『第一話』
お馴染みになった『セカイ』での『Leo/need』の練習。
全体練習をするときなどは『セカイ』でやることが多い。
そして、その練習が一息ついたタイミングで、
「────」
栗空想は弾き語りを始める。
この弾き語りもまたお馴染みになっていた。
『Leo/need』の四人は各々聞き入っており、
「いやー相変わらずソウの弾き語りいいよねー」
拍手をしながら咲希が想の弾き語りを褒める。
「お褒めにあずかり恐悦至極」
咲希の拍手に芝居がかった仕草で恭しく礼をしてみせる想を見てみんなで笑うのも日常の一幕だ。
そして想はギターを仕舞いながら思い出したかのように、
「そう言えばしばらく練習合わせられない日が多くなるかも」
何気ないように言われた言葉に四人は首を傾げる。
「ソウ、何かあるの?」
「あー、文化祭の準備がな」
「意外と早いんだね」
何か大事があったかと内心心配していた一歌だったが、ほっと安心しながら言葉を返した。
「時期は学校によるよな。と、その文化祭でみんなに一つ相談が」
「なんか企んでるよね?」
相談という言葉を聞いた瞬間、志歩は嫌そうな顔をする。
「ちょっと相談するだけで心外ー」
「まぁまぁ志歩ちゃん、聞くだけ聞いてあげよう?」
「はぁ、穂波はそっちの味方なんだから……とりあえず聞いてあげる」
穂波に宥められて、渋々といった体裁で志歩が相談とやらを聞く体勢に入る。
他の三人も同様だ。
「うちの文化祭の後夜祭では色んな生徒がライブをやるらしいんだ。即興で参加もありな割と何でもあり気味の」
「おー、すっごい楽しそう!!」
「だろ」
咲希の反応に想はご満悦。
そして、
「『Leo/need』でそのライブに出てみないか?」
投げ込まれた言葉に一瞬の静寂。
だが、その静寂はすぐに打ち消される。
「出る! 当然出るに決まってる!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら咲希は想の言葉に乗っかった。
咲希が乗ってくる前提で提案を投げかけた想としてはしたり顔。
一歌と穂波は少し困惑気味。
志歩は、
「ちょっと待って」
これまた予想通り制止を入れてきた。
「えーなんでしほちゃん。出ようよー」
「咲希は少し黙ってて、想に確認したいことがある」
抗議してくる咲希を手で制しながら志歩は改めて想のほうを見やる。
現実的な志歩が抗議をしているのも想の予想の範疇。
「まず、後夜祭なんかは普通部外者は入れないものじゃない?」
「ああ、うん。なんとかする」
なんとかする、想のこの一言で四人全員あー、と言わんばかりの顔になっていた。
「まぁ、想がなんとかするって言うなら」
「なんとかするんだろうね、想くんは」
一歌と穂波はどこか諦めたような納得したような雰囲気で頷きあう。
しばらくの間会ってなかったと思えないほどの幼馴染に対する理解度。
「……それでいいなら、そこはいい」
志歩も苦虫を噛み潰したような表情をしつつ、想のなんとかするという言葉は受け入れていた。
だけど、
「私は本気じゃないと嫌」
真摯な視線が想を刺す。
想の提案はお遊び気分じゃないか、と。
「あー、うん」
想としても後夜祭ライブへの参加を提案するに当たって、志歩に止められると分かっていた。
だからこそ、
「志歩がバンドをやるに当たって本気なのは知ってる。俺も、一歌も、咲希も、穂波も」
間違わないように。
一つ一つ丁寧に言葉を手繰る。
「今回の提案が気負わず、楽しくライブできればいいんじゃないかって考えてなのは間違ってない」
「うん」
前までの志歩ならここで一気に反駁していたかもしれない。
ただ、まだ想が言葉を続けると分かっていて、続きを待っている。
「でも、それが本気でやらない理由にはならないだろ」
その言葉に志歩は目を瞠った。
そこが両立しえるのか、と。
「今からこっちの文化祭までまだ時間はある。そこまでいっぱい練習して、本気でライブに挑めばいい」
「そうだよ、しほちゃん! 目いっぱい頑張って本気でライブしよう! それで目いっぱい楽しんじゃおう!」
追撃は咲希から飛んできた。
はぁ、と小さく志歩は溜息を吐く。
「いいよ、分かった」
「ま、気負わずやればいいってのも嘘じゃない。これも経験の一つだと思えば荷は軽くなるだろ」
にっと想が笑って見せると志歩は目をそらす。
恥ずかしいというより言いくるめられた気がして悔しいのかもしれない。
「一歌と穂波もそれで大丈夫か?」
まだ確認を取ってなかった二人を見やると二人とも苦笑した。
「ここで嫌だって言う雰囲気じゃないでしょ」
「元から想くんの提案なら賛成してたよ」
一歌も穂波も嫌とは言わないとは思っていたが、それでも二人の意思を無視するわけにはいかない。
だが、これで懸念事項は大体解消された。
そこであれ、と咲希が首を傾げる。
「でも、ソウの練習は大丈夫? さっき準備で合わせられなくなるって」
「まぁその分個人練みっちり頑張るってことで」
提案した手前一番遅れをとるわけにはいかないので時間が取れるときに練習の密度を上げるしかない。
「想には私が特別に特訓メニュー考えてあげる」
「少しくらい手加減して欲しいんですけどね……」
─────
文化祭の準備、その一つにはクラスの催し物をどうするか決めるなどをホームルームで打ち合わせするといったことなどもある。
クラスの進行役に任せて担任の教師は隣で見守るだけ。
そんな生徒の自主性に任せたタイミングだからこそ、クラス内はいつもより少し騒がしくなる。
「それじゃあ、うちのクラスの出し物は『わたあめ』となってますが」
進行役を任された想は壇上に上がって黒板に大きく書かれて丸がつけられている『わたあめ』の文字を指す。
「若干、やる気が感じられないな?」
直後クラス中から一斉にブーイングが沸き起こる。
やれあの時は否定意見はでなかった、栗空も何も言わなかった、進行役になったからって生意気言うななど。
「はーい、他所のクラスの迷惑になるんでお静かにー。お怒りの声はよーく聞こえてるから続きを聞けー」
などと暢気に言葉を続けられてクラスは一旦静まる。
暖簾に腕押し。糠に釘。
栗空想がただ語気を強めただけで怯むわけではないと1-Bの生徒は大分理解していた。
「まぁ『わたあめ屋さん』が悪いと言うわけではないが、文化祭における評価が直接内申に繋がらないにしても学校側から評価対象になってることくらいは諸兄らにはご理解ただけていると思う」
もちろん、クラス全体の評価としてな。
そう付け足された言葉に誰とも知らず唾を飲む音が聞こえた。
「そこで一見した場合、文化祭の出し物として『わたあめ』を選んだ。それはどう見られるだろうな?」
クラスが先ほどと違う意味でざわつく。
クラスの出し物として見た場合、『わたあめ』は楽に流れた、他の凝った出し物をするクラスと比べて見劣りするのではないか?
そんな風に不安は伝播する。
そして、
「じゃあどうしろって言うんだよ」
誰かがそんな風に呟いた。
想はその言葉を待っていたかのように口を開く。
「どうしろって? 簡単なことどうにかするんだよ」
まず、とそのまま想は言葉を続けた。
「クラスの出し物は委員会に提出済み。これを取り下げることはできない。ならば、『わたあめ』で創意工夫を凝らせばいい。解答は単純だろ?」
そう言うと想は黒板にチョークを走らせる。
わたあめの味、わたあめにできるトッピング、店売りのわたあめはどんなものか。
大きくプリントアウトされた写真も黒板に貼っていく。
「素人がざっと調べただけでこれくらいの資料が出てくる。そしてここで『わたあめ』の強みが出てくる」
一つ指を立てる想。
いつの間にかクラスメイトは想の話を聞き入っていた。
「『簡単』なんだよ。さっき『楽』だから選んだとか思った人もいただろ、だがここでこういったバリエーションを真似るのも『楽』になってくる」
店売りのものと比べて一段落ちるだろうけどとオチをつけるのも忘れない。
だが、最初あれほど否定されて意気軒昂に怒りを露わにしていたクラスメイト達が別の意味で盛り上がっていた。
あれもいいんじゃないかこれもいいんじゃないか、とポツポツ意見が交わされるようになっている。
そしてパンパン、と想は手を叩く。
「叩き台としては以上、後は意見を纏めて文化祭で実行できる範囲内で『面白いわたあめ屋さん』を目指す。これでいかがでしょう?」
想に文句を言っていたクラスメイト達がいつの間にか前向きに『わたあめ屋』をやる雰囲気に変わっていた。
「文化祭は三年通してあるが、この面子でやるのは最初で最後だ。どうせなら、派手に盛り上げたいでしょ」
どう? と締めた言葉にクラス中が沸き立つ。
それからしばらくして担任の教師がクラスを収めるのに苦労したのは余談であろう。
想の幼馴染の一人が見たら「詐欺師」と言われかねないホームルームの一幕が終わった。
「あー疲れた」
進行役を務めたホームルームを終えて想は自分の席で一息吐く。
クラスメイトを焚きつけたのもあって意見を纏めるのも多少手間取った。
「おつかれさま」
一応と言った感じに労いの言葉をかけてくれたのは草薙寧々。
元々人見知りの寧々だが、想とはいつの間にかすっかり打ち解けて、労いの言葉と共に冷ややかな視線までくれるようになっている。
「でも、意外だったかな。栗空くんがあんなにやる気だったなんて」
「やる気に見えるなら何より」
「何それ」
若干投げやりな想の返答に寧々は訝し気な表情をした。
そこに、
「想」
新たに青柳冬弥が想に声をかけてきた。
「中々の見栄だった。ハッタリをきかせたら想の右に出るものはいないな」
「人聞きがわるーい」
感心したような冬弥の言葉に、ぐったりとした想の返事。
まだ慣れていない冬弥の登場に寧々は少し戸惑っていたが、そのやり取りに首を傾げる。
「えっと……それって、栗空くんは虚勢を張ってたってこと?」
「割と人には口が上手いとかよく言われるんだけどねぇ。さすがにクラス一つを相手に上手くやれるかはまぁまぁ怖かった」
「それであそこまで見事にやったんだ。大したものだ」
冬弥は想のやり方に感心したように頷いていた。
実際想自身もまぁまぁ上手くやったと思っている。代償として今はぐったりしているが。
「栗空くんなんでそんなに……」
「咲希さんか?」
寧々の疑問に、冬弥が追従する。
思わず反射で想は目をそらした。が、それでは答えを言っているようなもの。
「まぁ咲希だけじゃなくて幼馴染全員来るからね」
わざわざ隠し立てするようなことではないので渋々といった態で口に出す。
とはいえ、想自身の性格からあまり人に弱みを見せたくないタイプなので反射的に目をそらしてしまったが。
「うん、やっぱりこういう時くらい見栄を張りたいじゃん」
ここまでクラスを焚きつけたのはひとえにこれに尽きる。
ちょっとくらい幼馴染に対して見栄を張りたかった。
可愛げが無いなんて言ってくる幼馴染もこんな姿を見れば、少しは面白そうにするだろう。
だからこそ栗空想は幼馴染の前では精一杯取り繕うが。
自分で文化祭に誘っておいて、それで苦労しては世話はない。
それでも、
「楽しみは増えた方がいいからね」
まだ少し先のこと。
それでもこれからのことを考えると想の口は自然と綻んだ。
お久しぶりの方はお久しぶりです。はじめましての方がここから読むのか分かりませんがはじめまして。
実質完結させてから一年以上……。短編は制作すると言っていましたがここまで時間かかるとは思っていませんでした。
小説以外の私事もあったので思うように筆は進まず……。
前の後書きで言った全部書き上げないとエタるという証明のような結果に。
具体的な内容の後書きについては全部投稿し終わってから。
イベントシナリオ『KAMIKOU FESTIVAL!』の栗空想視点になります。
全三話、短いですがお楽しみいただけたらなによりです。