現代に転生したダンジョン被害者モブ女子ら 作:アルビノベアー
リアとしばらく一緒にいたのもあって、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
別に、記憶が戻ったからといって、美味しい食べ物を食べようとか、この星の娯楽を楽しもうとかは、ない。なんだか気が抜けたような気分だ。逆に、こんな安全で豊かな世界で、学生たる私は、何をするべきなのだろうか。
「ありがとう、ヨミと話したら、少し回復したわ。何か買いに行きましょう?」
回復か。しかし、我々の、一度死んだときの絶望や痛苦の記憶は、色あせこそすれ決して忘れ去れるものではないだろう。生涯のトラウマだ。通常の人間にはない記憶なのだから、当然、そう。
リアに連れられてコンビニでパンを買った。平日なのに。非行少女だ。私は運動はあまりしないけれど、甘いものが好きなので、同級生には将来が心配だとよく言われる。リアは運動部なので好きなものを食べてもゼロカロリーだと言っていた。確かに、前世でも剣士職だった彼女に剣道は合っているように思えた。
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「ところで、わたしたちの周りにも、いわゆる『転生者』が何人かいるわよね」
リアの言葉で、現実に引き戻される。そう、それについても、話しておくべき。
「学校だったら、たとえばあの小さな子…マリンって子よね?あなたと仲が良かった」
「別によくない」
「そう…」
基本的に人の好き嫌いはない私だけど、あの子…あのガキは別。うざい。自分のかわいさを鼻にかけるような感じが嫌いだ。傍から見ている分には仲が良さそうに見えるのかもしれないけれど、私にとっては、めんどくさいだけ。
「あなたがどう思ってるのかは知らないけど、あの子もあなたが死んで悲しかったと思うわよ」
「?」
なぜ断定しないのだろう。
「それは、その……わたしも、あなたが死んでからすぐに死んだからよ」
そうなのか。何やら含みのある表現だけれど、それより。
「私たちが死んだ時期が近かったから、同時に記憶を取り戻したということ?」
「ありえるわね。じゃあ、あのマリンちゃんが記憶を取り戻すのは、わたしたちよりも後ね」
「理解」
「でも、少しは話しかけて、探りを入れてみなさいね。確か、同じ部活でしょう?」
顔を軽く顰める。あの子に積極的に関わりに行こうとは思えない。
しかし、周りを信者で固めていたあの子なら、ダンジョンのある世界でももしかしたら天寿を全うできたのかもしれない。それなら、彼女の記憶は何十年も戻らない。畢竟、私が関わる必要もない。
「わかったわよ…無理しなくていいわ」
リアは私の様子に根負けして、クッションに倒れこんだ。
「そこはがんばりなさいよ…」
しかし、私の『関わりたくない』という期待は、一か月後にはあっさりと裏切られることになる。
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ふと、前世と同じように魔法を行使しようとしたらどうなるのかが気になった。この星地球でも何世紀も前は魔法が存在していたようだ。現代に伝わっている魔法に関する知識の中には、正しいものもある。魔力にはマナとオドがある、とか。私の属性は、闇。だから、死体とか、生物の生き血とかがあれば、発動の助けになる。だけど、普通の女子だった私は、そんなものは持っていない。黒い霧の魔法を小さく発動しようとすると、指先がかすかに光り、魔力がエネルギーに変換されるような感触があった。でも、それだけ。しょぼい。
しかし、現代には魔力が希薄で、人体もそう。この体は、ぜんぜん魔力がない。
これは、魔力をストックする方法を探さなければならなさそうだ。あと、死体も…。
というか、魔法があるってことは、魔法の学校とかも、あったりするのだろうか?
しかし、明るい面だけを見てもいられない。魔法があるということは、それが悪用される可能性もあるし、前世の世界の犯罪者がこの世界で記憶を取り戻さないとも限らない。魔法犯罪者は本当にたちが悪いから。私はリアにスマホで注意喚起を行うことにした。
しかし、我ながら、自分が前世よりもリアに心を開いていることに驚いた。私が前世で信用できる人なんて、魔法の師匠くらいだったから。驚くべきことだ。
あ、そうか。彼女が私の魔法を恐れていたというのなら、この情報は伝えないほうがいいかもしれない。しかし、彼女も遅かれ早かれ魔法に気づくだろう。まあ、先延ばしにしよう。