主を失った狼、透き通る世界に行き着く   作:けんどーさん

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悪夢

狼は目覚める

 

「………?」

 

しかし、そこは未だ見慣れない(シャーレの自室)天井ではなく

 

 

「……?」

 

どこか、見た事ある天井であった

 

「……ここは」

 

ああ、そうだ

 

狼は何度もこの景色を見ている

 

 

源一郎と、義父

 

刀を交えた2名の強者に斬られ、転がされる度に見た

 

天守の天井だった

 

「………」

 

信じられないと言わんばかりに目の前に広がる景色を見渡す

 

だが、見渡す景色には見覚えがあり、確実に今いるのは葦名(過去)であると言っている

 

日が暮れようとしているのを見るに、刻は逢魔が刻ぐらいだろうか

 

 

 

その時

 

「………」「………!?」

 

目の前に、(自分)がいた

 

腰の楔丸に自然と手が伸びるが…

 

 

「……」

 

手はただ宙を掴むばかりであった

 

それだけではない、さっきまで己の左腕となっていた忍義手すらなかった

 

丸腰の狼に、もう一人の狼が近づく

 

「………」「………」

 

ジリ…ジリと狼が歩き、また丸腰の狼がジリ…ジリと後ろへ下がる

 

何が起こっているか分からぬ。知らぬ

 

 

まずは逃げなければ。目の前にいるのが襲ってくれば狼になす術は無い

 

 

だが、もう1人の狼は、歩みを止める

 

それと同時に歩みを止め、何をしてくるか警戒しつつすぐ逃れるよう身構える

 

しかし

 

 

 

 

 

「……は?」「……」

 

狼は、衝撃を受けた

 

笑っていたのだ

 

他の誰かがみても気づけぬ、狼自身だから気付けるほど小さく、僅かな物

 

しかし、それでも、笑っていた

 

笑っていたのだ、普段全く微笑まない狼が

 

 

「………」「………」

 

いつのまにか、わずかに微笑む狼の後ろから、火の粉が散っていた

 

なぜいきなり燃え始めたか、知らぬ

 

だが、確実に不味いと察知した狼は飛び降りようと一瞬で反転し、駆け出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隻狼よ」

 

その一声が聞こえた瞬間、驚きと困惑に包まれながら振り返る

 

また微笑んでいた狼も、振り返っていた

 

 

「…お主…愛想はまるでないが…不思議と憎めぬやつじゃった」

 

その一心の言葉は、狼には欠片も耳に入っていなかった

 

一心は、抱えていた()()()()()をそっと置き、険しい目つきで狼を見つめる

 

火が辺りに周り始め、すぐにでも逃げなければ城もろとも運命を共にするであろうにも関わらず、狼は動けなかった

 

エマの遺体、その喉にある傷を見た瞬間、今目の前に居る己がやったのだと、理解する

 

喉を一刺しするように出来た傷は狼が忍殺する時に出来る傷であり、楔丸もまた血がべっとりと、付いていた

 

(「………馬鹿な…」)

 

何故、という言葉が出る前に、狼が楔丸を構えた

 

 

その様子を見た一心が言葉を続ける

 

「さあ……修羅に落ちる前に、斬ってやろう」

 

そして一心はいつの間に持っていた刀を、抜刀する

 

その一連の動作は洗練されており、迷いが無かった

 

「再び修羅を…斬ることにはなろうとはなぁぁぁぁ!!」

 

一心がゆらりと脱力した後、一瞬で距離を詰め、狼に斬りかかる

 

その一撃をはじき、狼は切り返すが一心はそれを防ぐ

 

そしてまた一心がゆらり、ゆらりと斬撃を繰り出す

 

 

狼はその一撃を防ぎ、斬り返す

 

楔丸の斬撃を後ろへ下がり回避した一心は腕を広げ、横に歩きつつ狼を見据える

 

逃しはしないと狼は仕込み槍を展開し、一心へ突っ込む

 

(「……!?」)

 

狼は目を見開いた。一心がその槍の一撃を半身動かし()()()()()

 

そしてくるりと回り、横へ一線

 

槍を避けられ勢いを殺しきれなかった狼は右脇腹を切り裂かれ、血が溢れる

 

狼は一心から離れ、傷を塞ごうと瓢箪を掴む

 

そしてゴク、と一口飲むと傷は塞がり、仕切り直しだと言わんばかりに瓢箪を戻そうとしたその瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に一心がいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼が気づいた時には遅く、刀を構える前に斬、と左肩から右脇腹まで深く斬られ、どさりと膝をつく

 

その動きはかつて見えた剣聖と同じ動きであった

 

 

「……カッカッカ…わざわざ飲ませると思うたか?隻狼よ」「………」

 

ドクドクと血が溢れ、瓢箪を飲もうとするが腕が動かない

 

そのまま狼は力尽き、倒れた

 

 

 

 

 

 

DEATH

 

 

 

 

 

 

「………」

 

一連の動きを見た狼は驚愕した

 

今の一心の動きは己が知る剣聖の動きをそのまま遅くした物だろう

 

病に体を蝕まれ、しかしそれでも迷いない、決意を固めた一心がこれほどとは

 

 

義手も、刀すらない狼は、ただただこの戦いの行く末を見たいと願う

 

 

 

 

 

その願いを叶えるかのように、桜の花びらが舞った

 

 

狼が起き上がると一心はまた距離をとり、今度は刀を納刀する

 

それを見た狼もまた刀を納刀する

 

 

 

一心はその場で止まり、狼はジリ…ジリ…と一心へとにじり寄る

 

 

 

 

 

そして、キラリと一心と狼の刀が光ったように見えた瞬間、抜刀

 

 

 

キィイン!と一心と狼が鍔迫り合う

 

ギチギチ…と両者一歩も引かぬ押し合い

 

しかし病に冒されている老体と健康な年若い体の愚直な力比べは年若い狼の方に軍配上がった

 

 

狼が一心を押し退け、ほんの少し一心の体勢が崩れる

 

その隙を見逃さず、狼は一心の右肩から左腰へと袈裟斬りにする

 

一心は狼がどこを斬るかを一瞬で予想、体勢を整えつつ半歩後ろへ下がり、傷を浅くする

 

ザシュ!と血が出るが、一心はそれを気にも留めず、刀を上段へと持ち上げる

 

葦名流の基礎である一文字。それを極めた一文字2連

 

無骨に、正面から叩き斬る事。ただ、それだけを一意に専心した技

 

一文字は強い踏み込みによる体幹を整える事もできる技。2連ともなれば体幹の揺らぎはほぼ消えるだろう

 

一心はそれにより揺らいだ体幹を整えようとしていた

 

 

狼は体幹がぶれ、崩れた瞬間を狙い、殺す

 

それを対策するためならば最も合う技、それが一文字2連であった

 

 

一心が掛け声と共に刀を振り下ろす

 

「せいっ!!」「……」

 

狼の顔面に一心の刀が迫る

 

狼は刀を構えず、ただじっと刀を見ていた

 

 

そして狼に顔面は斬!と斬られる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そうはならなかった

 

 

「ぬっ!?」「……」

 

狼は刀で斬られる直前にヒョイと一心の側へと飛び、避ける

 

 

一心はそこから建て直そうとするが、さらに想定外の事態に陥る

 

 

 

バギィ!

 

「ぐうっ!床が!?」

 

今死闘を繰り広げる場所は火が周り至る所が燃えている状態

 

火より熱かったのだろうか、闘いの熱気に当てられた両者はそのことをすっかり忘れていた

 

そしてそこに一心の一文字による踏み込み

 

それらが重なり、床はあっけなく貫通し、一心の足はすっぽりハマってしまった

 

 

一心が足を抜こうとするが、不意にズン!と衝撃が一心の背中に走る

 

それにより足がさらに深く沈み、一心は呻き声をあげる

 

 

一体何を…と一心が考えたその時

 

一心目掛けて狼が落下、グイと義手の重さと体重をかけ、一気に楔丸を突き刺す

 

 

ブシャアアアア!!と一気に鮮血が舞い、周囲の火に一心の血が降りかかる

 

刀を引き抜くとさらに血が出て一心の僅かな命を削る

 

しかし

 

 

 

「まだじゃ、隻狼おっ!!」

 

一心は足を引き抜いたあと、スッと後ろへと下がった後、地面をもう一度踏み込む

 

 

そして刀を突き立てる

 

何を、と狼は思ったその瞬間

 

「とおおおおっっ!!」

 

 

炎がほど走り狼へと迫る

 

 

狼は真っ赤な傘を開き、炎を防ぐと傘をしまい、腰を大きく落とす

 

「……」

 

そして一瞬で距離を詰め、一心の体に楔丸が突き刺さる

 

奥義、大忍び刺し

 

 

狼は一心を踏み台に宙へと舞う

 

 

仕込み斧を展開し一心の脳天を狙い振り下ろす

 

 

 

 

ズドン! という音とバギィ!と何かが壊れる音がする

 

そして気づいた。一心がその斧の一撃を避けた事に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一心は刀を納刀し、狼へと掴みかかる

 

 

逃げようとするが、斧が突き刺さり抜けず、逃げれない事に気づいた時には、遅かった

 

 

 

 

「せいっ!」「…!!!」

 

何かにつかまれ、義手と仕込み斧をつなぐ部品がバギャ!と嫌な音を立てて壊れる

 

 

視界が回っている。上に燃えてる床が見える

 

 

 

狼は理解した。この位置で、そして一心の力で地面()に叩きつけられたら、どうなるか

 

 

「どおっおりゃああああ!」

 

ボギ、と音が聞こえた後

 

 

 

真っ暗になった

 

 

 

 

 

DEATH

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼がくるりと転がり、一心から離れる

 

 

 

その時

 

 

 

 

 

 

 

一心は左手で鞘を持ち刀を納刀し、唸り声をあげ力を貯め始めた

 

「……?」

 

それを見た義手の無い狼は疑問を抱いた。一心様は一体何をしているのだ?と

 

ふと戦っている己の方を見ると楔丸を構え警戒している

 

そして

 

 

 

 

「かあああああっ!!」

 

そう叫び、刀を二回振り下ろす

 

すると突然突風が吹き、狼は真下から熱気を感じた

 

足元を見ると激しく燃えている所と全く燃えてない場所があり、嫌な予感がした狼は炎が燃えていない場所へ飛び込む

 

楔丸を構えていた狼は足元の熱気に気づかずただじっと一心を見つめる

 

 

ボアアアアアアア!!

 

いきなり地面から火柱が吹き上がり、狼は宙へと打ち上げられる

 

そして居合の構えをしつつ、老人とは思えぬほど恐ろしい早さで近付いていた一心は

 

 

 

一閃

 

 

 

 

カチン、と鞘に鍔がぶつかる、納刀の音

 

そして空中に飛び上がった狼は

 

 

 

 

 

 

 

 

斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どさりと狼は地面へ叩きつけられた瞬間

 

 

狼はバラバラになった

 

 

 

忍び義手が壊れ、残る腕と足、胴すら切り刻まれ、首はゴロ…と地面を転がる

 

 

 

 

回生の力は、もう使えなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DEATH

 

 

隻狼…さらばじゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(「……なんだ、今のは」)

 

狼は震えていた。恐怖ではない、驚きか、あるいは武者震いか

 

たった今一心が放った技、剣聖(迷いある姿)となった一心には扱えぬ技

 

それをしかと、狼は目に焼き付ける事ができなかった

 

(「………」)

 

 

できれば、もう一度

 

 

もう一度、この目で見たい

 

 

しかし一心は狼を斬った後、すでに限界を迎えており

 

 

 

ドサリ、と倒れた音が聞こえた

 

 

(「一心様!」)

 

狼が駆け寄り、一心に触れる

 

 

しかし、手はすり抜けた

 

 

 

(「な…な………」)

 

 

狼はたった今気づいた。己の姿が、透けていることに

 

 

(「……」)

 

ようやく理解した。なぜ一心が己には反応しなかったか

 

 

きっと、己はここにはいないのだろう、きっと、狼には理解しきれない事が起きているのだろう

 

 

狼は、何もできない無力感と、同時に絶望に近い何かを感じた

 

その絶望は、もう二度どあの技を見れないことか、それとももう一心と闘えない事か

 

 

 

あるいは、その両方か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたりが真っ暗になり、葦名城が本格的に燃え始めたその時

 

 

コツ、と狼の足に何かがぶつかった

 

(「…?」)

 

不思議に思い足元を見ると

 

 

 

 

 

 

()()()()()()狼の首があった

 

(「!!」)

 

狼が離れようとしたその時何かが狼を羽交しめにする

 

そして

 

狼の足に何かが突き刺さる

 

 

 

 

(「ぐっ!?」)

 

楔丸が、狼の足を貫通し、床へとささり固定されていた

 

 

もがくが、逃げ出せない。いや、逃げれない

 

 

その時、ケタケタと地面に転がる首が笑い始めたその時、狼は首に何か冷たい物が突きつけられ、それが何かを理解した時、青冷めた

 

 

 

 

視界の端に映る見慣れた赤黒い瘴気

 

 

赤の不死斬り(拝涙)であった

 

(「!!」)

 

まずい、と考えもがくが、あまりにも締め付ける力が強い

 

ケタケタと言う笑い声が聞こえなくなったと思い視線を向けると、そこには歪に大きな笑顔を浮かべる狼の首が

 

 

(「おおおおおおおお!!!!」)

 

もがく。もがく。しかしもはや身動きできず、叫ぶことすらできず

 

 

 

不死斬りが狼の首を少し斬り血が出始めた瞬間

 

 

 

 

ボアアアアアアア!!

 

(「!?」)

 

いきなり、狼の死体と狼ごと焼く大きな炎が燃え上がる

 

体が燃える。何が起こっている、熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い

 

 

思考がその一つにだけ考える前に、狼は無意識のうちに楔丸を引き抜き

 

 

 

 

 

 

ザシュ、と己の首を切り裂いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ノガシタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っは!!」

 

ばさ、とタオルケットを押し退け狼は起きる

 

 

外を見ると、真っ暗であり、時計の針は午前2時31分を示していた

 

 

 

 

 

「……………」

 

なぜ、飛び起きたのかは、わからぬ

 

 

 

 

 

ただ、もう寝れる気がしない

 

そう考え、またベットへ寝転ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベットは、汗で濡れていて、寝れるとは思えなかった

 

…チカイ

狼「銃…か…」

  • 新たに調達するべきか…
  • このまま使い続けるべきか…
  • 先生殿に聞いてみるか…
  • …エンジニア部…とやら…うむ…
  • イズナに聞くか……
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