【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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みんなビビってんじゃねーか

 部活の大々的な勧誘が許されているのは今日から1週間という話だった。

 教室の扉を押し開けると、クラスメイトがいくつかのグループで固まって部活の話をしているのが聞こえる。

 

 入学して3週間も経てば、クラスメイトたちはそれぞれ気の合う子たちとすでにグループを作りつつあった。

 

 グループを飛び越えていろんな人と仲がいいと言えば、津々木さんと炭谷くん、あとは奏多くらいのものである。(奏多はその話し方で一部のクラスメイトからいまだに怖がられているので、前者のふたりほどではない。)

 

 特に炭谷君はすべてのクラスメイトと話してる気がする。

 

 教室をぐるりと見ればちょうど、東雲さんがぽつんと自分の席でチラシを眺めているのを見た炭谷くんが声をかけているところだった。

 

「あれ? 東雲さんはどこか部活入るのか?」

「冗談言わないで。こんなので遊んでたらプロになんてなれるわけがない」

「ま、そりゃそうだよなぁ~。俺はどうすっかなあ」

「あんたの悩みなんてどうでもいいんだけど。用もないのに話しかけないでくれる?」

「ごめんごめん」

 

 東雲さんはいつも通り万年低血圧みたいなテンションである。

 一度試合で決闘したからといって仲良くなるというわけでもなく、入学してからずっとあんな感じで基本的に人を寄せ付けない。

 

 一方、軽く手を合わせて席から離れる炭谷くんは、頭をぽりぽり搔きながらも何故かまんざらでもなさそうな表情だった。

 

 すげえ。東雲さんとも普通に会話が成立しているあたりコミュニケーションの達人かもしれねえ……。

 

「柚子ちゃん、おはよ。なにしてるの?」

「うおっ、って陽菜乃か。おはよー」

 

 後ろからいきなり声をかけられてびっくりする。出入り口の前で突っ立っているのだから当たり前である。

 思わず横に飛びのいて背後を見ると、たった今登校してきたらしくスクールバッグを肩にかけた陽菜乃が不思議そうにこちらを見ていた。

 その手にはわたしと同じように部活のチラシの束がある。

 

「いや、ちょっとぼーっとしてただけ。そういえば陽菜乃は部活入る?」

「うーん……。どうしようかな……」

 

 陽菜乃はなんだか難しそうな顔をしながらチラシをめくってにらめっこしていた。

 

「いくつか気になってて迷ってるとか?」

「ううん、その、あたし部活ってやったことなくて……だから、どうすればいいのかなって。こういうのって、話を聞きに行くだけだったりすると冷やかしで怒られたりしないのかな?」

 

 なるほどね。

 確かに一度も部活入ったことなければ敷居が高くなるのもうなずける。 

 

「それは大丈夫じゃない? なんなら一緒に回ってみようよ」

「えっ、いいの? 柚子ちゃんも見に行きたい部活あるんじゃ……」

「わたしはあまりないかなあ。入学前も部活やるとかあまり考えてなかったし……なんなら部活あるって言われてびっくりしたくらいだもん」

 

 魔法少女を養成する学校なのに普通に部活があるとは思わなかったよね。

 まあ入学前からしっかり芙蓉中学校について下調べしていれば当然わかったのだろうが、とにかく受験勉強ばかりしていたのでそのあたりは完全に抜け落ちていたりする。

 

 まあ、まさか見学に行ったら入部届書かない限り部室出してくれないなんて部活は今どきあるまい。

 

「そ、それなら……あたしと一緒に行ってくれる? 柚子ちゃん」

「こちらこそ! 1週間あるから一緒にいろんなとこ回ってみようよ」

「……うん、ありがと! 楽しみ!」

 

 陽菜乃は顔をほころばせた。

 入学初日の自己紹介の後に絶望的な顔をしていたことをふと思い出した。

 本来の陽菜乃はきっとこうやって素直に笑う子なんだろうと思わせる。

 

「陽菜乃なら歴史研究会みたいなのとか合ってそうだけど……ないかなあ」

 

 ぺらぺらチラシを流し見すると意外と運動部が多い。

 まあ魔法少女はみんなアスリートなので、運動神経抜群でスポーツ万能な子なんてうじゃうじゃいることだろう。

 

 でも魔法少女やりながら他のスポーツもやって二足の草鞋《わらじ》を履くのはなかなか大変そうな気もするが……。

 

 その時だった。

 

「朝の授業前に突然失礼致します! 1-Aの諸君! ホームルームが始まる前のささやかな安らぎの時間に申し訳ないが、この場を借りたい!」

 

 クソデカい声が入り口から響き、陽菜乃とふたり揃っておもわずびくりとする。

 

 入ってきたのは青色のネクタイを付けたブレザーの男子生徒がふたり。

 

 つまり3年生である。

 

 声の主は眉の濃い角刈りをした丸顔の男だった。

 春にも関わらず日焼けしたガタイのいい男子。間違いなく体育会系である。

 

「藤田、声デカすぎんだよお前。みんなビビってんじゃねーか……あ、ごめんね驚かせて。ごめんだけど有為くんって今いるかな?」

 

 丸顔の先輩の頭をはたきながら穏やかな声でわたしたちに話しかけてきたのは、長身の塩顔をした、色白の優男である。

 

 ぱっと見ると細身に見えるが、よく見ると肩幅はしっかりとあり鍛えているのがありありとわかる。

 

「えーっと、奏多、じゃなくて有為くんなら窓際の4列目ですよ。ほらあそこ」

「ありがと!」

 

 わたしが軽く手で指し示すと、長身の先輩はにこりとわたしに笑いかけた。

 なんかこの人、女の扱い慣れてそうでヤダなあ。

 

 そして3年生のふたりはあっという間に机の上に行儀悪く両足をのせてくつろいでいる奏多の机の前に立った。

 

「ふぁーあ……朝っぱらからうるさいわねえ。何か用?」

 

 奏多は大あくびしている。どう見ても先輩に対する態度ではない。

 まあ朝からクソデカい声で入ってきた方も悪いといえばそう。

 

 というか奏多はいったい何をしたんだ。

 もしかして3年の先輩と喧嘩したとかじゃないよね……?

 

“それならそれで、あの女と入学前からバトってたアナタが言えたことじゃないじゃない”

 

 シャリンの突っ込みが走る。そこ突かれると何も言えねえ。

 

 藤田と呼ばれた先輩は奏多の机の目の前で仰々しく腕を組んでみせた。

 そして叫んだ。

 

「有為くん! 野球部に入らないか!? ()()()()()()()()()()()()()()()()が我らが野球部に加入すれば、秋季の関西大会でもさらに上を目指せる! もしかすると優勝も夢ではない!」

 

 ただの勧誘でした!

 奏多は目を丸くして「こいつ何言ってんだ?」と言わんばかりである。

 

「ハァ? ちょっと先輩冗談きついわよ。アタシ魔法少女になってまで野球なんてやるつもりないから」

『いいじゃねえか、やれよ奏多! いつもスカしてんじゃねえぞこの野郎』

「ちょ、アンタいきなり喋んないでくれない!? いつも黙ってるくせにさあ」

 

 奏多がいきなりうろたえる。

 教室に聞きなれない大声が響いたと思うと、奏多の左横、サッシの窓台に白いイタチが姿を現した。

 

 なんとなくこのイタチが奏多と契約しているα族だと察した。

 

『てめーが野球やらねえからだよ』

「何度言ったらわかるワケ? アタシはもう野球はやめたの! 遊びならいいけど競技には絶ッ対に戻らないから。あと先輩さあ、アタシはプロになるためにこの学校通ってんだけど野球やってるヒマなんてなくない?」

 

 それは東雲さんと同じ意見である。ちなみにわたしもちょっと思う。

 

 そして先輩に対して慇懃《いんぎん》無礼すぎる口調だったが、先輩は納得したように大きくうなずいた。

 

「有為くん。その疑問はもっともだ。だが魔道は遠近問わずあらゆる攻撃行動が許されたフルコンタクト総合格闘技! 俺たち魔法少女は他のスポーツにも本気で取り組んでこそ、より高みを目指せるとは思わないか? 事実! 我が野球部のOBにはダイヤモンドリーグでも華々しい戦績を上げている先輩がたが多数おられる! 魔道競技以外の事柄にも積極的に取り組むべし! これは春日井校長が直々に仰られていることでもある!」

 

 その言葉は演説のようにすさまじく暑苦しい。

 なんか教室の温度が今のやりとりだけで数度上がったような気がする。

 

 ちなみにダイヤモンドリーグとはルミナスリーグのすぐ下に属する魔法少女のプロリーグである。

 魔道においていちばん人気があるのはルミナスリーグだけれど、ほかにも企業対抗の団体戦とか、正月にやるニューイヤートーナメントとか、プロ魔法少女が試合をする場所はいろいろとある。

 

 そしてわたしは先輩の言葉になるほど、と思う。

 

 確かに自分の専門とは別のスポーツにあえて取り組むことで、メインの競技に良い影響を与えるというのは割とよくあることである。

 

 競技が変われば、使う筋肉や身体の動かし方も異なるのは素人でもわかる。

 でも、競技によってはその感覚が似ていることもあるらしい。

 

 確か兄貴がテニスはバッティングの練習になるとか言ってたっけなあ。

 

 それにしても、今リトルで全国優勝とか言ってたっけ。

 奏多、野球が得意とは言ってたけどそんなすごかったんかい。

 そりゃ身体能力高いわけだわ。

 

 うーん、なのに奏多はどうして魔法少女になったんだろうね?

 

 

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