『天空の明星』   作:みなつき

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『第八話』

 時間というのは驚くほど早く過ぎていく。

 なんやかんやで想が志歩と会って話をしてから数日、約束の日がやってきた。

 朝も早い時間から咲希は想を家にまで迎えにきていて、玄関先で想の姉である廻と談笑していた。

 

「想、咲希ちゃん来てるよー!」

「おっはよー、ソウ!」

 

 エクスクラメーションマークが見えそうなほどテンションが高い二人。

 昔からこういうところで気が合ってたな、とまだ覚醒しきっていない頭で思い出す。

 

「もう少し待っといて、準備してくる」

 

 小さく欠伸をしながら想は一先ず洗面所へと向かった。

 

「大丈夫! 廻さんと話してるからー!」

 

 背中越しに聞こえる咲希の声に想は手をひらひらさせて返す。

 

 

 

「いってらっしゃーい!」

 

 と、廻に送り出されて想は咲希と一緒に歩いていた。

 背中にはギターケースを背負っている。これが無ければ始まらない。

 

「久しぶりにめぐるさんといっぱい話したな―」

「随分と盛り上がってたな」

 

 咲希が廻と話し込んでいた具合といったら、想の準備が終わってもまだ話していたぐらいだ。

 気が合うというのもあるが、咲希が退院してから廻としっかり話したのは今日が初めて。

 だからだろうしばらく咲希と廻が話している姿を想は半目で眺めることになっていた。

 

「ふっふっふ、私が入院している間のソウの様子も聞けたしね」

「俺が起きる前にそんな話してたのか」

 

 もう少し早く起きていれば止められていたか、と思うが後の祭り。

 仮に起きていても止められたかというと怪しいところだが。

 しかし、

 

「でねー、めぐるさんのオススメのお店が──ソウ、どうしたの?」

 

 話を続けていた咲希が訝しげに想を見る。

 適当な相槌を打ちながらもじっと咲希の事を見てれば訝しむのは無理もない。

 ただ想としては気になったことがある。

 

「なぁ咲希、もしかして調子が悪かったりしないか?」

「はえ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる咲希。

 いきなり調子が悪いかなどと訊かれれば驚くのは分からなくないが。

 それより、

 

「なんかいつもよりハイペースな気がしてな、もしかしたらと思ったんだが」

 

 咲希が入院していたころ、いつもよりよく喋っていた気がした時がある。

 その時は調子がいいからよく喋るのかと思っていた。

 だが、実際は逆で調子の悪さを誤魔化すようにペースを上げて喋っていて、咲希は話している途中で体調を崩した。

 幸いその時は大したことにはならなかったが、咲希自身も自覚していなかったことなので想としては気になってしまう。

 

「大丈夫だよ、ソウ。この通り元気いっぱい!」

 

 両腕を上げて元気アピールする咲希。

 

「ま、気のせいならいいんだけどな」

「もうソウってば心配症なんだからー」

 

 小さく笑う咲希の様子は確かに問題なさそうに見える。

 杞憂なら考えすぎだ、と笑いごとにしてしまえばいい。

 だが、もしもの事は考えておく必要がある。

 もう少し注意深く見ておくか、そんなことを胸の内で考えながら想は咲希と一緒に目的地へ向かう。

 

 

 

 集合場所はスクランブル交差点。

 志歩が使っているレッスンスタジオへのアクセスを考慮して集合場所はこの交差点となった。

 しかしさすがに人が多い。

 待ち合わせ場所付近に近づきながら咲希はきょろきょろと辺りを見渡している。

 想もざっと待ち合わせ場所に目をやり、

 

「いた」

 

 ロングヘアーの黒髪の少女を見つける。

 一歌だ。

 

「あ、いっちゃーん!!」

 

 想の隣で大きな声で咲希が一歌を呼ぶ。

 スクランブル交差点を行く人々から幾人が何事かと咲希と想のほうを見たのを確認。

 戒めがてらに咲希に軽いチョップをお見舞いしたタイミングで一歌がこちらに気づいた。

 

「咲希、想」

「早いな一歌」

「ちょーっとソウ! 何も叩かなくてもいいでしょー!」

「叩いてないチョップチョップ」

「変わらないよ!?」

 

 文句を言う咲希を宥める想。

 そんな様子に一歌はくすりと笑う。

 

「ふふ、この前まで二人のやり取りが懐かしいなんて思ってたけどもうすっかりお馴染みだね」

「ちょっと一歌さん、俺たち漫才コンビじゃないんですけど?」

「芸人なのはソウだけで十分だよ! それに──」

 

 咲希はガバっと一歌に抱き着く。

 

「私達だけじゃなくって、いっちゃんも一緒なんだから!」

「咲希……」

 

 想と咲希の二人だけじゃない、輪の中にはちゃんと一歌もいる。

 それを証明するかのように抱き着いた咲希だが、やや過剰なアピールに想はやれやれと肩を竦める。

 

「──って誰が俺一人が芸人じゃい」

 

 そしてワンテンポ遅れてのツッコミ。

 そんな想の様子を見て咲希と一歌は顔を見合わせてから笑いあう。

 まぁこんな風に笑ってくれるならだしに使われるのも悪くは無いと想としても思うが。

 

「ま、残りの二人もこうやって巻き込んでいかないとな」

「それだよ! まずはしほちゃん攻略ー!」

「攻略ってゲームじゃないんだから」

 

 咲希の言葉に一歌が苦笑する。

 

「そんなギャルゲーみたいな用語誰が教え──いや俺か」

 

 そんな風に三人で賑やかに話していると、

 

「……皆、早いじゃん」

 

 三人の後ろから声がかかる。

 

「五分前くらいならそう早くないだろ。それに今日は遅刻するわけにはいかないしさ」

 

 想が振り向くと同時に一歌と咲希も同じように振り向いた。

 その先にはベースのケースを背負った志歩。

 不機嫌そうな仏頂面だがこれが志歩のデフォルトなのでいつも通りだろう。

 先程の想の言葉に少し目線を逸らした気がするのは気のせいということにしておく。

 

「しほちゃん、今日はよろしく!」

 

 そんな微妙で気まずい雰囲気を気にしないといったように咲希は元気よく志歩に挨拶をする。

 

「……分かってると思うけど、少しでも失敗したら、バンドの話は無しだから」

 

 志歩も先程の雰囲気を払拭するかのようにピシャリと言い放つ。

 

「もちろん、分かってる」

「……そう、じゃあスタジオ行こう」

 

 志歩が先導して、三人とも歩き始める。

 その瞬間、想は振り返った。

 

「ソーウ、置いていくよー」

「ん、悪い。今行く」

 

 一瞬誰かから見られていると感じた。

 だけど振り返った先は雑踏に紛れていて、その誰かを探すのは困難。

 気のせいだと思うことにして、想は咲希達に置いていかれないように歩を速めた。

 

 

 

─────

 

 

 

 志歩に連れられてきたレッスンスタジオで、手続きなんかは志歩に任せてから四人は個室へと入る。

 いくつかの楽器が備えられている部屋で全員持ってきた楽器の準備をして、

 

「それじゃ、始めるよ」

 

 楽器の調子を確かめ終わったタイミングで志歩が声をかける。

 

「うん、よろしく」

「オッケー! いっちゃん、ソウ、しほちゃん、やろう!」

「志歩、カウント頼んだ」

 

 想の言葉に志歩は首肯で応え、カウントを始める。

 演奏が始まった、その瞬間各々の楽器の音が部屋中に響き渡り、ハーモニーを作り出す。

 ベースである志歩がリードするその曲に三人の演奏は淀みなく奏でられていた。

 『セカイ』での練習が功を奏している。

 ピッタリと志歩の演奏に合わせられていて、このまま何事もなく終われば志歩も合格点を出すレベルだ。

 だが、

 

「……! 咲希!?」

 

 ガタッと音を立てて咲希が体勢を崩した。

 思わず持っていたギターを放り出しそうになるのを堪え、想は咲希へと近づく。

 

「咲希、大丈夫!? もしかして具合良くないの!?」

 

 心配する一歌の声を聞きながら、想はギターを置いて咲希を支えるように背中側へ回る。

 咲希の体はそのタイミングで限界を迎えたかのように想のほうへもたれかかった。

 

「え、えへへ……隠しててごめんね……。ちょっとアツくなりすぎちゃった」

 

 もたれかかった咲希を支えながら想は咲希の額に手を当てる。

 明らかに平熱より高い温度を咲希の額から感じる。

 

「っ……救急車……!」

 

 慌てたように志歩はバッグからスマホを取り出そうとして、

 

「だ……大丈夫。今日はただの風邪だから……ちょっとだけ横になっていいかな……?」

 

 

 

 枕になりそうなものがちょうどないため、想の膝に咲希の頭を置かせ横にさせた。

 

「どう? 少し、楽になった……?」

「……うん、ありがとう。落ち着いてきたよ」

「ずっと一緒に練習してたのに、体調のこと気づけなくて……ごめん」

 

 さっきよりは呼吸も落ち着いてきており、咲希の言葉が嘘ではないのは分かる。

 はぁ、と想は小さく溜息を吐いた。

 

「えーと、ソウ。ずっと無言だけど、怒って、る?」

「咲希の体調が悪かったことは怒ってない。でも」

 

 咲希の額に置いてある濡れタオル直しながら、想は言葉を続ける。

 

「ソレを言わなかったことには怒ってる。ま、気付けたはずなのに気づかなかった俺も悪いが」

「そんな、ことないよ……でも今日は大事な日だったから」

「今日がなんでも、体調が悪いなら無理を通すな。それでダメだって言うんだったら志歩相手でも怒る」

「もう……そんなこと言っちゃダメだよ、ソウ」

 

 気持ちは分かるだけに無理には責められない。

 それでも昔から体調を崩しやすいのだ、想としてはできるなら早めに咲希自身から申告してほしい。

 

「……最初に無理させるようなこと言った私が悪い」

 

 バツの悪そうな顔をして志歩はそう言い放った。

 

「ううん、アタシが勝手にがんばりすぎちゃったのが悪いんだよ」

「別に志歩を責めてはいないからな。体調崩したまま無理したのは咲希自身の責任だし、それに気づけなかったこっちの監督不行き届き」

 

 濡れタオルの上から咲希の額を軽く押す。

 咲希は眉を顰めるが、文句は言わない。

 

「それに……ちょっと無理しちゃうくらい今日は楽しかったの」

 

 小さく微笑む咲希。

 

「……咲希……」

 

 そんな咲希の様子を見て一歌は自分の手を握り、

 

「……うん、そうだね。今日、一緒にできてよかった」

 

 力強く咲希の言葉に頷く。

 

「まぁこういう機会が作れて良かったよ」

 

 咲希が体調を崩してしまっが、それまでは上手くいっていたと思う。

 志歩がどういう判断を下すかは分からなかったが、それでも演奏を通じて少しは想いは届けられたのではないか。

 そんな風に想は思う。

 

「私、志歩に嫌われたって思ってたからもうこんな風に一緒に何かしたりできないとかもって思ってた……」

 

 一歌は少し辛そうな表情をするが、志歩の目をしっかりと見ていた。

 

「別に、嫌いになんか……」

 

 一方の志歩は目を伏せがちになる。

 

「……ねえ、しほちゃん。アタシが入院してたあいだに、何があったの?」

 

 前のバンドとの不仲だけじゃない。

 そんなことは皆薄々気づいていて、それでも今は志歩との約束を先に守ろうと何も訊かなかった。

 先日想が探りを入れつつも核心に触れなかったのも同じ。

 このタイミングで聞き出すのは意地が悪い気がするが、この際なので志歩には今までの事を話してもらう。

 

「みんなとクラスが離れてすぐの時、クラスの子に「一緒に帰ろう」とか「一緒にお昼食べよう」とか、よくそういう風に誘われてた」

 

 三人の視線を一身に受けた志歩は訥々と事情を話し始めた。

 

「私はひとりが好きだし、一緒に行動する必要はないって思って……そういうの全部断ったんだ」

 

 小さい頃の志歩を思い出せば、その様子は想像に容易かった。

 

「でもそれが原因で、クラスメイトから避けられるようになった」

 

 正直、よくある話だろう。

 特に女子校では集団の性質が強い。自分たちの集団に合わない人を排斥するのは聞かない話じゃない。

 

「それ自体は別に良かった。放っておいてくれたほうが楽だし。でも……」

 

 その当時の志歩が聞いたのは心無いクラスメイトの言葉。

 志歩だけではない、一歌や穂波を貶めるモノ。

 

「……影でみんなのことまで悪く言われたから、思わず言い返して……そうしたら余計にいろいろ言われて……」

 

 憤って志歩が反論した気持ちはよく分かる。

 だが、それが逆効果だというのは中学生の時に分かれと言われても難しい。

 

「……私は別にいい。でも、私のせいで、一歌達まで悪く言われるのは……イヤだから」

 

 はぁ、と志歩は息を吐く。

 

「だから……ずっとひとりでいようって思ったの?」

「……そう」

 

 白状が終わったと言わんばかりに、志歩は若干やけくそ気味に頷いた。

 

「そんなの、言ってくれたら……!」

「言ったら一歌は心配して、絶対に様子に見にくるでしょ。そしたらもっと酷くなる。だから……」

「言えばよかったんだよ」

 

 志歩の言葉を遮るようにして想は言い放った。

 

「──っ、想は何も知らないから」

「知らないよ? でも、言えばよかったんだ。そんな風に一人で抱え込まなくったってよかった。同じ学校にいる一歌や穂波がダメだったんなら俺でもよかった」

 

 静かに、語り聞かせるように想は話を続ける。

 

「大体、志歩が悪く言われて良いわけない。それを志歩自身が良しとするな。それは俺が怒る」

 

 確かに志歩はぶっきらぼうで仏頂面で一人でいるようなのを好む。

 小さい時から変わらないものだと思う。

 それでも、悪しざまに言われていいワケがない。

 志歩のいいところは、想が──幼馴染全員が知っているコト。

 ただ、

 

「ごめん。言い過ぎた。今更なコト俺が言っていいわけじゃなかった」

 

 ここで言っても意味はない。志歩を責めているようなもの。

 想自身も思っているより頭に血が上っていたみたいだ。

 

「……謝らなくていい。想の言いたいことも少しは分かるから」

「でもよかった。やっぱり、しほちゃんも変わってなかったんだ」

 

 咲希が横になったまま少し首を傾け志歩の方を見る。

 

「いっちゃん達のことが大切だから、我慢してたんだよね」

 

 咲希は力なくも優しく微笑む。

 

「志歩……。私は、誰に何言われても、志歩と友達でいたいよ」

 

 一歌も先程の志歩の話を聞いて、それでもと言う。

 そんな一歌を見て志歩は大きく溜息を吐いた。

 

「やっぱり、こうなるよね」

「え?」

 

 まるで何かを諦めた様子の志歩を見て一歌が疑問符を浮かべる。

 

「本当に一歌達のこと考えてるなら、セッションなんてしなきゃ良かったんだ」

 

 少しヤケクソが混じった口調で志歩は淡々と言葉を続ける。

 

「弱いな……私」

 

 一瞬目を瞑って、改めて志歩は一歌達のほうを見る。しっかりと。

 

「でも……私はちゃんと、警告したから。もう──知らないから」

 

 その宣言に一歌と咲希が目を瞠る。

 

「しほちゃん、それって……」

「……一緒にバンド、やらせてよ」

 

 志歩からの願い。

 もう一度繋がりたい。その気持ち。

 

「もちろんだよ……! やろう、志歩」

「うん」

 

 そのタイミングで咲希が起き上がろうとして、

 

「ステイ」

「はい……」

 

 想に止められる。それでも喜びは抑えきれないようで咲希は足をじたばたさせている。

 流石に足までは抑えられない。

 

「んー、やった! やったぁ! しほちゃんとバンドできるよ!!」

 

 歓声を上げる咲希に想は苦笑交じりに微笑む。

 念願が叶ったのだから、その喜びを抑えきれないのはしょうがないか。

 

「それにしても志歩も素直じゃないというかなんというか」

 

 手持無沙汰だった手で軽く咲希の頭を撫でながら、想がそんなことを零す。

 そんな零した言葉も志歩は目敏く拾い、

 

「……何?」

 

 想を睨んだ。その様子に想は肩を竦めるしかない。

 

「いいえーなにもー」

「大体想が言ってたコトのせいでもあるんだから」

 

 やや大仰に志歩はため息を吐いてみせる。

 何か言ったか、と想が首を捻っていると、

 

「『他人にどうこう言われようが関係ない。誰と一緒にいるかは自分で決める』。そんな当たり前なコト言われたら今までの自分が馬鹿らしくなる」

 

「ああ……」

 

 先日志歩と話した時に言ったことだ。

 想としては何気なく言っていたことだが、意外な事に志歩には刺さっていたらしい。

 地雷を踏んで爆発物を処理するみたいなことになったが、万事塞翁が馬というやつか。

 そんなやり取りに一歌と咲希は顔を見合わせて首を傾げている。

 

「ねぇ、ソウ。もしかしてしほちゃんと何か話してた……?」

「あー……そのうち話す、そのうちな」

「それ話さないやつー!」

 

 ぶーっと頬を膨らませる咲希。

 だが、すぐに頬を膨らませた顔を元に戻し満面の笑顔を浮かべる。

 

「でも、これならもしかしたらほなちゃんも、ちゃんと話したら、戻ってきてくれるかもね!」

 

 志歩と和解できたことにより、咲希は希望を募らせている。

 しかし、

 

「あ……」

 

 小さく言葉を漏らした一歌と一瞬眉を顰めた志歩。

 どうやら事はそんな単純にいかなそうだと想は察する。

 

「もう一度話してみようよ! それで、今度こそ五人で一緒に……あっ……」

 

 勢いのまま想の膝から頭を上げて咲希は立ち上がるが、立ち眩みがしたように少し体がふらつく。

 想はやれやれと立ち上がり、咲希の肩を支えた。

 

「咲希、急に立ち上がったら危ないよ。もうちょっと横になってて」

「はぁ……咲希はまず体治すこと、穂波のことはその後、考えるいい?」

 

 一歌と志歩に宥められて、咲希は「お願いします」と想の膝を再び枕にして横になる。

 

「ふふっ」

 

 それでもそんな風に諫められるのも嬉しいのか咲希は微笑みを零した。

 

 

 

「それじゃあ想、咲希のことお願い」

「頼まれた」

 

 咲希の体力が回復するまでしばらく休んでからレッスンスタジオの前で解散の運びとなった。

 咲希を送り届ける役目は当然のように想が担うことになる。

 

「それにしても……いや、なんでも」

 

 そんな風に言いつつも、口元の笑みが隠しきれていないのが志歩。

 その理由は今の想と咲希の状態。

 

「うー、はずかしいよー」

「おぶられるよりマシだと思っとけ」

 

 今、想と咲希は手を繋いでいる。

 別に何か甘酸っぱいものがあるわけではない、どちらかと言うと迷子にならないように子供の手を引いているような状態だ。

 咲希を送るという段になって、咲希を一人で歩かせるわけにはいかない。

 想としてはギターを置いていってでもおぶって咲希を送ろうと思ったが、断固として咲希が拒否。

 妥協案として手を繋ぐことで了承した。

 しかしいざ繋いでみると流石の咲希も気恥ずかしさがくるらしい。

 想としては帰りの途中で倒れられても事なので、恥ずかしさなんては二の次だ。

 

「じゃあ二人とも、気を付けてね」

「それじゃ、また」

 

 一歌と志歩とは手を振ってから別れる。

 なるべく咲希の歩調を合わせるように想はゆっくりと歩く。

 

「今日は、ホントによかったー」

 

 おもむろに咲希が咲希が口を開く。

 流石にいつもの元気さはあまり見当たらない。だが、それでも喜びは伝わってくる。

 

「本当にしほちゃんと仲直りできるなんて、夢みたい」

「だけど、夢じゃない」

 

 すれ違っていた幼馴染とまたバンドができる。

 それは本当に夢のようで、どこかふわふわした気持ちでもある。

 だけど、

 

「みんな、頑張った結果だ。一歌も咲希も──志歩も」

「──うん。うん、そうだよね」

 

 こくこくと首を縦に振る咲希。

 想は空いているほうの手で咲希の頭を軽く撫でる。

 へへっ、と咲希は笑みを浮かべる。

 

「このままほなちゃんとも、仲直りできるよね……」

「……」

 

 咲希の言葉は願うように。

 一歌と志歩の様子から穂波はまた何か事情を抱えているのは窺える。

 それが何なのか、今回のようにすんなりわだかまりが溶けるものかも分からない。

 

「ま、これで穂波だけのけ者で五人揃わないってのは無しだ」

 

 例えどんな困難があっても、なんて漫画じみたことを言うつもりはないが。

 それでも、もう一度幼馴染が一つになれるよう尽力する。

 想にできることはただそれだけ。

 

「うん、またみんな一緒に……」

「ああ、みんな一緒に、な」

 

 繋いだ手が強く握られたのを感じて、その手を握り返した。




志歩ちゃんとの和解。

よし、最後のやり取りで恋愛タグ回収したな!
という冗談は置いておいて、メインストーリー分も中盤を終えた辺りになるでしょうか。
残りは穂波ちゃんとの和解ですが、どうなっていくでしょう。
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