「ソウ、今日学校終わってから時間ある?」
既に日課になりつつある想と咲希との登校。
その時間に咲希は切り出してきた。
「ん、別に時間はあるがどうした」
「ふっふー、実はちょっと買いたいものがあるから付き合ってほしいんだー」
どこか意味ありげな笑みを浮かべながら咲希は楽しそうにしている。
余程買いたいものがあるらしい。
「まぁ別に付き合うのはいいが……」
「ホント! 折角だからいっちゃんも誘って一緒にいこー!」
おーっ、と握り拳を突き上げる咲希。
何を買いに行くのか訊きそびれたがそれはいいかと想は苦笑した。
──────
放課後になり、咲希と一歌と合流した想は咲希に連れられ楽器店に来ていた。
「買いたいものって……そういうことか」
一歌が店につくなり納得したように呟く。
楽器店──音楽関係のものはいくつか陳列されているが、ここに来る第一の目的は一つ。
「うん! せっかくバンドを始めるんだし、自分で選んだ楽器、使いたくて」
咲希は今まで入院していて、バンドを始めたのもつい先日。
『セカイ』で使ったものは別として、当然自前の楽器を持っているはずがなく。
「今日はこれまでためてたお年玉全部使うつもりなの!」
「すごいやる気だね。でも高いからっていいものってわけでもないんじゃない?」
豪快な咲希の発言に一歌は冷静な指摘をする。
「ま、一歌の言う通りだな。ブランドだけで高いモノってのはどこにでもあるもんだし」
基本的に高いモノを買えばそれなりに安定したモノを買えるというのは間違っていない。
が、不相応に高いモノはいくらでもある。
「それもそうだね。……ソウってお父さんのお下がりだっけ?」
「ああ、家で使ってる分のはな」
想のその言葉に一歌と咲希は首を傾げた。
その様子を見て想は苦笑しながら、
「ちょっと外で弾くことがあったから、そっちは新しいの買ったってだけ」
お古じゃカッコつかないからなぁ、とぼやく。
「え、ソウ。外でも弾いていたの? どこで!?」
急に食いついてきた咲希に想は少し慄く。
一歌も口にしないまでも興味を表情から隠しきれていない。
「言うことあればそのうち、な。そんなことより咲希の楽器だろ。まずは店員にでも訊いてみたらどうだ」
「ぶー。今度話してよね!」
分かりやすくぶー垂れる咲希。
だがすぐに表情を切り替えて、辺りをきょろきょろと見まわし店員を探す。
すると、
「あれ、しほちゃん!?」
ビシッと咲希が指をさした先にいたのは志歩。
ベースを持ち歩いていた志歩だ。楽器店にいること自体は不思議ではないが、このタイミングで鉢合わせるのは間がいいのか悪いのか。
ひとまず想は指さしていた咲希の腕を強制的に下ろさせる。
「咲希……? 一歌と想も……」
少し離れた位置にいた志歩だが、咲希の声でこちらに気づいた。
それほど広くない店なので当然か。
「志歩……」
「しほちゃん久しぶり! あの不思議なセカイで会ったあと、全然会えてなかったよね」
気まずそうにしている一歌とは別に咲希はぐいぐいと志歩に迫っている。
あれだけ近寄るなオーラを出していた志歩に対してそこまでできるのは咲希の才能か。
一方の志歩はなんとかしろと想に視線で訴えかけているが、半目になりながら想は手を振って無理とアピール。
残念ながら咲希の手綱を握ることは想も不可能だ。
「今日は何してるの? 買い物?」
「そうだけど……そっちは?」
やや渋りながらも咲希の質問には答えて、投げ返す志歩。
いっそ無視する手もあったろうに、わざわざ答えてあげるあたり人が良い。
「ふふん! こっちも買い物だよー。今日はシンセサイザー買いに来たんだ!」
鼻を鳴らしながらどこか自慢げに咲希は本日の目的を志歩に告げる。
「シンセ?」
一方の志歩は訝しそうな顔をした。
急にシンセサイザーを買いに来たとなれば訝しむのもやむなし。
「うん。アタシ達、バンドやるの! しかもセカイにいたミクちゃん達が、練習を手伝ってくれるんだよ!」
「……想、ホント?」
志歩は訝し気な表所なまま質問の相手を想に変えた。
どうやら志歩からすると常識を確認する相手は想のほうがいいらしい。
「まぁ、残念ながら」
「ちょっと残念ってどういうこと!?」
想の返答に咲希が噛みついてきたが、そのやり取りを無視して志歩は胡散臭そうな目をこちらに向ける。
「ミクが練習をって……あんななんだかよくわからない場所でよくやる気になるね」
呆れたような志歩の言葉。
確かに普通に考えれば、『セカイ』はよくわからない場所だ。そんなところで落ち着いて練習できるかと言いたくもなるだろう。
「そんなことないってば! ねぇ、ソウ!」
「ま、住めば都。場所の不可解さを除けば存外悪くないよ」
想の言葉を聞いて咲希はどこか誇らしそうな顔を志歩に向ける。
別に咲希の手柄でも何でもないのだが。
当の志歩は鬱陶しそうな胡散臭そうな視線を咲希に投げている。
「ねえ、しほちゃんは今もベース弾いてるんだよね。バンドとか、入ってる?」
探るような咲希の態度に、志歩はやれやれと肩を竦めてみせる。
「……その手には乗らないからね。私は誰かとバンドを組む気はないから」
先程の咲希の台詞は志歩から、「やってない」という言葉を引き出して「じゃあ一緒に」などと誘いをかけるためのモーションだ。
しかし志歩にはそんなことはお見通しで、にべもなく誘う前に断れてしまった。
「そんなー! まだなんにも言ってないのに……」
がっくりと肩を落とす咲希。
「……バンドには入ってないけど、たまにバイト先のライブハウスで臨時のベーシストとして参加したりはしてる」
そんな咲希の様子を見て志歩は言い訳のように今の事情を口にする。
わざわざ言わなくていいコトだが、落ち込んだ咲希を見ては口にせずにはいられなかったのだろうと想は俯瞰。
「……私は、ひとりでいい」
その宣言は明確な拒絶の意志。
「志歩……」
その表明に一歌は落胆の様子を隠し切れないでいた。
ただ、想としては突き放しきれないあたりなんだかんだで志歩も甘いと思ってしまう。
「でも……アタシはもっともっと、しほちゃんと一緒にいたいよ! 一緒にバンドもやりたい!」
志歩の言葉を聞いてもまだ咲希は追いすがろうとする。
「それに、ほなちゃんとも! 五人で一緒に!」
一向に諦める様子を見せない咲希。
そんな咲希を見て志歩は目を閉じ、
「……はぁ」
大きく息を吐く。
「咲希って、ほんと変わらないね。小学生の時からずっと同じ」
「え、小学生の時って?」
急に志歩から小学生の時の話を振られ咲希は困惑する。
「遊ぼうって毎日毎日しつこく言ってきたでしょ。私、ゲームしたいからって何度も追い払ったのに」
「諦めないもんなぁ咲希。いきなり部屋に入ってくるし」
「私を誘う時はいっつも想も一緒だったはずだけど?」
「ノーコメント」
想が思い出話に乗っかったところで一瞬で釘を刺されてしまう。
迂闊な事を言えばすぐに弱いところを刺しに来る辺り幼馴染って厄介だなぁ、と想は心の中でぼやく。
「そ……そんなにしつこかったかな……?」
当の咲希は全く自覚無し。
ほぼ毎日想を引っ張り出してから幼馴染を遊びに誘う様はしつこい以外何物でもなかった。
「しつこい。うちのお姉ちゃんくらいしつこい。結局、私が折れるしかなかったし」
「う、ごめん……。でも、しほちゃんと遊びたかったんだもん……」
咲希の言い分はまるっきり子供の言い訳だ。
駄々っ子のそれと大差ない。
「……」
それでも志歩はその様子を見て、押し黙った。
何かを口にしようとして、でも躊躇いまた口を閉じる。
その様子に、
「志歩」
想はただ一言名前を呼んだ。
それだけで志歩はビクリとした様子を見せ、警戒した目つきで想を睨む。
「諦めるの?」
淡々と確認するような口調で、想はその言葉だけ告げる。
咲希も一歌も想が何を言いたいか分からず首を傾げていた。
だが、
「……はぁ」
志歩はさっきと同じように大きく溜息を吐く。
「想も変わらない。昔っからそういうところは苦手」
「どういうところよ」
「そういう見透かしたかのようなところ」
嫌になる、と志歩がぼやく。
見透かしたかのようなんて志歩は言ったが、想としては何も見透かせてはいない。
ただ、言うべきだと思ったそれだけの言葉を言っただけの事。
「……中学の時、一度バンドに入ったの。軽音楽部の先輩に誘われて」
志歩は躊躇った様子を見せつつも、過去を口にし始めた。
「でも、そのバンドは馴れ合ってばっかりだった。一曲だって真剣に練習できなくて、ケンカになって……」
苦々しいような、諦めたような、吐き捨てるような言葉。
「結局、私が追い出されて終わり」
「しほちゃん……」
「だから、私は、誰かと一緒にバンドをやるとしても、本気でやりたい」
真摯な志歩の思い──いや、願いか。
だがその願いを口にするということの意味は、
「……この曲、来週までに合わせられる?」
志歩はかばんから一枚のプリントを取り出し、咲希達の前に見せる。
想がそのプリントを手に取り、咲希と一歌が覗き込む。
「え? これって……楽譜?」
咲希が呟いた通りプリントには楽譜が印刷されていた。
ふむ、と想はざっと楽譜を一瞥する。
「それ一緒に弾けたら、考えてあげる」
要するに志歩からの課題だ。
この曲を弾けるレベルまで練習できるのなら一緒に弾く価値があると。
素直じゃない、と思うのと同時に志歩が真剣なのも想には理解できた。
簡単な曲ではない。譜面を軽く見ただけだが、それが理解できるだけに志歩が本気でやりたいという想いが伝わる。
「うん、あわせる! 練習する! ね、いっちゃん、ソウ!」
「う、うん……!」
「ま、いっちょ頑張りますか」
盛り上がる咲希達を見て志歩はやれやれと小さく溜息を吐く。
そして、
「じゃ、私はバイトに行くから」
そう言うと志歩は店を出て行った。
それを見送り──
「やっ……たぁー!! いっちゃん、ソウ絶対に弾けるようになろう! がんばろうね」
咲希は飛び上がらんばかりに、というか実際に小さくジャンプして喜びを表現していた。
「……うん。うん。咲希、想もありがとう。私じゃきっと諦めてたよ」
一歌も感慨深そうに頷いている。
「えへへ……アタシけっこーなワガママ言っちゃっけどね」
「ワガママな自覚はあったか」
思わず突っ込む想を後目に咲希はおーっと腕を突き上げた。
「とにかくこうなったら、練習して絶対に成功させなくちゃ!」
意気込んだ咲希はところで、と想のほうをじとり目で見る。
「ソウ、その曲どんな感じ?」
「どんな感じって……」
改めて想は楽譜を見る。
先日セカイで聞いた演奏を鑑みると、咲希と一歌のレベルは正直高くない。
「まぁ率直に言ってこれを志歩と合わせるならけっこー練習しないといかんな」
「だよねー!」
「志歩のことだから妥協はしてくれないだろうし……」
咲希も一歌も予想していたと言わんばかりの反応。
「ま、放課後返上すればなんとか追いつけるでしょ」
「よし、じゃあみっちり練習しないと。そうと決まればまずはシンセを買うぞー!」
拳を上げて意気込む咲希。
本来の目的は咲希のシンセサイザーを買う事だった。
「あ……店員さん、すみません!」
一歌が店員に声をかけて、咲希が買うシンセサイザーを吟味した。
課題曲を練習するために三人はとある場所へ向かった。
『セカイ』
志歩に話した通り、場所の不可解さを気にしなければ練習場所としてはうってつけだ。
楽器を使う関係上どうしても音を出して練習する場合気にかけるところは多い。
しかしこの『セカイ』であるならばそう言った周辺への配慮が必要ないというのは利点だ。
そして、
「ミクちゃん! ルカさん! お邪魔します! アタシ達しほちゃんとバンド組むためにこの曲マスターしたいんです!」
「きゅ、急にごめん。志歩とバンドできるかもしれなくて……! だから、もっと練習を見てもらいたいの。いいかな……?」
「……ふふっ。そっか、一緒にやれそうなんだね。もちろん、手伝うに決まってるでしょ?」
『セカイ』のミクとルカがいる教室に駆け込むように訪ねたところ、ミクは快く歓迎してくれた。
「ところでその曲ってのはどんな?」
「これですねー」
慌ただしい咲希と一歌、それを微笑ましそうに見ているミクを横目に想はルカに課題曲のプリントを見せていた。
「一歌、今のフレーズいい感じ。もう一度やってみようか」
「うん、もう一度……!」
「ルカさん、ここのメロディーなんだけど、どんな風に弾いたらいいと思う?」
「そうね、このメロディーなら……」
「二人とも、そこの部分終わったら一旦合わせてみるぞ」
──────
『セカイ』で練習を始めてから数日が経過し──
「あ、もうこんな時間?」
練習していた手を止めて一歌が時計を確認して呟く。既に時計の針は日が暮れる頃合いを指していた。
今日の練習も終わりの頃合いである。
「わ、ほんとだ……! 練習に夢中で全然気づかなかった」
「こっちのセカイは、ずっと夕暮れなんだね。時間が過ぎてたの分からなかった」
「まさに黄昏時って感じで、淡くて儚い気がするな」
窓の向こうの空模様を見ると橙が段々黒に溶けていく様子で止まっている。
「うん、この景色も五人の想いでできてるから、まだちょっと寂しい景色なんだ」
「え?」
意味深な事を言ったミクに対し一歌が疑問符を浮かべる。
「はぁー……」
ただしその疑問は咲希の大仰な溜息にかけ消されてしまう。
「それにしても、難しい曲だなぁ……しほちゃんが選んだ曲って感じがするよ」
「志歩らしいっちゃらしいというか。まぁ容赦はないチョイス」
咲希の言葉に想は思わず苦笑する。
数年近いブランクがある一歌と咲希にとっては中々ハードルが高い曲だ。
ただ、
「そうね。でもきっと三人と真剣にバンドやりたいから、この曲を選んだんじゃないかしら」
励ますようなルカの言葉。
それに関しては想も同意するところだ。
「うん、アタシもそんな気がする! 弾いてるとぐんぐん上手くなってる気がするし!」
「志歩は厳しいけど、無理難題を吹っ掛けるタイプじゃないしな」
しばらく会ってなかった幼馴染であるが、再会した時に昔と変わらない性格ってのは分かっている。
であるならば記憶と照らし合わせて、試すつもりはあれどふるい落とす気はないというのは読み取れていた。
「あ、そうだいっちゃん、ソウ。練習中に思いついたメロディーがあるんだけど、聴いてくれない?」
「咲希が考えたの? 聴いてみたいな」
「そう言うなら、ご清聴といきましょうか」
純粋に気になるといった一歌に対してからかい口調の想。
「もうソウはからかわないでって。……じゃあ聴いててね!」
想のからかいに反応するも咲希は一旦大きく息を吐く。
そしてシンセを叩きメロディーを鳴らす。
その短いフレーズは軽やかで明るい感じがする咲希らしいメロディー。
「……こんな感じなんだけど」
少し恥ずかしそうに咲希はシンセを叩き終える。
「へぇ、すごくいいメロディーだね」
「らしくっていいんじゃないか」
一歌と想の感想を聞いて、咲希の顔はパッと明るくなった。
「ほんと? よかった! 昔いっちゃん、歌詞書いてた時あったでしょ? だからアタシもたまにメロディー考えてるんだ!」
咲希が入院していた時も、たまに鼻歌ながら簡単なメロディーを想に聞かせてくれていたこともあった。
あの時から幼馴染の事を想っていたのだと今更ながら気づかされる。
「そういえばそんな時もあったね。歌詞はもう書いてないけど、メロディーはできたらまた聴かせてよ」
「うん! あ、そういえば! このセカイにもこんなものあったっの気づいてた?」
そう言って咲希が取り出したのは大きめの一枚の紙。
そこの描かれていたのは、
「これって……星図?」
星座の位置と名前が示された星図。
「うん。それに、黒板にも描いてあるでしょ? なんだか、これから星見に行くところみたいだよね」
「確かにまぁ、この星図だけじゃなくて星座の図鑑も確かあったな」
前にこの教室を漁った時に想が見つけたその図鑑はあまり大きすぎず、小さな子供でも持ち運べそうなモノだった。
「……星、見に行きたいなぁ」
ポツリと咲希が呟く。
星を見に行くこと、それは幼馴染達にとって強く印象に残ることで皆との繋がりを示す出来事。
「それなら、屋上に行かない?」
その咲希の言葉を聞いたミクが事もなげに言ってのける。
「え? でも夕方だし……」
咲希の言う事は最もで、窓から見える景色は夕暮れから少しも動いておらず星が見える空ではない。
「言ったでしょ。ここは想いでできたセカイなんだよ」
「わぁ……っ! すごい……! こんなにきれいな星空、初めて見たかも!」
不敵な笑みを浮かべたミクに連れられて向かった『セカイ』の屋上。
そこでは満天の星空が広がっていた。
都会では縁遠い、澄み切った空に星々が各々の輝きを放っている。
「本当……! でも、どうして? さっきまで夕方だったのに」
「なるほど、これが『セカイ』の形ってわけか」
首を傾げる一歌に対して想はどこか得心がいった面持ちを浮かべていた。
「ふふ、想は分かったようね。この『セカイ』はあなた達の想いから生まれた『セカイ』だから、あなた達の想いによって、姿かたちを変えるのよ」
一歌と咲希に向かってルカが説明してくれる。
夕暮れの教室も、この満天の星空も想いの形によって彩られたもの。
そしてこれは五人の幼馴染の想いの形。
「……ねえ、咲希、想。昔、星見たよね、五人で」
「見た見た! 五人でジャングルジム登って、流れ星見たよね!」
「なんか少し前にも咲希と話したっけ、まぁやんちゃだったことで」
懐かしい思い出を呼び起こしテンションを上げる咲希に、少し苦笑する想。
「なんだっけ? えっと……カニ座……?」
「しし座。しし座流星群でしょ」
「どっから出てきたキャンサー」
思わず想は半目になってしまう。
ししからカニとは随分なグレードダウンだ。
「それ! ほなちゃんが一生懸命教えてくれたよね」
「穂波、星好きだもんね」
星空を見上げた時、穂波が暗記していた星座について逐一説明してくれていたことを思い出す。
ただ、
「でも、しほちゃんは全然星の名前覚えられなかったよね。……アタシもだけど」
「二人よりマシだが俺もそこまでちゃんと覚えきれなかったな……」
咲希と想は苦い思い出に思わず目が泳ぐ。
今ここにいない穂波が怒る姿が目に浮かぶようだ。
「ふふっ、まだ覚えてるよ。何度説明しても志歩が星座の名前覚えないから、穂波が珍しくむくれちゃって」
「そうだったね! それでアタシとしほちゃんがあわてて星図見て、覚えて……懐かしいな……」
「なんか俺は穂波に膝詰めされた記憶あるんですけど気のせいですかねぇ……」
こうやって一つの切っ掛けで色々な事を思い出す。
それだけ皆との思い出は大切なもので。
今それが欠けているという事実だけでどこか胸が苦しくなる。
「……もうすぐ志歩との約束の日だね」
「うん。しほちゃんと一緒にバンドできるように。最高の演奏しよう」
「そのためには詰めないといけないところまだまだあるけどな」
「わかってる! 練習がんばろー!」
おーっと咲希は拳を突き上げる。
それを見て一歌は微笑みを浮かべ、
「……今度はみんなで、星、見よう」
「……うん!」
「だな」
その言葉を嘘にしないために。
今は精一杯やるべきことをやるだけ。
そしてそれは課題曲を演奏することだけじゃない。
「──会って話さなきゃ、か。動けるときに動くしかないか」
取れる手段があるのにそれをしないのは怠惰だ。
で、あるならば動くしかない。
「ソウ、何か言った?」
「いや、なんも」
ざっくりと心の機微に触れるようなことを言うので志歩ちゃんから警戒されがちの想くん。
真理をつくことが正しいかどうかはおいおいね。