【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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奥ゆかしさが足りないのよ

「ハァ……だから言ったでしょ! 野球はやめた! だから野球部にもは・い・り・ま・せん! 以上!」

 

 奏多はそう言うとふんと鼻を鳴らして窓の外を見たが、先輩は嬉しそうに笑みを浮かべるばかりだ。

 

 ……全く動じてないんだよなあ。

 こういうタイプはたいていポジティブモンスターなのでしつこいぞ。

 

「フフフ、だからこそ勧誘のしがいがあるというもの! 俺たちは諦めない! なぜなら俺たち野球部には君が必要で、君には野球が必要だからだ! 俺にはわかる! 君の眼には未だ褪せない野球への情熱が見えるぞ! 魔法少女と野球、両方で高みに上り共に夢を叶えよう!」

『お前よくわかってんじゃねえか! このクソ暑苦しい野郎の言う通りだぜ。野球やれ野球!』

「ごめんな有為くん。こいつこんなふざけた奴だけど、君に野球部に来てほしいって気持ちはマジだからさ。もちろん俺も。あっ俺は細川。細川(ほそかわ)雄大(ゆうだい)な。ピッチャーやってる。んでこいつは」

藤田(ふじた)慎之助(しんのすけ)と申します! 捕手をやっております! 有為くん! よろしくお願いします!」 

 

 藤田先輩が仰々しく頭を下げて差し出した手を奏多は容赦なくはじいた。

 

「チッ、付き合ってられるか。塩撒くわよ! それからタンザ! アンタも乗るんじゃない!」

 

 奏多は勢いよく立ち上がるとイタチを怒鳴りつけた。そのままバタバタと教室を出て行ってしまう。

 わたしたちのすぐ脇を通っていったが、こちらを見向きもしなかったのでよほど腹に据えかねているようにみえる。

 

「……えっと、どうしよう」

「……一応追いかけよっか」

 

 わたしたちは顔を見合わせると頷いた。

 たぶん放っておいたらあいつはホームルームすっぽかしそうな予感がする。

 

 腕時計を見る。8時15分。まだホームルームの時間まで15分あるし、追いかけても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 奏多は城の1階へ戻る中央階段につながる回廊とは逆方向、さらに4階につながる塔の螺旋階段に差し掛かるところにある張り出し窓の前で、肘をついて外を見ていた。

 

 先輩たちとまた鉢合わせないように中央階段とは逆方向に行くだろうとは思っていたのですぐに見つけることができた。

 

「大丈夫?」

 

 出てくるのは月並みな言葉である。

 奏多は天井を仰ぐと目元に手を当てた。

 

「あー、ごめんね。ゆずこもひなのんも。アタシったら、ホンットらしくない。朝から気分悪いもの見せちゃったわ」

「それは別にいいけどホームルームすっぽかさないでね」

 

 ここ3週間は何事もなく過ごしてきたのにまた糸原先生が絶望的な顔をするぞ。

 奏多は意外そうな声をあげる。

 

「……ゆずこ、聞かないの?」

「なにを? 聞いてほしいなら聞くけどさ。どう見ても話したくなさそうなことをわざわざ聞くわけないでしょ。ほら、先輩たち帰ったか見てくるからちょっとそこで待ってなよ。ゴメン、陽菜乃は奏多どっか行かないように見ててくれる?」

「あ、うん。その……さっきのはちょっとひどいよね、先輩たち」

「あれはやりすぎだよねえ」

「別に勝手に消えやしないわよ。アタシは猫かなんかなワケ?」

 

 わたしと陽菜乃は奏多をなぐさめるために、お互いにうんうんと頷いて大げさに憤ってみせた。当の奏多は憤慨している。

 もちろん気持ちそのものは本心である。

 

「奏多もさ、女子ふたりに追いかけられてなぐさめてもらえる幸運を享受できることに少しは感謝してみたら〜?」

 

 オラッこの両手に花のイケメンがよ。

 冗談めかして上目遣いで言ってみると、奏多は一瞬目を丸くしてからくすりと笑った。

 

「……ぷっ、アハハ、おかげで落ち着いたわ。ふたりともありがとね」 

「なんでそこで笑うのよ」

「ひなのんなら可愛いからともかく、ゆずこがそれやっても全然似合ってないわよ」

「どういう意味!?」

 

 けして可愛いと言われたいわけではないけど、そう言われるとちょっと気持ち的に負けた気分なんだけど!

 

「わ、わたしならって……」

 

 陽菜乃は唐突に可愛いと言われて顔を赤くして縮こまっている。

 奏多はその様子を眺めるとニヤリと笑い、わたしを横目でちらりと見た。 

 

「そう、奥ゆかしさが足りないのよ」

 

 くそ、なんか少しだけ納得しそうになるのがムカつく!

 

 ま、それはともかく。

 奏多が野球をやめて魔法少女をやっているのはきっとそれなりの理由があるのだろう。先輩たちだって誘うにしてもやり方ってものがある。

 いきなりじゃなくて話聞いてからの方が良かったと思うぜ。

 

「あ! 柚子ちゃん。教室は突き当たりを左に曲がって3番目の扉開けたところだよ」

「流石にそれはわかりますー!」

 

 (きびす)を返して教室の様子を見に行こうとすると陽菜乃までわたしをいじり始めてきたので、いーっと歯を食いしばりながら言い返してみる。

 

“ま、単純に心配なのもあるんじゃない?”

(はいはい、どーせわたしは方向音痴ですよ)

 

 扉からこっそり中を伺うともう先輩たちはいなかったので、急いで奏多と陽菜乃を呼びに戻りわたしたちはなんとかホームルームに間に合った。

 

 ふう、遅刻は免れたぜ。

 

 

 

 

 ここ3週間、体育の授業は基本的にシミュレーターの中で行われている。

 

 わたしも不正アカウント事件の翌日になんとか新アカウントが発行され、無事みんなと一緒にログインして授業を受けることができていた。

 

 そういえばふと思う、シミュレーターの中で運動したところでわたしたちの体は鍛えられているのだろうか? 

 感覚としては身体ごと謎空間に飛ばされているようにしか思えないんだけど。

 

 周りには魔法少女に変身したクラスメイトたちが勢ぞろいしている。

 

 上を見れば薄い雲が空を覆っていて、目の前に広がる草原の先には満開の桜の森が点在している。

 

 そのはるか向こう、おそらくこのフィールドの中心に位置する場所には、くすんだ白磁色をした巨大な塔が雲を貫いてそびえ立っていた。

 その表面は細かくひび割れてまるで鱗のようだ。

 

 わたしはなんとなく、あの塔は巨大な樹の幹ではないかと思っていた。

 入学初日に飛ばされたあの巨大な樹冠のような場所。

 そして戦った銀色の騎士。それが空からこのフィールドの地上に落ちてきたという噂。

 

 それらを鑑みれば、きっとわたしたちがいたのはあの雲の上である。

 これは奏多と陽菜乃にも話して一致した意見だった。

 

「はい、みんな揃ったね! 今日の授業は1対1で模擬戦をやります。固有能力もすべて使って構いません! 相手はランダムに先生が決めさせてもらったけど、対戦相手が誰だったとしても特別な意図は無いからそのつもりで臨むように!」

 

 固有能力をすべて使っても構わない。

 その言葉にみんながわかりやすく沸いたのがわかった。

 

 体育の授業は基本的にシミュレーターで行われているのだが、今まではあえて能力と武器を使わずに、闘ううえで基礎的な動きを確認しながら素手でシミュレーター内のモブモンスターと戦うなどのカリキュラムにとどまっていた。

 

 魔法少女になると身体能力もブーストされるので拳や蹴りだけでもそれなりに闘うことはできる。ただそれは相手も同じなので有効打にはなりづらいのだが。

 

 すらっとした黒い鎧と裾が長い白の生地を組み合わせた、ロングコートのようなバトルドレスを羽織っている糸原先生の姿はもう見慣れたものである。

 現実ではさっぱりとしたショートカットの黒髪だが、今はグレーの髪色に変わっている。

 

 魔法少女の学校で教師をしているだけあり、糸原先生も元魔法少女だ。

 

 魔法少女は20歳を超えると魔力が衰えはじめる。

 そして最高でも25歳あたりで完全に魔力を失い強制引退となるため、現実では大人が魔法少女に変身することはない。

 

 だがシミュレーターはゲームのようなものなので、この仮想空間内でなら大人であっても魔法少女としての力を再現して、かつてのように闘うことができるというわけだった。

 

「先生、質問があります。この勝負はランキングに影響しますか?」

 

 最前列で手をあげてきびきびと喋るのは小豆畑(あずはた)さんだ。

 まだあまり話したことはないが、金縁の丸眼鏡をかけた三つ編みのかっちりした子ってイメージがある。クラスメイトの中でも特に真面目で静かであり、休み時間はいつも本を読んで過ごしている。

 あといつも後ろの席で後姿を見ているから嫌でも気づくが、読書家のわりにすさまじく姿勢が良い。

 

「小豆畑さん、いい質問をありがとう。今言ったように今からやるのは模擬戦! ジュニアNPMランキングも、校内ランキングにも影響はありません! だから負けるのを怖がらずに積極的にプレーすること! わかった?」

 

 みんながいろいろな声音でそれぞれ返事をした。

 やる気ありげに大きな声の子もいれば、まったく覇気のない子もいる。

 

 そして糸原先生が組み分けを順番に発表した。

 

 

 

 

 校内ランキングとは芙蓉中学校の生徒のみで行われる魔法少女の格付けである。

 芙蓉中学校は全寮制なので学校を飛び出して色んな魔法少女と闘うというのが難しい。

 そのうえ淡路島の山奥にある学校なので、外部からのアクセスもそうそう期待できない。

 ゆえにわたしたちの成績にダイレクトに反映されるのはジュニアNPMランキングではなく、校内ランキングの方らしい。

 校内ランキングは卒業後の進路にもかなり影響するんだとか。

 

 

 

 

 広い草原に散り散りになり、指示された対戦相手とわたしたちは向かい合っていた。

 

「えー!? ゆずこっこが相手なの!? やば、もにぃすぐ負けちゃうかもー☆」

 

 スカートと袖にフリルを爆盛りして、先端に星が付いたステッキを持って目の前でわざとらしく震えるふりをしているツーサイドアップは津々木さんである。

 

 わたしはすでにゆずこっこなる謎のあだ名で呼ばれている。

 

 ……それにしても津々木さんってホント、ザ・魔法少女って感じの格好してるよね。

 

 星のステッキってさあ、なんでそんな可愛い武器持ってるの?

 鉄パイプとの落差がおかしすぎるでしょ。

 完全にこれ、わたしが悪役みたいな構図になっててやってられねえぜ。

 

「よろしくね津々木さん。いやー、鉄パイプよりそっちのステッキの方が魔法少女っぽいし良さそうに見えるよ……」

「わかるー!? でしょでしょ! もにぃもこれ好きなんだ☆ あっ、そういえば先に教えておくと、もにぃの能力は()()()()()()()()()だよ☆」

「キラキラを出す能力……?」

 

 わたしは首を傾げた。概念系能力すぎて言葉だといまいちわからない。

 光を出す能力……的な?

 

「ていうかそんな律儀に教えてくれなくてもいいのに」

「ううん? だってもにぃもうゆずこっこの能力知ってるし☆ これでおあいこ! 同じ条件で勝負できるよ☆」

 

 そう言うと津々木さんはステッキを右手に構えた。

 口調はいつも通り砕けているが、ぱっちりとした瞳がやや細まってやる気に満ちた笑みを浮かべている。

 

 そう、わたしたちはみんな魔法少女として強くなるためにこの学校にいる。

 わたしも足元の芝生に手を当てると鉄パイプを召喚した。

 

 上空に浮かぶ糸原先生の声が響く。

 

「空中戦をしてもいいけど、今回の模擬戦はバトルフィールドを区切ってないので遠くに行きすぎないよう気を付けるように! それでは始めてください!」

 

 

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