『天空の明星』   作:みなつき

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『第二話』

 朝。

 想は天馬家の前にいた。

 理由は単純、咲希を迎えにきたから。

 昨日別れる前に一緒に登校する約束している。

 咲希が入院している頃になんとなく話したことだが、今でも覚えていたのはちょっとくすぐったいと感じた。

 とりあえずインターホンを鳴らそうとした瞬間、玄関の扉が大きく開かれる。

 

「さぁ、いざ! 今日も一日を始めようではないか!」

 

 大きな声を出しながら扉を開いて出てきたのは咲希の兄である天馬司。

 相変わらず一々リアクションが派手だ、と想は半目になる。

 司は上を向いていた視線を想の方に向けると手を上げて、

 

「想か! おはよう、いい朝だな!」

「さいですね。後おはようございます」

 

 挨拶をしてきた司に対して想は若干おざなりな挨拶を返す。

 

「うむ、本当に咲希の迎えに来るとは感心するが想が遅刻することは無いようにな」

 

 テンションの割に至極真面目な事を言ってくる司。

 こういった常識はちゃんと弁えているところがアンバランスではあるが司らしいとも言える。

 

「まぁそこら辺はちゃんとしているんで大丈夫」

「考えているならよし! では、俺は先に行く!」

 

 バッと駆け出し、司は走り去っていった。

 本当に朝からハイテンションである。このハイテンションが一日もつのだからある意味感心する。

 そんなことを考えていると開けっ放しの玄関から声が聞いてきた。

 

「あーもうお兄ちゃんまた玄関開けっ放しー」

 

 玄関から姿を見せたのは咲希。

 最早姿が見えない司に文句を言いつつ扉を締めにきたところで想と目が合う。

 その瞬間咲希は笑顔を浮かべた。

 

「おはよう、ソウ」

「おはよう、咲希」

 

 

 

 自転車を押しながら歩く想の隣には咲希が一緒に歩いている。

 

「ふふふーん、ソウと一緒に登校だー」

 

 機嫌良さそうに咲希は鼻歌を鳴らしている。

 咲希が通うのは宮益坂女子学園であり、名前の通り女子校だ。

 当然男子である想が通える場所ではないので一緒に登校とは言うがあくまで咲希を学校まで送るという形になっている。

 

「でもソウ、遅刻とかは大丈夫?」

 

 上機嫌だった咲希がふと疑問を投げかけてきた。

 想が通う神山高校と宮益坂女子学園は離れている。というよりほぼ真反対の位置に両校存在している。

 遅刻を心配するのは当然だろう、と想は苦笑した。

 

「何、ちゃんとラップタイムは計ってある。遅刻しない時間でこっちは咲希迎えに行ってるから」

「それならいいんだけど……」

 

 引け目を感じるのか咲希の声は若干トーンダウンしている。

 はぁ、と想は小さく息を吐く。

 

「別に俺だけが負担してるってわけじゃないんだ。咲希だって早めの時間に登校することになってるんだぞ」

「でもそれは私がわがままいってるから──」

「そうじゃない」

 

 咲希のわがままという言葉を想は即座に否定した。

 

「俺だって咲希と一緒に登校したかった。お前だけのわがままじゃないよ」

 

 咲希の願いを叶えたい、というのは想の行動理念の一つだ。

 だけどそれだけじゃない。

 想だって咲希と一緒に登校する──そういったことをしてみたいと思った。

 だから朝早く迎えにいった。それだけ。

 

「えへへ、そっか。私だけじゃないか」

 

 想の言葉に咲希は照れくさそうに笑う。

 気持ちが同じだったことが気恥ずかしいのか嬉しいのか。

 そんな話をしながら歩いていると宮益坂女子学園が見えてくる距離まで来た。

 校門まで想が行くと目立つのでこの辺りで別れることになる。

 

「それじゃ、帰りどうするかはメッセージで」

 

 登校は一緒にすることになったが下校はどうするかは決めていない。

 咲希が学校で誰かと一緒に帰ることになるかもしれないため、下校に関しては一緒にするかは咲希からのメッセージを待つことになった。

 

 大体昼頃にメッセージの有無で判断することになるだろう。

「分かった。それじゃ、気を付けてね」

「ういうい」

 

 別れ際の挨拶はほどほどにして想は自転車に跨って自分の学校に向かって走りだした。

 

 

 

─────

 

 

 

 特に遅刻することもなく想も神山高校に登校でき、授業は順調に進み昼休みに入った。

 さて、昼ご飯はどうするかと想が考えたところで一人のクラスメイトが目に入る。

 

「冬弥、一緒に飯行かない?」

 

 想の方を振り向き、表情を微動だにさせないクラスメイト──青柳冬弥は小さく首肯した。

 

「ああ、構わない」

「んじゃさっさと行くか。席埋まると嫌だしな」

 

 表情こそ分かりづらいが冬弥は無感情というわけでもなく、想としては昔馴染みでもあるので気軽に話せるクラスメイトである。

 

 

 

 食堂について想はうどんを、冬弥は定食を頼み二人で空いていた席に向かい合わせで座る。

 ずずっとうどんを想が啜ったところで冬弥が話題を切り出した。

 

「そう言えば、咲希さん退院したんだって。良かったな」

「ん」

 

 啜ったうどんを嚥下し、想は水を飲む。

 ふぅ、と小さく息を吐く。

 

「どこから──ってソースは一人しかいないか」

「ああ、司先輩からだ」

 

 司の事を冬弥は昔から慕っており、何かと懐いている。昔から家同士の繋がりもあるためなおさらと言ったところ。

 変人と言われる司を慕う冬弥も変わりものだと思うが、司自身アレで人を惹きつけるものを持っている。

 その事を考えればそれほどおかしくないとも思うが、冬弥の慕いっぷりは若干盲目的なのでやはりおかしいと言わざる得ない。

 閑話休題。

 

「まぁそういうのは本人に……いや、あまり直接言う機会が少ないか。分かった俺から咲希に冬弥からって伝えとく」

 

 直接言えばいいと思ったが、咲希が別の学校というのもあって冬弥が直接会う機会は意外と多くない。少ないというわけではないのだが。

 直近で伝えるタイミングが無いとなると想が伝言を頼まれた方が丸いというもの。

 

「よろしく、と伝えてくれ。とは言え、俺としては想に対しても労いたいが」

「ふぁい?」

 

 再びうどんを啜ったタイミングで冬弥の言葉に想は首を捻る。

 

「どゆこと」

 

 うどんを飲み込んでから聞き返す。

 それにしてもうどんというか麺類はあまり食事中に話すのには向いていない。

 

「咲希さんのお見舞い、ずっと続けてたんだろ。そこまで続けられるのはすごいと思う」

「いやーどうでしょ。俺にとっては当たり前だったからなぁ」

 

 真正面からすごいなどと言われれば照れが先にくるもので、想は冬弥からちょっとばかり目を逸らす。

 

「でも、周りから浮いていた」

「あー……まぁ浮いてたってほどじゃない。とは言え遊びの輪からは外れてはいたな」

 

 冬弥の言わんとしていることは分かる。

 中学にもなれば遊び盛りで、当然お金の入り用も増えるというもの。

 咲希のお見舞いにお金を使っていた想はそう言った遊びの輪に入らず断り続けていた。

 そういう意味では中学時代は確かに周りから浮いていたのかもしれない。

 とは言え、

 

「ま、でもするべきことをしていただけだ。やっぱりすごいと言われることも労われることでもないよ」

「それは、どういう……」

 

 想の言葉の意味を上手く捉えられないようで冬弥は首を傾げていた。

 その様子を見て、想は苦笑しながら答える。

 

「例えばテストでいい点を取りたいから勉強をする、体力をつけたいから走り込みをする。これは目標──やりたいことに対してやるべきことするべきことだ」

 

 なるべく咀嚼しやすいように身近な例を持ち出して説明する。

 

「俺は咲希の傍に少しでもいてやりたかった。お見舞いに行くこと、その為にお金を貯めることも俺にとってのやりたいことに対してのするべきことだった」

 

 改めてこの事を言うとこっぱずかしい気もするが、今話しているのは事情知ったる冬弥だ。

 で、あれば開き直り。

 

「要するにやって当然のことをしていただけってわけ。そこを褒められるとこしょぐったい」

 

 想の説明を聞いて、冬弥はなるほどと頷いた。

 

「それでも俺はすごいと思う。やって当然の事でも続けていくのは難しいことだ」

「よせやい、そんなにおだてても食後のお茶くらいしか奢らんぞ」

「そこは何か出るのか……」

 

 そんな照れ隠しの軽口を叩いたタイミングでスマホにメッセージの着信が入った。

 失礼、と冬弥に断って想はスマホを見る。

 噂をすればではないが咲希からのメッセージだ。

 

『今日の帰りにいっちゃんと一緒にタピりに行くことになったからソウも一緒に行こう!』

 

 エクスクラメーションマークの入ったその文章に咲希のテンションの高さが伺える。

 いっちゃんとは幼馴染の一人であり、本名は星乃一歌。

 

『ほなちゃんとしほちゃんは誘えなかったんだー』

 

 ごめんね、というスタンプと共にそのメッセージも送信されてきた。

 幼馴染の三人中二人は誘えなかったと。

 まぁ高校生にもなれば用事の一つや二つ先に入ってることもあろうと、想はなんとなく納得。

 

『了解、二人を誘えなかったのは残念だけど俺も行く』

 

 二つ返事の体で咲希へメッセージを返す。

 別段予定がないため断る理由は微塵もなかった。

 喜びを表すスタンプが咲希から送られてきたのを見て、スマホをいったん閉じる。

 

「咲希さんから?」

「エスパーかよ、俺何も言ってないよな」

「なんだか想が嬉しそうに見えたから」

「えー……」

 

 想の中では得心がいかないまま昼食の時間は過ぎていった。

 

 

 

─────

 

 

 

 一日の授業はつつがなく終わり放課後。

 部活へ行く生徒などを後目に想は早めに待ち合わせの場所へ向かった。

 咲希は部活決めがあるらしくしばらく時間はかかるだろうが、鞄に突っ込んである文庫本でも読んで時間を潰すとする。

 他に何かして待ち合わせに遅れる方が事だ。

 そう考え、待ち合わせ場所についた時間は予定の時間より三十分弱早い。

 自転車は駐輪場へと停め、電灯を背もたれにして文庫本を開いた。

 こうした文庫本は値段も手頃で咲希のお見舞いへ行くときの新幹線に乗っている間など暇をつぶすのに最適で今でもとりあえず何かしらの本を鞄に突っ込んである。

 内容はすれ違いから仲違いした少年少女達が再び一つになるシンプルな青春譚。

 ゆっくりとページを捲り、ふと時計を見るともうじき待ち合わせの時刻。

 そろそろかと思い顔を上げると二人の少女の姿が見えた。

 咲希と長い黒髪の少女。

 咲希の方が大きく手を振りながら想の目の前へ来る。

 

「ソウ、お待たせ! 待った?」

「いや、今来たところ」

 

 昨日もやったテンプレのやり取りを今度は逆の立場で行う。

 お互いの考えていたことが一致して、想と咲希はパンっと大きくハイタッチした。

 そのやり取りを黒髪の少女が呆気に取られていたように見ていた。

 その少女を見て想は小さく微笑む。

 

「一歌か、久しぶり。病院でたまに会った時以来だが、あんま変わらんな」

「あ、うん。久しぶり」

 

 想の言葉に黒髪の少女──星乃一歌は少し戸惑った素振りを見せながら返事をする。

 

「想もあまり……変わらないね」

 

 その言葉と共に向けられる一歌の視線は彼女の目線より少し上。

 視線が意味するところは想の身長。

 

「おい、変わらないって今どこ見て言った」

「いやその他意は無くて……」

「あー、ソウってば身長だけはあまり伸びないもんね」

「平たくチビって言うな!」

 

 咲希の言葉に反射的に噛みつく。

 想の身長は同級生の男子と比べても若干──低い。

 具体的な数値はともかく高校生にもなって170に満たない身長は一般的に低く、想もそれなりのコンプレックスだ。

 そんな想の反応を見て一歌はクスリと笑った。

 

「うん、やっぱり変わらないね……」

「一歌さん、久しぶりに会って身長ネタ弄られると割と泣く」

「ううん、身長の事じゃなくて……二人は昔のままだなって」

 

 その一歌の言葉はどこか懐かしむようなそれでいて憂いを帯びたような。

 

「そうだな……昔から俺が咲希のお守り役なのは変わらないからな」

 

 ふふん、と鼻を鳴らしながら想は自信満々に口にする。

 一歌の言葉に感じた憂いをかき消すように。

 

「そうかな、昔はソウのほうが泣き虫だった気がするけど」

「残念ながら記憶にないなー」

 

 咲希と想の軽口の応酬。

 昔はここまでフランクではなかったが、やはり昔を知る人が見れば変わらないと称すのだろう。

 現に一歌はくすりと小さく笑っていた。

 その一歌の様子を見て、幼馴染の一人として笑っていたほしいと思った。

 想の与り知らないところで何かあったのかは知らないのだけれど。

 

「それよりタピオカ! 早く行こ!」

 

 想とのやり取りを打ち切って咲希が本来の目的を切り出す。

 足をパタパタさせて、もう待ちきれないといった様子だ。

 

「はいはい、行きますよー」

 

 咲希が歩き出したのを見て、想も動こうとする。

 その時、

 

「あの、想……志歩と穂波のことなんだけど……」

 

 一歌が想を呼び止めた。

 

「今、話すことじゃないだろ」

 

 振り返り一歌を見る。

 どこか不安げな彼女の表情を見て、想は臍を噛む。流石に言い方が悪い。

 咲希と想のやり取りを見ていた一歌の様子で何となく察しがついていた。

 ──今ここにいない二人の幼馴染と何かあったのだろうと。

 咲希が二人を誘えなかった時点でもしかしたら、ということは薄っすら考えていた。

 それでも都合がつかないくらいよくあることだと。

 一歌の昔を懐かしむような口ぶりでそんな甘えた考えは打ち砕かれた。

 

「咲希がもう行ってる。アイツ、コンパス短い癖に速いからさっさと行かんと置いてかれる」

「……うん」

 

 咲希を理由にしたら一歌がそれ以上言えなくなるのは分かっていた。

 我ながら卑怯、だと想も思う。それでも、

 

「──ま、いずれちゃんと話は聞く。二人の事は気になるし、他人事じゃないからな」

 

 ポンと軽く一歌の頭の上に手を乗せる。

 二人の幼馴染に何かあった、そしてそれは咲希の誘いを断る理由になること。

 それ自体は気にかける案件だし、随分会っていないとはいえ仲良くしていた幼馴染だ他人事として放ってはおけまい。

 ただ今は咲希の事を優先してあげたい。

 その気持ちが伝わったのか一歌は小さく頷く。

 

「……やっぱり想は変わらないね」

 

 想が幼馴染に対して頭の上に手を置くという行為。

 身長のコンプレックスもあってか褒めたり慰めたりする時に昔よくやっていたこと。

 それを一歌が覚えていたことをなんとなく想は気恥ずかしく思った。

 

 

 

「ということで、ソフトテニス部に入部が決まった咲希ちゃんと、タピオカでかんぱーい」

 

 三人でタピオカミルクティーのコップを軽く当てあう。

 

「はい、乾杯。部活決まってよかったね」

「乾杯、テニスと言えばアレを思い出すなぁ。打ったら戻る」

「真ん中へ!」

 

 昔やっていたゲームソフトのCMフレーズを一致させていえーい、と想と咲希でコップを持ってない手でハイタッチ。

 その様子を見て一歌はくすりと笑う。

 

「ホント昔から息が合ってるよね二人とも」

「ふふーん、ソウの考えてることなら大体分かるよ!」

 

 自信満々に胸を張って言い張る咲希。

 そんな咲希を見て想は苦笑し、

 

「ま、どっちかと言うと咲希が合わせてくる感じだしな。俺の方からはそれほど──」

「そこはアタシのソウへの理解度に対して一言!」

「……まだまだだね」

 

 引用元はとあるテニス漫画の主人公の口癖。

 その言葉で我が意を得たと言わんばかりににっこりと笑う咲希。

 これで想の方からは分かってないとは流石に言えない。

 また一歌が小さく笑う。

 

「勿論いっちゃんとの仲も負けてないよ! 見学つきあってくれてありがと!」

「ふふ、でも無理はしないようにね部長さんはゆるい部活だから平気って言ってたけど少しずつ慣れていかないと」

「うん! にしても、部長も顧問の先生もみんないい人でよかったー」

 

 上機嫌そうに部活を見に行ったの時の様子を咲希が語る。

 

「病気のこともあったから、運動部に入ると迷惑かけちゃうかもってちょっとだけ不安だったんだよね」

「咲希……」

 

 今は退院した咲希だが、体が弱いという部分はまだある。

 それでも運動部に入ったのは咲希なりに青春を謳歌するための選択肢だったから。

 不意に想は咲希の頭の上に手を乗せる。

 

「ま、良かったな。もうバンバンエースで活躍しちゃうんだろ」

「うん! にしても、部活に入ると高校生活の第一歩踏み出せた―って感じするね!」

 

 想に頭を撫でられはにかみながら咲希は快活に答える。

 

「そして第二歩目は……ここ!」

 

 咲希は手に持ったタピオカミルクティーを頭上高く掲げる。

 ついでのように想も合わせてタピオカミルクティー掲げた。

 

「ここってタピオカミルクティーのお店?」

 

 小さく首を傾げる一歌。

 一歌にとっては普遍的なモノであるタピオカミルクティーであるが咲希にとってはそうではなかった。

 

「そう。友達と放課後にタピる! 流行には乗り遅れちゃったけどすっごくやってみたかったんだよね!」

 

 流行時期としては咲希が入院していた頃であるタピオカミルクティー。

 当時は雨後の筍のごとく店が出ていたが、流石に今となっては大分数を減らしている。

 

「みんなタピオカタピオカって盛り上がってた時にアタシはずーっと味のうすーい病院食食べててさー」

「それは確かに、ちょっと悔しいかもね」

 

 実際入院時にタピオカの話をしていた時の咲希はとても羨ましそうな顔をしていたものだ。

 

「ソウはどう? タピオカミルクティー」

 

 不意に投げかけられた咲希の言葉に想は飲んでいたタピオカを嚥下する。

 

「まずまず。まぁタピオカ突っ込んだミルクティーなんで味に関してはミルクティーに左右されるよなぁって感じ」

「わーユメが無い」

「もしかして想って飲んだこと無かった?」

 

 巷で結構流行っていたモノではあるため想が飲んだこと無いといった感想に一歌は不思議そうにしている。

 その意外そうな顔に想はちょっと苦笑。

 

「だってこれ基本的に女子の飲み物だろ。姉さんが飲んでたのは見たことあるけど自分で買ったことは無いな」

「あ、そう言えばそうかも」

 

 中学時代も一歌は女子校だ。

 身近に男子がいないとなれば、男子の生態などあまり理解していないだろう。

 

「まぁそれ以前にソウはタピオカの名前覚えてなかったくらいだから……」

「世間じゃタピタピ言ってたからその二文字覚えていただけで上出来だと自負する」

「あはは……」

 

 入院時になんとなく話していたことを思い出しながら想はタピオカミルクティーを飲む。

 やはり味としてはミルクティーが基本である。アクセントとしてタピオカがあるという感じ。

 

「とりあえず治ったからには、美味しいものたくさん食べちゃうんだから!」

 

 ふんす、と意気込む咲希。

 そしてふと、何かを思い出したようにして、

 

「あ、美味しいものって言えばさ昔みんなで食べたアップルパイも美味しかったよね」

「「アップルパイ?」」

 

 想と一歌の言葉が被る。

 ふむ、とアップルパイについて思い出そうとして見るがイマイチピンとこない。

 

「ほら、小学生の時だよ。いっちゃんがミクの歌好きだから、みんなで演奏してみよーってなった時あったでしょ?」

 

 その咲希の言葉で思い出す。随分と古い記憶だ。

 

「あ、あったね。穂波が吹奏楽部でドラムできるようになったから、みんなで咲希の家に楽器持って行って……」

「そうそう! みんなでバンドやるぞー! ってはりきってやってみたんだよね! そしたら……」

「びっくりするぐらいにバラバラだったんだよね……」

「せめて格好だけでもつけようとしてたっけな」

 

 バンドという形に憧れた小学生の頃の幼馴染達。

 持ち寄った楽器を各々に弾き始めて、結果酷い不協和音を生んだ。

 とても懐かしい思い出。

 

「あの時はしほちゃんがムキになって大変だったよねー。完璧にできるまでやる! って言って聞かないしさぁ」

「アイツ父親がミュージシャンだしなぁ。他にも音楽に憧れるワケもあったみたいだし」

「ソウはベソかいちゃうし」

「小学生なんでノーカン!」

 

 唐突に恥ずかしい思い出を引っ張り出されて想は反射で噛みつく。

 しかし咲希は気にせず話を続ける。

 

「で、みーんなヘトヘトになった時に、ほなちゃんがアップルパイみんなで食べようって言ってくれたんだよ。それがもうすーっごく美味しくて……」

「まぁアレは穂波の好物だったってのもあるよなぁ」

「……うん」

 

 咲希が声の調子を落とす。

 今この場にいない二人の事を思っていることが丸わかりで、

 

「三人だと、ちょっとだけ寂しいね」

「……うん、そうだね」

「ホント──」

 

 二人は何してるんだか。

 その言葉は想の口から出ることは無かった。

 

 

 

「いっちゃんバイバイ! また明日ね!」

「んじゃ、学校では咲希のことよろしく」

「うん、またね。二人とも」

 

 一歌と別れて想は咲希と一緒に帰路へついた。

 咲希がしばらく振り返りながら手を振っている横を自転車を押しながら歩く。

 やがて一歌の姿も見えなくなったところで、

 

「うーん、今日は楽しかったー! いっちゃんとも一緒に遊べたし!」

 

 大きく伸びをしながら咲希は今日の感想を口にする。

 その様子を見れば想の口元は自然に綻んだ。

 

「念願のタピオカミルクティーにありつけたしな」

「やっぱ病院食とはぜんっぜん違うね!」

「カロリーも驚くほど違う」

 

 話に聞くとおおよそラーメンに匹敵するほどのカロリーを有するタピオカミルクティー。

 想の言葉を聞いて咲希は半目になった。

 

「ソウ……女の子の前でカロリーの話題は厳禁だよ」

「いやぁ理解はしてるがつい」

 

 体重、ダイエット、カロリー。それらに結び付く話題は女性に対してはタブーだ。

 姉を持つ想もそれくらいは理解しているが、気心の知れた幼馴染に対してはこれくらいはジャブだろう。

 

「でもホント今日は良かったー。復学したてで色々心配だったけど、楽しくやっていけそう!」

 

 咲希も幼馴染として間合いは分かっているので想のからかいも程々に切り上げて、話題を切り替えた。

 

「こんなに楽しくっていいのかな……」

「楽しくっていいんだよ」

 

 ふと、憂いを見せた咲希に想はすぐさま切り返す。

 

「むしろまだまだ足りないくらい。今までの分を取り戻すには楽しみ足りないレベル」

 

 今まで入院していてロクな中学時代を送ってこなかった咲希。

 そのことを考えれば、目一杯今を楽しんでも罰は当たらない。当たってたまるものか。

 

「ソウ……うん、もっと楽しまなきゃね!」

 

 想の顔をじっと見た後咲希は大きく頷く。

 

「もっともーっと、いっちゃんとも──しほちゃんとほなちゃんとも一緒に楽しむんだから!」

 

 おーっ、と拳を突き上げて咲希は意気込んだ。

 その様子を見て想は小さく笑う。

 ただその裏で小さくない懸案事項に対して考えを寄せる。

 日野森志歩と望月穂波。

 今日来なかった二人の幼馴染。

 一歌の様子から彼女とも疎遠になっていると思われた。

 何らかの事情はあるのだろう。

 それでも──咲希の言うようにこれからには二人は欠かせないピース。

 ピースが欠けたままではパズルは完成しない。

 想にできることはそんなに多くないだろう。だけど何かしたいと想う。

 幼馴染五人でまた一つになるそんな未来絵図のために。

 

「また、皆で一緒に……な」

「そうだよ!」

 

 思わず漏れた言葉に咲希は大きく頷いた。

 そんな咲希を見て、いっそう想いを強くする。

 

 

 

──ああ、流れ星よ。あの時の願いが届きますように。




古いネタが出てくることによって現代高校生のプロセカの登場人物が言うのはおかしくない?という点についてはご容赦を

感想によっていただきました、「咲希が呼び捨てにするのは変」という点に関してはレオニリンが出るまで続けることができなければ作中で言及されない点になるのでここで説明します。

端的に言うと想くんが嫌がったから折り合いをつけて今の呼び方になった、です。
咲希ちゃんも昔は「そーくん」と呼んでいた時期もあったらしいですが、想くん本人が嫌がり「ソウ」って響きは十分あだ名っぽいとのことで今の形になったとのこと。呼び捨てになることである種の特別感が出るというのも密に密に。

感想に対して個別返信はする余裕ないのでやりませんが、頂いた分はありがたく拝読させていただいてます。
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