【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます! 作:きなかぼちゃん
「いっくよー☆ “キラキラ☆コンフェート”!」
「うおおお!?」
津々木さんがステッキを振り回すと、金平糖みたいな小さな色とりどりの星が弾幕のようにばらまかれわたしに迫った。
そして慌てて鉄パイプで散らそうとすると、触れた瞬間に爆竹のようにはじけて手に衝撃が走りのけぞる。
見れば、津々木さんは既に次の行動を開始していた。
空高くジャンプして思いっきりステッキを振りかぶっている。
ステッキの先の星型から不定形の七色に光るオーラがにじみ出しスライムのように伸びるのを見た。
そしてそのスライムはぐねぐねとひとりでに形を変える。
「“キラキラ☆もっちりグミ”!」
もちもちとふとましい星型物質が飛びのいたわたしの目の前でぼよんとバランスボールのごとく跳ねた。そして津々木さんは左手の指を鳴らした。
「どーん☆」
光り輝いた瞬間、破裂。ぱきん! 甲高いファンシーな音。
きらめく虹色の星型エフェクトが降り注いでわたしを襲う!
「いだだだだ」
いくつかは鉄パイプで叩き落したが、それでも全部は無理!
星型のエフェクトはとがってて物理的に痛い。視界の端にAR表示が現れ、容赦なくバトルドレスの耐久値がもりもり減っている。
キラキラを出す能力って要は爆弾を作る能力ってこと!?
いやこれ強くね? 強くない?
ちなみに星型のエフェクトは物理攻撃っぽくて吸収できるタイプのものではない。
ていうかこれさあ、要は
カワイイっぽくしてるがやってることはエグいぜ。
東雲さんと闘ってから他の生徒とも何度か試合をする機会があったが、いまのところ鉄パイプで吸収できるのは非物理攻撃のエネルギー体だけということが既にわかっている。
相手も物理で殴ってくる魔法少女ならお互い殴り合って勝負するしかない。
もしかすると爆発する瞬間に鉄パイプを衝突させれば攻撃を吸収できるのかもしれないが、津々木さんの爆弾は東雲さんのように指向性を持った攻撃ではない。
そもそも爆発するタイミングもいまいちわからないので試すほどのメリットがなさそう。
東雲さんの落雷のように事前動作があり、直接的にわたしを対象として打ち込んでくる攻撃なら吸収しやすいが、これじゃ難しい!
大引さんは『できることが増えると、考えることが多くなる』なんて言ってたが、本当にその通りである。
鉄パイプで単純に殴ってればいいと考えていたほうが正直ずっと楽である。
変に自分の固有能力にこだわって闘おうとしている方がおかしい。
ならば、今回はシンプルにやろう。
わたしは鉄パイプに魔力を流し込むと、その両端に蓋つきジョイントを出現させて中身をふさいだ。
こうすれば流し込んだ魔力が流出するのを防ぐことができ、鉄パイプの強化状態が長持ちしてくれるのである。
そのかわり両端を塞げば攻撃を吸収することはできなくなるわけだが、今はそれでよし!
地面を蹴り上げて一直線に空中の津々木さんに突進する。
「もにぃもゆずこっこの真似しちゃうね! “キラキラ☆モーニングスター”!」
「わたしの鉄パイプはんなふうに巨大化しないんだけど!?」
津々木さんのステッキの先にある星型が数倍に巨大化し刺々しい鈍器と化した。
思わず突っ込む。もうそれ鉄パイプより凶悪じゃないですか?
七色に光るゲーミング・モーニングスターが振り下ろされる。
ガギィ! 鉄と鉄がかみ合って衝突する音。
「へへ☆ やっぱ重いね~☆ ゆずこっこの鉄パイプ!」
「精一杯だってのこっちは! ていうかそのキャラでその能力はずるいって!」
「え~? キラキラかわいいのに~!」
「キラキラってより爆弾じゃんこれ……」
「キラキラだよ~☆ 爆弾じゃないよ~☆」
シラを切りながら津々木さんはモーニングスターで殴りかかってくる。
そのキラキラどころかトゲトゲした鈍器しまえよ。
そのまま何度か距離を詰めたまま空中で殴り殴られの接近戦を続ける。
少しでも離れればまたあのスライム榴弾か爆竹で距離を取られるので、ぴったりとくっついて少しづつ削り続けるしかなさそう。
「しゃあっ隙あり!」
やがて打ち合いもマンネリになってきたころ、モーニングスターの一撃を身体を傾けてすんでのところでかわし、津々木さんの肩口に右の掌底を叩きこんだ。
津々木さんが悶絶してわざとらしくぷんすこする。
「いったーい! もー、ゆずこっこ~そーいうの卑怯だぞ☆」
「鉄パイプしかないんだから殴ったり蹴ったりするくらい許しておくんなさい」
「冗談だよ☆」
やれやれとわたしは鉄パイプを肩にため息をつく。
《ツツキモニコ、バトルドレス29%損傷》
《イシカワユズ、バトルドレス34%損傷》
AR表示がお互いの耐久値を伝えてくる。
接近戦だとお互い特に決定打がないためバトルドレスの耐久値は全然減らない。
授業終わるまでこのまま張り付き続けて削り合いか? さすがに疲れるなあ。
と、再び鉄パイプを構えたところで、真横から何かが迫ってくるのを見た。
「津々木さん左!」
「え☆ あっ」
わたしたちは思わず飛びのいた。
そして間に物凄い勢いで人影が横切り、べしゃっと草原に叩きつけられたのが見えた。
《スミタニリョウマ、バトルドレス88%損傷。損傷値90%を超えた場合、模擬戦設定のため戦闘を強制的に終了します》
すぐさま上空で待機していたドローンが飛んできて、AIであるテミスから注意が飛ぶ。
「…………」
ぶっ飛ばされて無言のまま草の上で転がっているのは、腰まである長いツインテールの女である。
わずかにその身体が帯電していたのを見て、わたしはその対戦相手を思い出した。
「えーっと……炭谷くん、大丈夫?」
長いツインテールの女もとい、炭谷くんは無言で立ち上がると、ぎこちない動きでわたしにサムズアップしてみせた。
本当に大丈夫か?
改めて、炭谷くんの姿を見てみる。
奏多は変身してもボーイッシュな感じだったし面影も濃いから気にならなかったけど、炭谷くんはちょっと姿が違いすぎる。
変身前はスポーツ刈りなのに変身したら超ロングのツインテになってしまうとは……。これは言われなきゃ同一人物だなんて誰も気づかない。
そしてなぜか炭谷くんは変身すると一切しゃべらない。
なんとシミュレーター内にホワイトボードを持ち込んで筆談で会話するレベルで徹底している。
変身前はあんなに社交的なのになんでだろう? なんてのはみんな思っていることだけどあまりに徹底的に喋らないため、その理由は誰も聞けずにいた。
糸原先生はそれを許しているあたり理由を知っているのだろうが、だからと言って本人が話さないことを先生に聞くわけにもいかない。
「あんた舐めてるの? 能力も使わずに適当にやるとかふざけるなよ……」
声のした方を見れば、両手に針を持った東雲さんがキレ気味に空から炭谷くんを見下ろしていた。
一方、炭谷くんは腰に下げたホワイトボードにマーカーで文字を書くとそれを掲げた。
【すまん俺の負け! 降参します!】
「~~~~ッ! なんなのよ、あんたは! どいつもこいつもッ!」
東雲さんが針を3本も投擲しようとしたので、さすがにおせっかいすぎるとは思ったが飛び出してその手を止めた。
「ちょっ、やる気ない相手をオーバーキルするのはやめときなって! 勝負ついてるならそのくらいに───」
「うるさい! 気安く話しかけんな! うざいくらい近寄ってくるくせに真面目に闘わないとかなんなんだよ! どうせあいつもあんたも私のことバカにしてるんでしょ!? 特待生のくせに弱いって! 真面目にやる価値もないって! ねえ!」
そう言うと東雲さんは長い髪を振り乱してブチ切れていた。
思考が飛躍しすぎておそらく本人も何が言いたいのかわからなくなっている。
わたしを睨みつけるその紫色の瞳には涙があった。
「東雲さん……」
呆然とつぶやく。まさか泣くほどにショックだったのか。
確かに能力を使わずに闘うというのは、対戦相手から見たら舐められていると思っても仕方がない。
そして東雲さんが努力しているのであろうことは闘ったからわかる。
だからこそ許せないのだろう。
“あの女が常にキレ気味で余裕ない理由がこれで少しはわかるんじゃない?”
α族はシミュレーターの中には入れない決まりらしく、シャリンはここにはいない。それでもこの間言われた言葉が思い出される。
だが、理由を知るからといってわたしが東雲さんにいったい何を言えるのか?
ただでさえ嫌われているというのに。
別にバカになんてしてないよ、なんて言ったところできっと意味がない。
そして炭谷くんも別に東雲さんをバカにしてるわけではないと思う。
なにかしらの理由があるはずだが……。
「ん~☆ もにぃはりょーまくんが悪いと思うよ~! バトルのときはもっとちゃんとやらなきゃ失礼だぞ☆ ゆずこっこは東雲さんのバトルで最後まであきらめてなかったし、あれ見てもそんな
津々木さんは口調こそいつも通りだったが、その視線は怒るでもなく、どこか冷笑じみたように炭谷くんを見下ろしていた。
気のせいかもしれないが、津々木さんはもしかするとそのキャラクターよりはるかに冷徹な子なのかもしれない。
おそらく津々木さんは隣でクラスメイトが泣いているこの状況において、いっさいの感情を動かしていない。