【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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そのニヤけ面、最高にブス

 妙なことになった。

 目の前には変身を終えバトルドレスを纏った魔法少女がいる。

 

 バトルドレスとは魔法少女が変身した時に身につける装備のことだ。

 

 裾が地面につくほどゆったりとした薄黄色の唐衣を着込んで、その周囲には身を隠せるほど大きな半透明の長布が羽衣のように淡い光を発散しながら漂っていた。

 向こうの武器は確実にあの羽衣だろう。大引さんはどうやら平安時代系魔法少女らしい。

 

 流石にここまでされると、大引さんは本気でわたしと闘うつもりなのだと察する。

 やってられねえぜ。

 

「さ、本気でかかってきてねー♪」

 

 相も変わらずゆるゆると口元は笑っているが、目がマジだ。

 当然、逃がしてくれそうにもない。

 背を向けたらどこまでも追いかけてガンギマリ顔でブン殴ってきそうな“凄み”がある。

 

 なるほどね。この人は誰かを殴りたくて仕方ないから合法的に暴力を振るうために魔法少女になったのかもしれない。そうでもなきゃ受験生に一方的に喧嘩売るとか普通しないでしょ。最悪だぜ。

 

『だからさっき帰ろうって言ったのに』

 

 頭にシャリンの呆れ声が響く。ごめんて。

 

《両魔法少女の変身を確認。公式決闘を承認します》

《地上環境判定───戦闘非推奨区域》

《バトルフィールド設置提案───地上5m地点》

《レギュレーションを選定》

《フィールド種:スタンダード───障害物:無し》

《広さ:34m×41m───高さ:12.5m》

《展開します》

 

 ドローンから淡々と抑揚のない女性のアナウンスが流れると同時に、上空を飛び回り線を引くように青白いビームを放った。やがて僅かに発光するホログラムにも似た床と壁が宙に浮くように形成される。

 だいたいテニスコート2面を並べたら、おそらくこのくらいの広さになる。

 

《両魔法少女は1分以内にフィールド内へ入場してください。なお制限時間を超過した場合、魔法少女決闘規約第3条12項に則り規定のペナルティが課せられ、決闘に敗退したものと見なされます。準備を開始してください》

 

『こうなったらもうやるしかないわよ。わかってると思うけど、公式決闘はどちらかが降参するか負けるまで逃げられない。ちなみにα族の公式決闘中の介入は禁止されてるから、フィールドに入ったら私の声は届かないと思いなさい』

 

 初耳だった。何度か魔法少女バトル自体はしたことあるけど、公式決闘なんてやったことないわ! 普通にシャリンに指示してもらいながら闘おうと思ってたのに!

 どうすんだよ。今のわたしには鉄パイプで殴りかかる以外に攻撃方法がないんだが?

 

(率直に勝てると思う?)

()()()()()。ルナサイレンス───向こうはライジングフォームなんだから。闘えばわかるだろうけど、真名解放した《名前付き》とアナタみたいなまだ《無名》の魔法少女じゃ天と地の差がある』

 

 知ってた。わたしはまだ魔法少女になったばかりの初心者なのでそれはそう。

 

(ダル過ぎ。雑魚狩りしたって楽しくないだろうにさ。降参したら許してくれないかなあ。そもそもわたし機嫌損ねるようなこと何もしてないけど)

『アレが即降参して納得するような女ならそれもありかしらね』

 

 そんな大引さんはフィールドに既に上がってわたしが逃げないように見張っている。

 まあ無理だろうね。

 

(それならそれで、どうにか上手いことさっさと負けたいところだけど)

『実力差がありすぎるから、小手先で変なこと考えずに本気でやりなさい。たぶんそれがこの状況から解放される最短の近道だから。ワタシが今できるアドバイスはこのくらいかしら』

 

 飛び上がってフィールドに降り立つと、さっき言っていた通りシャリンの声は一言も聞こえなくなった。

 魔法少女になってからというもの、いつもシャリンの気配を身の回りで感じていたのでなんだかほんの少し開放感にも似た清々しさがあった。

 特にやましいことを考えているわけではないけれど、常にシャリンに思考がダダ漏れだという事実は時々気疲れすることもある。

 

「うふふ、闘う前にルール決めよっかー。石川さんがダウンする前に、いちどでも私に攻撃を入れられたらあなたの勝ち、なんてどうー?」

「大引さん、それならわたしからも闘う前にひとついいですか?」

「いいよー。なんでも聞いてー♪」

 

 口元が緩み、声がさっきより上擦っている。大引さんは今すぐ闘いたくてうずうずしているように見えた。雑魚狩りでこんなにワクワクする女とか最低だぜ。

 わたしは鉄パイプを両手に握って下段に構えた。

 

「そのニヤけ面、最高にブスだからやめた方がいいですよ。語尾やたら伸ばすのもキャラ作りにしちゃバカっぽいし、恥ずかしくないんですか?」

「は?」

 

《Magical Duel stand-by───3─2─1─Fight!》

 

 大引さんの表情が固まり真顔になり、頭上のドローンが決闘開始を宣告した。

 

 膝を軽く曲げて身体を後ろに傾ける。床を蹴り、()()()()()()

 これが変身した魔法少女の身体能力! 初心者魔法少女のわたしですら、助走もなく床を蹴り上げるだけで自動車を超えるスピードで突っ込むことができる。

 

「食らえやっ」

 

 衝突寸前、鉄パイプを横殴りに頭目掛けて薙ぎ払った。

 ゴギャア、と金属同士がぶつかり合う音。

 

「へぇー……いい子そうだと思ってたけど、そういう手も使うんだー」

 

 意外そうにぽかんとした顔をした大引さんの顔が目の前にあった。その眼前で、どうやら硬質化しているらしい半透明の羽衣で鉄パイプは受け止められていた。オート防御か何か?

 

 チッ、暴言で動揺させて一撃で決めるつもりだったのにそううまくは行かないか。

 

「自分が弱いのは最初から分かってるんでね。卑怯だとは言いませんよね?」

「うんうん、もちろん! むしろあなたのこと、もっと好きになったかも!」

 

 嬉しくねえよ。大引さんは表情を戻してゆるっと気持ち悪く笑う。そして口角を吊り上げた。

 

「だから、こんな出オチだけじゃ終わらないよねえ?」

「げっ」

 

 いつの間にか鉄パイプが羽衣でぐるぐる巻きに絡め取られていた。瞬時に手を離して背後に飛び退き距離を取る。羽衣はひとりでにぐねぐねと蛇のように動き、鉄パイプを器用に投げ返してきた。

 

「お返し♪」「ッ」

 

 反射的に床から2本目の鉄パイプを引き抜き、飛んできた鉄パイプを明後日の方向に弾き返した。そして、

 

「ちょっとだけ私の力、見せてあげる───お願いね、月影化粧(げつえいげしょう)

 

 大引さんが羽衣を撫でながら名前を呼ぶように囁く。そして宙に浮かぶと、羽衣がその頭上でひらりと弧状に広がった。

 

 その表面でチカチカした無数の黄金色の光球が灯る。1、2、3、4、5───おいやめろ、数えきれない! 既視感がある。それはライブステージの後方で演者を照らすバックライトにも似ていて。

 

 おいやめろ馬鹿。それ全部一気に飛ばしてくるんだろ。知ってる。

 背筋がぞっとする。アレ食らったら絶対にヤバい。ついさっき聞いたシャリンの言葉がリフレインする。

 

『闘えばわかるだろうけど、真名解放した《名前付き》とアナタみたいなまだ《無名》の魔法少女じゃ天と地の差がある』

 

「さ、受け止めてみてー? 《天津甕星一式(あまつみかぼしいっしき)》」

 

 ギュル、光球の中心が螺旋状に歪んで収束した。

 

「───《(きょう)》」

 

 死が放たれた。

 直線的に迫る黄金色のレーザーの一本をかろうじて魔法少女の反射神経で避ける。だが、

 

(壁に、反射、して───)

 

 数えきれない無数のレーザーがフィールドの半透明の壁や天井を縦横無尽に反射し、わたしに降り注ぐのを見た。

 受け止める!? 無理! 避けきれる!? それも無理!

 あー! 何しても無理! 恐怖で足がすくむとはこういうことなのか。

 

 ならそのまま目を閉じて、あきらめて縮こまったままボコボコにされるか?

 

 んなもん嫌に決まってるだろがああああ!! よく分かんねえ女のサンドバッグにされてムカつかないわけがない。

 

 目線の端に大引さんの軽薄な笑みが見える。

 怖いだろ? やれるもんならやってみな。

 幻聴だろうが、そんな心の声が聞こえてくる。

 玩具を弄んで嗤っている無邪気な子供の顔である。

 

 他人で遊ぶなよ。このブス女め。

 

 が、この状況でできることと言えばもう、ヤケクソしかない。

 わたしはただ襲い掛かるレーザーに向かって鉄パイプを振り回した。

 結局のところ、わたしができることと言えばそれしかないのだ。

 

 そして、視界を黄金色の光が埋め尽くした。

 

 

 

 

《イシカワユズ、バトルドレス90%損傷》 

 

 ドローンから放たれる抑揚のないアナウンスにはっとして目覚める。

 頭がぐらぐらする。気を失ってた? 

 視界が90度傾いてる。あ、わたしが地面に倒れてるだけか。

 そして一瞬遅れて全身を痛みが襲い、思わずうめく。

 

 変身した魔法少女の身体は人間よりはるかに頑丈で再生力があるので、決闘で怪我する心配はそれほどしなくていい、らしい(そうでなければ人を鉄パイプで殴打したりはしない)。

 

 それでも痛みはバトルドレスを通じてダイレクトに伝わる。

 

「うっ……ぐう……ぎぎぎ」

 

 痛すぎて奇声を上げないとやってられない。無理やり身体を動かして、無意識に握り続けていた鉄パイプを杖に起きあがろうとしてもなかなか力が入らない。

 ていうか、90%損傷ってほぼ死に体じゃん。ドレスを見れば白かった生地がところどころ焦げ付いて無惨な姿になっていた。

 

 草履が擦れるような乾いた音に混じって、スルスルと服の裾を引き摺る音が聞こえた。やがて視界に黄色の唐衣の裾が見えた。

 見上げれば、袖で口元を隠してクスクスと愉快そうに笑っている大引さんの顔。

 

「すごいね、初期フォームのバトルドレスで私の天津甕星を耐えるなんて」

 

 ぶち殺すぞ。

 

 どう見ても耐えられてないだろ。こちとら満身創痍で千鳥足じゃい。

 声を返すよりもわたしは震える足でなんとか立ち上がり、大引さんの蛇のように細い目を睨みつけた。

 

「アハ、こわーい。いい顔してるねー」

 

 やってられねえぜ。闘ってて確信したけど、この女、たぶん人を痛めつけて相手が立ち上がって粘るほど喜ぶタイプの最低女だ。それなら少しくらい意趣返ししてもいいよね?

 

「いい顔、ね……。はっ、もしかしてさっきブスって言ったの気にしてます?」

「何のことかな?」

 

 とぼけたように笑う大引さんの目が剣呑な光を帯びた。

 

「その他人をおもちゃにして遊んでそうな性格がブスだと言ってる」

「……へぇー。私にそんなふうに言ってきた子、初めて見たかも。ねえねえ、私って性格悪いように見えるのかな?」

 

 そしてひどく驚いた顔をしながらわけのわからないことを言い出しやがった。無自覚な悪じゃねえか。一番タチ悪いよこれ。

 

「試しにあなたの知り合いに手当たり次第に聞いてみれば、全員性格悪いって言うと思いますよ」

「そうなの? でもよかったー、私の顔のこと言われてるのかと思ったし」

 

 大引さんはわざとらしく息を吐いてホッと安心したそぶりをする。やっぱり気にしてんじゃん! この女、確かに見てくれは誰もが頷きそうな美少女である。

 

 ていうか性格ブスって言われるのはどうでもいいのかよ。やってられねえぜ。

 

「じゃあ、どうしたらいいかな……そうだ。今ここで石川さんにアドバイスすればちょうどつり合い取れて性格良いってことになるよね?」

 

 どんな理屈だよ。この女の頭の中では性格の良し悪しがメーターで数値化されているのかもしれない。完全に人の気持ちがわからない人間の考え方だけど大丈夫か? 学校生活ちゃんとやれてる?

 

「だから、私の技を耐えきったすごーい石川さんにヒント! ひとつ教えてあげるー。あなたが今持っているのは鉄パイプの形をした、あなた自身の魔力の塊にすぎない。見た目に囚われて先入観だけで戦い方を狭めたら面白くないよー。月並みな言い方をするなら、まだ想像力が足りないってところかなー?」

「はぁ、想像、力……?」

「そんな田舎の不良みたいな戦い方じゃつまんないってこと!」

 

 ずびっと鉄パイプを指さして宣言してくる。

 むしろ不良はあんただろと突っ込みたい。

 

 そして、大引さんが口元から袖を退けて、はっとした。

 よく見れば、その右頬にはわずかに擦り傷があった。さっきまで無かったけど、いつの間に付いたんだ? レーザーが誤爆して自分にも掠ったとか?

 

「フフッ、石川さん、あなたの勝ちだよ。ねえテミス! 私降参するねー!」

「え?」

 

 大引さんはドローンに向かって叫んだ。テミスとは決闘審判用AIの名前である。

 

《ルナサイレンスが降参を選択しました。よって勝者、イシカワユズ。おめでとうございます。ジュニアNPMランキングの変動を行います。決闘における推奨ランク差が規定値を大幅に超過しているため、ルナサイレンスから通常レートの3倍のアルファポイントが徴収されます。イシカワユズに通常レートの3倍のアルファポイントが加算されます》

《ルナサイレンス───ジュニアNPMランキング25位より86位へ降格》

《イシカワユズ───ジュニアNPMランキング35967位より17143位へ昇格》

 

 大引さんが突如降参を宣言した結果、アナウンスが色々と話しているが状況が理解できなくて頭に入ってこなかった。

 

「え、ちょ、なんで? わたしまだ何もしてないのに」

「……もしかして、自分が何したかわかってないのー?」

 

 大引さんが心底不思議そうにこてんと首を傾げた。

 

「少なくとも大引さんに一撃も入れられてないのはわかってますけど」

「ふうん、()()()()()()()()()()()()()()()() ま、覚えてないならそれはそれでいっかー。とにかく今回は石川さんの勝ち! おめでとー!」

 

 な、納得できない……。

 いや、この女は素直にムカつくし、ボコボコにされるにしろせめて一撃入れてやろうくらいは思ってたけど、こうやって自分でもよくわからない形で負けを認められるとまるで消化不良のような気持ち悪さがある。

 

 ただ、わたしもどこか気が抜けてしまったのか、にっこりと笑顔でぱちぱちと拍手してくる大引さんを普通に可愛いと思ってしまった。

 普通にしてたら美少女なのに、眠そうな顔でニヤニヤするのやめればいいのにね。あれは嘘じゃなくてホントにキモかったしさ。

 

 

 

 

 フィールドの外に出てあずまやの近くに降り立って変身を解除する。

 誰もいなかったはずの花壇にはいつの間にか、制服を着た芙蓉(ふよう)中学校の生徒たちや、受験生とその保護者が集まっていた。

 よくよく考えれば空中フィールドで決闘していたのだから嫌でも目立つ。単に決闘をやってるのが気になってみんな見に来ただけだろう。

 

 散々痛めつけられていまだに体の節々が痛い。わたしは脱力感で思わず芝生に尻餅をついて座り込んだ。

 感触は筋肉痛のようなものだけど、この感じだと3日は治らなさそうだ。

 週明け体育あるんだよなあ。ヤダなあ。サボろうかな。

 そこまで考えて誘惑を振り払う。

 

 今のわたしは女子小学生。真面目に授業を受けて勉強するのが仕事である。

 健全な家庭環境でわたしを育ててくれているお父さんとお母さんに感謝せねば。

 

「おい大引! お前、ちょっとこっちこい!」

 

 声音の低い女性の怒鳴り声が聞こえて、思わずびくりとして視線を向ける。

 うなじが見えるくらいに髪を短く切りそろえた黒髪の女性に手を掴まれて、大引さんがちょうど連行されようとしているところだった。

 

 きっちりしたパンツスーツのブラウスを着ているので教職員の人かもしれない。

 

「えー? ただいつも通り闘ってただけですー」

「何がいつも通りだ! あれほど注意したのに受験生に喧嘩を売るバカはお前だけだ!」

「喧嘩売ったなんて先生、決めつけひどいー。しかも負けたの私の方だしー。ね、石川さん?」

 

 いたずらっぽく大引さんはわたしにウインクした。

 ね、じゃないんだよ。実際、先生の言っていることが全て正しいんですけど?

 うんざりした顔をしていると、女性ははっとしたようにわたしの方に向き直って正座し目線を合わせた。そして深々と頭を下げてきた。

 

「本ッ当にごめんなさい。受験生の子だよね。このバカにはよく言っておくから……養護教諭、ええと、保健室の先生が今から来てくれるから、治療してもらってください。それまであずまやの中で休んでてもらえるかな」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 何も悪くない人にこんなに頭を下げられると逆に申し訳なくなってしまう。

 

「そんな大した怪我させてないですよー」

「お前は黙れ!」

「ぷぅー」

 

 面白くなさそうに頬を膨らませて何ひとつ反省していない大引さんを放置し、先生に手を貸してもらってよろよろとあずまやのベンチに腰を据えて深く座る。

 疲れすぎて冷たく固い座面の感触すら全く気にならなかった。

 

「ふぁーあ、運動したらなんか眠くなってきちゃったー。じゃあまた、きっと4月に会おうね。石川さん」

 

 なんてあくびをしながら大引さんがわたしに手を振るものだから、今度こそついに大引さんは首根っこを捕まれ引きずられるようにして先生に連行された。

 

 できれば二度と会いたくないんだよなあ。

 さっき喋ってわかったけど、そもそもアレ何が悪いのかわかってないでしょ。更生の余地がなさすぎる。

 

 ま、4月に会おうとか言われても落ちてる可能性の方がはるかに高いし、そもそも大引さんみたいな女がほかにもいる可能性がある学校に入学したいかと言われると、かなり悩むところである。

 

『流石にあんな女ばかりだったらこの学校とっくに問題起こして潰れてるんじゃない?』

 

 いつの間にかベンチの隣にちょこんとシャリンが留まっていた。そうだ、試合終わったらもう話せるんだっけ。

 

「そうだといいけどね。ていうかもう落ちてる方がマシな気がしてきた」

『ま、歩いてたらゲリラ豪雨に降られたくらいに思いなさいよ。それに結果的にあの女には勝ったわけだし良かったんじゃない? アルファポイントもたくさん貰えたはずだし、もしかしなくても、物凄くランキング上がってるんじゃない?』

「なんか順位上がったとか言われた気がするけど忘れた」

 

 ランキングというのは(一社)日本魔法少女決闘競技機構《Nippon Professional Magical battle Leage Organization》───通称NPMが規定している、日本の魔法少女を格付けした順位表のようなものである。年齢制限によって細かいレギュレーションが異なりそれぞれ独立したランキングになってるらしいけれど、基本的に順位が上の人が強いのは間違いない。

 公式決闘で勝てばアルファポイントと呼ばれる点数が加算され、負ければ徴収される。基本的に順位は手持ちのアルファポイントの量によって決まり、リアルタイムで変動する。

 

 今すぐ確認する気力もなかったが、シャリンの言う通りわたしの順位は上がっているはずだ。どう見ても分不相応な上がり方なので素直に喜べないけど。

 

 その後、保健室に連れて行かれたわたしは湿布を貼られながら職員の人たちに決闘に至った事情を聞かれた。

 特に後ろめたいこともないので事実を包み隠さず話したら先生と同じように深々と謝罪されてしまった。

 生徒が入学試験を受けにきた受験生に決闘を挑んで襲いかかるのは校則で禁止らしい。

 

 ……ちょっと待て、禁止ってことは前にも同じことした奴がいるってことだよね!?

 

 大引さんは常在戦場とか言ってたけど本当にあんなのが他にもいたら怖すぎるだろ。目と目が合ったらバトルとかゲームじゃないんだからさあ……。

 

 帰りは特別にわたしだけのために小さなスクールバスで新幹線の駅まで送ってもらえることになった。その頃にはもう日が暮れて夜になっていた。

 島と本土を繋ぐ橋をバスが走る。ライトアップされた橋の明かりを眺めながら、シャリンとわたしは落ちた時の言い訳をどうするか大真面目に話し合っていた。

 

 

 

 

 数時間にわたる説教を受けて解放された頃には外は真っ暗。

 街灯の心もとない光を頼りに寮の部屋に戻れば、部屋ではルームメイトがベッドで仰向けになって漫画を読みながらダラダラしている。もうご飯もお風呂も済ませたのかな?

 

 彼女は頭だけあげてこちらを見て、すぐに訝しげに声をあげた。

 

「静、今日どうしたの?」

「んー?」

「いつもより機嫌良さそうじゃん」

「そうかなー? そうかもー。すごく面白い受験生がいてさー」

「一応聞いておくけど、まさか喧嘩売ってないよね?」

「んー? 喧嘩は売ってないよ。闘いはしたけど」

「ごめん聞こえなかった。もう一度言ってくれる?」

「受験生と闘ってきてすごく楽しかった!」

「何やってんのよこのバカは……?」

「だってあの子、一度も逃げようとしなかったもん。怖がって逃げるなら私もスルーしたけどさー、あんな目でずうっと見られたらついやっちゃうよねー」

 

 ああ、石川さん石川さん石川さんっ!

 

 彼女を思い出すだけで心が高鳴ってうっとりした気持ちになる。

 戦闘不能一歩手前までやりこめても一欠片も心が折れたように見えなかった。

 あの絶対に殴ってやる、ぶっ殺してやるみたいな目で見られるのが、たまらない。

 ちょっと面白い能力だから闘い方を見てみようかなくらいの気持ちだったのに、こんな気持ちにさせてくれるなんて!

 

 最近はずっと退屈だった。同級生はみんな私を怖がって闘ってくれなくなったし、いい勝負ができる数少ない3年生はもう卒業してしまう。授業で試合をしても、最初から負ける気でやってくる相手ばかり。

 

 もはや私にとってこの学校での1年は長すぎる。はやく高校生になりたい。

 そうすれば年齢制限もなくなって、プロ含めたもっと強い魔法少女たちといくらでもやり合える。

 

 そう思ってた。とにかく、憂鬱になるくらい退屈だった。

 

 石川さんに声をかけたのは、私のことを全く知らない人と闘えば少しは気も紛れるかと思ったからだ。

 

 でも、今は4月が待ち遠しくて仕方ない!

 

 指先で、すでに治りかけている頬の擦り傷を撫でるとぞくぞくして体が熱くなる。思わず両手で身を掻き抱いた。

 

 あなたは覚えてないだろうけど、あの時、あなたはわたしの天津甕星《あまつみかぼし》を()()()()()()()()! まだ真名解放すらしてない子がそんなことできるなんて信じられない! 私は反応すらできなかった。ほんの少しずれて顔面に打ち込まれていたなら、私はかすり傷どころではなく本当に負けていたかもしれない。

 

 石川さん、早くあなたに会いたい。

 それでもっとあの目で私を見てほしい! いっぱい闘ってほしい!

 

「何があったか知らないけど今のあんたの顔めちゃくちゃキモいわよ」

「えっ、石川さんに嫌われちゃうかなー?」

「知らんがな。そもそも石川って誰よ……」

 

 ルームメイトはため息をついて目線を漫画に戻した。ふと、そういえば、と気になったので聞いてみる。

 

「ねえねえ」

「何?」

「私って性格悪いのかなー?」

「そんなわかりきったことを聞いてどうすんの」

「そうなの?」

「……自覚なかったの?」

「だってそんなこと言われたことないもん。石川さん以外に」

 

 ふふっと思わず笑い声が出る。初めてだよ、あんなこと言われたの。

 

「サイコパスかよ……ヤバい、その石川さんが可哀想になってきた。見たことも会ったこともないのに」

 

 ルームメイトは遠い目をしながらいきなり石川さんのことを心配し始めた。

 なんでだろう?

 

 

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