幼少の頃、明確に敵だと分かっているモノを【大いなる蛇】なんて呼ぶのは嫌だと抗議した。
あの時は
今思えばクソ蛇に情報が漏れるのを、それだけ警戒していたのだろう。
集落の皆を集めた巫女長により、作戦の決行を告げられた。
他の纏め役衆も深刻な表情で話し合っていたが
「ヤツが力を得て結界の外に出るため、数日以内に全員食い殺される。」
「逃げたとしても結界の外に出る前に洪水に追いつかれる。」
「作戦の成功率は低いが失敗しても嫌がらせにはなる。」
「参加者の殆どは死ぬだろうが、やらないよりマシ。」
と、それほど時間も掛からないうちに意見が一致したようだった。
作戦で担う役割に関する部分だけ知っておくように、と別の家屋へ誘導された。
戦って死ぬか、憎い敵の糧となって死ぬか、ただそれだけ。
わざわざ『お前は参加するか?』なんて聞いてくる馬鹿が居なくてよかった。
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間に合わない。間に合わない。
納得のいく仕上げなど出来ずひたすら送り出す。
「クッソ蛇ィィ……。」
悪化するばかりの状況に歯噛みする。
空は濃灰色の雲に覆われたまま。
雨、雨、雨、雨……。
クソ蛇に奇襲を仕掛け、戦いを始めてから三日程だろうか。
無駄に響き渡る雄叫びと共に降り出した雨は止む気配がない。
火を使うため、山の中腹に雨除けを作って移動となった。
当初の作業場所は平野だったが、移動先が決まった時には膝下まで水没していた。
材料の調達しやすさとか、作業しやすい広さとか、考える余裕なんてない。
【
元々は土人形を使役して、王族やら何やらの弔いでの随伴者とする秘術だったらしい。
御大層な名前で呼ぶことで、秘術にクソ蛇を【黄泉へ発つ権力者】として認識させる。
秘術の発動中、クソ蛇に殺された戦士の魂は用意した人形に宿り、再び戦場へ。
戦力を維持できるだけでなく、随伴者が【生者】から【死者】へ移り逝くことで【権力者】も黄泉に近付いたことになるとかで合理的なのだそう。
クソ蛇の気色悪い数の首。
切り落とす毎に【首を刎ねられた者】とか【死者】という性質が強くなると思えば許……
いや、許すのは無い。
クソ蛇を少しずつ現世の存在から幽世の存在へと変えて蝕んで。
最低限の処理も終わっていない土人形が動き出した。
今、戦士が宿ってしまったのは短時間で作成できる簡素なタイプ。
逆さの壺に顔を模した穴を空け、手を付けたら完成!
みたいな外見ではあるが、焼き入れを始めたばかりで雨の中を送り出せる状態じゃない。
せっかちなのか戦場に向けて走…跳ねて行く。……足がないタイプだった。
その背に向けて、数人の見習い巫女が駆け寄りながら火を飛ばすのを眺める。
作業の都合上、このグループは戦場から距離がある。
クソ蛇が意図的に此処を狙ってこない限りは生き残れる可能性は高い。
土の成型、焼き入れ、等々、未熟な霊術でも手伝えることは多いと年少の子を優先的に配置して貰ったのだが……。
「迷子になるんじゃねぇゾォ!」
子守が得意な年中とか、面倒見が良い年少の子とか、ほとんど居ないのは誤算だった。
今ね、儀式中だから、秘術発動してるから、体力的にも、精神的にも、余裕ないんだゾ☆
Tips:【咲花の巫女】
両親亡き後、口が悪く無精な姉や、隣家のそそっかしい幼馴染に対し、
おかん気質を発揮するようになった十代半ばの少女。
甲斐甲斐しく幼馴染の世話を焼く様子をからかわれる度、
頬を染めて恥ずかしがるためか、男女問わず人気がある。
Tips:【積石の巫女】
妹と交代で秘術を維持している。引継ぎの儀式もあるため仮眠しかとれず寝不足気味。
自分より小さな見習い達に世話される土人形の様子から中身を察したが、
心に蓋をして気付かなかったことにした。
直感で休憩の順番を決め、秘術の中断による戦線崩壊を防いだ。