好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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熱意があればいいってもんじゃない

 

「夏休みって言うけどよ〜」

「おう」

「特に何もしねえよな」

「そうだな」

「海とか行くか?」

「男二人で…?」

「いいだろ別に」

 

 街中のゲームセンター。光田に暇だからと誘われて暇じゃないからと断ったが、あり得ないくらいのスタンプ爆撃を喰らったので来てあげた。

 あと暇だった。

 

「去年の夏休みなんて女の子3人とトリプルブッキングしそうになったんだけどなあ、俺も老いたもんだ」

「………えっ、何お前中3の受験期にそんなことしてたの…?」

「俺がまともに勉強するようやつに見えてたのお前?」

「あー………俺が悪かった」

「分かればいいんだ」

 

 なんで謝ったんだろう俺。

 ゾンビが次々に現れそれを銃で撃退する、二人でプレイできる大型筐体を無心でやりながら、そんな会話をしていた。

 

「まあよく考えたら俺も人のこと言えないか……」

「えなに、お前も受験勉強サボって社交勉強してたの?」

「なんかいい風に言ってんじゃねえよ。あっ被弾した」

「へへっよそ見してるから……あっっ」

「お疲れ様です」

 

 体力が無くなって1P、つまり光田がゲームオーバーし、プレイしているのが俺だけになった。

 

「はーなんだこいつ余裕綽々みたいなツラしやがって」

「余裕ですが?」

「うおおああああ堕ちろぉぉお!!」

「ぐおおおやめろおおぉあっあっあ」

 

 肩を掴まれガンガン揺らされ、無事に体力が0になった。

 ざけんなこいつ。

 

「あのさあ……お前さあ……」

「死ぬ時ゃ一緒だぜ…?」

「土の中から手ぇ伸ばして足引っ張って言ってるんだよそれは。お前がゾンビだよ」

「感染させてやるぜぇ」

「撃ち殺すか」

 

 プレイを妨害されて普通に殺意が湧いたが、まあ抑えて筐体から出る。

 

「いやあ、女の子のハートを撃ち抜くのは得意なんだけどなあ」

「うわ、冗談でもそのセリフ吐けるの普通に引く」

「女の子は引かずに俺に寄ってくるんだけどなあ」

「黙っててくんない?」

 

 あまりそういう発言を繰り返されると一緒にいるのが嫌になってきそうなのでやめて欲しい、切実に。

 

「てかお前金ないんじゃなかった?ゲーセンなんて……」

「お婆ちゃんから小遣いもらったんで、散財?」

「バッカだなお前、ほんとバカ」

「俺の金どう使おうが俺の自由だろおぉん?」

 

 まあ……ゲーセンで使おうってだけまだマシなのか…?こいつのやりそうなことから考えたら、友達とゲームで遊ぶってだけなら凄く健全に思えてくる。

 

「本当は競馬したかったんだけどなあ」

 

 こいつマジで……

 

「……馬券は20歳になってからだぞ」

「えっ18からじゃねーの?」

「どっちにしろ買えねえだろバカ」

「詳しいなお前、買ってたりする?」

「買えねえつってんじゃん」

 

 こいつこのまま行くと誰かのヒモにでもなるんじゃないか?いやどこまで落ちぶれようと俺の知ったことじゃないけども……

 

「………」

「え、なに?俺の顔になんかついてる?」

「クズの自覚あるなら真っ当になる努力しような……」

「急に何の心配…!?」

 

 こいつをこのまま社会に送り出してしまったら刃傷沙汰になる気がしてくる。ただの妄想に過ぎないと言えばそうなんだけど……

 何で俺そんなやつとゲームセンターに……?

 

「ま、まあいいや……次何する?」

「道徳……」

「道徳のゲームって何…?」

「倫理……」

「俺に何をさせようとしてるの…?」

 

 まあ俺も真人間とは言えないから……一緒に頑張ろうな。

 

「なんだその生暖かい目は」

「同情」

「一体俺がどう見えてるんだお前には」

 

 しかしまあ。

 ゲームセンターとは言っても遊ぶものは沢山あるけれど、沢山ありすぎて逆にどれがやりたいのか自分でもわからない。

 来る機会もまあほとんどなかったし。

 

「なんか居た堪れなくなってきた……クレーンゲームでもしようぜ」

「まあここやたらと沢山あるしな、やるにせよやらないにせよ回ってみるか」

 

 コーナーの入り口あたりはぬいぐるみとかお菓子とかそういうのが置いてあるが、奥に進むにつれてフィギュアなどの景品の台が多くなってきた。正直見てる限りじゃ取れる気がしない。

 

「俺やってみよっかな」

「やめておけ。その小遣いはお婆ちゃんへのプレゼントに取っておけ」

「えっゲーセンに来た意味全否定?」

「クレーンゲームって闇深いから……」

 

 そんな簡単に取れるなら商売が成り立たない。俺は基本こういうのは信用しないことにしている。

 過去に友人にさりげなく「お前ってつまんねえな」と言われ帰ってしばらく寝込んでいたが、ここで自分を曲げてしまっては本当に負けだと思っている。

 

「音ゲーでもしに行こう、俺はそっちの方がいい」

「おっいいぜ。国歌あるかなあ」

「……カラオケ行ったら最初に国歌歌い始めるタイプ?」

「おっ正解、何で分かった?」

「いや……勘」

 

 まあ別に何歌うかは自由だけども。

 思えば曲なんて意識して聞かないから曲名なんか何も覚えてないんだけど………まあ最悪俺も国歌で乗り切ろう。

 

 そう思ってクレーンゲームのコーナーを突っ切っていたら。

 

 

「チッ、アーム緩すぎふざけんな…」

「えっ」

「あ?」

「お?なに?」

 

 見覚えのある顔が台の前で悪態をついており。

 すぐに目を逸らしてその場を去ろうとした。

 

「おい何まずいものを見たみたいな反応してんの」

「いや何も見てないけど?肩掴まないでもらえる?」

「知り合いと会ったのにあいさつひとつ無し?」

「………確かに」

 

 何も言わずにさようならは確かに礼節に欠けていた。動揺のあまり一般常識が吹っ飛んでしまっていた。

 

「え、えーと……こんにちは来栖さん」

「おまっ、なにこのっ、へへっ。来栖お前こんなの好きなの?へっへへ」

「あっバカお前」

 

 俺が来栖さんに恫喝されあいさつを強要されている間に、光田がさっきまで動いていた台の前に行って指を差して笑い始めた。死にたいのかお前。

 

「………あ?」

 

 ダメだガチギレしてる。

 

「いや別にいいよ?いいんだけどな?キャラと合わねえからさ、へっへへ。意外すぎて笑いが………ふっへへっ」

「………」

 

 あ、無言で光田に近づいて行った。

 

「南無三…」

 

 煽ってない俺でも殺意を向けられていたのに、あれだけ煽ったらもう死ぬしかないね……

 良いやつだった気がする……かもしれない。

 

「……あれ」

 

 悲鳴を上げる間も無く息の根を止められたのかと思ったが、目を開いて見てみると光田を無視してさっきまで動かしていた台に戻っていた。

 冷静になって見てみたが、なんともまあ可愛らしいクマのぬいぐるみだった。

 

「おまっ、お前テディベアを真剣な表情でっへへへ」

「集中したいから黙っててくれる?」

「あっはい、すんません」

 

 トボトボと帰ってきた光田と、真剣な表情でクレーンゲームをしている来栖さんを交互に見て疑問を浮かべたあと、とりあえず光田を小突いておいた。

 

「えっなに」

「人の趣味笑うの普通に最低だからな」

「あっはい、すんません…」

 

 しかしまあ、余程あのぬいぐるみが欲しいのだろうか。

 まさかキレるよりあっちの方を優先するとは……以前小宮山さんから可愛いものが好きとは聞いたが、そこまでとは意外だった。

 

「……あ、また落とした」

「ジロジロ見てるのもよくないって。さっさと国歌やりに行こう」

「お、おう」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あいつまだやってね?」

「………えっ一回も成功してないの?ほんとに?」

 

 音ゲーをしにいきお互いにド下手なのを知って、最低難易度でどんぐりの背比べレベルのスコア争いをしたあともう帰ろうかと戻ってみれば、まだくまのぬいぐるみと格闘している来栖さんがいた。

 

「すげえ、この距離から見てもブチギレてんの伝わってくる。あれ何プレイ目だ?」

「いつからやってるのか知らないけど……え?あっ、え?うそ、え?」

「おっどうしたどした?」

「来栖さんあれ…涙目になって……?」

「ウッソだろお前、流石にそれはな……」

 

 お互いに言葉を失う。

 ぬいぐるみひとつにあそこまで心血を注ぐのもそうだし、近寄りがたいオーラを出しているかと思えばぬいぐるみを落とすたびに涙目になっている。

 

「……俺止めてくる」

「マジかよお前……今のあの状態の来栖に近づいたら殺されるぞ!」

「あんな顔しながら少なくとも一時間以上台の前で居座ってる知り合いいたら誰だって止めるだろ」

「それは……そうかもだけど」

 

 

 光田の静止を気にも止めず来栖さんの方へ向かう。

 俺に気づいたようで一瞬目線をこちらに向けたが、無視してまたクレーンをじっと見つめている。

 

「………殺意を向けないで聞いて欲しいんだけど」

「……話しかける言葉としてそれが最適だと思ったの?」

「ごめん我ながらどうかと思った」

 

 映画を観た後少し会話したあの時より、それ以前の殺意と敵意をむき出しにしてくる来栖さんの印象が強すぎるせいなんだけども。

 

「……いつからこれやってる?」

「もう三時間くらいかな」

「oh……そ、それってそんなに欲しいの?」

「欲しい」

「だよねうん、そりゃそうだよね」

 

 欲しくなけりゃやらないよなそりゃあ。我ながら意味のない質問をしてしまっている。

 

「今までそんなことしなかったくせに、何をとち狂ったのかメーカーがクレーンゲーム限定品を出してきて………私今までゲーセンとかろくに行ったことなかったのに、おかげさまでこんなことに……」

「あ〜…」

 

 道理で下手なわけ……いや、にしても常軌を逸してないか?俺も何度かやったことあるけどここまでは………

 余程台の設定が渋いのだろうか。

 

「まあその、一応止めるけどさ。多分もうフリマアプリとかで買った方が……」

「お前は私に知らない誰かの手垢のついたテディベアを抱いて寝ろと言うのか…?」

「あっはい、ごめんなさい」

「あと次こそ行ける気がする」

 

 ああ、こういうのやらせちゃダメなタイプの人だな……光田とは別の意味でギャンブルとかさせられない。いや人の自由だけども。

 

「……昔から好きなシリーズだから。一種類も欠かすことなく自分で店に並んで買ってきたから……今ここで折れたら、私は命より大切な何かを失ってしまう」

「命より大切なものはないと思うけど…」

「だからここで折れるわけにはいかないし……」

 

 カバンからやたらとパンパンに膨らんだがま口財布が台の上にドンと勢いよく置かれる。

 

「もう引き下がれない」

「………それは、使った金額的に?」

「お小遣いも3ヶ月分前借りして私はここに来ている」

「覚悟が決まりすぎてるし苦戦するのを分かって戦いに臨んでいる」

 

 ……コレクション欲という意味なら気持ちは理解できるし、それだけこのぬいぐるみが好きで、何としても手に入れたいのだろう。

 

「……でもごめん、すっげえ下手だ」

「くっ………!!」

 

 こうやって会話しながらやってるプレイもまたかすりもせず失敗した。

 

「アーム当たってないもん、左右か奥行き絶対ズレてるもん」

「3回に1回は中心を捉えられるし……打率3割だし…」

 

 何で野球?

 

「これは野球じゃなくてクレーンゲームなんだよ来栖さん。中心に捉えるのは飛んでくるボールじゃなくて動かない人形なんだよ」

「動くかもしれないじゃん…!!」

「それはホラーだよ」

 

 どうしようこれ、そりゃあ無理だよねっていうくらい下手なんだけど。多分アームも何回かお金入れるまで弱いやつだし、強くなったところでアームが人形を捉えていないから無理なんだ。

 

「分かってる……分かってるんだよ!私にクレーンゲームの才能がないってことは!!」

「あまた外してる」

「遠近感分かんないんだから仕方ないじゃん!!」

 

 そういう問題なの?これ。

 

「こんなんじゃ穂花に顔向けできない……」

「なんで今小宮山さん出てきた?」

 

 困った、見たことない来栖さんを見ている驚きとあまりにもクレーンゲームが下手すぎる驚きが相殺されて一周回って平静だ俺。

 

 台の前で哀しく慟哭している来栖さんを見てどうしようか迷っていると、肩にやたらと馴れ馴れしく手をポン、と置かれた。

 

 

「……光田?」

「この俺に、任せとけ」

「お前さっき盛大に笑ってたの覚えとけよ」

「スーッ………まあそれは水に流してやるよ」

 

 流すのはお前じゃない。

 

「この俺は過去にお菓子が山積みになっているクレーンで一度だけ大稼ぎし、一緒に来ていた友人に配って崇め奉られた過去を持つ!」

「どうせ偶然だろ」

「イキんな」

「スーッ………今、少しだけ日頃の行いを悔いてる」

 

 天を仰いでないでもっと悔い改めてくれ。

 

「まあその後調子に乗ってクレーンゲームを極めようとして無駄に金と時間を使って挫折した過去も持つが…」

「ダメじゃん」

「なんで自分語りしだしたんだ、キモい」

「でもお前よりはクレーンゲーム上手いから来栖ゥ!!」

「くっ……殺す」

「やめてね?」

 

 なんて醜い争いなんだ、そしてよくもまあ煽れるなこのバカも。

 

「というわけで代わりに……はダメか。自分で取りたがるタイプっぽいしな、アドバイスしてやるから頑張れ」

「………蓮木、こいつの言葉直接聞くの癪だから間に挟まって」

「え……えぇ?」

 

 

 

 

 何故かそこから本格的にクレーンゲームの攻略が始まった。

 

「まず真横からずっと見てても仕方ないから色々視点を動かしてって言ってくれ。そのあとは人形の重心も見極めるようにって」

「……あいよ」

 

 光田がクレーンと人形の位置関係を確認しながら俺にアドバイスを伝え、それを来栖さんに伝える。

 

「動きながらだと上手くクレーン操作できないんだけど……」

「不器用……」

「あ?」

「なんでもないっす」

 

 まあ不器用なのもあったけれど、要するにクレーンゲームのやり方を何も知らずに愚直に正面から当たり続けていたのが悪かったみたいで。

 

 少しコツを教えて何度かやるとあっという間にクレーンがちゃんとぬいぐるみを捉えるようになってきた。

 そこからは試行回数だけだった。

 

 

 程なくしてアームががっしりとぬいぐるみの胴体をがっしりと掴み、穴の上でアームを離し取り出し口からクマのぬいぐるみが姿を現した。

 

 

「……私やったよ、穂花」

 

 

 ぬいぐるみを愛おしそうに胸に抱き、小宮山さんの名を呼ぶ来栖さん。

 思わずツッコミそうになったが、余韻に浸っているみたいなのでやめた。

 

「へへっ、やったな俺たち」

「なんでお前までやり切った感出してんの?」

 

 言っては何だけど、当たり障りのないこと言って場所見てただけなんだけど……まあ俺は間に挟まってただけなんだが。

 

 まあ何にせよ、これで………

 

 

 

 チャリンと、小銭の音がした。

 

「……んっんっん?来栖さん?何でまたやってんの?」

「え?何でって?」

「いや、そのぬいぐるみもう取ったよね?」

 

 心置きなく帰れると思ったところで、来栖さんがまた100円玉を投入口に入れてプレイを再開し始めた。

 驚いて当たり前のことを聞いてしまったが、向こうは何言ってんだこいつ?って顔をしたあと納得したように口を開いた。

 

 

「あと4体は確保するから」

「………頑張れ!」

 

 

 エールを送って、俺たちはその場を後にするのだった。

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