好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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意外と気が合うこともあるかもしれない

「蓮木くん何着ても似合ってたもんね〜」

「………」

 

 宣言通りまるで着せ替え人形のようにあれこれ着せられ、鼻息の荒い小宮山さんと今にも刺し殺さんばかりの視線を突き刺してくる来栖さんに見られながら、恥ずかしさのあまり顔を隠す俺という地獄の様相を描いていた服屋に別れを告げ次の目的地を目指す。

 

「くるっちゃんはあんまり服見てなかったけどよかったの?」

「私は穂花()()見れたらそれでいいから」

 

 何故か「だけ」の部分が強調されていた気がするが気にしないことにする。

 

 あのあと2人で戻ってきた時から来栖さんの視線が辛い、より一層辛い。正直生きた心地がしない。一瞬マシになったような気がしていたがすぐにこの調子なので気のせいだったのだろう。

 

「……それで、次はどこに行くの」

「色々行く!」

「色々…?」

 

 

 

 色々とはつまり、色々であった。

 話題のスイーツ、前々から見たかったアクセサリー、家族へのお土産、話題のスイーツ、たまたまやっていた古着市場、話題のスイーツ、話題のスイーツ、etc……

 なぜ一つのモールでそんなにも話題のスイーツが生まれるのか、本当に話題になっているのか気になったが、まあとにかく色々連れ回された。

 

 段々と疲弊していく俺の姿を見て愉快そうにしている来栖さんの表情が何度か見えたが、これだけ長い時間常にそんな感じだと流石に慣れた。

 

「あああぁぁぁ………」

「いやー、たくさん回ったねぇ」

 

 セリフだけ見るとそれなりに疲れていそうなものだが、本人はニッコニコでまだまだ元気が有り余っているように見える。ここまで色々連れ回されるのはいつぶりだろうか……

 

「フン……体力のない奴だな、雑魚め」

 

 そう言ってくる来栖さんも足取りが少しずつ重くなっていったのを知っているが、いちいち言う気にもなれなかった、色んな意味で。

 

「蓮木くんも何か買ってたよね、私へのプレゼント?」

「違いますが」

「誕生日プレゼント…?」

「違うって言ったよね?」

 

 まあ流石にくっついて見て回るだけというのもつまらないので、いくつか財布がすっからかんにならない程度に色々買っておいた。

 

「……流石にもう帰るよね?」

「え?帰らないよ?」

 

 内心もう帰りたいと思っているのか、確認するように確かめた来栖さんが、何を言ってるの?という風に言葉を否定され困った顔をしている。

 

「じ、じゃあ何を……」

「ふふん、私はちゃんと計画を立ててきたからね、今日の締めにはちゃんとしたのを考えてきたんだ」

「ちゃんとしたの…?」

「当ててみる〜?」 

 

 次で締め、つまり終わりなんだなということに少し安心しながら本気で悩んでいる来栖さんとそれを楽しそうに見ている小宮山さんをぼーっと眺める。

 

「分からない……晩御飯…?」

「違いまーす。蓮木くんはどう?」

「え?あー……映画とか?」

「えっ正解!さすが蓮木くんだね!」

「チッ」

 

 舌打ちしないでくれ。

 

「なんで分かったの?」

「分かったっていうか……そういえばここって一番上の階に映画館あったなあとか思い出して。昔よく行ってたから」

 

 結依がよく映画を観たいと言って家族で来ていたのを思い出す。……今でも1人でか、友達と一緒に行っているのかもしれないが。一切誘われなくなったあたりに時間の流れというか、距離感を感じて少し寂しくなる。

 

「そういうわけで映画行こ、ね?」

「まあいいけど……誰かと映画見に行くのってそんなに意味あるかな」

「あるでしょ!」

 

 特段見たくもない映画を一時間以上席に座って黙って見続ける……そういう趣味があるわけでもないし。そう思って呟くと勢いよく小宮山さんから返事が帰ってきた。

 

「一緒に同じもの見るっていうのがいいんでしょ?」

「いや……上映中に話さないし、せいぜいただ近くに座って黙って同じ画面眺めてるだけじゃない?」

「そ、そんなことない。見終わった後に感想言い合えるし……」

「それ映画じゃなくても良くない?」

「私も同意、時間取られるの好きじゃないし」

 

 突然横から来栖さんの同意が飛んでくる。それを聞いた小宮山さんが「くるっちゃんまで……」と衝撃を受けて項垂れたかと思えば、うめき声のようなものを上げ出した。

 

「う、ううぅぅ……」

「あ、泣かせた、サイテー」

「えっ俺なの?今のは同意したのがトドメなんじゃ…」

「ほら早く泣き止ませろよクズ男〜」

 

 語気つよ……なんかふざけた口調だけど。

 なんか押し付けられた気もするが放っておくこともできないので恐る恐る声をかける。

 

「あー、あのほら、泣かないで。俺が悪かったから……映画みよう?どんなのが見たい?」

「らぶらぶあまあまちゅっちゅなやつ…」

「らぶらぶあまあまちゅっちゅ……」

「蓮木くんと隣で一緒に見ていい感じの雰囲気になりたい……」

「間に私が挟まるから無理だよ」

「なんなんだよもう」

 

 疲れる、とても疲れる。

 小宮山さんには悪いけど思惑が安直すぎるし、俺はその手の作品は特に好きじゃない。というかそんなに都合よくやってるものだろうか、らぶらぶあまあまちゅっちゅな映画。

 

「ぐすん……いいよもう……自分だけが見たい映画を他人に押し付ける方が間違ってるもんね…」

「あー……」

「えーと…」

 

 その通り過ぎて2人とも何も言葉が出てこなかった。

 

「……映画、とりあえず行ってみて何やってるか探してみようか。そういう恋愛もの———」

「らぶらぶあまあまちゅっちゅ」

「………らぶらぶあまあまちゅっちゅなやつ以外にもきっと見たいって思えるの見つかるって」

「そうだよ、席の間には私が挟まるし」

 

 それは勝手にしててくれ。

 

「分かった。ごめんね2人とも」

「別に謝る必要ないよ」

「むしろこいつが謝るべき」

「俺なんかした…?」

「存在してるじゃん」

「oh……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人揃って静かにシアターを後にする。

 出入り口を抜け、エスカレーターを降りながらも沈黙は続く。

 

 くるっちゃんも蓮木くんも、何とも言い難い表情を浮かべながら口を開かない。私も何も言えない状態なので同じようなものなんだけど。

 

 結局私の見たかったような話はやっておらず、適当に時間の近かった映画を見ることになってしまった。到底らぶらぶあまあまちゅっちゅとはかけ離れた映画で。

 正直に言ってしまうと退屈だった、話が難しいし、登場人物がやたら多いし名前は覚えにくいし、画面は派手で目がチカチカしてしまった。

 

 多分後ろの2人も同じ気持ちなんだろうと思う。

 自分から締めに映画を!なんて誘ったのに、こんなイマイチな気分で終わりを迎えるのは結構……かなり残念。

 

「あーっ、と……もう帰ろうと思うんだけど、2人ともいいかな…?」

「…あ、了解」

「……いいよ」

 

 とても上の空、すごく上の空、一体何を考えているんだろう2人は。

 私は映画を見るまでは完全に楽しんでいた分なんか反動がすごい、謝った方がいいのかなこれ。

 

「……あの、なんかごめ———」

「最後のあのシーンどういう意味だと思う?」

「……え?」

 

 急に蓮木くんが口を開いた。

 

「あのシーンって……え?」

「あれはやっぱり作中で語られてた旧文明の様子じゃない?」

「来栖さんもそう思う?けど主人公がその時代にいるのはおかしくない?生い立ち自体ははっきりしてるんだし」

「そもそも同一人物じゃなくて似てるだけの別人なんじゃ」

「あ、なるほど……」

「…………えっえっ、え?」

 

 なんか語り出した、なんか語り出した。

 最後のあのシーンってなに、正直全然話が頭に入ってこなくて何も分からなかったんだけど、えっなに2人がこんなにちゃんと言葉を交わしてるの初めて見たんだけど。

 

「もしかしなくてもだいぶSFだよねあれ」

「むしろSFがメインテーマなんじゃないの?穂花はどう思う?」

「なんで2人仲良くなってるの!!?」

「え?いや感想を言い合ってるだけだけど…」

「色々考えさせられる映画だったから……映像も派手で面白かったし」

 

 まさか……意気投合…?

 あの映画全然理解できなかったの、私だけ……?

 

「あんなファンタジーな作風でロボットに乗り込み始めるの、なんか歪だけど意外とすんなり受け入れられたよなあ」

「初っ端から衝撃的な話で突っ走ってたけど、いい感じに緩急のついた話でメリハリがあったのがよかった」

「わかる……」

 

 何もわからない、何もついていけない。

 え、と………え?2人ともそんなに穏便に話ができたの?そもそも話ができたの?特にくるっちゃん。

 

「続きが気になるよなあ……続きあんのかなそもそも」

「あの終わり方は完全にやるつもりでしょ」

「出来るほど売れたらいいけどなあ」

「まあ日本じゃ人気でなさそう」

 

 衝撃だった。

 2人が楽しんでいることもそうだし、2人が楽しんだ映画を私が全く楽しめなかったこともそうだし……くるっちゃんが蓮木くんとちゃんと話していることにも驚いた。ついでにくるっちゃんがこういう映画が好きだったことにも驚いた。

 

「……穂花、ずっと口開いてるけど」

「あ?ああおえうおえう」

「閉じてない閉じてない」

 

 手を顎に置いて、驚きすぎて開いた口を無理やり閉じる。

 

「正直ラストより中盤の展開の方が——」

「なんだ、話が分かるじゃん。あそこは———」

 

 な、なんだろう、この隔絶された感じ。すごく寂しいというか、悲しいというか。

 あれ、私たち同じ映画見たよね?なんで私はこんなに話に入れない?こんなに会話が盛り上がってるのに私だけ乗れないんだけど?

 

「小宮山さんは?どう思った?」

「えっあっ、面白かったよ!!!!」

「声でか」

 

 そんなに面白くなかったとか言える雰囲気じゃない。というかここまで来ると私の感性がズレていることを疑わざるを得ない。いや好みは人それぞれというのは分かるんだけど…

 

「……まあ」

 

 2人が仲良くなれたならよかったのかなあ………

 ……んでもやっぱざみじいっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

 小宮山さんとの別れ際、何故か凄く切ない顔をしていた彼女にその理由を聞こうとしたが、せっせと帰って行ってしまったため結局聞けなかった。

 

「………」

「………」

 

 そしてまさか途中まで来栖さんと帰り道が同じということが発覚し、映画での話題も尽きて沈黙が訪れる。

 何もなければ向こうも罵詈雑言を浴びせてくるかと少し警戒したが、ついさっきまで語り合っていたせいか特に何も言ってくる様子なかった。

 

 微妙に人の少ない時間帯、電車の揺れに身体を左右に振られながら、わざわざ距離を取るまでもないと付かず離れずの距離にいる。

 

「……あのさ」

 

 急に話しかけられてめちゃくちゃビクッとした。

 

「………そんなにビビることないでしょ」

「いや……ビビる」

「……それもそうか」

 

 今日出会い頭に命を危険を感じさせてきたことを思い出したのか、不満げな表情から普通に戻る来栖さん。

 

「今日は……勝手についてきてごめん。邪魔だったよね」

「そん…………………なことは、ない」

「ごめん」

 

 邪魔だったかと言われて肯定するか否定するか迷いすぎた。

 

「私昔からこうでさ。野蛮で醜くて……性根って変わらないもんで、穂花に優しくされるたびに惨めになる」

「………それは」

「甘えてるだけなんだよ、あの子に。それが分かってるくせに………」

「………」

 

 たかが同じ映画を楽しんだだけで、こうも大っぴらに言ってくるものだろうか。来栖さんがどう思ったのかは分からないが……

 

「……俺も、自分のことはどうしようもないやつだって思ってるよ」

「……同情?」

「違う。……小宮山さんが俺のこと好きな理由、正直全然分からないし隠してくるし、小宮山さん自体がよく分かんないなってなる」

 

 根本として、人のことを理解しようとしない。

 上っ面……相手の表情だけ見て今まで生きてきた。いつからの歪みかは分からない、でもそれは俺の明確な欠点で。

 

「本当によく分からない人で………そんな俺のダメなところも全部ひっくるめて、ひっくり返して好きだって言ってくるんだよ、小宮山さん」

「………」

「多分、そっちもそうなんだろうなって思ってるんだけど……違う?」

 

 俺のその問いに、自嘲気味に笑って首を横に張る来栖さん。

 

「違わない。確かに私もおんなじだよ」

 

 ここにいる二人とも、小宮山さんの眩しさに当てられているだけだ。等しく光を向けてくれる彼女の明るさに甘えてしまっているだけだ。

 

「………あ」

 

 アナウンスが鳴る。

 彼女が降りると言っていた駅だ、もうすぐ着く。

 

 俺に対しての当たりが強すぎる理由を聞こうと思ったが、まあ大方想像はつくので別のことを伝えることにした。

 

「……俺はどうしようもない奴だけどさ、こんな俺に正面から向き合ってくれる小宮山さんの気持ちは裏切りたくない、そう思ってる」

 

 多分、小宮山さんを心配してのことなんだろう。今日強引にやってきたのだって俺のことを警戒して……とかだろうか。

 誰だって自分の友達が誰かをあそこまで熱心に好き好き言っていれば心配になるってものだろう。

 

 ホームにつく、扉が開く。

 

「信用ないだろうけど、今の言葉は嘘じゃない」

 

 電車を降りようとする彼女にそう言うと、こちらを睨みつけながら……口元は笑っていて。

 

「……ムカつくやつ!」

 

 そう言って電車を降りて行った。

 

 

 

「……難しいな、人付き合いって」

 

 最後の言葉の意味がよく分からず、さっきまでと同じように電車に揺られながら、相手がいなくなったのをいいことに、目的地に着くまで俺は頭を抱え続けていた。

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