【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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やっぱセンパイって性格悪いんすよ

「ただいま帰りましたーっと」

「ん、おかえりー」

 

 3週間も一緒に暮らしていればいい加減下着姿のルームメイトの姿にも慣れる。

 

 寮の部屋に戻ると、大引さんはいつも通りの格好で床の上にヨガマットを引いてストレッチをしていた。

 

 時計を見れば、ちょうど7時を回ったころだった。

 今日はそこそこ寝るまでに余裕があるからゆっくりできるな! 

 

 この部屋の消灯はだいたい9時ごろ、早ければ8時半ごろ。

 

 別に示し合わせたわけではないが、自然とそうなっている。

 

 もちろんわたしもそれに合わせて寝る。一応後輩だしな……。

 最初は目がさえてなかなか寝られなかったが、最近は身体が暮らしのリズムに適応してきたのか9時寝でもあっさり入眠できるようになってきた。

 

 そして大引さんは基本、朝5時くらいに起きてあっという間に部屋を出て行ってしまう。その代わり夜はベッドでゴロゴロしながら本を読んだり、今みたいに床でストレッチをしながらゆっくり過ごしている。

 

 ふと、ストレッチ中の大引さんを見やる。

 

 大引さんってそこまで柔軟得意じゃないんだな。

 別に固いわけではないが、見た感じ開脚も前屈も可動域が一般人レベルの範疇を超えてないように見える。

 

「センパイって思ったより体柔らかくないんですね」

「わざとだよー。柔軟で可動域が広がりすぎると出力が下がるからね。石川さんもやりすぎない程度に筋肉がいい感じに動くくらいにしとくといいよ」

「……ええと、筋肉がいい感じに動くって何ですか?」

「んー、例えば……」

 

 大引さんはすこし考えるそぶりをしてから立ち上がると、おもむろに右ストレートを放った。

 突然すぎてのけぞることすらできず、拳がぴたりと鼻の前で止まる。

 

 思わずごくりと息をのんだ。

 冗談……だとは思うが、大引さんはなにひとつ悪びれていない。

 

 てかいきなりそういうのやめろ! 心臓止まりそうになるわ。

 

「こういう時、なんか力の流れがピタッと繋がって、動いてる! って感じすることないー?」

「……はあ。そういうのはまず予告してからやってくださいよ。要はいいフォームで相手を殴れってことですか?」

「いいねー、半分正解。再現性のある環境で動けるならそれでいいと思うよ」

 

 わたしが投げやりに言うと、大引さんは嬉しそうにクスクスと笑う。

 この人わたしが何しても面白がってきやがるな。気安い関係になったのはいいとして、これはこれでちょっと不安だ……。

 

「ただ、私たちは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() 足裏で踏み込めない、下半身が安定しない状態で攻撃をするのであれば、身体の一部分だけしか使えない前提で最適な動きを追求しなきゃ。そのためにもこう、いい感じに動く……ああ、基礎的な筋肉の出力って言った方がいいかなー? そういうのを大切にしようねってこと」

 

 確かに、今日も試しにやってはみたが地上で相手を殴るのと、空中で殴るのとでは感覚が全然違う。もちろん空中のほうがはるかに力を入れづらい。

 

「そういえばクラスの友達にも言われたんですけど、能力じゃなく殴ったり蹴ったりが勝敗の決め手になったりって十分ありえますよね」

「そうだよー。魔法少女になれば出力は爆発的に増えることを考えれば、普段から意識しておけば変身して効果も数倍、ほらお得!」

 

 そう言って大引さんはふふんと得意げにダブルピースしてみせる。

 つまり奏多の言っていた疑問は完全に的を射ているということになるわけだ。

 やっぱりフィジカルエリートたちは考えることが違う!

 

「なんなら相性最悪で能力が全く通じない相手だっているわけだしー。そういう時は五体で闘うしかないんだから。フフッ、石川さんもそろそろそういう相手と出くわしたりしたんじゃないー?」

 

 大引さんが口角を釣り上げてキモい笑い方をしている。

 こういう時はスルーするに限るぜ。

 

 まあ、津々木さんとか完全にそれだよな。

 今回は模擬戦だったし向こうもガチじゃなかったから接近戦に付き合ってくれたけど、遠くからひたすらドカドカ爆弾投げつけられたら今のところ完封される予感しかない。

 

 炭谷くんの音波攻撃も鉄パイプでどうにかなるのか? あれ……。

 

「大引センパイも相性悪い相手っているんですか? あまり想像できませんけど」

「いっぱいいるよ! ビームを全部打ち消してくる子とかいるしー。まあ接近戦になると一気にうろたえて勝負にならなかったからつまんなかったけどね」

 

 ああ、この人が身体仕上げまくってる理由がわかった!

 相性悪い相手を身体能力でゴリ押して殴り勝つためである。

 

「まあ、ルミナスリーグにいる人たちみたいに高レベルで実力が拮抗している場合は気休め程度にしかならない技術かもしれないねー」

「確かに中継だと能力なしで殴り合ってるのそうそう見ないですね」

 

 ルミナスリーグの中継はよくテレビでやっているが、その中で魔法少女たちはいかにも派手で高威力の魔法を撃ち合っている。

 

 正直言うと、いまわたしたち1年生がしている闘いはそれこそ子供の遊びレベルにすぎないのだろう。

 

「あ、そういえば石川さんはどこか部活入ったー?」

「えっ」

「今日から部活の勧誘してたよね?」

 

 突然思い出したように聞かれ、はっとする。

 

 ……スローライフ研究会に入ったとか言ったらこの人キレないよね?

 まじめにやれとか言って殴りかかってきたらどうしようかな……。

 

 卒業式に殴り合いをすることは確定しているが、一応今のところはよさげな関係を築きつつあるのでここで雰囲気が悪くなるのは避けたい。

 

“はぁ、アナタなんでこの女に対してはそういうふうに考えられるのかしら。やっぱこいつのこと好きなんじゃない?”

(だからそうじゃないって! 寮では平穏に生活したいだけだって!)

“なんでもいいけど、こいつなんだかんだ柚子のこと全肯定してるからしれっと言えば勝手にその深謀遠慮(しんぼうえんりょ)を考察してくれるんじゃない?”

(言うほどそこまでか……? うーん……それっぽい理由用意しとくか……)

 

 生活にメリハリをつけてオンオフをしっかりするためにあえてスローライフ研究会に入りました。あえてね! みたいな?

 

 ……これだけだと突っ込まれそうだな。

 それなら別にそこじゃなくても良くない? とか突っ込まれそう。

 くそ、まだ理論武装する時間がいる!

 

 ゆえにとりあえずわたしは露骨に話題をそらすことにした。

 

「そ、そういえばセンパイは部活入ってないんですか?」

「私ー? 1年の時に魔道決闘部入ってたけどやめちゃった。なんか私がいるとぎすぎすするからやめろって」

「ほらやっぱ大引センパイって性格悪いんすよ」

「石川さんひどいー! そんなことないもん!」

 

 冗談めかして言うと、大引さんは普通にぷんすこして心外というふうな顔をした。

 これは顔面ストレートの仕返しである。

 

 でもそうやって自分の性格を顧み始めているあたり、だんだん性格のヤバさはマシになっているのか……?

 前は性格ブスを罵ってもノーダメだったしな。

 

 ま、やめた理由は聞かなくてもわかる。

 どうせ全方位に喧嘩売りすぎて顰蹙(ひんしゅく)買ったんだろうなあ。

 

 そこまで考えて、奏多に言われたことを思い出す。

 

『なんか1年の時に相部屋だった3年をボコボコにして退学に追い込んだとか聞いたわよ。ヤバすぎない?』

 

 大引さんに関する噂である。

 又聞きをそのまま100%信じるのも危険だが、大引さんは1年生のころから既に3年生を倒せるくらいに強かったってことだよな……。

 

 下級生にしばかれて平静を保てる中学生はそうは多くない。

 心が折れてしまうことだってあるだろう。 

 

 良くも悪くも、試合の勝敗で生徒の価値が可視化されるこの学校は、思っていたよりよほど厳しい環境なのかもしれない。

 

 

 

 

 次の日の昼。

 わたしはぼっちで昼ご飯を食べていた。

 

 どうせひとりなら気分転換もありかなと思い、今日は購買で菓子パンとジュースを買い前庭のテーブルのひとつをひとりで占領している。

 

 いつもの食堂もいいんだけど、たまにはこういう適当な飯も学生っぽくて結構いいんだよな。

 

 ちなみに菓子パンはお菓子にカテゴライズされるため、普通にお金を払って買わなければならない。

 自由に食べられるのはあくまで食堂で提供される食事のみである。

 

 奏多は今日も野球部の勧誘に出くわすのを警戒しているらしく「食堂で出待ちしてるかもしれないから今日はひとりで食べるわ!」とか言いながらどっか行った。

 

 とりあえず勧誘期間さえ乗り切ればゴリゴリ勧誘されることはなくなりそうだし、「1週間がんばって逃げ切れ!」とスマホのメッセージアプリでエールを送っておく。秒でスタンプが返ってきた。

 

 陽菜乃はといえば、今日は津々木さんグループと一緒にご飯を食べに行くことにしたらしい。

 わたしを気にするように教室を出ていく際にこっちをちらちら見ていたが、そんな気を遣わなくてもいいのにねえ。

 

 なんか何かをやたら確認したそうな顔だったのは少し気になるが……。

 

 津々木さん、西織さん、雲母さん、陽菜乃にあと今日は雛内さんも一緒のようだ。

 いろんな人と仲がいいのはいいことである。

 

 

 

 

 その日の授業後。

 どうせなら研究会に顔出してみるかと、ひとりで部室に向かっている時のことだった。

 

 ポケットでスマホが鳴った。

 奏多からである。なになに。

 

 確認して、わたしは思わず足を止めた。

 

【ねえ】

【ひなのんが魔道決闘部の入部試験にいるんだけど】

【ゆずこ何か知ってる?】

 

 ……は?

 

 

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