好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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褒めればいいってわけじゃない

『私は今猛烈に嫉妬しています』

 

 朝起きてスマホを見たら通知が来ていて、見てみたらこれが小宮山さんから送られてきていた。

 

『この感情をどこに向ければいいのか分からないので蓮木くんで発散しようと思います』

 

 何故俺は嫉妬の捌け口にされるのだろうか。

 

『起きたら連絡ください』

『あっ、用事あったらまた今度でいいからね』

 

 なんか正気に戻ってるし……

 最後の一文でいつもの調子に戻っているのを見る限り、本気の嫉妬ではない……のだと思う。そもそも何に対する嫉妬なのだろうか、そしてやはり何故俺がその捌け口にされなければいけないのか。

 

「……まあ、暇かぁ」

 

 夏だからと言って何か特別なことをするわけでもなく。

 夏休みだからといって何かをしようと意気込むこともなく、ただただ無気力なだけ。無気力って言った時点でどこか気取っている気すらしてくる。

 つまらない人間なもので、一生懸命取り組みたいこととかがない。それを探すことすらしない。

 

「………」

 

 身体を起こして自室を見渡してみて思う、何もないなと。

 まあ数ヶ月前までは受験生だったし教科書とかが本棚に収まっているのは当然なんだが……

 

 いや、あの頃は勉強がやることだったのか。

 道理で今が暇なわけだ。

 

「ん……ふぅ」

 

 身体を伸ばして壁に立てかけた時計を見て今の時刻を確認する。

 10時32分、遅い。

 

 スマホを開いて小宮山さんからメッセージが来た時刻を確認する。

 7時16分、早い。

 

 そんな朝っぱらから嫉妬の炎を燃やして大丈夫なのだろうか、俺と会う頃には鎮火していないだろうか。いやむしろどちらかといえばしていて欲しい。

 

 

 

 

 

 

「起きるのおっそ〜」

「まあまあ、慎也も男の子なんだから」

「やめてくれない?その憶測でいらぬ誤解を招く言い方をするの」

「キモッ」

 

 ほら結依が軽蔑の目を向けてきた、普通に寝過ぎただけなのに。

 

「はぁ……今日出かけるけど、特に予定とかないよね母さん」

「あら、パチスロ?」

「俺のことなんだと思ってんの?」

「そりゃあ息子だけど」

 

 でしょうね。

 机の上で頬杖をつき、謎の笑みを浮かべながら冗談を飛ばしてくる母親に向かってささやかな反抗心で鋭い目を向けておく。

 

「違うよお母さん、あいつ女と遊ぶんだよ」

「まあ!こんな真っ昼間から?やることやってるのねぇ」

「ド偏見がすぎる、用事ないなら昼から行くからねもう……」

 

 結依もいらないこと言うのやめて欲しい。

 

「間違えた、女で遊ぶんだあいつ」

「まあ〜プレイボーイねぇ〜」

「母さん……………」

 

 別に帰ってきて嬉しくないわけじゃないけれど、それはそれとして鬱陶しい。ノリが鬱陶しい。

 

「……父さんは?」

「競馬場行ったわよ」

「またか……」

 

 100円の馬券を握りしめて声を上げながら競馬を見ている父の姿を思い出す。何年経っても一つも変わらない。

 

 自分の部屋に戻る前にリビングの方を振り返る。

 母親と楽しそうに会話していた妹がこちらに気づき睨みつけてくる。何見てんだこっち見んな、の意である。

 もともと気の強い方の結依だが母親がいるときはより一層、輪をかけて強気になる。流石に度を超えた暴言とかは出てこないけれど。

 

 やはり、親がいるのが嬉しいみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に用事はないと伝えると駅前に集合だと言われた。寝てたとはいえ待たせてしまっていたので、ささっと支度を済ませて急いで来たが、小宮山さんは既に着いていた。

 

「では改めて」

「はい」

「私は今猛烈に嫉妬しています」

「継続してたか」

 

 随分と根強い嫉妬のようだ、一体これから俺は何をされるんだ。

 ………というか。

 

「その……なんでそんなに嫉妬してんの?そして何で俺が呼ばれたの?」

「自分の胸に手を当ててみて考えてください」

「えっ俺?俺が悪いの?」

「そして私の胸にも手を当ててみてください」

「なにゆえ」

「まあ冗談はさておき」

 

 この人、普通なら冗談なことを本気で言ってくるので判別がつきづらい。出来れば冗談は常に封印していただきたい。

 

「昨日くるっちゃんと遊んだって聞いたよ?」

「遊ん………だ?あー、あれは光田とゲームセンターに行ったらたまたま…」

「偶然の遭遇!?それってもう運命だよねぇ!!」

「運命ってほどでは……」

 

 なんとなく察しがついたけど、嫉妬ってまさか……

 

「しかもくるっちゃんがぬいぐるみ目的にクレーンゲームしてるところに出くわしたんでしょ?超レアじゃん!それってもう運命(ディスティニー)だよねぇ!!」

「運命ってフットワーク軽いんだなあ」

 

 まあ来栖さんから昨日あったことを聞いたんだろう、自分の知らないところで知り合い2人が仲良くしていて嫉妬……ということで合ってるのか?

 

「しかもしかも!」

「まだあるんだ」

「く、くるっちゃんと一緒に、クレーンゲームで遊んだ……!?」

「遊んだかは怪しいし、光田もいたけどね?」

「偶然居合わせたくるっちゃんと一緒にクレーンゲームで遊んで、挙げ句の果てにぬいぐるみをプレゼントする……!!?」

「いや別にプレゼントはしてない、彼女は自力で成し遂げた」

「そ、そんなの……」

 

 まずい何かが爆発する、散々叫び散らしたが今両手を広げてわなわなと震えている。そこまでか、たまたま居合わせてあまりのクレーンゲームの下手さ加減につい口を出してしまったことにそこまで嫉妬の炎を燃やしてしまうのか。

 

「そんなの……仲良しじゃん……」

「……仲良し?」

「ズッ友じゃんねぇ!!」

「そこまで距離詰めてないよ??」

「いいないいな!私も2人と一緒にクレーンゲームしたかったなあ!!!」

 

 ………嫉妬って、そういう?

 

「2人ともいつそんなに仲良くなったの…」

「えっと……特に何かあったわけじゃ」

「そんなのもうソウルフレンドじゃん……」

 

 今日はまた一段と止まらないなあ……絶好調だ。

 

「やっぱり映画館の帰りからかなあ、なんか意気投合してて疎外感感じてて……」

「えっごめん」

「いいの……私が映画の見る目がないヤツだったのが悪いから…」

「いやあれはあれで人を選ぶ映画だったから……」

「じゃあ2人は趣味が似てるってことじゃん!!」

 

 くっ、手強いな……

 確かに俺もあの時は「あれ?やたらと意見が合うな」と思わなくもなかったが、普通に感想を言い合うのが楽しかったし……

 あとそれを指摘してまた来栖さんに言葉の刃を向けられるのも嫌だったので触れずにいたのもある。

 

「私の知らないところで、私抜きで仲良くなってるとさ。こう、仲間外れにされてるというか……2人を引き合わせたの私なんだよ?私抜きで仲良くなっちゃうだ?ふぅん……ってなっちゃって」

「そっ……かぁ」

 

 ショッピングモールに来栖さんが来たのは本人が強行してついて来ただけだし、ゲームセンターであったのもたまたまだけど……

 

「この疎外感をどう形容してくれようか。もうこれは嫉妬だろう嫉妬に違いない………つまり今私は嫉妬しているわけ!」

 

 熱弁された。

 

 どうしよう。

 今更ながら、これ言われた内容は結局ほぼ「他の女と仲良くしてた」だし、それを駅前で大きな声で言っていたから……

 

 かなりの修羅場に思われているのでは?そう気づいた瞬間不思議と周囲の視線が痛い、特にスマホとかで撮られたわけじゃないが急に不安になって来た。

 

「……落ち着いた?」

「ふぅ……私はずっと平静だけど?」

「あれでそうなら小宮山さんの平静は荒れ狂う嵐だよ」

「やん詩的だね、好き」

 

 よかった、いつもの小宮山さんだ、正気に戻ったらしい。

 

「それでまあ、仲良くなってるのずるいなと思って一緒に遊ぼうって誘ったんだけど……」

「……来なかったと」

「うん」

 

 ……まあ、多少話すようになったとはいえ、小宮山さんの好きな人が俺であると言う事実は変わらないわけで…

 彼女から直接聞いたわけじゃないけど、俺に憎しみを頻繁に向けてくる理由もなんとなく察せられる。

 

「まあ、俺と一緒には嫌だろうなあ」

「いや、お金がないって」

「………あ〜」

 

 あのあと結局4体揃えられたのだろうか……いけたと信じたい、あの頑張りは報われて欲しい。

 

「というわけでまあ仕方ないので、そしてせっかくなので蓮木くんとデートです、いぇい」

「………経緯の説明、長かったなあ」

「でーとっ、でーとっ」

 

 来栖さんがいたらデートではなくてただ遊びに行くとかそれだけだったのだろうか。俺自身がデートと思えているかというと、まあ。

 

「………あっ、もしかしてくるっちゃんいないから実質初めてのデート…?」

「……まあ、二人だけでいる時自体は割とあったけど」

「ど、どうしようもっとオシャレして来ればよかった、あわわわ…」

「………」

 

 急に慌て始めた。

 改めて彼女の服装に目をやる。涼しそうな白色のシャツに生地の薄いロングスカート、動きやすさ重視……なのだろうか。

 

「せっかくの二人っきりのデートなのに……」

「……別に、それでも十分かわいいよ」

「……………へ?」

 

 固まって、ギギギと錆びた機械のようにぎこちない動きをしながらこちらを向いて、困惑の声。

 

「えっえっ、ちょっと待ってね蓮木くん」

「はい」

「それはつまり……告白ですか?」

「いいえ違います」

「えっ違う………じゃあさっきのはどういう意図で…」

「純粋にかわいいと思っただけですが」

 

 今日のファッションで困っているようだったので、とりあえず褒めてみると様子がおかしくなった。慌てふためいたかと思えばどんどん顔が真っ赤になっていく。

 

「え、熱中症…?」

「ねっチューしよう!!!?!?」

「はっ!?な、何を言ってらっしゃるの…?」

「ごめん今私冷静じゃないからお手洗いに行ってきていいかな!!!」

「ど、どうぞ…」

「それじゃ!!」

 

 走って行ってしまった。

 

「……かわいいはダメだったか?」

 

 前はこれで………

 

「……ああ、その前ってのがダメなんだな、このバカめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、落ち着いたよ多分きっと」

「その、ごめんねなんか」

 

 どう考えても取り乱してお手洗いへ駆け出させてしまったのは自分のせいなので、とりあえず謝っておく。

 

「ううん、まだ興奮冷めやまないくらいには嬉しかったからいいの」

「そんなに」

「でもあんまり私にそういうの軽々しく言っちゃダメだよ?慣れちゃって忘れてるかもだけど、蓮木くんは私の片想いの相手なんだから」

「………はい」

「かわいいとか、そんなっ、そんなこと言われちゃったら私……えへっ」

 

 どうやら彼女にとっては随分な劇薬だったらしい。

 

 ………あいつはこれで喜んでくれたから、同じ感覚で気軽に言葉をかけてしまった。もちろん本当にかわいいと思った、思ったけれど……

 そんな動機で投げかけていい言葉じゃなかった。

 

「……ん?なぁに?」

「…いや、なんでも」

 

 これを伝えるか迷って、言うのをやめた。

 小宮山さんは優しいけれど、きっとこれを伝えてしまうと暗い顔をさせてしまうと思うから。

 

 何故だか、最初に会った時より話せないことが増えていく気がする。

 距離は縮まっている、そのはずなのに。

 

「……行こっか、話長引いちゃったね」

「…ところで、どこに行くか知らないんだけど、電車乗るの?」

「んー……着いてからのお楽しみ?」

 

 

 俺の心境を知らずか、それともなんとなく察してしまったか。

 彼女は無邪気そうに笑って先を行く。

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