【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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こんなわけわからんヤツにインパクトで勝てるか

 寮に荷物を置いて、オリエンテーションのために再び城へ戻る。

 

 女子中学生の歩幅とはいえ、往復40分もかかるのダルすぎるなぁ。

 変身して飛べばあっという間なんだけど。

 

 ちなみに公道で変身して飛ぶのは道交法違反なので絶対にNG。

 だから逆に学校の敷地内なら構わないはず。

 しかも魔法少女しかいない学校だし、気にする人なんて誰もいないだろう。

 

「移動するために変身とかしたら駄目なんですかね」

「んー、してる子もいるけどあまりオススメしないかなー。そういうところで楽すると後が大変だと思うよー」

「楽すると足腰鍛えられないとかそういう系です?」

「なんていうのかなー。同級生にもいるけど……そうやって楽する子は()()()()と思うんだよね。たぶん」

 

 寮を出発する間際に大引さんになんとなく聞くと、そんな答えが返ってきた。

 最初に楽することを覚えるとそれが癖になるってことかもしれない。

 

 心当たりもある。

 なにかしら1度手を抜くとだんだんとそれが普通になる。そして後々本気を出そうとしても気づけばその感覚が思い出せなくなる。

 

 仮にもこの学校で魔法少女としてやっていくのだから、わたしだってプロを目指したい気持ちはある。

 本当にできるかどうか知らないけど、わたしを1年でライジングフォームに至らせるという大引さんの言葉にほんのわずか心を動かされた自覚もなくはない。

 

 こんな金が有り余ってそうな豪華な私学に通わせて貰ったわけで、お父さんとお母さんのためにも良い成績を出せるように頑張らねばという気持ちもあるが、わたしはわたしなりに納得して入学したのだ。

 

 だから最初に、わたしは毎日ちゃんと徒歩で学校に通うことを決めた。

 

 ついさっき歩いてきた石畳の道を行く。

 デカい敷地の中心にある古城はどこからでも見えるほど大きいので、戻る時は道に迷うこともないからさっきよりは楽だ。

 

 エントランス前の前庭に着いてみれば、芝生とバラの花壇の合間にいくつも設置されているテーブルセットで友達と駄弁っている生徒の姿がちらほら見えた。

 

 庭の中心にある白煉瓦で作られた大きな噴水は断続的にざあざあと水を吐いている。

 見上げれば、青白い瓦で装飾された三角屋根が連なって積み重なり、青空に向けていくつもの尖塔が聳え立っていた。

 いったいどれほどの期間と回数増築を繰り返せばこうなるのかと圧倒される。

 

 そうだ、あとで長岡さんに聞いてみよう。話聞かせてって約束したし。

 

 腕時計を確認すれば、まだオリエンテーションまでは30分くらい時間があった。

 ついさっき糸原先生に貰った書類に挟んであった校内の地図には、しっかりと教室の位置までの道順が赤いマーカーで示されていた。

 

 教室のある位置には1-Aと書かれている。わたしはA組だった。

 

 マーカーの線は何度も曲がって、時には塔らしき所をぐるりと上っていたりする。なぞっていると小学校の時に男子が作っていたやたら複雑なあみだくじを思い出す。

 

『こんなの見ながらでも迷いそうじゃない』

「まあなんとかなるでしょ」

 

 

 

 

 普通に迷った!

 

 エントランス正面の脇に事務所がある先の大階段を登り、通路を何度も曲がりさらに小さな螺旋階段を登って広大な丘が見渡せる渡り廊下を進み、石造りの背の高い廊下をきょろきょろしながら歩く。

 

 渡り廊下までは合ってた気がするんだけどなあ。わかるのはたぶんここが4階ってことだけだ。

 ちょうど一緒の教室を目指してる子がいればよかったんだけど会わなかったしな……。

 

 というか人とすれ違わないって時点で完全に迷ってる!

 

「あっ、あそこの奥になんかそれっぽい扉あるよシャリン」

『ええ? あれトイレじゃない? 扉の上のマークがそれっぽいじゃない』

 

 言われて見れば、見慣れたピクトサインが扉の上に取り付けられている。扉もふたつあるし男子トイレと女子トイレか。

 そういえばお城のトイレってどうなってるんだろうな。ちょっと気になる。覗いてみるか。

 

『そういうことしてるから迷うんじゃない? 綾華のこと言えないわよアナタ』

 

 ごめんて。どうせ迷ってるからついでだよついで。

 

 女子トイレに入れば、意外にも中はとても綺麗に整っていた。

 もう少し古びた感じを想像してたけど、植物の柄が入った壁の白いタイルはピカピカに磨かれていて、奥には金色の取っ手が付いた白木のドアが並んでいる。

 

 ふと、手前の手洗い場、白磁の手水鉢の上に取り付けられた鏡で自分の姿を確認した。

 

 鏡の向こう側では、黒髪黒目の中学生の小娘がじっとこちらを見ている。

 ブラウスに紺色のジャンパースカートの制服、襟元には1年生を示す赤いリボン。

 いつも通り左右をおさげにして、白いふわふわしたヘアゴムでくくっている。

 卒業式の後に千紗ちゃんが選んでプレゼントしてくれたものだった。

 

 ポーズを取ってみたり、顔と視線を動かして目線を変えてみたり。

 いくらか試してからぴしゃりと両頬を叩いて、にっこりと笑顔、にやりと歯列を見せて笑い、最後にきりっとした表情を作る。

 中学デビューは最初が肝心だからな。自己紹介でいかにカマすかが大事だ。

 

「よし、いける! わたしは超面白い中学生の石川柚子! そう……能力は鉄パイプを出しまくること! 後は、えーと、足場工事ならわたしに任せろ! 的な?」

「あんたなにしてるの?」

「ヘァ!?」

 

 明らかにシャリンじゃない声がかけられて思わずびくりとしてしまった。

 鏡の向こう側に怪訝そうにこちらを覗いている女が見える。いつの間に?

 

『そいつさっきからいたじゃない』

(さっきっていつ)

『アナタが変なポーズ取り始めたあたりから』

(言いなさいよそれは!)

『そっとしておいてあげたのよ。夢中で楽しそうだったし』

 

 右肩のシャリンはピュイピュイと笑っている。お前覚えてろよ。

 

 わたしは気まずさを感じながらゆっくりと振り向く。腰下まである超ロングヘアの女が、むっとしたように口を結んで威圧的な顔でわたしを眺めていた。赤いリボン。同級生か。

 

「……もしかして今の聞いてた?」

「ええ、早くも自己紹介ありがとう。超面白い中学生の石川柚子」

「あー! あー!」

 

 思わず耳をふさぐ。自分でやったこととは言え、マジで恥ずかしくなってきた。

 前世が成人男性だろうが、わたしにだって女子中学生並みの羞恥心はある。

 

『自己紹介の準備なんて別に見られたっていいじゃない』

(こういうのって本番より練習の方が見られるの恥ずかしいもんでしょ)

『そういうもの?』

(そういうもんだよ)

 

 本番は見られるのが分かっているが、練習は見られることを想定してない。

 それに練習はこっそりやる方がカッコイイ。見られたものは仕方ないが。

 

「私は東雲(しののめ)紫《むらさき》よ。クラスは1年A組。あんたは?」

「あっ、わたしもA組。よろしくね」

「ふうん。せいぜい私のいい練習相手になってね。ま、()()()の私とあんたが決闘しても練習にすらならないかもしれないけど」

「特待生?」

 

 わたしの疑問を東雲さんは無視して、隣の手水鉢の前にずいと並ぶと薄いパープルのポーチを開いて表情と髪型をチェックし始めた。ポーチには人気ブランドのロゴが入っていて、数万円はしそうだと見ただけでなんとなく察する。

 

 すげえ、この女……中1で入学早々メイクしてんのか。カマしすぎだろ。わたしの負けだ……。

 なんの勝負よ、変なの。なんてシャリンが脳内で囁く。こういうのはビビった方の負け。

 

「知らなくていいわ。どうせそのうち嫌でも理解するもの。……なに突っ立ってるの?」

 

 東雲さんはわたしを横目でじろりと見た。

 しかし本当に髪の毛が長い女だ。しかも枝毛も無くさらさらで、よく手入れしているのがわかる。

 この年でここまで綺麗に髪を伸ばすなら、産まれてから一度も髪を切らないくらいじゃないと難しいかもしれない。

 

「せっかくだし同じクラスなら一緒に行こうよ」

 

 普通に迷ったのであわよくば案内してほしい。

 

「嫌よ。ベタベタ馴れ合うの嫌いなの。この学校には魔法少女しかいない。私達は全員敵同士ってこと。わかったらさっさと行って」

 

 ダメでした!

 

 最後に睨み付けるようにわたしを一瞥して視線を鏡に戻すと、もう喋ることはないと言わんばかりだ。

 

 うーん厨二病なのかなこの子も。

 

 見てる分には面白いけど、初対面のオリエンテーション前からこんな刺々しいと先が思いやられる。クラスの子とは仲良くしたいんだが……。

 やっぱプロ目指してる魔法少女って血の気が多い人が多いのかなあ。

 

 東雲さんに案内してもらうのを諦めて外に出て、とりあえず来た道を戻ってみる。

 すると、アンティーク調の家具が揃っている休憩ラウンジが見えてきたあたりで、革製のソファに座って調度品や窓に貼られているステンドグラスを楽しそうにきょろきょろ眺めている見覚えのある姿が見えた。

 

「長岡さん?」

「……? あ、石川さん! ええと、どうしたの? ここ、結構教室棟から離れてるみたい、だけど……」

「迷った」

「えっ?」

「迷いました」

「そ、そうなんだ?」

 

 わたしがあからさまに目線を逸らすと、長岡さんがかすかに憐れみの目を浮かべた。泣けるぜ。

 

「えっと、そういうわけだから、すごい恥ずかしいんだけど一緒にクラスまで行ってくれるととても嬉しいです。ハイ……」

「も、もちろん! あ、でもあたしA組だから、別のクラスだったら、ちょっと道違っちゃうかもだけど……」

「それはだいじょうぶ。わたしもA組だったから」

「えっ、うそ! 一緒のクラスになれて嬉しいな……エヘヘ」

 

 長岡さんはどこかほっとしたような笑顔ではにかんで、わたしたちはお互いに同じクラスだったことを喜んだ。

 今のところ君だけがわたしのオアシスだよ。

 

 長岡さんみたいな素直な子と最初に出会えてなかったらもうこの学校を修羅の世界だと勘違いしてたね。わたしは。

 

 

 

 

「アタシは有為(うい)奏多(かなた)。能力はヒ・ミ・ツ。特技はバレエと野球で好きなことは……まあ色々あるけど今楽しみにしてるのは海釣りかしら。アタシの口調について色々言いたい人はいるだろうけど、理由を知りたければ1時間に渡って壮大に話してあげる準備があるわ。知りたい人はぜひ話しかけて頂戴。ま、アナタたちが引いてもアタシから話しかけるんですけどねぇ! ってことでみんなよろしくね☆」

 

 教室。オリエンテーションで最初に始まった自己紹介を支配したのは、その男だった。

 

 男である。

 

 前を外したブレザー越しにもわかる、中1にしては背が高くがっちりとした、彫りの深い美男子である。

 

 声変わりした低い声でオカマみたいな口調で締めくくったあとに、教卓からチュッと投げキッスを放つと、戦慄するわたしたちクラスメイトを尻目に、ランウェイを歩くかのごとく優雅に教壇を降りる。

 

 そして───わたしのすぐ後ろの席に腰を下ろした。

 

 なんだコイツ。

 

 なんだコイツ!?

 

 背中の冷や汗が止まらん。

 コイツは出席番号4番。そしてわたしは3番。

 

 つまり。

 さっきやったわたしの自己紹介なんてもうみんな覚えてないだろう。

 昨日から結構頑張って考えたのに! くそ! わたしの負けだ!

 

『アナタさっきから勝手に負けを認めすぎじゃない?』

(こんなわけわからんヤツにインパクトで勝てるか! 反則反則!)

『勝てる以前にアナタ完全に滑ってたじゃない。だいいち中学生に足場工事は任せろとか言って誰が乗ってくれるのよ。あんなボケで笑ってくれるの土建屋のおじさんだけじゃない?』

(あーあー聞こえない。マジレス禁止〜)

 

 

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