【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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お前のことが気に入らない

 3人でカフェの丸テーブルを囲んでお洒落なジャズが流れる中、朝から地獄のような食卓が形成されている。

 

 大引さん、東雲さん、そしてわたし。

 

 なんでこんなことになってるかというと、あの後に大引さんが、

 

「石川さんの友達? じゃあせっかくだし3人で食べるー?」

 

 なんて言うもんだからこんなことになってしまっている。

 

 ていうか東雲さんも人とつるむの嫌いって言ってたのに、なんで素直に一緒に食べてんだか。

 ご飯食べに来ただけだから勝負する気ないって伝えてテーブルに着いたから、ただでさえ常時イライラしてそうな東雲さんの不機嫌度はすでにマックスである。

 

 やってられねえぜ。

 

“柚子もうそれ口癖になってるじゃない。botになっても知らないわよ”

 

 しょうがないじゃん、やってられないんだもん。

 

“おっ、今の返し方小娘っぽくて良かったじゃない”

 

 はいはい、シャリンポイントいただきましたっと。

 その感じならシャリンの方はもう機嫌は治ったわけね。

 

 そしてテーブルに運ばれてきたのは、焼いたウインナーとスクランブルエッグ、焼いたトースト2枚。あとオレンジジュース。

 

 え? もしかしてこれだけ?

 わたしは思わず隣の大引さんを凝視した。

 どう見ても普通の中学生どころかそれを下回るくらいの量しかない。

 

 こんな少食で昨日トランク持ってた時みたいな馬鹿力が出せるもんなの?

 

「大引センパイ、これちょっと少なくないですか?」

「私、朝あまり食べないんだー。学校では普通に座って授業受けるだけだし。代わりにトレーニングと試合前はいっぱい食べるけどねー」

「試合前にたくさん……?」

「うん! そうだよ?」

 

 大引さんは何がおかしいのかわからないというふうにニコリと頷いた。

 

 胃腸強すぎだろ! 試合前なんて緊張してるだろうし、食いまくるほどの食欲はなくなるもんだと思うんだが……。

 

 ……でもまあ、闘うことが好きで好きで仕方ないってメンタルなら、緊張感とは無縁なのかもしれない。

 

「ハッ、身体を動かす時間に合わせて食べる量を調整してるってだけでしょ。当り前の話に何驚いてんだか」

 

 向かい側の東雲さんが行儀よくナイフでウインナーを切り分けつつ、露骨にわたしのことを鼻で笑ってくる。

 煽るねえ。こいつ昨日のアレがよほど気に入らなかったのか?

 

 スッと伸ばした背筋とサラッサラの黒髪も合わさって、一目見ればまさにいいところのご令嬢という雰囲気だが、口の悪さがすべてを台無しにしている。

 

「あ、()()()()()かなー? 東雲さんだっけ。私は大引静。3年生で石川さんのルームメイトだよ」

「……ッ」

 

 大引さんが思い出したかのように自己紹介すると、東雲さんはなぜが苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「どうかしたー?」

「……なんでもないですよ、先輩」

 

 そう小さくつぶやいてどこか不服そうに目線をそらした。

 おお、年上にはちゃんと敬語使える子だった! そんなの当たり前? そうかも。

 

 ふたりの様子を伺いながら早めにスクランブルエッグとトーストを口の中にかきこむ。さっさと食べ終わって離脱するに限るぜ。

 

 誘ってくれた大引さんには申し訳ないがこの女たぶんわたしのこと嫌いなんすよ。

 

「ねえ、石川柚子」

「はひ?(なに?)」

「食べながらしゃべるなよ。下品なのよ気持ち悪い。今日授業終わった後、勝負しなさい。当然ランキング戦───公式決闘よ。わかってるでしょうね?」

 

 食べながらしゃべるなも何も、質問したのはお前やろがい。

 口の中にあったトーストの切れ端をオレンジジュースで流しこんで一息つく。

 

「まあまあ、そうあせんないでよ。まだ入学2日目なんだからもう少し学校に慣れてから勝負するでもよくない?」

 

 今のわたしは昨日の銀騎士との戦いで割とお腹いっぱいになっている。

 せめて今日はゆっくり授業受けさせてくれよ。

 別に3年間ずっと同じ敷地で過ごすんだから逃げないっての。

 

「焦るな? もう少し慣れてから? はっ、お気楽すぎて反吐が出る。こんな奴が───」

 

 舌打ちすると、そこで言葉をとめた。そして一瞬だけ大引さんの方に目線が動く。

 要はこんな奴が大引さんに勝ったのかと言わんばかりである。

 こいつ感情がモロに態度に出るから結構わかりやすいな。

 

「あのさあ、なんでそんなにわたしと闘いたいの? わたしなんかと闘わなくたって強い人は他にいくらでもいるでしょ。例えば横にいるこの人とかさあ」

 

 わたしは両手で大引さんの方にどうぞどうぞしてみせた。

 とにかく強い人と闘いたいなら大引さんにアタックするのが一番である。

 本人の話聞く限り同学年じゃ最強らしいし。

 

「話そらすなよ。私はあんたに聞いてるのよ」

「そらしてるのは東雲さんじゃん」

()()()()()()()()

「は?」

 

 気に入らないって何が?

 

「あんたみたいな特待生ですらない、お気楽で普通っぽい奴が強いとか気に入らない。だからそれがマグレだったってことを確かめる。私たちには授業時間外ならいつどこで決闘してもいい権利がある」

「それってお互いが同意したらの話でしょ」

 

 こいつめちゃくちゃなこと言うな。プライド高すぎだろ。

 いや、まあ大引さんに勝った(?)のはマグレだからそこは間違ってないんだが。

 

「え~やらないの? 私も石川さんがあれからどれくらい強くなったか見たいなー」

 

 そして隣の大引さんが笑顔でさらに燃料をぶちこんできた。

 忘れてたわ、あなたそういえばそういう人でしたね……。

 

「明日にしてくんないかなあ」

 

 わたしは背もたれに体を預けてオレンジジュースの残りをすすった。

 そのぶん東雲さんはずいと体を乗り出してきた。

 

「今日よ。もう私は1日待った」

 

 しょうがねえ女だなあ。

 ま、どうせ闘うなら今日でも明日でも変わらない気はする。

 明日にしたら絶対寝る前に憂鬱な気分になるわ。

 大引さんも面倒くさいことをあえてやれって言ってたしな~。

 

 それに。

 

 昨日の騎士エネミーとの闘いを思い出す。

 あの鉄パイプを魔力で強化する感覚は忘れないうちに継続して身体に覚えさせておきたい。

 そのためには実戦の中で感覚を馴染ませることがきっと大事だ。

 それを考えればこの勝負はいい機会になる。

 

「わかったよ。じゃあ今日ね。どこでやる?」

「ふん、最初からそう言ってればいいのよ。城の前庭から正面にまっすぐ行ったところに第1練習場があるわ。そこでやるわよ」

「オッケー。じゃ、予約とかあるなら東雲さんに任せるね」

 

 東雲さんはふん、と心底気に入らなそうに返事をした。

 

「やったー楽しみー。ね、私も見に行っていいー?」

 

 隣の大引さんがささやかに胸の前でぱちぱちしている。

 

「いいですよ。どうせ勝手に見に来るんでしょ大引センパイは」

「え、なんでわかるの?」

「誰でもわかりますよ……」

 

 やっぱりな、そんな予感があったわ。

 こうして入学式から2日連続で魔法少女バトルを行うことが決定した。

 

“もしかして新入生の中でいちばん常在戦場やってるの柚子じゃないの?”

 

 シャリンが面白がりながら囁く。

 別に自分から闘いを挑みに行ってるわけじゃないんだけどなあ。

 

 

 

 

 その後はまだ朝のホームルームまで少し時間があったので、大引さんに敷地にある建物をいくつか案内してもらった。

 

 そして8時ごろに城のエントランスホールで別れて、ひとり廊下を歩く。

 今日からは2年と3年も授業があるらしく、昨日とは比べ物にならないほどの生徒とすれ違った。

 

 ラウンジを横切る。

 

 近くのソファで黄色いリボンをつけた2年生の女子ふたりと、黄色いネクタイの男子ひとりがくつろぎながら話しているのが横目に見えた。

 

「ねね、昨日シミュレーターやった? なんかさー見たことないエネミーが空から落ちてきてめっちゃ騒ぎになってたんだよね」

「それな! あたしもさっき聞いた。なんか鎧着た騎士みたいなやつのことでしょ? やばいよね~。絶対レアだって。だれか倒したの?」

「たぶんあれ落下死してたぞ。俺が行ったときはもう先輩たちがドロップ取り合って殴り合ってたからよくわからん」

「やば、なにそれ~うける~。てか空の上から落ちてきたってことは上にもステージがあるってことだよね? えぐない?」

 

 思わず心臓が跳ね上がり足を止めそうになるが、こらえる。

 わたしは何事もなかったかのようにラウンジを素通りした。

 

 そ、それってさあ……もしかしてわたしたちが昨日突き落とした奴じゃない?

 それが事実であれば、あの雲海だった場所の下には別のステージがあり、おそらく地上とシームレスに繋がっていたということになる。

 

 つまり、昨日引きずり込まれたVRMMOは奏多の言っていた通り本当に生徒の間で普通にプレイされているものらしい。

 

 あんな痛いゲームみんなよくやるなあ……。

 

 

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