スネイルのご友人   作:全智一皆

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第一話「工夫次第」

 

■  ■

 星外企業アーキバス・グループ所属のAC乗りの男―――識別名をアウィスと言う。

 彼はこのルビコン3に建設されたアーキバスルビコン支部において、非常に珍しい人物として社内で少しだけ名が知れ渡っている。

 と言っても、それは彼がアーキバスが誇るエースパイロット集団『ヴェスパー』に並ぶ技術力を持っているからといったものではない。

 いや、ある意味ではヴェスパーが関わってはいるのだが、しかし彼が社内で名が知れ渡っているのはそこが理由ではない。

 

「よっ。おはよ、スネイル。今日も眉間に皺が寄ってるぜ?」

 

 アーキバス・グループ仮拠点ルビコン支部。

 時間は朝の6時30頃。今日も今日とてアーキバスの職員達が食堂に集まっている。

 ガヤガヤとした食堂には、仕事にまつわる会話やらプライベートの話やら趣味やら愚痴やら色々なものが入り交じっている。

 そんな食堂で、一人で席に座っている眼鏡を掛けた男―――V.Ⅱスネイルに声を掛ける男が居た。

 

「おはようございます。えぇ、いつもいつも面倒事を増やすバカ(首席隊長)が居るものですから……」

「フロイトかぁ。お前の悩みの種はいつもそれだな。隣良いか?」

「……何度も言っているだろう、一々許可を取る必要はない」

「おっと、そうだった。つい癖でな、悪い悪い」

 

 そう。

 アウィスという男が、このアーキバスという会社で名が知れ渡っているのは―――彼が唯一、スネイルが気を許す事が出来る人物であるからだ。

 

「今日も今日とてペースト飯か。ったく、アーキバスの食事はケミカルで敵わんな。美味いし栄養価も高いが、如何せんバリエーションに劣る」

 

 食器に乗せられたそれは、傍から見れば食事とは言い難いものであった。

 赤、緑、黄色のペースト状の食事とパサパサとした味気のないクラッカー。俗に言う『ディストピア飯』と呼ばれるものだ。

 味は良いし、栄養価もしっかりと考えられた理想的な食事と言えば聞こえは良いものの、バリエーションはこれ一つしかない上に味は変わらない。

 決して良い食事とは言えない代物だ。アウィスはそれに難色を示さずにはいられなかった。

 

「この方が効率が良いのです、仕方ないでしょう。……まぁ、バリエーションが豊富でないのは確かですが」

 

 これが効率的な食事である。それを理解しているスネイルは、しかしアウィスの発言を咎めている様で決してそうはしていなかった。

 彼の舌は、既にこれより美味いものを知っているのだから。

 

「だろ? これなら俺が作るなんちゃって料理の方が人気出そうだぜ」

「そうなれば貴方は過労死する事になるでしょうね」

「おいおい、そりゃ大袈裟……でもねぇか。わりと飢えてるやつ多いよなー、アーキバス(ここ)。しかしまぁ、お褒めに預かり感謝の極みだよ、次期アーキバス殿?」

「貴様…! あれは酔いが回っていただけだと言っただろう!」

 

 キッと睨むスネイルなぞ知らんふりで、アウィスは続けた。

 

「忘れろってのが無理だろ、あれ。代表取締役とかじゃなくて私がアーキバスだぜ? お前が企業になってどうすんだよ。くっくっくっ、思い出すだけで笑けてっははははははは!!!!!!!!!」

「もう笑っているだろうが貴様!!!」

 

 近くに居た者達の視線が、全て彼らに向けられる。しかし二人はそんな事はお構い無しだ。

 そう、これが非常に珍しい。あのスネイルが丁寧な言葉遣いを崩して、こうも感情を顕にしている場面など彼らはほぼ見た事がない。

 それこそヴェスパーの首席隊長にして問題児であるフロイトが問題をやらかさない限りは、こうも顕著ではない。

 数少ない同期であるが故か。それとも、スネイルがコイツには気を許していいと判断するくらいの人間性を有しているのか。

 どちらにせよ、アーキバスの職員にとって物珍しい光景である事に変わりはないが。

 

「はぁー……悪かった、悪かったよスネイル。お詫びと言っちゃなんだが、この食事に関する知識を教えてやるよ」

「悪びれてないだろ……だが、その知識というのは聞きましょう」

「良い食いつきだ。まず、この黄色ペーストだが……実はカボチャ、パンプキンだ。フィーカと一緒に食べるのも良いが、混ぜると何とフィーカに甘さがつく」

「なん……だと……!?」

「バカな……」

 

 スネイルの脳に―――ついでに偶々近くに座っていたオキーフにも―――電流が走った。

 いや、その話を聞いた職員全員におそらく電流が走った事だろう。

 フィーカとは所謂コーヒーの様なものだが、このルビコンで作られるフィーカはまるで泥水を啜っているかの様な味わいだ。

 勿論そんなものが美味しい訳はない。だが、何故か不思議と飲んでしまう。そういう飲み物なのだ。

 だが、アウィスの発言はそれを根本から変えるものだった!

 

「次に合成肉のペーストだが、これは野菜ペーストと一緒に食った方が美味いな。水で流し込むのはオススメしない」

「なるほど……ではクラッカーは?」

「クラッカーはパンプキンペーストと一緒に食べるのが良い。或いはペーストを溶かしたフィーカに付けて食べるとかな」

「試してみる価値はありそうですね。明日さっそく……」

「そう言うと思って、フィーカ2個持ってきたぜ。是非試してみてくれ」

「……やはりお前は優秀だ。料理人への転属を前向きにしたらどうだ?」

「それだとお前に作ってやれなくなるぜ?」

「部下にはペーストで十分でしょう」

「正直過ぎんだろお前」

 

 そうして暫く、アーキバスの食堂ではフィーカが大量に消費されていったのであった。

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