的だから、その中で『普通』って言うのは平凡って意味じゃない。まだまっさらの何物にも染まってない一つの個性だ」

「そういうものかな……」

 

 こはねは少し不安気ながらも想の言葉は響いている様子だ。

 

「それに、そのまっさらな個性をこれから自分でどんな色にしていける。これは最初から強い個性を持っている人には無い強みだよ」

 

 まだ発展途上。だが、それは悪いことだけじゃない。

 言い方を変えれば伸びしろがあるということになる。世の中案外考え方次第なもので、こういった小さなところから人は伸びていく。

 

「ありがとう。なんか栗空くんの言葉は不思議と納得させられる気がする」

「騙されんなよ、こいつ口だけは上手いから適当にそれっぽいことをいい感じに言ってるだけだ」

 

 頷いたこはねに対して、彰人が釘をさす。

 せっかくいい感じに話をまとめたのに、と想は彰人に睨みをきかせる。

 

「なんか、俺の周り人を詐欺師みたいに言う人多いんだけど」

 

 主に想の近くにいる人だと志歩あたりになるか。

 そしてその詐欺師という単語を聞いて杏がポンと手を叩く。

 

「あー、でも詐欺師ってのはなんか分かる気がする」

「分からないで!?」

「しかし俺からすると想のその口の上手さは羨ましい。どうしても俺は言葉が上手くない」

「冬弥はそれでクールなイメージ保たれるからそれでいいよ……」

 

 唯一感心しがちな冬弥に対して想は半目で流す。

 

「それより、折角お前達を引き合わせたんだ。想、一曲披露していけ」

「あ、やっぱり歌うことになるの?」

 

 想としてはこはねを一目見てみたかっただけだが、彰人達は想が歌っている姿をこはねに見せてみたかったらしい。

 自信が無いということではないが、改めてそういう話になると若干腰が引ける。

 決して自身が無いというわけでは──

 

「想、もしかしてここで歌うの久しぶりで自信無い?」

「乗った。謙さん、スペース借りますよ!」

 

 杏の挑発に容易く乗る想。

 わざと煽ったのは分かるが、ここで退けば男が廃るというもの。特に初対面のこはねを前にしているのだ、なおさら退けない。

 手を軽く振る謙から了承の意を得て想は準備に入った。

 

 

 

─────

 

 

「えっと、いいのかな? もしかして迷惑だったんじゃ……」

 

 先程、杏に乗せられて想は歌の準備を始めているがわざわざ煽られなければ応じなかったということは乗り気じゃなかったということではないかとこはねは不安になっていた。

 

「へーきへーき、渋ってるのなんてポーズだったから気にしなくていいよ」

「ああ、想は律儀だからな。元々小豆沢に歌っているところを見せる約束をしていたのだからそれを反故にしたりはしない」

 

 杏と冬弥の言葉を聞いてこはねは少し安堵する。

 流石に無理やりだったら申し訳なさが先に立っていたところだ。

 

「ほら、そろそろ始まんぞ。集中しろ」

 

 想の準備が終わり、音楽が流れ始める。

 足で軽くリズムを取り、イントロから想が歌い始めた。

 一気に空気が変わった。そう感じる。

 想の歌い始めから、こはねは引き込まれ、胸の鼓動が早くなるのを感じた。

 最初に杏が歌っていたのを見た時とくらいの衝撃。

 肌がピリピリする。心がザワつく。この音に乗って、衝動のまま叫びだしたい。

 

「……すごい」

 

 色んな感情が去来して、こはねの口から出てきたのは端的な言葉だけだった。

 

「アイツの歌は上手いだけじゃねぇ、それこそ歌が上手いだけなら他にもいるだろうな」

「想のすごいところって歌だけじゃないんだよねー」

 

 彰人と杏がまっすぐに想のことを見ながら、こはねに教えるように口を開いた。

 

「パフォーマンス、と言うべきなんだろうな。想の歌に惹きつけられるところは」

 

 冬弥の言葉にこはねは思わず頷く。

 確かに想の歌は上手い。そして、そこに動きが合わさって一気に引き込まれた。

 あまり身長が高くない想が全身を使って歌を表現している。

 指先からつま先まで、その全身を使う表現がこちらの心を刺激してくる。

 

「その一言で片づけられれば楽なんだが、アレはセンスの塊みたいなもんだろ。そのセンスを意識的に振り回してきやがる」

 

 言い方を変えればセンスの暴力。

 歌だけではない、パフォーマンスだけではない、場の空気にそぐった一挙一動。こちらの心を掴むように意識的に想は自身のセンスを振り回しているのだ。

 改めてこはねはすごいと感じる。

 

「これが皆が私に見せたかったもの……」

 

 こはねは思わず息を呑んだ。

 その様子を見て彰人が肩を竦める。

 

「別に、お前にアレを真似しろとか思ってねぇ。恐らくお前とは別ベクトルのもんだ。それでも見て、感じるってのは大事だ」

「それに想の歌もパフォーマンスもまだ発展途上だ。初見の小豆沢が気圧されるのは分かるが、見ていけば参考にできるできない部分が分かってくるだろう」

 

 冬弥のフォローに思わずこはねは苦笑した。

 いずれは分かるにしても、今はまだ分からないことばかりだ。こはね自身がまだまだなのだと実感させられる。

 

「ただ、これだけできるからこそ想がバンドでやるってのは意外だったかな」

 

 ストリートのほうが向いてると思うんだけどなー、と杏がぼやいた。

 

「ま、曰く『大事な仲間』らしいからな。それに想なら大抵の場所でそつなくこなすだろ」

「とはいえ、最近バンドの仲間に対して何か思う節があるみたいなんだが……」

「しょうがねぇだろ。アイツが言わねぇことをこっちからわざわざ突っつくのも野暮ってもんだ」

 

 どうやら彰人と冬弥は、想に対して懸案事項があるらしい。

 その少ないやり取りだけで察した杏は男二人を半目で見る。

 

「男の子ってそういうところあるよねー」

「あはは……」

 

 余計な事は口を出さない。

 男の人が全員が全員そうではないだろうが、プライドとかの問題か気になる事でも相手から言ってこなければ触れないといったところは見受けられる。

 それにしても、

 

「『大事な仲間』……」

 

 圧倒されるばかりだったが、その言葉を聞いて改めて想の歌を聞くと少しこはねにも思うところがあった。

 それは、『Vivid BAD SQUAD』の三人がこはねにとって『大事な仲間』になる存在だからかもしれない。

 

 

 

─────

 

 

「謙さん、水ください!」

 

 想は歌い終わって、謙から水を貰いそれを飲む。

 少しだけだが息があがっている。

 

「スタミナねぇのがお前の欠点だよな。チビだからか」

「チビ言うなチビって」

 

 揶揄ってくる彰人を半目で睨む。

 とは言え、彰人の言う事は間違っていない。スタミナが比較的無いのは欠点だ、チビはともかく。

 スタミナ自体一朝一夕で増えるものでもないので地道にやっていくしかない。

 そもそも一通り歌う分にはもつものなので焦るものでもないが。

 

「で、こはねから見てどうだった? 一応見せれるモノだとは自負してるけど」

 

 ひとまず椅子に座ってから想はこはねに向かって訊ねる。

 主にこはねに向けたものだから、感想自体は気になるもの。

 

「うん、すごかった。なんて人並みのことしか言えないんだけど……」

「その人並みの感想で十分」

 

 すごかったなんて言われれば想としてはその言葉だけで十分満足。

 まだまだ課題が多い歌やパフォーマンスだが、ひとまずは及第点は出せるだろう。

 彰人なんかに指摘させたら、色んなところをズバズバ批評されるだろうからそっちには訊かない。

 

「栗空くんの『大事な想い』も伝わってきて、えっとなんて言ったらいいんだろう」

 

 そのこはねの言葉に一瞬想は目を瞠る。

 こうやって歌うのは少し久しぶりで、ちょっとばかり最近の思い出が籠った歌になった。

 それをこはねに悟られたというのが意外で、

 

「その『大事な想い』が栗空くんの中にずっとあったらいいな、なんて差し出がましいんだけど……」

 

 こはねの言葉に思わず想はこしょぐったくなる。

 そんな風に見えていたのか、と。

 そして、わざわざこはねがそんな事を言うのはその『大事な想い』が想の中からどこかに行ってしまいそうだと感じたのだろう。

 存外鋭い子だな、とこはねの評価を想は心の中で上げた。

 

「ありがと。俺もそうしていけたらいいと思っているよ」

 

 そう言ってこはねに笑いかける。

 当のこはねは本当に差し出がましいと思っているのか、少し顔を赤くして杏に撫でられていた。

 

 

 

 ──嗚呼、本当にこの大事な想いを手放したくない。

 なんて、いつか手放そうとしているくせに。 




今回のストーリーは『雨上がりの一番星』編にはなりますが、主にオリ主の視点で進むので前章と比べるとオリジナルの話が多くなる予定です。(構成的な関係で)
その上で、『Leo/need』以外のキャラも出していきたいということで今回は『Vivid BAD SQUAD』回みたいな形に。
また別ユニットも出していきたいですが、どうしても出せないユニット、オリ主と絡めないキャラは出てくると思います。(どのユニットかは言わずもがな…)
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