皆の準備が整うまでの空き時間。
ふと思い立ち、高台にある桃木を訪れた。
降り続ける雨により、小さな穴を掘るのは素手でも難しくなかった。
手首に括りつけていた
次の儀式で全部終わる。
少し悩んだが必要になる霊力から問題ないと判断した。
編み込んだ髪を小刀で
平常とは言えない精神状態で注意力が落ちていたらしい。
髪を結んだ枝の先、1つだけ成っていた実を見つけた。
―― この子も、連れていくことにした。
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まだ時間があるはずだった。
海の向こうから来たという者達。
全てが台無しになるのを防ぐため争いは避けられずに、
我らの祖は、昔々に集められた高い霊力を持つ者達。
亡者が都を襲わぬよう、黄泉との境の地へ住むよう命じられたという。
元々、洪水が多い土地だったらしい。
雨が降る度、川を溢れた水が下流にある集落を襲った。
川から離れた位置に集落を構えた。
山の一部が崩れ、流れる先を変えた水と土砂が集落を襲った。
人の手で、川の流れる先を定めようとした。
山が火を噴き、毒の煙が作業していた者達を襲った。
緋の川が、川沿いに居た者達を焼き殺した。
緋の川が熱を失った時、川は流れる先を変えていた。
やがて山河に対する恐れは畏れへ到り、直接的に現世へと干渉できる化身を得た。
ヤツは神格まで持つらしく、幾度も討伐が試みられたが失敗が続いている。
首を切り落としても、再生するばかりか新たな首が生え、当初より増えてしまったそうだ。
ヤツは生贄を要求することにより、労せず命を奪って力を得るようになった。
我らを飼い殺しにすることで継続して恐れを集めることまで出来るようになった。
亡者との戦いを想定して磨かれてきた技の多くはヤツには通じなかったのだ。
即座にヤツに通ずる技を生み出すことなど出来ない。
時間を稼ぐため、憎しみを燃やしながら生贄を差し出し続けた。
亡者を祓い、屠り、封ずるための技を
ヤツを欺き、殺し、せめて一矢報いるための技へ、変えてきた。
集落の求める能力。
それを基にした名前が赤子に与えられてきた。
名付けは対象に対して強い影響力を持つ。特に霊的な方面で。
世代を経て霊力が高まるにつれ、名付けの影響は更に強まったという。
我らは未だ人の身でしかない。
自然の化身であるヤツは我ら以上の影響を受けるはずだ。
【
数えきれないほど沢山の頭を持つ、大いなる蛇。
ヤツはこの名前を受け入れた。
首の半数も見えぬ安全圏からヤツを見た渡来人どもが
【九頭龍】などと呼び続けるのは迷惑でしかなかった。
ヤツを仕留めるため、裏の意味を持たせた名前なのだ。
そうでなくてもヤツを【龍】や【神】として崇めるなど……。
何も知らぬなら大人しくしていて欲しかった。
我らとは容姿も文化も明らかに異なる渡来人。
集落の外から現れ、生き残りが集落の外へと逃げ去った。
ヤツは知ってしまった。
外には、中とは比べものにならないほどの人間が居ると。
Tips:【黄泉戸の巫女長 ククリ】
巫女長になる前は【括りの姫巫女】と呼ばれていた。
霊力由来で『括る』ことに強い適正がある。
同世代でも優先的に生き残らされてしまい、20代にして巫女の中では最年長。
Tips:【並行世界】
世界群でTCGが流行し始めた初期は、実在人物を基にしたカードばかりだった。
現在でもその傾向は変わっていないが、
一部、過去に該当する人物が『実在していた』ことになったカードが含まれている。
カードの設定が矛盾するたびに並行世界が生まれるとかなんとか。