【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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お互いこんな遠くで朝ご飯とは奇遇ですなあ

 その後、身も心も疲れ果てた私たちはフラッフラによろめきながら城の1階に辿り着き、全員お腹が減りすぎて頭がおかしくなりそうだったのでへーこら言いながら2階の食堂に突入し、3人揃って目についたハンバーグとエビフライと唐揚げと春巻きと白米サラダ大盛あとセットについて来た味噌汁を秒で頼みテーブルに着いた瞬間に行儀も何もなく貪り食った。

 

 入学初日の話である。

 

 

 

 

 城の前でふたりと別れ、街灯に照らされた暗い草原を道なりに歩く。

 

 夜の草原ってのはこんなに暗いんだなと少しおののく。

 文字通り一寸先は闇である。足取りがとにかく重い。寮までの道がさっきよりもずっと遠く思えた。

 

「あ、遅かったねー。遅かったけど何してたのー?」

 

 なんとかたどり着いた寮の扉を開けて部屋に入れば、風呂上がりの大引さんがバスタオル1枚巻いた姿でくつろいでいた。

 己の格好を気にすることもなく、ベッドに腰かけてひらひらとこちらに手を振ってくる。

 

「ちょっと城の中回ってたら遅くなっちゃいまして。というか風呂上りにすみません」

「んー? 別に大丈夫だよー。私寝るときも服着ないから」

 

 こいつ裸族かよ……。

 

 いやまあ、ここの寮みたいに女子ばかりの環境ならみんな割といい加減になるのはわかっちゃいるけど、新しいルームメイトと暮らす初日に躊躇なく裸を見せびらかすアッパラパー加減はどうかと思うぜ。

 

「てか、裸で寝て風邪ひきません? まだ4月ですけど」

「その分ちゃんと毛布着てるからねー。それより石川さんさ、城の中歩いてただけの割にすごく疲れてないー?」

「いやー気のせいですよそんなことありませんよー」

 

 ぎくりとして、わざとらしく背筋を肩を伸ばしてみせる。

 疲れてない疲れてない。

 

 とにかく、今日の体験を大引さんに言うのははばかられた。

 強くなったの!? じゃあ闘おっか! みたいな感じになりかねん。

 

「ふうん。じゃあ今日は早めに寝よっか」

「えっ?」

 

 そう言うと大引さんは巻いてたバスタオルを取ると自分のベッドに潜り込んだ。

 わたしは肩透かしを食らったように逆に聞き返してしまう。

 

 正直大引さんのノリ的に、夜だろうが関係なく闘いたがってもおかしくないと思っていたのである。

 

 大引さんは毛布からぴょこんと顔だけ出した。

 

「んー、石川さん、どうしたの?」

「いや、大引センパイの印象的に、今からヒマならトレーニングついでに闘おうとか言ってくるもんかと……」

「え? そんなわけないよー。オーバーワークで夜更かししたって何のメリットもないんだから。あ、お風呂入ったら流しておいてね。先に寝るから、歯磨き終わったら電気も消しといてねー」

 

 それだけ言うと大引さんはまた毛布を頭からかぶって、あっという間にスースーと寝息を立て始めた。部屋明るくても秒で寝れるのすげえよ。

 

 ちなみにまだ夜8時である。中学生といってもさすがに寝るには早い。

 

 うーん、やっぱりこの人距離感バグってるだけで、競技者としてはめちゃくちゃ合理的でストイックなのかもしれない。

 なんだかんだ、さっきの戦いでもアドバイスに助けられたしな……。

 

 これでパンツも履かないガチの全裸じゃなきゃ様になってたんだが。

 

 

 

 

 風呂と歯磨きを済ませて電気を消し、明日の準備をしてからわたしもベッドへ潜り込む。

 

 目は閉じない。さて、まだ寝る前にやることがある。

 ねえシャリン。さすがにもういるでしょ?

 

“いるわよ。何か用? 疲れたなら早く寝たらいいじゃない”

(いきなりいなくなるからどこ行ったのかと思っただけだよ。今いるなら別にそれでいいけど)

“なんで途中でいなくなったのか聞かないわけ?”

(ははあ、やっぱ寝てたわけじゃなくて本当にいなくなってたわけね)

“誘導尋問やめろ。まあ別に大したことじゃないからいいけど。単にワタシはあの立ち入り禁止の扉の向こう側に行くことを禁じられた。それだけじゃない”

(え? でも扉開いてたじゃん)

“……α族にはα族同士のルールがあるのよ。要は人間は入れてもα族は入れない、そういう場所だったってこと”

(えっと……それは何で?)

“ワタシも知らない”

 

 シャリンはぽつりと言った。変なの。

 いつもはもっと喋るし、扉の奥に入れなかったなら中で何があったのか口うるさく聞いてきそうなもんだが、それもない。

 

(シャリン、なんか怒ってる?)

“……怒ってはない。いや、嘘。イラついてるのは事実。でもけしてアナタに対してではない。柚子、もう寝なさい。疲れてるんでしょ”

 

 今度こそシャリンは完全に沈黙した。

 いったい何に対してイラついてるのかまるで謎だが、シャリンは言いたいことがあるなら自分から言う。つまりそうじゃないということは放っておいた方がいいんだろう。

 

 早すぎる気もするが、さすがに今日はいろいろあって疲れたし寝ちゃおう。

 おやすみ!

 

 

 

 

 ということで、ヤバいくらい寝た。

 10時間くらい爆睡して今はちょうど朝の6時。

 外はまだ薄暗い。

 

 起き上がれば、昨日の疲れが嘘のように身体がとてつもなく軽い。

 ふと右腕を動かせば、昨日の痛みが思い出される。

 でもあれはただの仮想体験にすぎない。現実の腕は傷ひとつ負っていないというのが、逆に不気味ではある。

 

 歯を磨いて髪を整えシンクで水道の水を飲む。

 浄水器なんてものはないが、山奥の水なので臭みもない。ミネラルウォーターを飲んでいるのとさほど変わらないだろう。

 

 そういえば朝ご飯ってどうするんだろう。

 とすでに起きていた大引さんに聞くと、どうやら朝に寮の集会所に届けてもらえるサービスがあったり、食堂も城だけではなく敷地に点在しているのでいろんな場所でそれぞれみんな自由に済ませて授業に向かうらしい。

 

「大引さんはいつもどこで食べてるんですか?」

「今からそこに石川さんも連れてってあげるよー」

 

 結構です、とは言わない。

 シンプルにこの人がどんなルーティーンで生活しているのか興味がある。

 

 

 

 

 ということでわたしたちは制服を着て一緒に外に出た。

 

 まだ7時にもなっていないが寮を出て歩いていると、道を外れた草原で朝っぱらから闘ってる生徒たちや、ジャージ姿でランニングしている生徒とちらほらすれ違う。

 

 こういう朝練している人たちを見ていると、魔法少女という名のアスリートの学校に入学したことを改めて実感した。

 

「大引センパイは朝練したりします?」

「いつもはしてるよー。でも今日は石川さんを案内したかったからそっちが優先かなー」

「ええ? わざわざそこまでしてもらわなくても」

()()()()()()。石川さんには強くなってもらわないといけないから、そのためのきっかけはあげる。フフッ、泣かせてくれるんでしょ? 来年の卒業式に」

 

 そう言う大引さんは、朝日を背に涼しげに笑った。

 

 だが、その金色の瞳の中には今なお粘りつくような執着が見える。

 

 ゲェー、昨日のあれをもう完全に本気にしているらしい。

 勢いで言っちゃった割に具体的にどうするとかまるで考えられないんだよなあ。

 今のところまったく勝てる気がしない。

 

 そこでふと気づく。

 あれ? そういえばあのニタニタした緩い笑い方やめたのかな。

 キモいと言い続けた結果改めてくれたならありがたいぜ。

 

 

「そういえばこの道って校舎……じゃなくて、城と真反対じゃないですか」

「うん。この先お城から一番遠くにある池のほとりにカフェみたいな食堂があるんだけど、いつもそこで食べてるのー」

 

 ふうん。隠れ家的な場所ってことか。

 大学のキャンパスでもそういう知る人ぞ知る店とかあったりするしな。

 

「ああ、だいたいそういうところって結構おいしくて評判良かったりするんですよね」

「ううん? お洒落だけど……別に味はそうでもないよー。私が通ってる理由は()()()()()()()()()()ってだけ」

 

 うん? 大引さんから効率とは真逆の言葉が放たれた。

 

「別にこれは参考にしなくてもいいんだけど」

 

 と、大引さんは前置きした。

 わたしが疑問に思っていると見透かしたのかもしれない。

 

「何かを選ぶなら、私はあえて一番面倒くさいと思うものを選んでる。そうしないと、だらけちゃうから。別にそれで強くなるってわけじゃないけど、サボりたくなったときでも『やろう』って思うためのおまじないみたいなものかなー」

 

 単純に、意外だ、と思った。

 

「変かなー?」

「あっいえ、大引センパイって練習大好き人間なのかなって思ってました」

 

 あれだけ闘うことが好きなのであれば練習でもなんでも楽しんでやっているのだと思い込んでいたが、そうでもないのかもしれない。

 

 大引さんはクスクスと笑ってみせた。

 

「そんな好き好んで夜更かしもせずに朝早く起きてると思うー? 少なくとも私は違うかな。少しでもいい闘いをしたいから工夫してる。それだけだよー」

 

 

 

 

 そうやってしばらく話しながらたどり着いたのは、いくつもの細い金属柱で建てられた平屋のカフェである。

 側面は全面ガラス張りでできていて、その向こう側には朝日できらめく大きな池が見えた。

 

 なるほど確かにこれはおしゃれだ。

 ご飯と一緒にSNSに上げたくなっても仕方ない。

 

 その店の入り口の前で───

 

「あ」

「あっ」

 

 今いちばん出会いたくない人間と鉢合わせた。

 

「───へえ、朝っぱらからわざわざ勝負するためにそっちから来たってわけ。手間が省けたわね」

 

 名前と同じ色の深い紫色の瞳が、じろりとこちらを睨みつけてきた。

 チィッなんでお前がこんなとこいるんだよ。

 

「あっおはよー東雲さん。お互いこんな遠くで朝ご飯とは奇遇ですなあ、ナハハハ」

 

 

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