【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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ミュージックスタート!

 炭谷くんはわたしたちの方に視線を向ける。

 正確にはブチ切れて泣いている東雲さんの方に。

 そして申し訳なさそうに目を伏せると、またホワイトボードに文字を書き入れた。 

 

【すまん、悪かった。ちゃんと闘う】

【でも、頼むから笑うなよ】

 

 笑うな?

 

 炭谷くんはホワイトボードを投げ捨てると、虚空に手をかざした。

 瞬間、光とともにその手に白い見覚えのある道具が現れる。

 あれは拡声器である。

 

 そして大きく息を吸うと、拡声器を口の前に構えた。

 

「ミュージック・スタァァァァト!!」

 

 炭谷くんが叫んだ。

 

《───オン・ザ・ビート!》 

 

 ギュイインという起動音とともに拡声器の側面に光の輪が現れ、オーディオビジュアライザーのごとく波打った。

 

「……はあ。東雲さん、ごめんな。でもこれでわかるだろ、変身したら喋りたくなかった理由。でも闘ってりゃいつかはバレることだし、しょうがねえよなぁ……」

 

 目をそらしながらひどく恥ずかしそうに髪をいじる炭谷くんにわたしたちは何も言えない。

 東雲さんですら口を開けたまま何も言わなかった。涙すら引っ込んでいる。

 

 だって、

 

「どうせHPもギリギリだしな。お詫びに全力で攻撃するぜ。受け止めろ!」

 

 荒っぽいヤケクソじみた口調から放たれているのは───いわゆるアニメ声。

 ともすれば萌え声だの、()()()ともからかわれる、異様な甲高い声である。

 

 女子でもこれほど高い声を持っている中学生はそうはいない。

 それが地声だというならなおさらだ。

 

「あーくそ! 何だよこの声いつ聞いてもやってらんねえ! 自分の声なのによー! もうヤケクソで行くぞ! バーストシャウト・ヴォリュームMAX!」

《バースト! ビート! ブリリアント!》

 

 炭谷くんは左手で空を指さし、右手で拡声器を構えた。

 ギュインギュインと派手なアップテンポの電子音が鳴り続ける。

 そして思いっきり息を吸って、上半身をのけぞらせた。

 

 あれ? これわたしたちもやばくない?

 

 わたしはちらりと津々木さんを見た。

 津々木さんはにっこりと笑みを浮かべた。

 

「うん☆ これもにぃたちもやばいかも☆」

「なにぼけっとしてんのよ! 防ぎなさい!」

 

 東雲さんははっとして鋭い声で叫ぶと6本の針を抜いた。

 

「“雷の盾”! 1on1の試合でなにしようとしてんだよこの馬鹿ッ!」

 

 自分の闘いに他人を巻き込むのをよしとしない東雲さんは、なるほど勝負そのものに関しては真摯(しんし)であろうと思われる。

 

 あせって紫電の盾を形成する東雲さんを見て、わたしはあわてて鉄パイプで防御態勢を取った。

 

 あっ、そういえば鉄パイプに蓋してるから攻撃吸収できないわ。ナハハハ!

 

 ───つまりこれ、無理じゃね?

 

「───ソウルハウリング! “吹き飛べ”ぇ!」

 

 キーン、と耳鳴りがした。瞬間、肌がひりつく。空間が震えた。

 

 そして暴風のような衝撃の壁にぶっ叩かれ、鉄パイプとステッキで心もとない防御しかしてなかったわたしと津々木さんはふたりまとめてぶっ飛ばされた。

 

 かすかにAR表示で物凄い勢いで耐久力が減っていくのが見えた。

 あーあ、たぶんこの模擬戦もう終わりだよ。

 

「あっははは! なにこれやば、ちょーおもしろーい☆」

 

 津々木さんは吹っ飛びながらゲラゲラ笑っていた。

 どうやら炭谷くんの希望は打ち砕かれたようである。やってられねえぜ。

 

《シノノメムラサキ、バトルドレス30%損傷》

《イシカワユズ、ツツキモニコ、バトルドレス90%損傷を超過したため模擬戦を終了します》

 

 

 

 

「ってことでわけわからんまま模擬戦終了ってわけ」

「た、大変だったね……柚子ちゃん」

「それ草ね。草ってやつよ!」

 

 昼休み、今日は3人揃って大食堂でテーブルを囲んで昼ご飯。

 顛末を喋り終えると、奏多はわたしを指さして盛大に笑った。

 そしてカレーがのどに詰まってむせた。 

 

「か、奏多くん、だいじょうぶ? ほらお水」

「ゴホ、ゴホッ! ンンッ! はー、ひなのんありがと。いやほんと面白くて……アハハハ」

 

 さすがに笑いすぎである。これは釘を刺しておかねばなるまい。

 

 ちなみに今日は日替わり定食のささみカツカレー!

 脂っぽくないしサクサクで美味いんだよなこれ。

 

「炭谷くんさ、変身した時の自分の声気にしてるらしいから教室でネタにして笑うのやめたげてね」

「ああいや、そうじゃなくて乱入してきたやつらにぶっ飛ばされて試合終了してるゆずこが面白いのよ」

「そっちかーい」

 

 別にウケ狙いでこうなったわけじゃないんですけど~。

 

 というか別にフィールド区切られてたわけでもないから、流れ弾でやられる可能性も最初から警戒しておくべきだったのかもしれないな。

 そういうアクシデント含めて模擬戦だったのかもだけど。

 

 ちなみに奏多はというとあっさり模擬戦で勝っていた。相手は西織さんである。

 

「ったく、当たり前のように勝ったやつは余裕のあることで」

「いや? たんぽぽ結構強かったわよ。向こうが能力にこだわりすぎなきゃアタシも割と危なかったけどね」

「あ、そういえば……奏多くんは能力使ったの?」

 

 陽菜乃が気色をこめてたずねた。

 そういえば奏多の能力は秘密のままでいまだに知らない。

 もしかすると今回の模擬戦で使ってたりするのかな?

 

「それも秘密よ」

 

 口元に人差し指を添えると相変わらず奏多は前と同じことを言う。

 陽菜乃は不思議そうに首を傾げた。

 

「えっ、使ったのも秘密ってこと……?」

「そ、秘密は引っ張った方がワクワクするでしょ? 楽しみはもう少し先に取っておかなきゃね、ひなのん」

「それ言うと引っ張れば引っ張るほどハードル上がるやつだけど大丈夫?」

 

 ニヤリと笑う奏多に思わず突っ込んでしまう。

 だって本人いわくしょうもない能力だそうで。

 

 前にも言ってたけど、まともに使えない能力っていったい何なんだろうね?

 能力を使わないにしても、単に自分の声が恥ずかしかったから能力を出せなかった炭谷くんとはまた違う理由のようにも思える。

 

「そこは安心しなさい。なんならふたりとも予想してくれてもいいわよ」

「じゃああとで西織さんに聞くか……」

「ノリ悪すぎよ! ゆずこよくつまんないって言われない? それ」

 

 奏多が露骨にあきれ返った。さすがにそれはルール違反か。ごめんて。

 

“やーい、自称前世持ちのつまんない大人~”

 

 シャリンこういう時だけ突っ込んでくるのやめてくれる!?

 

“さすがにそれはないわって思って突っ込んだだけじゃない。柚子が悪い”

 

 シャリンはつまんないことをすると露骨に厳しい。ごめんて。

 

「柚子ちゃん、なんとなくだけど、西織さんに聞いてもたぶんわからないんじゃないかな……?」

「えっ?」

「だって奏多くんが人に聞けばすぐわかるようなクイズ出すと思えないし」

 

 陽菜乃、それは暗に奏多のことをひねくれ者と言ってるのと同じだぞ!

 でも「確かに」とちょっと納得してしまう自分もいる。

 まだ友達になって3週間ちょっとだが、奏多は少なくとも素直なやつではない。

 

 陽菜乃の毒舌が炸裂したが、奏多はあくまで面白そうに笑みを浮かべている。

 ……やっぱ素直じゃないよねえ。

 

「ふふん、ひなのんはわかってるわね。ゆずこも見習いなさいよ。ま、たんぽぽに聞いても“わからない”ってのが最初のヒントね」

 

 つまり、わたしや陽菜乃のように武器や道具を召喚したり、東雲さんのようにエネルギー体を放出したりする“わかりやすい”ものではないということになる。

 

 わたしと陽菜乃が考えるそぶりをしている間に、奏多はカレーを食べ終わり水を飲みほして小さく息を吐いた。

 

「てかさ、アタシ思うんだけど、みんな能力に頼りすぎじゃない? 変身すれば身体能力バカ上がりするんだからシンプルに腕っぷしで闘えばいいのよ」

「まあ……確かにそれはそうだけどねえ」

 

 フィジカルエリートであろう奏多らしい意見だった。

 

 実際、わたしも能力を使うことを考えすぎて自爆しそうになった組である。

 たぶん糸原先生がいままで能力使用を解禁しなかったのはそういう理由もあるんだろう。

 

 能力に頼りすぎる闘い方では視野が狭くなる。

 

 さっきわたしが津々木さんにやったように、女子の腕力でも殴れば思ったよりバトルドレスの耐久値を削れるのだから積極的にやるべきである。

 

 かといって炭谷くんみたいに能力を露骨に縛ったらそれはそれで相手を舐めてる感じになったりするし、何事もバランスよくという感じかなあ。

 

「ほら、ひなのんも気軽に殴って闘いましょ!」

「う、うーん……? そう、だね……?」

 

 シュッシュッとジャブを繰り出すふりをしている奏多を見ながら陽菜乃は困ったように苦笑いした。

 

「それはそうと陽菜乃は模擬戦どうだったの?」

「あたしは……えーっとね、あまりうまくいかなくて……相手が雛内(ひなない)さんだったんだけどね。ほら、あたしって糸を出すだけの能力だし、とにかく雛内さんをぐるぐる巻きにするくらいしかできなくて……」

「ああ~……」

 

 なんとなくその光景が思い浮かぶ。

 とりあえず糸出せるなら考えるのはそれだよなあ。

 

「でね、雛内さんはなんか……固くなる能力? みたいで、ずっとそのまま勝負もなにもなくて、お互いにどうしようって言ってたら制限時間終わっちゃった……」

 

 雛内さんは後ろ髪の赤いデカリボンがトレードマークの小柄な女の子である。

 何度か話したけど優しそうな子だったので、たぶんお互いに譲り合い状態になってしまったのだと思われる。

 

「そんなの()巻きにしたまま一方的にボコればいいじゃない。今こそ拳の出番よ!」

「え、ええ~!? むりむり! 無理だよぉ!」

 

 奏多が何気なく言うと、陽菜乃が青ざめた顔で両手をぶんぶんと振った。

 

「発想がアウトローすぎるでしょ……」

「あら、鉄パイプぶん回して相手を容赦なくぶん殴ってる女だっておんなじようなもんでしょ」

 

 あーあー聞こえない。それはわたしじゃなくてわたしの能力のせいだよ~。

 津々木さんを見なさいよ。あいつの武器モーニングスターだぞ。

 

 そして試しに陽菜乃がマウントポジションで動けない相手をボコボコにしている光景を思い描いてみる。

 

 うーん、さすがにちょっと難しい気がするな……。

 

 

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