【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます! 作:きなかぼちゃん
試合が終わるやいなや、陽菜乃と奏多がフィールドに降りてわたしに駆け寄ってきた。
「ゆずこ! やったわね!」
「ヴッ!」
奏多にバシィと背中を叩かれ、全身筋肉痛により女子中学生とは程遠い声を出しながら悶絶する。
「だ、だいじょうぶ!? 柚子ちゃん」
「へーきへーきただの筋肉痛だから。奏多さあ今本気で叩かなかった?」
「アタシが本気でやったらこの程度じゃすまないわよ」
「何アピだよそれは」
男女平等パンチを表明しているだけあり腕力の強い男である。
フィールドの向こう側を見れば、同じく変身を解いた東雲さんが額を指先で押さえながら苦虫をかみつぶした顔をしてこちらを見ていた。
バトルドレスは相手の攻撃で負う怪我などの物理的外傷・内傷はすべて軽い筋肉痛程度の痛みにまで徹底的にカットされる摩訶不思議安全安心防具ではあるが、それでも脳天ぶったたけばかすかな頭痛くらいは残るということなのだろう。
「約束守ってもらうよ。東雲さん」
わたしが言うと、東雲さんは渋々といったふうにわたしたちに近寄ってきた。
そして、陽菜乃の方を向き、ほんの少しだけぎこちなく頭を下げた。
「チッ、悪かったわよ……これでいい?」
「東雲あんたさあ……」
どう見ても反省の欠片すらない東雲さんに、奏多が声を荒げて詰め寄ろうとする。
その袖を陽菜乃がつかんだ。
「ま、待って。奏多くん」
「ひなのん、でもこいつ何も悪いと思ってないわよ」
「ううん、いいの。それで」
陽菜乃は首を横に振った。
そして緊張した面持ちで進み出ると、東雲さんの前に立った。
その視線はしっかりと東雲さんの顔をとらえていた。
「あ、あのね、東雲さん。あたし、わかってる。魔法少女向いてないってこと」
東雲さんは何も言わない。
「昨日言ったよね。うじうじしてて、やる気がないって……びっくりしたの、だってそれ、きっと本当だったから……でも今、魔法少女になりたいって思ったの。今のあたしのままじゃいたくないって思ったの。柚子ちゃんと奏多くんを見て」
陽菜乃はわたしたちのほうをちらりと見た。
「どうして、あたしがこの学校に入学できたのかなんて、わかんない。でも、あたし頑張るから、それでね、きっと、東雲さんにも……」
「頑張るから何なの?」
「え……?」
東雲さんはぽつりとつぶやいた。
それは陽菜乃に聞いているのではなく、どこか自分自身に言い聞かせるような、不安定な響きがあった。
「結果が出なきゃ、勝たなきゃ、なにもかも意味なんてなかった。全部無駄なのよ……」
そう小さく言い捨てると、東雲さんは踵を返す。
そして何か思い出したかのように立ち止まると、顔だけ向けてひどく冷めた瞳でわたしを見た。
「石川柚子」
「な、なに?」
「私、あんたのことが嫌い」
「そ、そうなんだ」
いやまあ知ってたけどさ。こうも面と向かって言われるとなんか心にくるな……。
※
東雲さんが練習場を去ると、様子を伺っていたクラスメイトたちが近寄ってきた。
ついさっき奏多と一緒に昼ごはんに行っていた3人のうちの男子ふたりと、3人組の女子、計5名である。
「石川さんすっごーい! もにぃ見てたけどすごいバトルでびっくりしちゃった☆ ねーぽぽたんとミカミカもそうでしょ!?」
この一人称が「もにぃ」のやべえツーサイドアップ金髪女は
「アハハ、石川さん、鉄パイプで闘うってホントだったんだね~……」
「アホ、だから昨日からぽぽたん呼ぶなゆーとるやん」
「え~可愛いのに~ぽぽたん~」
津々木さんは不満そうに腕をじたばたさせている。
大人しそうなポニーテールの黒髪の子はたしか
ぱっちりとした瞳に茶髪のくせっ毛が目立つ、気の強そうな関西弁の子は
「でもほんまに凄かったで石川さん。あんな怖いやつ相手にさあ。そな強いのに特待生じゃないん?」
西織さんは心底意外そうに聞いてくる。
正直強いと言われても勝ったのはたまたまである。
最後の避雷針代わりに鉄パイプぶん投げたのなんてただの勘でしかない。
「まさかあ、結局コレただ鉄パイプを出すだけの能力だからねえ。次東雲さんとやったら対策されて普通に負けると思うよ……」
「東雲さんの能力どうみてもやばいもんね〜。わかる〜」
「そこは勝ったなガハハって言っとけばいいのよ。謙遜しすぎるのもやらしいわよ」
雲母さんは同意してくれたが、横から奏多が小突きながら突っ込んでくる。
まあそれもそうかも。さすがにそこまで調子に乗る気にもならないけど。
「拙者も見事だと思ったでござる。あっ、拙者、
神妙に忍者みたいな挨拶してくるのは黒いマスクと赤いヘッドホンを装着した小柄な男子である。
「佐磁くん、緊張してさらにわけわからん口調になってるぞ……丁寧なのか忍者プレイするのかどっちかにしろよ……。あ、俺は炭谷。
そう言って炭谷くんは手を差し出してきた。
そして言われるがまま握手をして気づく。
うわあ、凄いな。初対面の女子に対して普通に握手しようとしてもまったく違和感ない程度には陽キャだこいつ。
なんというか、いるんだよな。こういう気安くスッとパーソナルスペースに入ってくるけど警戒されないタイプの人間。
見た目は普通のスポーツ刈りの男子ってとこだが。
こうして急に交友関係が広がったところで、津々木さんが提案した。
「ね、せっかくだし今日はみんなで夜ごはんたべよーよー☆ せっかくクラスメイトなんだからみんなと仲良くなりたいし☆」
そういうことになった。
※
みんな一度寮に戻り、6時ごろに城の前に集合して2階の大食堂に向かう。
ちょうど4人掛けのテーブルが2つ空いていたので、くっつけてそこで食べることにした。
みんなバラバラに目についた総菜をたくさん持ってくるのですでに机はパーティーの様相になっている。
陽菜乃ももともと津々木さんと西織さんに教室の席が挟まれていたこともあり、雲母さんも入れてスムーズに仲良くなれているようだった。
なんならすでにあだ名で呼ばれている。
「え、ひなのん学校の地下行ったの!? 迷路みたいだったってやば! もにぃも行きたい!」
「あかん長岡さん、初日から行動力の化身すぎやろ。そない大人しそうなわりにウケるで」
「その、適当に歩いてたら間違えて変なとこ行っちゃったんだけどね……」
「え~、もしかして今日ホームルームギリギリだったのも探検してたからだったりする……?」
「うっ……そう、かも……」
津々木さんが瞳を輝かせて、西織さんはゲラゲラ笑い、雲母さんは察しの良さで的確に陽菜乃を刺していた。
陽菜乃それ以上はやばいぞ! わたしたちが校則違反バレするぅ!
わたしは思わず陽菜乃に視線を送ってろくろを回した。意図が伝わったようでこくこくと頷く。
「で、ゆずこはなんでこっち側にいるワケ?」
「しょうがないでしょ片方4人掛けなんだから! 女子5人だから誰かひとりここに座らなきゃだめでしょうが」
隣には奏多、正面には佐磁くんと炭谷くんがいる。
「でもそれだけが理由じゃない気がするのよね。なーんかゆずこってどっか男っぽいっていうか……」
思わずギクリとして背筋がのびる。
「い、いやーそんなことないでしょナハハハ」
そんなものはただの印象でしかないとわかっていても、そういわれると前世バレした気持ちになり少しだけドキドキする。
“だって柚子たまに口悪いじゃない。そう言われても仕方ないわよ”
みんなと話してる途中なのに珍しくシャリンが突っ込んできた。
それはそうだけどさあ。余裕ないときは出ちゃうよねやっぱり。
“
それはキモいから嫌!
兄貴は完全にシスコンなのでお兄ちゃんと呼ぼうものならうんざりするほどベタベタしてくるのであろう。
と、皿のから揚げに箸を伸ばそうとして気が付く。
炭谷君がじっとこちらを観察するように見ていて思わず少しのけぞる。
「えっ何? どうしたの?」
「うーん、俺も有為くんの言ってることちょっとわかるかもしれん」
「だから奏多でいいって言ってるのにさァ」
「うるせえ、仲良くなるのに時間かかるんだよ俺は! あと1週間くらい待ってくれよ!」
「いきなり女子の手を握るやつのセリフとは思えないわ。ヘンなやつ」
「あれはただの握手だろ!」
「炭谷君、残念ながら拙者の考えも説得力ゼロ。普通そんなすぐ女子と握手しようとする人はおらんでござる」
「お、お前らぁ……だから違うんだって! その、石川さんの雰囲気がちょっと男っぽいってのも関係あって……」
「あ~それってセクハラじゃない? 炭谷くん」
「男子~、そういうのいけないんだぞ☆」
雲母さんがのんきそうな口調で容赦なくぶっ刺していき津々木さんもたたみかけた。
もはや炭谷くんは針のむしろである。そして頭を抱えた。哀れ。
「く、くそ! 言い出しっぺは有為くんじゃねえか! 中学入っても結局俺はこんな感じなのかよ。やってらんねえぜ」
そうだね、やってられないよねえ。
わたしは同じような口癖を聞いてクスクスと笑った。
「石川さんまで笑わないでくれよ〜謝るからさ〜」
「ゴメンゴメン。全然気にしてないから大丈夫だよ」