好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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距離感が

 

 人をよく観察するようにしてみた。

 容姿で人を判断するわけではないけれど、見た目だってちゃんとその人を構成する要素の一つではある。今までの俺は何故かそれを見ようとしてこなかった。

 

 きっと理由の一つに過ぎない。

 俺が普通の人と違ってどこかがズレている、その理由の一つでしか。

 

「………何ジロジロ見てんの」

「気にしないで、続けて?」

「目障りだって言ってるんだけど」

「もう全然いないものとして扱ってくれていいから」

「………」

 

 というわけで人間観察の練習をしている、妹で。

 

「……ねえ本当に何?見られるとゾワゾワするんだけど」

「ふぅん……」

 

 まともに記憶に残っている妹の姿はもっと幼い……小学生くらいの姿で。当然と言えば当然なんだけど、随分と見た目が変わった。

 

「お前って……髪型ツインテールじゃなかった?」

「はあ?いつの話それ……5年とかそれくらい前だよ」

「そんなに」

 

 今は頭の左側で短くまとめている、名前は……なんだっけ。

 人の顔をちゃんと見てこなかったのに髪型の知識なんてあるわけねーか、ははっ。

 

「はあ…」

「な、なんで急に落ち込んだの」

「お前の兄貴は人間的に欠けてるものが多すぎてな……」

「反応しづらいこと言わないでよ」

 

 結衣は身だしなみによく気を遣う。お小遣いでよく服も買ってくるし、母にメイクを教えてもらっていたか。

 まあ多分今時の女の子というやつなのだろう、兄とは違って「らしい」と言える。人並みにおしゃれに気を遣って人並みに遊んで……

 

「……何、好きな人でも出来たの」

「出来たらよかったんだけどなあ」

「じゃあなんでそんな……まあいいか」

「ん?」

 

 話を切り上げてまたスマホの画面を見つめる結依。

 

「……何してんの?」

「友達と話してんの」

「……男子?」

「はぁ!?」

「うぉう」

 

 冗談を言ったら過剰に反応された。どうしたそんなに驚いて目を泳がせて。

 

「ちがっ、はぁ!?私の画面見たの!?」

「見てないが。俺のこの角度からお前の画面見えると思うか?」

「め、目に反射したスマホの画面を…」

「無理だろ」

 

 あまりにも苦しい論を展開してくる結依、本当にどうしたそんなに慌てて。兄に見せられないやり取りでもしていたのか。

 

「違うからね、全然そういうのじゃないから。ただの友達だから」

「お、おう。よく分からんけどごめん」

「ほんと!メーワクだからそういう勘違い!」

 

 いや男友達なら勘違いじゃないのでは……

 

「てっ、ていうか何、私が男友達と話してニヤついちゃうようなやつだと思ってたの?」

「いや何も言ってない……」

「彼氏なんてちっとも欲しくないし!!自分が友達すら出来ないからって私にそうやってちょっかいかけてくるのやめてよね!!」

「いや、だから俺は…」

「ほんと良いメーワク!お節介!キモい!過干渉!!」

「言い過ぎだろ」

 

 言うだけ言って自分の部屋に逃げ込んでしまった。

 

「えぇ……?」

 

 俺本当にただ気になって言っただけなんだけど……え、過干渉なのこれ?メッセージしてる相手の性別聞くことって過干渉なの?そんな……

 

「適切な距離感……難しい……」

 

 俺、そういうのもダメなのだろうか。

 いやでも……聞いただけだぞ?えぇ?

 

「……気になる」

 

 あそこまで慌てられたら逆に気になるというものだろう、とはいえ相手がどんな奴かってことにまで突っ込むのはそれこそ過干渉だろうし。

 

「……そうか」

 

 俺、妹の友達のこととか何も知らないんだ。両親が今はいないんだからその分あいつの面倒見てやらなきゃいけないのに、ただ生活しているだけで……

 

「あいつがしっかりしてるからって、それに甘えて…いやでも……」

 

 そもそも人の考えてることが……いや男ならまだともかく、女の考えていることがよくわからない。まあ俺は男だから当たり前なんだが……

 ……そのよくわからないのも、妹とちゃんとしたコミュニケーションしてこなかった俺の落ち度なんだろうが。

 

 

 ……しかし、まあ。

 あの慌てようって、完全にあれだよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはもう完全に好きピだねぇ!」

「好き……え?」

「好きピープル、好きな人って意味」

 

 小宮山さんがそう教えてくれる、が。

 申し訳ないことに何も理解できない。

 

「えっと……え?なんでピープル?好きな人で良くないか?」

「え?えーっと、それは……その……てっ、ていうか蓮木くん妹いたんだねぇ!!」

「あれ、言ってなかったっけ」

「蓮木くんが言ったこと私が忘れると思う?」

「あ、ああうん、ごめん」

 

 ……なんで謝ったんだろうか、俺。

 

「妹さんなんて名前なの?」

「ゆ、結依です」

「わあかわいい名前!何歳?」

「え?えーっと……もうすぐ14?」

「わあ思春期!かわいいなあっ!」

 

 怖い。

 最近なりを潜めていた小宮山さんの食いつきの良さが久々に発揮されている。眼光が光っている、かなり恐怖を感じる。

 ……来栖さんに比べたらマシだな。

 

「あっ蓮木くん何頼む?」

「あぁ、俺ドリンクだけでいいから」

「えっ!私とカップルストローを…!?そ、そんな……恥ずかしいよ…」

「ほんとかぁ……?」

 

 本当に恥ずかしいと思ってる奴はいきなりそんな発想にならないと思うが……思うというか、ならないだろう、普通。

 

「じゃあ私とパフェ半分こする?」

「いや、いいよ……」

「なんで?私は恥ずかしくないよ?」

「もし来栖さんに見られたらと思うと味覚がなくなりそうで」

「ああ……じゃあ仕方ないか〜」

 

 悲しい信頼が彼女にはある。

 

「じゃあくるっちゃんに絶対バレない場所でならいいんだ……へぇ」

「変なこと考えないでくれよな」

「冗談だって。………で、なんの話だったっけ」

「…………待って今思い出す」

 

 小宮山さんと話すとなんかこう……ペースが持っていかれる。えぇと……そうだ結依だ。

 

「妹がメッセージしてた相手がどう考えても好きピだったって話」

「蓮木くんは私の好きピだよ?」

「まあ俺としては別にあいつが誰を好きになろうがあいつの自由だからいいんだが……こう、妹との距離感というか」

 

 なにぶん反抗期でかなり俺に棘を刺してくるものだから、下手に触ろうとすると今より関係悪化しそうで。

 

「まあその、小宮山さんなら妹の気持ちがよくわかるかなあ、と」

「やだ…私を頼りにしてくれてる……もしかして私のこと、好き?」

「小宮山さんって、俺の妹くらいの歳の時ってどうだった?」

「………怒っちゃうぞ」

「いやだって……」

 

 割とこっちは真剣な相談をしにきてるので、いつものノリで話されてそれに反応してると絶対話が進まないから……

 

「うぅん……まあ当然のこととして、私と結依ちゃんは違うからね。世の女の子みんな私みたいに一人の男の子に一途で真っ直ぐストレートの特急列車ってわけじゃないからさ」

「あぁうん、そうですね」

「そして私に兄はいなかったので、多分全然当てにならないんだけど」

 

 どうしよう相談する相手間違えた気がしてきた。

 いやでも他に相談する相手いないしな……

 

「まあ言っちゃえばほっとくのが一番だね」

「んがっ」

「だって向こう思春期で反抗期でしょ?兄だから姉だからって責任感で無理に下のに関わりに行っても拒絶されるだけだし、多分関わった方も反撃で傷を負っちゃうから」

「そう、ですか……」

 

 関わらなきゃいけないと思った矢先に真っ向から否定してくる言葉を言われて、なんというかこう………軽い絶望のようなものを覚えた。

 

「まあそれでも面倒見なきゃって思うのが兄心なのかな?妹思いで素敵だね……好きだよ…」

「どうも……」

 

 褒められるに値することを今まで妹にしてやれた覚えがない。ので今更こうやって奮起してるわけだが………それでするべき事が下手に触れないこと、と。

 

「というか、そんなに仲悪いの?蓮木くんはこんなにも素敵なのに」

「いや……そんなことはないよ。晩御飯だって俺がよく作ってるし…」

「はっ、蓮木くんの手作り料理!!?」

「……お店の迷惑だから座っててくれる?」

「……はい」

 

 なんだ、妹の話をしたからか分からないけど妙にテンションが高いな。……いつもこんな感じだったっけ?そんな気もしてきた。

 

「まあその……去年ちょっとギスギスしたことはあったけど、あれは全面的に俺が悪くって……そこにはお互いに口に出さないことにしてるから」

「え、何があったの?」

「ええと………」

 

 話すか迷う、特に小宮山さんには。

 

「……秘密ってことで」

「え〜?謎の多い男路線で行くの?私はそっちでもいいけど」

「そんなミステリアスな存在は目指してない」

 

 適当に誤魔化した。

 もう過ぎた話だし、小宮山さんには関係のないことだ。

 

「常に近寄んなって警戒されてるわけでもないし……まあ当たりはキツイけど、普通に話すし……というか、話さざるを得ないというか」

「ん?」

「うち、家に親いなくてさ」

「えっっっっっっ」

「え?」

 

 何だその反応。

 

「さ、誘ってる……?」

「え?何が?」

「そ、そんな急に……やだなあ蓮木くんったら……」

 

 え、なんでそんな顔赤らめてんの?え?

 俺なんか言った?家に親いないって言っただけなんだけど……

 

「親が祖父母の家にずっと行っててたまにしか帰ってこないから。普段の生活が妹と二人っきりってだけの話なんだけど…」

「………あ、え?あっふぅん?なるほどね?」

「…あの、本当にどうしたの?」

「え?何が?いや全然何にもないけど?何の話?え?」

 

 なんだろう、これ。

 女子ってみんなこんな風に取り乱すのか?結依でも似たようなの見たんだけど……

 

「は、ははは……ふぅ、びっくりした」

「………でまあ、話戻すけど」

「ご、ごめんね?急に取り乱して」

「別に大丈夫、うん」

 

 ふぅ、と一息ついて話を続ける。

 

「距離置こうにも家に親いないから家事も一緒にやらなきゃで……向こうもそんな、俺という存在全てを許さない感じではないんだよな、多分」

「くるっちゃんみたいな?」

「あの人は〜………流石に存在を全否定するフェーズは過ぎたと思いたい……」

 

 もし妹からあそこまでの敵意と殺意をむき出しにされたら、流石の俺でも落ち込むと思う。………赤の他人からもそんなのを向けられる覚えはないはずなんだけども。

 

「……俺、人をちゃんと見てないって話しただろ?普段の生活から二人っきりだし、妹ともしっかり向き合わなきゃなって思ってたんだけど……どうしたらいいのかなあ、と」

「…やっぱり真面目だよね、蓮木くん」

「それは褒めてる?」

「私が蓮木くんを貶すと思う?」

 

 何を言っているの?と言わんばかりの表情でそう言ってくる。

 正直全肯定ばかりされるのもあまり良くない気はするので気になるところがあるのなら指摘してほしい……

 

「まあ別に、聞いてる限りじゃ深刻なほどの溝があるってわけでもないし今までと変わらず普段通り接してあげればいいんじゃないかな」

「そう…か」

「……ちゃんと見てあげようとしてるなら、きっとそのうちそれも伝わるよ」

 

 そう言って優しく微笑みかけてくる小宮山さん。

 変わらなくてはと、そう焦っていた心が自然と落ち着くような気がした。

 

「……小宮山さん、毛先巻いた?」

「えっっ!!しゅきっっ」

「あ、やっぱり巻いてたんだ」

 

 きっと変われているから、それでいいのかもしれない。

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