【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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止まらねえ女と止まらねえ男

 初日のオリエンテーションが終わり、16時頃。

 

 今日は2年と3年は授業がないらしいので、すれ違う人もほとんどいない。

 

 長岡さんについていって、1階のエントランス正面から見て左の回廊の突き当たりまで行くと、地下へ続く階段があった。

 

 奥は人気がなく、薄暗く見通せない。

 

「ここって入っていい場所なのかなあ」

「ま、入学初日に来るような場所じゃないことは確かね」

「えと……こういうところはね、立ち入り禁止って書いてないなら大丈夫だよ!」

 

 そう言って長岡さんはわたしたちに向けて胸の前で可愛らしく両手を握ってみせた。

 目線はちらちら階段の下を見ていて、今すぐ地下に行きたくてそわそわしているのがバレバレで少し笑いそうになる。

 

 長岡さんを先頭に地下に降りると、地上階と同じように石壁の幅広い廊下が伸びていた。

 

 暗いせいか壁の燭台にはオレンジ色の炎が灯り、夜のようにあたりを照らしている。

 一定間隔で並ぶ両開き扉の上には家庭科室や理科実験室というふうに普通の学校にもありそうな室名がつるりとしたタイルに刻まれていた。

 

 今日は授業がないからこの辺は使われてないってだけの話かな。

 

 ちなみにさっき教室を出て1階に戻る時も、既に迷いなく廊下を進んでいく長岡さんにわたしと有為くんは感心しながらただついていくばかりだ。

 長岡さんはきっと道を覚えるのがめちゃくちゃ得意なんだろうと思う。

 

 ……さすが史跡巡りが趣味なだけあるな。

 

 ちなみにわたしは道覚えるの苦手だからすげえ羨ましい。

 車の運転なんてカーナビ無いとムリだったしなあ。

 

 その後はまた廊下を道なりに歩き、突き当たりにある小部屋にいくつかある扉のひとつを開けるとまた同じような見た目の廊下。

 

 違うのは進むほどにすえた臭いが強まっていくことだ。扉も開けるたびに軋むし埃が落ちる。

 

 おそらくもうこの先はほとんど使われてないだろうことはわたしでもわかる。

 ちなみにもう帰り道はわからない。完全に他力本願である。

 

 だから思わず口を開いた。

 

「……ねえ、もしかしてわたしたち迷ってない?」

「だいじょうぶ! あたし道全部覚えてるから、安心して!」

 

 ほ、本当に? 信じてるからね?

 楽しそうに瞳をきらめかせて満面の笑みで振り返る長岡さんを見ると、とても帰ろうなんて言い出せる雰囲気ではない。

 

「なに? もしかして石川ちゃんビビってるの? 可愛いわねえ」

「そういうわけじゃないけどさあ」

 

 さらに有為くんまでニヤニヤしながら刺してくる。

 ああ、もう。この恐れを知らない無鉄砲中学生どもめ。

 

 そして階段をいくつも降りて30分くらい経ったころ、やや幅と天井が狭くなった仄暗いトンネルのような通路をわたしたちは進んでいく。

 立ち並んでいた木製扉だったものはいつしか錆びた重々しい金属製のものに代わり、なぜかのぞき窓の位置には鉄格子が付いている。

 

 空気もどんどん寒々しくなっているような気がした。

 

「ねね、ふたりとも見て! この扉鉄格子付いてるっ! すごいよぉ! 絶対ここ地下牢だよっ! ……あれ、開かないや」

 

 こんな肝試しできそうな場所で興奮しながらスマホのライトを周囲に向けまくり、迷いなく鉄格子の奥の暗闇を覗きながら扉をガチャガチャ開けようとする長岡さんは完全にヤバい女だ。

 

 ……この子こういうところ怖くないのかな? 

 

 有為くんが「ちょっと貸しなさい」と取っ手に指をかけても扉はびくともしない。

 

「普通に鍵かかってるか錆びてるか ……どっちにしろ開かないわね」

「中見たかったなぁ……」

「他の扉も試してみる?」

「え!? う、うん!」

 

 開きそうな扉を探しながらわちゃわちゃ話している2人は完全に探検を楽しんでいる。その一方で。

 

(暗くて気味悪いし寒いんだよなぁ……)

 

 わたしは思わず胸の前で手のひらを擦り合わせた。

 腕時計が目に入る。変身すれば寒さは感じなくなるが、今はできない。

 

 オリエンテーションで言われた校則のひとつ。

 学内敷地の屋内において、練習場と体育館以外での変身を禁ずる。

 その証拠に、文字盤を撫でてもうんともすんとも言わない。

 

 廊下とか教室で戦って壁やら備品が壊れたら困るだろうしそれは仕方ないけど、いち学校法人レベルで魔法少女の変身を禁じる技術が導入されていることに驚く。

 

 ああ、帰りたくなってきた。まだ4月だってのにこんな地下深くに降りたら寒いに決まってるだろ。今地下何階くらいにいるのか知らないけどさ。

 

 ていうか、こういう廃墟じみてる所って幽霊とかより誰かがホームレスみたいに住み着いてたりするから本当に怖いんだよな……。流石に学校の中だからそんなことはないと思うけど。

 

 …………。

 

 あれ、いつもならシャリンがこの辺で茶々入れてくるんだけどなあ。

 いつの間にか右肩からもいなくなって姿も消えてる。

 

“アナタが友達と遊んでるときくらい空気読むかしら”

 

 ありゃ、そう?

 変なところで律儀なシャリンはそれだけテレパシーで囁くとまた沈黙した。

 

「そういえばさ、ここってもともと修道院なんだよね? どうして地下牢なんてあるんだろ」

「えっ? たしかに……。夢中になっててあたしも気づかなかったけど……なんでだろう?」

 

 長岡さんは首を傾げた。長岡さんがわからないならこの場じゃ答えは出ないだろう。

 

「フフッ、修道院の恥ってやつかしら」

「恥ってなに?」

「そりゃアナタ、修道院にいるはずのないものを閉じ込めておくための……ってアタシに何言わせるのよ! はしたないわよ!」

 

 そう言うと有為くんは肩を叩いてきた。

 わたしはすでにその妄想力についていけてないんだが?

 男子中学生ならそんなもん? まあ前世でも中学生なんてエロガキばっかだった気がするけど。

 

 

 

 

【《警告! Warning!》この先、校内地図未記載区域。遭難の危険性があるため立ち入りを固く禁じる】

 

 結局地下牢の扉を開けることを諦めて先に進むと、しばらくして通路をぴったりと閉じるように両開きの大扉が行く手をふさいだ。

 その前には立ち入り禁止を示すように立て看板が置かれている。

 

 剣呑な赤文字で書かれた内容がやけに物々しい。

 てか、遭難て。ふつう学校で見る文字列じゃないんだが。

 

 看板の角に指先を添わせると灰色の埃がたくさんこそぎ取れた。人が出入りしている気配はほとんどない。

 

「立ち入り禁止みたいだね。そろそろ───」

「こんなこと書いたら逆効果よねぇ。こんなの読んでハイそうですかって引き返すヤツいる? いねーよなー」

 

 そろそろ戻ろうか、なんてさりげなく言おうとしたら有為くんが漫画みてえな台詞を被せてから歯列をぎらつかせてこっちを見てきた。お前わざとだろ!

 

「1度言ってみたかったのよねこれ」

「いやまぁそれはいいけど……初日から校則違反は流石にやばくない? それに遭難ってさぁ、明らかにこの先危ないでしょ。だいいち、そもそも扉閉じてるし」

 

 ちゃんと看板を見なさい! 『立ち入りを固く禁じる』って書いてあるでしょ!

 

「あ、開いた」

「ハァ!?」

 

 変な声が出てしまった。

 さりげなく長岡さんが扉を押すと、両開き扉はギギギと音を鳴らしながらあっさりと開いてしまった。

 

 いや、普通こういうところって鍵かかってるもんじゃないの!?

 入るなよ? 絶対入るなよ? ってフリじゃないんだからさあ。

 

「あ、あのね、石川さん。あたし今まで一度も道間違えたこと無いし、さっきも言ったけど、通ってきた道も全部覚えてるから安心して! それに誰も見てなければ怒られないからっ」

「えぇ……」

 

 有為くんがそういうの気にしないのはなんとなく雰囲気でわかるけど、長岡さんも思いっきり校則破る気じゃねえか。大人しそうに見えてとんでもない女だよ。

 というか一度も道間違えたことないって凄いな。道覚えるのが得意なのは見てればわかるけどそこまでか。

 

 とにかく止まらねえ女と止まらねえ男、そしてわたし。

 多数決でわたしの負け!

 

「しょーがない。探検するって約束だったし、ふたりが満足するまで付き合うよ」

 

 わたしがわざとらしく前で腕を組んで息をはいてみせると、長岡さんと有為くんはそうこなくちゃと揃って笑った。

 

「ていうか、ゆずゆずったら心配性ねえ。アナタ結構真面目なのね。意外だわ」

「どんなイメージだったの? あとさ、わたし別に不良じゃないよ……」

「入試の後に生徒と決闘してる奴に真面目なイメージ持てなんて無理でしょ。校則とか気にしないタイプかと思ってた」

「能力も鉄パイプだしね。エヘヘ」

 

 長岡さんのたたみかけるような追加攻撃がわたしを襲う!

 この子、仲良くなると毒舌になるタイプとみた。

 

 でも改めて考えると、確かに入試の後に在校生とドンパチしたうえに鉄パイプぶん回してる女は確かに不良にしか見えないよな……。

 

「てか、ゆずゆずって何?」

「アナタのあだ名よ。今考えた」

「はあ」

 

 わたしは真顔で棒みたいな声を出し、有為くんは手元で口を隠してクスクスと笑いながら答えた。

 

「適当すぎんでしょ。それならゆずこでいーよ。小学校の時そう呼ばれてたしさ」

「じゃあゆずこね。長岡ちゃんはひなのんって呼ぶわね。アタシのことは奏多でいいわよ」

「えっ……えっ?」

 

 一瞬であだ名を勝手に決められた長岡さんがよくわかってなさそうな顔で有為くんを二度見した。

 出たよとりあえず知り合って秒であだ名付ける奴。

 

「ていうか、自分のことはあだ名じゃなくて普通に名前で呼ばせるんかーい」

「ウイっちとかカナとか変でしょ。響きが女みたいだし」

「そのしゃべり方でそんなこと言っても全く説得力なくない?」

 

 呼ばれ方の響きを気にするなら、いちばん変なのはお前のしゃべり方だよと突っ込みたくなる。

 訝しげにじっとりした目線を送ると、有為くんは不服そうに眉間に皺を寄せた。

 

「あのね、ゆずこ。アタシは別にオカマじゃないから。このしゃべり方になったのは姉貴たちのせいよ。あいつらアタシを寄ってたかっておもちゃにしやがってさあ」

「えっ、有為くん、お姉ちゃんいるの?」

「ひなのん、アタシのことは苗字じゃなくて奏多と呼びなさい」

「え、でも」

「奏多と呼びなさい」

「う、わかった……。えっと、か、奏多、くん……?」

「OK!」

 

 長岡さんはおそるおそる上目遣いで呟くと、有為くんから目をそらす。

 心なしか照れて少し顔が赤くなっているように見えた。

 照明が薄暗いせいってことにしておこう。

 

 そして完全に無理矢理呼ばせてるけど、有為くんもとい奏多は笑顔でサムズアップしていた。

 お前それでいいのか?

 

「あとアタシの姉貴は6人いるわよ」

「えっ」

 

 何気なく言ったその人数に、わたしと長岡さんの声がハモった。

 

「そ、1男6女でアタシが1番下! 小さいころは姉貴たちの着せ替え人形にさせられてたわ。バレエ始めたとき普通にフリルとかスカート付きのレオタード着ようとして先生に『あ、そういう子か~』みたいな変な顔されたの今でも思い出すもの。失礼しちゃうわホント。ま、おかげでアタシの感覚ちょっとずれてるってそこで初めて気づいたんだけど」

 

 そんな感じで、姉たちに女の子扱いされていつの間にかオカマみたいなしゃべり方になった顛末をひたすら聞きながら、わたしたちは立ち入り禁止区域の向こう側に歩を進めることになった。

 

 

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