『天空の明星』   作:みなつき

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『第二十四話』

 宮益坂女子学園の屋上で、

 

「よーし、今日もはりきっていこー!」

 

 というハイテンションの声が響く。

 その声の主を見て愛莉は肩を竦める。

 

「まったく廻がそんなにやる気に満ちてどうすんのよ」

「えへへ、ちょっとねー」

 

 しょうがないと言った風情の愛莉に対して廻は頬を掻く。

 

「何か良いことあったの?」

 

 ストレッチをしていたみのりが訊ねて、廻は元気よく返答をした。

 

「そうなんだよー! どうやら想の悩み事が晴れたみたいで、私も嬉しくなっちゃって!」

「想くん、何か悩み事があったの?」

「うん。私にも打ち明けてくれなかったんだけど、最近スッキリした顔になっててね」

 

 雫が少し心配そうな顔をするが、それを吹き飛ばすかのような廻のハイテンション。

 そんな廻を見て、遥が苦笑する。

 

「弟さんの悩みが晴れて、そんなに喜ぶのは廻は本当に弟想いだね」

「えへへ、それほどでもー」

「それほどでも、じゃないわよ」

 

 パシンと愛莉は廻の肩を叩き、握りを拳を作った。

 

「でもそうね、廻の勢いに負けてないで私たちも頑張るわよ!」

 

 新たにモモジャンの活動方針として配信活動を行おうと今は準備しているところ。

 機材の準備や、配信に当たってのマナーなどを調べて廻も今は慌ただしくしている。

 だからこそ、

 

「よーし、想に負けないくらい私も頑張るぞー!」

 

 

 

─────

 

 

 

「はっくしょん!」

「アレ、想もしかして風邪?」

 

 腕で塞いでも盛大に漏れ出したくしゃみに杏が首を傾げる。

 

「こいつが風邪ひくようなたまかよ」

「彰人よりは全然風邪ひくと思うけどね」

 

 冬弥から受け取ったティッシュで鼻をかんだ後、想は彰人に盛大に皮肉を返した。

 勉学で言うなら彰人と想では随分と差がある。想のほうが上で。

 

「……噂でもされたか」

「んな、古典的なもんかよ」

「流石に迷信だからな、想なら分かっていると思うが」

 

 彰人の言うように古典的なボケのつもりだが、冬弥にはとても真面目な返しをされてしまった。

 

「まーまー、実際風邪とかには気を付けなよ、想」

「そこは特に用心してる」

 

 つい最近まで幼馴染が風邪でダウンしていたから、そこら辺の用心は欠かしていない。

 もし風邪でもひいてしまったらその幼馴染が自分の責任だと思ってしまうから。

 

「って暢気に話してたらそろそろ時間だわ。邪魔したな」

 

 ふと時計を見るとそろそろ行かないと余裕が無くなる時間になっていた。

 時間潰しがてらに話していた『Vivid BAD SQUAD』 の三人に手短に別れを告げて想はパタパタとその場を去っていく。

 そんな想の様子を見て、

 

「ねぇ、想ってば前よりいい顔するようになった?」

「白石にも分かったか? 俺の勘違いじゃないようだ」

「なんだかんだで勝手にアイツなりにスッキリしたようだな。お節介を焼く隙もないというか」

「しょうがない、想はしっかりしているからな」

「ほんと、男の子って面倒くさいよねー」

「うるせぇよ」

 

 

 

 想が足早に廊下を歩いて、玄関口から外に出た瞬間脇に一様に目立つ集団。

 『ワンダーランズ×ショータイム』の一団だ。

 

「お、想ではないか!!」

 

 無視して通り抜けようとした一際目立つ大きな声に呼び止められた。

 

「どうもご機嫌麗しゅう」

 

 司がふんぞり返って、類がにやにやと笑い、えむが笑顔で手を振り、寧々が半目で見てくる。

 そんな色物集団に想はひとまずお辞儀をした。

 

「ん? もしや急ぎだったか!?」

「声大きいって、まぁ長話する時間は無いよ」

 

 察しが良いのか悪いのか。

 自分で呼び止めたくせに、そんなことを気にする司に想は軽く手を振る。

 

「ふふ、急ぎなくらい重要な用事があるなんていいことじゃないか想くん」

「めっちゃ含みあるね?」

「いやいや、そんなことはないさ」

 

 あからさまに最近までの事を示唆した類の言葉に想は眉をひそめる。

 類相手だとどこまで見通されているか分かったもんじゃないと若干投げやり。

 

「用事と言うのは──」

「『Leo/need』でちょっとした鑑賞会ってとこ」

 

 想の言葉に司はそうか、と頷いた。

 咲希から似たような事を聞いているかもしれない。

 

「じゃ、そんなわけで。えむと寧々もまたね」

「うん、またねー!」

「あっ、うん。また」

 

 そして想は軽く手を振って、四人の集団から小走りで走っていった。

 

「うむ、想のやつ悩みが晴れたようだな!」

「想くんとってもニコニコ笑顔だったねー!」

「僕たちが何かするまでもなかったみたいだ」

「まぁ変にお節介焼くことにならなくてよかったんじゃない」

 

 そんな『ワンダーランズ×ショータイム』の会話が繰り広げられたことは想には知る由もない。

 

 

 

─────

 

 

 

 『教室のセカイ』

 その屋上ににて。

 『Leo/need』一同にルカとミク、そしてイアが揃っていた。

 

「いっちゃーん! そろそろ始めるよー!」

「わかった。すぐ行くからちょっと待ってて」

 

 屋上はシートやクッションなどが置かれて、くつろげるように改造されていた。

 そして『Leo/need』の面子は持参した持ち物で色々準備をしている。

 

「えっと、家から持ってきたジュースとコップはこの鞄に……」

「このジュース入れて、あっちに持っていけばいいの?」

「え? あ、ミクはいいよ! 私達が勝手に始めたことだし」

「ううん。私達も一緒に見せてもらうんだから、手伝わせてよ」

 

 自分達が好きで始めた事にミクを手伝わせるのは気が引けた一歌が止めようとするも、ミクはささっとコップにジュースを注いでいってしまう。

 そそくさとイアもミクの行動を真似してか、同じようにジュースを運ぶ。

 

「こっち寝転べるようにしたよ」

「クッションまであるのね。これならのんびりできそうだわ」

 

 志歩が並べたクッションをルカが興味深そうに窺う。

 

「……なんか、部屋みたいにしちゃってすみません」

「ふふっ、いいのよ。ここはあなた達のセカイだもの。私も寝転んでみようかしら」

 

 悪戯げに笑うルカに志歩は「どうぞ」と勧めると、ルカは遠慮なくクッションに寝転がり仰向けになった。

 

「あら、フワフワしていて気持ちいいわね」

「はい、ジュース。ルカ、なんだか優雅だね」

「ふふ、ミクの場所もあるわよ。隣のどうぞ」

 

 ミクからジュースを受け取ったルカは空いている片手で隣のクッションをポンポンと軽く叩く。

 くすりとミクは笑うとルカの隣へと座った。

 

「私の場所は?」

「勿論、ミクの反対に座るといいわ」

 

 こくりと首を傾げたイアにルカが微笑んだ。

 わーいと遠慮なくイアがダイブする姿にミクはくすりと笑う。

 

「お待たせ! お菓子とジュースはここに置いて……っと」

 

 空いているスペースにお菓子とジュースを各人が取れるようにして、『Leo/need』の準備は終わった。

 

「準備よし、っと。穂波、いいよ」

 

 全員が揃って、準備が終わったことを確認し想は穂波に声をかける。

 そして、各々がくつろいでいる前に穂波は出てくる。

 

「それじゃあみんな、始めるね」

「うんっ! ほなちゃんお願いしますっ!」

 

 咲希の言葉を聞いて、穂波はこほんと一旦咳払い。

 

『みなさま、本日ようこそいらっしゃいました。美しい満天の星空を、心ゆくまで楽しんでいってくださいね』

 

 まるでプラネタリウムの案内のように穂波は語り始める。

 

「ヒューヒュー! 楽しんじゃうよ~!」

「咲希、うるさい」

「雰囲気台無し」

 

 囃し立てる咲希の声に志歩と想が無情なツッコミを入れる。

 むくりと咲希は膨れ、

 

「えー! 合いの手があったほうが盛り上がるってば!」

「プラネタリウムに合いの手はいらないかな……」

 

 一歌にもダメだしをされてしまう始末。

 

「一歌にまで言われたらもう味方はいないね」

「ソーウ!!」

 

『それでは、みなさまの正面、北の空を見てゆきましょう。明るい七つの星が──』

 

 そんな風に想と咲希がじゃれてる間も流暢に穂波は解説を続けていく。

 まるで子猫がじゃれあっているのを眺めるかのような目線を向けながら。

 

 

 

「天文台の代わりにプラネタリウムごっこなんて、考えたね」

 

 『Leo/need』が作り上げたリクライニング空間でくつろぎながらミクはひとりごちる。

 

「ええ、とても素敵なアイディアだわ」

「快適快適」

 

 穂波の解説は耳に心地よくルカもイアもリラックスしていた。

 

「ところでミク。咲希がひとりでここに来た時、ミクも屋上に来てたんじゃない?」

「……気づいてたの?」

「なんとなくね。咲希が話しやすいように見守ってくれてありがとう、ミク」

 

 まるで年長者のようなルカの姿勢に思わずミクは苦笑する。

 

「……ふぅ。やっぱり、まだルカには敵わないな」

 

 そしてミクはルカを挟んだ反対側に転がっているイアに目をやった。

 

「イアにも後れを取っちゃったし、私ももっと頑張らないと」

「?」

 

 意気込みを新たにするミクにイアは疑問符を浮かべている。

 そんな二人の様子をルカは面白そうに、妹を見守る姉のように、微笑みを浮かべていた。

 

 

 

『この明るい星は、一等星で、名前をレグルスといいます』

 

 穂波の解説は耳に心地よく、内容もすっと頭に入ってくる。

 しかしその弊害もあるようだ、と想は自分に寄り掛かっている存在を小突いた。

 

「うんうん……むにゃむにゃ」

 

 想に寄り掛かりながら船を漕いでいるのは咲希である。

 

「ちょっと咲希、何寝かけてんの」

「だってほなちゃんの声、優しくって子守唄みたいなんだもーん」

 

 寄り掛かった姿勢を変えず咲希は半目を開けて、志歩の言葉に返事をした。

 

「あのね……」

 

 呆れたような怒ったような志歩の口調に一歌がまぁまぁと宥める。

 

「いったん休憩挟もうか。穂波もずっと喋ってると疲れるでしょ」

「わたしは大丈夫だけど、咲希ちゃんはおやすみタイムが必要そうだね」

 

 咲希の様子を見てくすりと優しく笑う穂波はまるで母親みたいだ、と想は暢気に思う。

 

「そんなタイム入れたら、このあとずっと寝てるでしょ。ほら咲希、起きて」

「えー。しほちゃんスパルタ―」

「うるさい。顔でも洗って目を覚ましてきてよね」

 

 志歩は咲希を想から引っぺがし、そのまま咲希を直立させる。

 そして志歩は想に呆れたような視線を向けた。

 

「まったく想が甘やかすせいだからね」

「こっちに矛先向けないでね?」

 

 ちょっと寄り掛かられていただけで批難を向けられていてはたまったものじゃない。

 

「まぁでも俺もちょっと眠気覚ましをしてこようかな」

 

 穂波の声で眠気を誘発されていたのは咲希だけでなく想も同じだった。

 とはいえ、うたた寝を始める程のものではなかったが。

 

「それなら、今から一緒に演奏しない? きっと目も覚めるよ」

「そうね。この星空の下で演奏するなんてとっても素敵だわ」

 

 ミクの提案にルカも賛同する。隣ではイアもこくこく、と頷いている。

 そしてその提案に真っ先に飛びついたのは、

 

「うん! やりたいやりたい! 何弾こうか?」

 

 先程までうたた寝気分でいた咲希であり、一気に眠気も吹き飛んだようである。

 

「ミク達とやるんだったら、えっと……」

 

 ミクと一緒に演奏するということに一歌もすっかりやる気になっていた。

 

「ついに、私の演奏をお披露目する時」

「そう言えばイアも楽器弾けるのか」

 

 この『セカイ』の住人だからかイアも当然のように楽器が弾けるらしい。

 想の言葉にブイサインでアピールしている。

 

「ふふっ。もう目が覚めちゃったみたいだね」

「たく、現金なんだから」

 

 微笑む穂波に、呆れ口調の志歩。

 だが、

 

「……でも、弾きたいのは私も同じかな」

 

 志歩も十分にやる気になっていた。

 

「現金なのは志歩も同じだね」

「じゃあ想は弾かないでいいね」

「何を、勿論俺もやりますとも?」

 

 挑発するような志歩の言葉に、想は一瞬で食いつく。

 こういったやり取りもプロレスみたいなもので周囲はどっと笑っていた。

 

「うん、みんなでやろうやろうー!!」

 

 咲希は周りを上機嫌に見回す。

 そして、少しかしこまった。

 

「でもその前に、言っていいかな? 忘れない内に」

 

 その神妙な態度に皆の注目は一気に咲希に集まる。

 

「ん? 何?」

「……あのね」

 

 一歌が訊ねたことで、改めて咲希は切り出した。

 

「一緒にプラネタリウムごっこして、ミクちゃん達ともバンドできてみんなとのすごく素敵な時間ができて、とっても嬉しいよ」

 

 改まった咲希の言葉に全員が静かに聞いている。

 その言葉はとても大事で、咲希の想いが籠った言葉だから。

 

「だから……これからもたくさん、こんな時間を作っていきたいな」

 

 その言葉を受け取り、皆の想いを代表するのは一歌だった。

 

「……うん! たくさん作ろう!」

 

 

 

─────

 

 

 ミク達と行った演奏も終わって、プラネタリウムの続きをする前に少し休憩する時間。

 想は集団から離れて、金網から外を眺めていた。

 どこまで先があるか分からない地平線。上を見上げれば満天の星空。

 どこまでも不思議な『セカイ』で想は改めて考えていた。

 ああ、幼馴染と一緒にいられてよかったと。

 我がごとながら短慮だった、若さゆえの過ちだった。

 そうやって切り捨てるのは簡単な事だけれど、想は自分が『Leo/need』を離れようとしたことをそんな単純な箱にしまうことはしない。

 それは離れようとした行動が幼馴染を想ってのことだったから。

 これから幼馴染の誰かが似たようなことをやってしまうかもしれない。

 それならこの経験は大事にしようと、その時想ったことを忘れないようにしたい、と。

 

「ソーウ」

 

 そんな少しセンチな気持ちになっていたところに声をかけてきたの咲希だ。

 

「ん、どうした?」

「なーんか黄昏てるなーっておもって」

 

 咲希のほうを向くとその瞳はどこか不安そうな色を浮かべている。

 

「……もう、どこかに行こうなんてしないよね」

「……そうだな」

 

 一瞬逡巡したが、咲希の言葉に想は素直に頷いた。

 

「これからもずっと、ずーっと一緒だからね!」

 

 手を握って咲希は訴えかけるように想を見つめる。

 

「絶対、なんてことは言えない」

 

 想は空いた手で咲希の頭に手を乗せて、撫でる。

 

「それでも、できる限りみんなと一緒にいたい、そう想うよ」

「……うん!!」

 

 

 

 一番星が輝く限り、この想いはきっと消えないだろう。




『翳る曇り空に、一番星を』これにて完結となります。
『天空の明星』も一旦終了となりますが……一旦ということは?

ひとまず続けたい気持ちはありますが、これまでのような定期更新はできないという形になります。
詳しいことはあとがきに書いていますのでよければどうぞ。

とりあえずここまでなんとか投稿を続けられたのは見てくださった方のおかげでもありますので、ここに感謝を。ありがとうございます。

それではまた会える日まで。
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