【TS】わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!   作:きなかぼちゃん

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会って話して気が合えばもうそれは友達

 ひととおりわたしたちの自己紹介は終わった。

 

 その後もだれひとり有為くんの自己紹介の衝撃を超えられなかったので、クラスで一番おもしれー奴の称号はこの後ろに座っている男に与えられることになるだろう。

 

 ちなみに東雲さんは「東雲紫。特待生。弱い奴には興味ないわ。馴れ合いも嫌い。以上」なんてテンプレ厨二病のような自己紹介をしていた。

 そういうギャグか? だが残念だな。その程度ではオカマみたいなしゃべり方には勝てない。

 

『なんでアナタが勝ち誇ってるのかしら』

 

 わたしがそれより気がかりなのは長岡さんだ。

 

 教壇に立った途端にあがってしまったらしく、自分の名前だけはなんとか言えたものの、その後は固まってしまい最後はか細い声でよろしくお願いしますと早口で言うと逃げるように自分の席に戻って俯いてしまった。

 

 今は授業の進め方や校則、日々の暮らしの注意について順番に糸原先生がプリントを片手に説明している。

 聞き取りやすいはきはきした声が教室によく響いた。

 

 床も壁も灰色の石造りの教室はこの城の例に漏れず天井が高く、細長いアーチ状の窓からは電気を付けなくても十分なほど明るい光が落ちてきていた。

 天井と壁には大小様々なアンティークランプがいくつも取り付けられていて、壁には見るからに高そうな額縁に入った油絵が飾ってある。湖の景色だったり、三つ編みの少女がベンチに座って本を読んでいる絵だったり。

 

 ちらりと横目でクラスのみんなを見渡す。

 

 小学校の時よりクラスごとの人数が少なくて、机の間隔も広い。なんだかとてつもなく広い教室にいるような気分になる。

 クラス数は1年だけでもAからJ組まであり(まさかの10クラス!)、A組は20人。

 クラスをここまで小さく分ける必要あるのかと思わなくもないけれど、少人数制のほうが生徒のサポートがしやすいだろうし、合理的ではあるのかもしれない。この学校めちゃくちゃ金持ってそうだからな。

 

 芙蓉中学校は魔法少女専門課程の学校とはいえ、他の学校と同じように普通に授業はある。

 

「校長先生からも言われたように、魔法少女としての研鑽だけでなく普段の学業もおろそかにしないように!」

 

 というのが、わたしたちA組の生徒に対する糸原先生の最初の注意だった。

 

 そろそろお腹空いてきたな、と腕時計を見るとちょうど12時を回る頃。

 窓の外で昼の鐘が鳴った。

 予定だとこの後学食案内があるんだっけか。

 

 

 

 

「ぐすっ……うう、あたし、やっぱりダメなんだ……」

「そんなことないって。自己紹介なんてみんな緊張するよ」

 

 先生たちの先導に従って学食へ向かう、他の組も合流した1年生の群れに身を任せながら、泣きそうな顔をしながらとぼとぼ歩く長岡さんをわたしは隣でひたすら慰めていた。

 

「でもっ、あたし以外の人は、みんなすごいちゃんとしてたしっ。石川さんだって、そう……。だよね、芙蓉に入る人たちなんて、きっと皆自信あって凄い人ばかりだもん。あたしがダメなだけ。リリアンもあたしなんか受かったのは、マグレだって、言ってたし」

 

 自己紹介ひとつでそこまで思い詰める必要ないと思う。

 

 といっても今の長岡さんにそんなふうに言ってもあまり意味がないこともなんとなくわかる。

 どうして受かったのかわからないのはわたしも同じだ。

 

「リリアン?」

「あ、ごめんね……あたしのパートナーの名前。今は他の人のところにいるみたいだから、ここにはいないけど……」

「えと、パートナーって普段から一緒にいないのが普通だったりするの? わたしいつもパートナーと一緒だからわかんなくてさ」

 

 わたしは右肩に留まっているシャリンにちらりと視線を移した。

 

 さっきから気になっていたけれど、他の1年生たちを見てもα族を連れ歩いている生徒が数えるほどしかいなくて想像より全然少ない。

 実体化してないだけかもしれないけど、もしかすると常に一緒にいるわたしたちがむしろ少数派だったりするのか?

 

「え、ごめん……わかんない……。あたしは月1でちょっと話すくらいだけど、他の子のことはあんまり……」

 

 長岡さんははぐらかすように弱々しく笑みを浮かべた。

 うーん、結構ひどいパートナーだな。担当の魔法少女のモチベーション下げてどうするんだと突っ込みたくなる。

 モヤモヤした気分になっているとシャリンがテレパシーで話しかけてきた。

 

『パートナーやら担当やら言うけど、みんなそんなものかしら。酷いのだと、契約するだけしてなんのフォローもなく放置してるヤツなんてざらよ。とにかく契約数だけ稼いで楽にノルマ稼ぎたがるバカはけっこういるじゃない』

(ふうん。シャリンも楽してニートになりたいならそうすればいいのに)

『本気で言ってる?』

(冗談だよ)

 

 シャリンは適当だけどそんなに無責任なことはしない。

 そうじゃなきゃこんなふうに一緒にいることはなかっただろう。

 

『……前にも言ったけど1人しか契約してない専任のα族なんて稀なのよ。だいたい新しい魔法少女のスカウトに忙しいから、いったん契約しちゃえばたまに様子見に来るとかその程度。α族は単にミスティックエナジーが欲しいだけで魔法少女を育てること自体は義務ではない。だから代わりにここみたいな人間が主催する魔法少女を育てる専門の学校やらクラブチームやらがたくさんあるわけ。この子みたいなケースは別に珍しくもなんともないじゃない』

(長岡さんのパートナーに腹立てるのはお門違いってこと?)

『そうは言ってない。でも常識を知らずに先入観だけで判断するのは危なっかしいってこと。知った上でキレてるなら別に止めないけど。ワタシは余程じゃなきゃアナタの交友にまで干渉する気ないし』

(長岡さんにシャリンのこと紹介しようと思ってたんだけど……)

『別にいいけどワタシはおせっかいなアナタと違ってこの子のために何もしないわよ。ワタシはα族として契約者である柚子のためだけにしか動かない』

(わかってるよ)

『どうだか』

(ホントだって。家族として紹介するだけだから。いつもありがと、シャリン)

『さらっと小娘がそういうこと言わないで。キモいわよ』

 

 感謝しているのにキモいと言われてしまった。やってられねえぜ。

 隣の長岡さんはわたしが話しかけない限り黙りこくったままだ。

 うーん、シャリンを紹介するにしても今じゃないよなあ。

 

 

 

 

 学食は2階の大広間にあった。

 ちょうど1階のエントランスの突き当たりにある大階段を上った先にある大扉の奥だったので、あまり迷う心配がなくてほっとする。

 白銀のテーブルクロスがかけられたラウンドテーブルとそれを囲むように4つの椅子が並べられたテーブルセットが広大なホールにずらりと設置されていた。

 ホールの中心には円状のカウンターに囲まれた広い厨房があり、遠目で白いコック帽子を被った料理人たちが忙しなく動き回っている。

 

 もはや学食じゃなくてホテルのレストランにしか見えないんだが……。

 しかも説明によると学食はタダで食べ放題である。まあものは言いようで学費の中に学食費もコミで入っているんだろうし、先払いしているだけとも言える。

 

 どちらにしろ食べなければ損なのは確かなので長岡さんと連れ立ってカウンターを見て回る。

 洋食から和食まで、カウンターの頭上に取り付けられた写真付きのメニュー看板がずらりと並んでいた。

 デジタル式なのか一定間隔で表示が変わり、目をこらせば小さい文字で成分表やカロリー表、原材料名まで網羅されている。

 本日の栄養士おすすめの献立なんていうメニューが何種類もあり、魔法少女もアスリートなのだと嫌でも自覚させられる。

 

 ただ今日は初めてなので単純に興味があるものを食べようと思った。

 学食といえばまあ最初はカレーだよな。

 

「色々あるねえ。わたしはとりあえずカレーにしようかな。長岡さんはどうする?」

「え? あ、うん……あたしも……それでいいよ」

 

 ぼんやりと頭上のメニューを見つめていた長岡さんはびくりと肩を震わせると愛想笑いをしてきた。

 入学式の時に大講堂の装飾に目を輝かせていた長岡さんを見ているので機嫌を伺うような反応は素直に悲しい。どうにか元気づけてあげたいんだけどなあ……。

 

 カレーをお盆に載せたわたしたちは窓際の空いているテーブルを見つけて隣り合って座った。

 そしてふたりして黙々とカレーを食べる。周りの子が喋っている声も当たり前のように聞こえるのに、スプーンが皿に触れるカチャカチャという音だけが異常に耳に残った。

 

 ……気まずっ! 気まずすぎ!

 何か話題を用意しなければ……あ、そうだ。話の続き聞く約束してたんだった。

 わたしはできるだけ柔らかく長岡さんに笑いかけた。

 

「ねね、長岡さんがよければオリエンテーション終わったらこのお城一緒に見て回らない? 入学式の時に聞きそびれたこの学校の歴史みたいなのも知りたいしさ」

「今日は、いい、かな……ごめんね、石川さん。無理しないで。あたしなんか、放っておいていいから……」

 

 長岡さんは辛そうにかぶりを振った。その時だった。

 

「あら、アナタたち2人? アタシも混ぜてちょうだいよ。案の定男子からハブられて困ってたのよねえ」

 

 お盆にわたしたちと同じようにカレーを載せた男。

 間違いなくクラスの全員がその名前を覚えたであろう、オカマ喋りの有為くんはわたしたちが答える間もなく長岡さんの隣、わたしの正面に座った。

 そして手を合わせて大仰にいただきますを唱えると、大量の福神漬が散らされたカレーを大口を開けて頬張り始めた。

 

「あーめっちゃ美味しい! やっぱ芙蓉の学食って有名なだけあるわね。これが楽しみでここ受験したのよねアタシ。あ、知ってるだろうけど有為奏多よ。ヨロシクね! 石川ちゃん、さっきの自己紹介気合い入ってて良かったわね。アタシああいうノリ好きよ。しかもそんな可愛いシマエナガがパートナーとかめっちゃ羨ましいわ。長岡ちゃんも緊張してたみたいだけど落ち着いた? いきなり中学生で寮生活なんて堅苦しくてダルいわよね~でもどうせすぐ慣れるわよ大丈夫大丈夫! 男子からヤバい奴扱いされてもいつも通りこんな風なアタシが言うんだから間違いないわ。普通にやってけるわよ。魔法少女目指してる奴なんて皆どっかしら変わってるんだから緊張しいくらい普通よ普通」

 

 一方的に話し続ける有為くんの勢いにわたしたちはふたりしてスプーンを口に運ぶのも忘れてぽかんとしていた。

 そして有為くんは何かに気づいたのか長岡さんのカレーに目を落とした。

 

「長岡ちゃんポークカレーにしたの? アタシも迷ったのよね~。なんかビーフの方がお得感あったからついこっちにしちゃった。明日はそれにしようかしら」

「あ、えと……あたし、辛めの方が好きだからこっちにしたの。ビーフカレーってちょっと甘かったりするから……」

「あーそれ分かるわ。ついつい選べると辛いの頼んじゃうのよね。ま、アタシはそれでよく後悔するんですけど~」

「エヘヘ、だよね……ここまでならいけるかなって思って何口か食べたらもうダメだったりするよね」

 

 アハハハと有為くんはひとりで勝手に爆笑していて、長岡さんもつられてくすりとおかしそうに笑みを浮かべていた。

 中学生同士の適当な会話がそこにあった。

 けれど、きっと今の長岡さんに必要なのは、元気づけようと気を遣うようなわたしの言葉じゃなくて。

 

(はあ、やっぱわたしってキモいのかなあ) 

 

 気づかされる。シャリンの言うとおりで、ワケ分からない大人目線で気を遣ってくる同級生とか普通に嫌だよなあ。

 

『ねえ、アナタたち。この子は見ての通り変に大人びようとして背伸びしてるくせにいつもうじうじ悩んでる上に不器用でおせっかいなバカだけど良いやつだから仲良くしてくれると嬉しいじゃない』

「ちょ、シャリン!? いきなり喋るな!?」

『事実を並べただけよクソガキ。中1の小娘がお高くとまってんじゃないじゃない』

「じゃないを繰り返すな。違う、そうじゃなくて……」

『じゃなくて、何?』

 

 シャリンは右肩からテーブルの上に飛び降りると、有無を言わせない調子でわたしの目をじっとりと見つめた。

 

 普通に友達を作りたいなら、上から目線を捨てろ。

 図星を突かれて何も反論できないわたしは恐る恐る長岡さんと有為くんを見た。

 

「えと……なんか、ごめん、その……わたし……」

 

 だめだ、なんかしどろもどろになって言葉が出てこないし、うまくふたりの顔を見れない。

 恥ずかしすぎる。自分の顔が熱を持ってひどく赤くなっているような気がする。

 

「あら、石川ちゃんさっきはあんなにキマってたのに可愛いところあるのね。そういうの好きよ!」

「えっと、石川さんのパートナーって、なんかすごいね……? 仲良さそうでいいなぁ……」

 

 ふたりは驚きながらも笑っていた。なんだか無性に叫びたくなった。

 

「あーもう! 今の忘れて! シャリンが言ったことも!」

「それ忘れるなってフリ?」

「ちっがう! どうしてそうなるわけ!」

「冗談よ。ねえ長岡ちゃん」

「あたしも忘れようと思ってもムリかも……」

 

 この先数ヶ月、わたしはこの黒歴史を思い出すたびに床を転げ回りたくなる衝動に駆られることになる。

 

 

 

 

 そして良くも悪くも打ち解けたわたしたちはカレーを食べつつ適当などうでもいい話を続けるのだった。

 

 不思議なことに中学生の子供の退屈な会話でしかないのに楽しさを感じているわたしがいることに気づく。

 落ち込んでいた長岡さんも元気になったので、改めてオリエンテーションの後に3人で城を探検することになった。

 

 みんながカレーを食べ終わる頃「あ、そうだ」と思い出したように有為くんがわたしを見た。

 

「ねえ石川ちゃん、もしかしてアナタ入試の時に上級生と闘ってなかった?」

「えっ、有為くんアレ見てたの?」

「ははーん、やっぱりアレって石川ちゃんだったのねえ。上級生に勝ってるみたいだったから普通にビックリしたわよ」

「勝ってないって。ただ大引センパイ───あ、闘った3年の先輩のことね。大引センパイに一撃入れればわたしの勝ちってルールだったから向こうが勝手に降参しただけだよ。わたしどうやって一撃入れたのかも覚えてないし」

「大引? それって……もしかして、大引静?」

「うん。もしかして知ってるの?」

 

 横で聞いていた長岡さんは聞き覚えが無いのか首を傾げた。

 有為くんは眉をひそめ、テーブルから身を乗り出してわたしに囁いた。

 

「アタシも名前しか知らないけど、プロ級でバケモンみたいに強いくせして下級生だろうが喧嘩売りまくってくるヤバイ女がいるから入学したら目を付けられないように気をつけろって話。なんか1年の時に相部屋だった3年をボコボコにして退学に追い込んだとか聞いたわよ。ヤバすぎない?」

「え、あ〜、そうだね、それは確かにヤバいね……」

 

 ごめん! もう目つけられてまーす! 何なら寮で同じ部屋だし! なんてセリフが喉まで出かかる。

 というか大引さんのヤバい女エピソードがさらに更新されて恐ろしさが深まるんだが。

 マジであの人闘う以外のコミュニケーション方法を知らないのかよ……。そりゃあんな感じになるわ。

 

「ま、とにかく気ィつけなさいよ。この学校は普通に歩いてたらいきなり決闘挑まれたっておかしくないんだから」

「へえ、よく分かってるじゃない」

「えっ」

 

 答えようとしたら、いつの間にかテーブルを横切るようにして東雲さんが不機嫌そうにわたしたちを見下ろしていた。

 そしてじろりとわたしを値踏みするように見据えた。

 

「大引静に勝った新入生がいるって噂は聞いてたけどあんただったってわけ。特待生の誰かかと思ってたから意外だったわ。ねえ、今日のオリエンテーション終わったら私と勝負しなよ。ねえ、超面白い中学生の石川柚子」

「ごめんそれめっちゃ恥ずいから擦らないでほしいんだけど」

()()()()。中学の制服着ただけで浮かれてるあんたみたいなやつがそんな強いとか信じられないし」

「だからその通りだってば。アレは大引センパイが勝手に降参しただけなんだって」

「あんたの考えなんかどうでもいいし聞いてない。噂が事実なのか嘘なのか、この目で今日確かめる。まさか逃げるとか言わないでよ?」

 

 人の話を聞けよ。この厨二病が。

 

「ごめんだけど今日は長岡さんと有為くんと予定があるんだよね。だから無理」

「は? 馬鹿? そんなビクビクしてるだけの弱そうな女とつるんでなんの得があるの?」

 

 そして睨みつけられた長岡さんの体がびくりと震えた。

 

「そっちのふざけたオカマ野郎は知らないけど、入学早々うじうじしてる奴見てるとイライラするのよ。あのさあ、あんたなんでこの学校入ったの? やる気ないならさっさとやめたら。向いてないわよ、魔法少女」

 

 瞬間、おい、と低く唸って立ちあがろうとした有為くんを手で押しとどめてわたしは東雲さんの前に立った。

 

「わたしの友達を悪く言うなよ」

「はぁ? 友達?」

「わたしのことをいくら悪く言おうが構わない。キレやすいヤツが喚いて悪口言ってようがどうでもいい。でも長岡さんをバカにするのは許さん」

「ふぅん、そんな肩入れするってことはあんたたち、入学する前からの知り合い?」

「今日初めて話したばかりだよ」

「バカじゃないの。そんな少し話したくらいで、友達、だなんて意味分からない」

 

 東雲さんは心底バカにしたように嘲笑した。こいつムカつくな。

 

 わたしはずいと一歩踏み込むと、息が吹きかかるくらい近くまで東雲さんに顔を近づけた。 

 急に距離を詰められて流石にびっくりしたのか、東雲さんは少しのけぞる。

 

 こういう威張ってるタイプって、急にこうすると案外ひるむんだよな。

 小学生のときもいじめっ子相手にやったことがある。

 

「なら東雲さんは友達の定義を答えられる? 会って話して気が合えばもうそれは友達だろ。わたしはそう思ってるよ」

「あ、あんたね、そんな屁理屈───」

「とにかくもう一度言うね。()()()()()()()()()()()()。で、長岡さんと有為くんとの約束があるから東雲さんの用事はパス。また明日にして。行こ、ふたりとも」

「そうねぇ。まったく、後味が最悪だわ」

「えっ? で、でも……」

 

 有為くんが迷いなく立ち上がると、長岡さんも戸惑いつつそれに続く。

 東雲さんを無視して食器を返しに3人で歩き始めると、後ろから声が飛んできた。

 

「ちょっと待ちなさいよ! 私は納得してないから!」

「知らない! じゃあね!」

 

 東雲さんに振り返ったわたしは、それはとても子供っぽいムッとした顔をしていた気がする。

 

『今の柚子めっちゃ面白いわ。やればできるじゃない』

 

 シャリンはなぜか上機嫌だった。

 はあ、大引さんに続いてまた面倒くさそうなやつに絡まれてしまった。

 

 

 

 

「石川さん……ごめんね、あたしのせい、だよね……」

 

 3人で教室に戻る道すがら、ぽつりと長岡さんが呟く。

 いやあ、どう見ても絡んできたあっちが悪いでしょ。

 

「ううん、全然? ああいうやつははっきり言わないと駄目だから」

「そうよ。最初にカマしとかないと勝手に見下してつけ上がるのよねぇ、ああいうイキリ野郎は。石川ちゃん今のはほんとスカッとしたわ」

「でもあの子、東雲さんって、特待生なんだよね? ってことはすごく強いんだよね? もし今ので石川さんが目を付けられたら、あたし、どうしたらいいか……」

「そんなのどうでもいいよ。それより長岡さんの悪口言われたのが嫌だったから……」

 

 わたしはそこまで言ってはっとした。

 長岡さんが目尻に涙を浮かべていたのを見てしまった。ど、どうしよう。

 

「あたしは、いいの。いじめられたり無視されたりするの、慣れてるから……。だめだね。それが嫌であたし、この学校に入ったのに……ほんとはわかってた。いじめられるのはあたしのせいだって。みんなのせいじゃなくて、あたしがいつもおどおどしてるからダメで、だからどこに行ったって変わらないんだって。東雲さんの言うとおりだよ……」

「そんなことない!」

 

 いつだって悪いのは先にぶん殴ってくる方に決まっている。

 わたしは思わず長岡さんの両肩を掴んでいた。

 驚いて目を見開く長岡さんと目が合って、はっとする。

 やりすぎた。ぱっと手を離す。

 

「ご、ごめん。えっと、それにさ、わたしは東雲さんよりはるかにヤバい奴に目を付けられてるから大丈夫だよ。なんなら一緒に住んでる」

「えっ?」

「なんでもないよ。それに友達がバカにされたら黙ってられないっての。有為くんだってそうでしょ」

「あたぼーよ。石川ちゃんが行ってなかったらアタシがブン殴ってたわ」

「マジで?」

「男女平等パンチよ。魔法少女同士の殴り合いはオッケーでしょ?」

 

 そう言うと有為くんはシャツの袖を捲ってみせた。本気か?

 

「ちょっと、引かないでよ。もちろんお互い変身してからやるわよ」

「それならいいけどノリが本気すぎてビビったわ」

 

 流石に入学初日に友達が停学になるのは御免被りたい。

 喧嘩は変身してからやれ!

 

「……友達って、ウソじゃなかったの」

「ウソじゃないよ。あ、ごめん、わたし馴れ馴れしすぎたかな……」

 

 いきなり距離を詰めすぎたかもしれないと気づく。長岡さんは慌てて顔の前で手を振った。

 

「え、ううん! 違うの。その、あたし、何年もずっと友達いなくて、だから、その、ウソついてあたしをかばってくれたのかなって、思って」

「じゃあ、長岡さんはわたしと久しぶりの友達になってくれる?」

 

 長岡さんは虚を突かれたような顔をすると、おずおずと信じられないように呟く。

 

「……い、いいの? こんな、あたしとなんかで」

「長岡さんがいいんだよ」

「ちょっと! 勝手にふたりでいい雰囲気になるのやめてくれる? アタシも仲間に入れなさいよ」

「もちろん有為くんも友達だってば」

「う、うん! あたしもふたりと友達になりたい!」

「全く、そういうのはちゃんと口で言ってくれないと困るわ」

 

 有為くんは面白くなさそうに口を尖らせた。そしてわたしと長岡さんは揃ってくすりと笑った。

 

「ところでさ、さっき長岡さんはマグレで芙蓉に受かったって言ってたけど、わたしが面接で能力を説明する時に何言ったか教えてあげようか?」

「えっ?」

「それちょっと気になるわね」

 

 わたしはふたりに目配せするとわざとらしく面接のマジメくさった口調を再現した。

 

「『わたしは鉄パイプで人を殴ることができます!』バカみたいでしょ?」

「ぷっ、アハハハハ! 鉄パイプを出す能力でやることがそれって、魔法少女じゃなくてチンピラじゃん! 石川ちゃんアナタ最高だわ」

「あ、言っとくけどわたしだって魔法少女同士の決闘以外じゃそんなことしないからね!?」

「石川ちゃんも人のこと言えないわよねえ。長岡ちゃん」

「うん、あたしもちょっとびっくりしちゃった」

 

 長岡さんもちゃんと冗談だと思ってくれたのかクスクスと笑ってくれた。

 

「でも……ありがとう。ふたりが元気づけてくれたから、あたし、やっていけるような気がする」

「その意気よ! なんで入学できたかなんてアタシたちが考えても無駄よ。適当に楽しくやりましょ」

「せっかくこんな変わった学校に通ってるんだしねえ。この城探検するだけでもどのくらいかかるやら」

「あ、あたし最初は地下から見てみたいな! こういう大きなお城ってだいたい地下牢がいっぱいあるから見て回るとすごく楽しいよ!」

 

 そう言うと長岡さんは目をきらめかせた。

 今地下牢って言ったか?

 

 わたしと有為くんは目を見合わせた。この子って結構ヤバいやつなのでは? 

 

 

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芙蓉中学校 1-A 名簿

1番  小豆畑 音  (女)

2番  荒鐘 優吾  (男)

3番  石川 柚子  (女)

4番  有為 奏多  (男)

5番  海野 深月  (女)

6番  雲母 水華  (女)

7番  弦間 宏斗  (男)

8番  紅梅 朔   (女)

9番  佐磁 多々良 (男)

10番 東雲 紫   (女)

11番 霜山 鏡子  (女)

12番 炭谷 龍馬  (男)

13番 津々木 もに子(女)

14番 長岡 陽菜乃 (女)

15番 西織 たんぽぽ(女)

16番 拝島 三十郎 (男)

17番 雛内 瑠花  (女)

18番 御立 みこ  (女)

19番 明神 樹   (女)

20番 薬師寺 明日香(女)

 

 

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