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「自由奔放なV.Ⅰ、莫迦の極み弊社、無能な部下…どいつもこいつも、私を苛立たせる…!」
「いつ聞いても大変そうだな。今日はどうする? 俺としては、自棄になるならエールがオススメだぞ」
「ではそれを。…あぁ、ついでに肴も欲しい」
「肴か…エールに合うとするなら肉かな。丁度、星外から取り寄せたものがあるぞ」
「頼みます…」
「おう」
此処はアーキバス・コーポレーションの仮拠点。辺境の惑星ルビコン3に展開されたこの拠点の一室で、眼鏡を掛けた一人の男が愚痴を漏らし、ヘッドバンドを付けた一人の男がそれを聞きながら酒と肴を用意していた。
眼鏡を掛けた男はV.Ⅱスネイル。アーキバスが誇るAC部隊《ヴェスパー》の第二隊長を務める男だ。
ヘッドバンドを付けた男の名はアウィス。アーキバスに在職するAC乗りの一人であり、それでいてスネイルの同期でもある。
このアーキバスにおいて、いや、この世界において、スネイルが気を許せる事が出来る唯一の人物である。
「じゃ、一足先にエールだ。ほれ」
「どうも。…これがエール。聞いた事こそありましたが、実際に見るのは初めてですね」
「まぁ、スネイルはワイン派だからな。豪快に飲むより優雅に嗜む方だし、珍しくはない。でも、エールは舌で感じるんじゃなくて喉で感じるもんだ。一気に喉に流した方が美味く感じるぞ」
「ほう…では、さっそく」
コップに注がれた金色の麦酒を、舌で触り感じるのではなく、一気に喉へと流し込む。
しゅわしゅわと、炭酸が喉で弾ける。アルコールの苦みと酒独特の甘みが一気に広がり、頭の中の嫌事を全て爽快に消し飛ばす。
程よい苦味は喉を刺激し、フロイトやら弊社やらによって溜まりまくったスネイルのストレスを一気に消失させた。
「これが、エール…中々に美味い」
「だろ? ワインも良いが、偶にはこういうのも良いよな。で、こっちが肉な」
「焼いただけの肉ですか。しかし、この肉に掛かっているものは…ソースですか?」
「別惑星に東国から取り寄せたものだ。かなり美味いらしいぞ」
「…」
ことっ、と目の前に置かれた皿には濃いソースが掛けられた薄い肉。しっかりとした肉を見るなど、このルビコンに着任してからは久しぶりだと、スネイルは僅かに心が踊った。
此処ルビコンにはまともな食事がない。現地民であるルビコニアンに至ってはミールワームを食事にしている始末であり、アーキバスはペースト状の食事を取っている。
美味くはあるが彩りはなく、バリエーションも殆ど無し。そんな食事で過ごしていた中、わざわざ別惑星から取り寄せた肉にありつける。これがどれだけ嬉しい事か。
「では、いただくとしましょう」
フォークで一切れの肉を刺し、それを口へと運び噛み締める。
「……!!!」
カッと目を見開けば、美味いだろ? と軽快に笑う同期。
美味い。薄い肉でありながら、ソースによって味付けされた辛みがさらに食欲を刺激させる。
一口、頬張り。二口、エール。
ソースの辛みと肉の旨みをエールで流し込めば、それだけでスネイルの心の中の重りを取り除き、穏やかな心を取り戻させた。
フォークを伸ばして、ふと気付く。なんという事だ、もう無いではないか。
「……」
「おいおい、分かりやすく顔歪めるな。安心しろよ、まだ取ってある。存分に食えよ、普段から疲れてるだろうしな」
「ふぅ……やはり貴方は優秀ですね。まだ昇格を拒否しているのですか?」
「偉くなったらこんな事出来ないからな。数少ない同期の手助けするくらいが丁度良いのさ。お前が居ないとアーキバス回んねぇって」
「私がアーキバスになった暁には、貴方を専属の料理人にでもしますかね」
「お前がアーキバスになんのか? 取締役とがじゃなく?」
「……酔っただけです。忘れなさい」
「ははっ、はいはい。ほら、出来たぞ」
そうして、二人は数少ない酒を酌み交わす。