好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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なんでもシェアすればいいってわけじゃない

「さて着きました、ここはどこでしょうか!」

 

 駅を出てこちらを振り返り、両手を広げてそう聞いてくる。

 普通に電車を使って来たので駅名は知っているけど……まあここはどういう町なんでしょうか、とか聞いて来ているのだろう。

 

「知らないけども」

「フフッ、私も知らない」

「なんで?」

「知らない場所に来たからです!」

 

 なんで?

 

「私遊びに行く時はしっかり計画立てる派なんだけどね?」

「あーまあ、この前のショッピングモールとかそんな感じだったかな」

「思い返せば男の子がモール回っても何も楽しくなくない?と思い至りまして……」

「そんなことは……映画は面白かったよ?」

「それは!モールじゃなくて映画だよね!」

「はい」

 

 まあ買い物を楽しめるタチでもないし、ショッピングモールって基本ショッピングする場所だしなあ。

 

「かといって男の子も楽しめる予定の立て方とかよく分かんないし……まあ私も男の子と遊びに行くことなんてなかったからなんだけど……」

「別にそこまで気にしなくても……」

「はい、というわけで気にするのを辞めました!」

「は、はあ」

 

 開き直りのような諦めのような、そんなものを感じ取りつつ返事をする。すると小宮山さんは堂々と……凛とした表情で誇らしげにこう言い放った。

 

「本日全くのノープランとなっております!急で考えてる時間なかったし!」

「………この駅で降りたのは?」

「なんか駅名がカッコよかったから!」

 

 つまり彼女の言うノープランとは「全く知らない駅で降りて適当に散策しよう」というわけである。

 なるほど確かにノープラン、というよりもうただの行き当たりばったりな気がしてくるが。

 

「まあ知らない町って言ってもさほど離れてないけど……」

「電車で30分くらいだったしね」

「というわけで、スマホで調べるの禁止。最終的に楽しかろうが楽しくなかろうがそれはそれでいい思い出だったねってことで丸く収めよう!」

 

 まあ、別に文句もないが。

 ショッピングモールの時は楽しめてないって思われたわけだよなあ……いや、そりゃあそうだろうって話なんだけども。

 小宮山さんなりに考えて……考えて?出してくれた結論なのだからそれは尊重したい。

 

「とりあえず駅を出て右に行くか左に行くか、これで決めよう」

 

 そう言って握り拳を出して来た小宮山さん。

 

「……暴力?」

「違うよッ!ジャンケンだよッ!!」

「なんだびっくりした」

「くるっちゃんじゃないんだから、そんなことするわけないじゃん」

「逆に来栖さんはするの…?」

 

 いやまあ、する………しそうではある、か…?

 俺の中の来栖さんがどういう人になっているのか自分でもわからない。

 

「とにかく行くよ、ジャンケン——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでお肉屋さんってコロッケ売ってるんだろうね」

「あー、確か………切れ端…くず肉とかを使えるから…だっけ?」

「じゃあなんであそこはカニクリームコロッケ売ってたんだろうね」

「………実はカニ売ってるんじゃない?」

「裏メニューじゃん」

 

 精肉店の前を通り無性にコロッケが食べたくなり、何故か一緒に置かれていたカニクリームコロッケに目を奪われ、二人とも熱がりながら齧っている。

 

「まあ美味しいからなんでもいっか」

「それもそうか」

 

 思考停止ではない。

 暑い、ひたすらに暑い。

 

 考えてみれば全然夏、真夏。燦然と輝く太陽が考えなしに、目的地もなく外をほっつき歩いている俺たちの体力をどんどん奪っていく。こういう日に限って憎たらしいほど青い空。

 

「……涼めるところも特にないもんね」

「まあ団地団地って家ばっかりだし……住宅街抜けないとそういうのはないだろうな」

「くっ……なんで普通のコロッケじゃなくてカニコロ買っちゃったんだ私たち…!!」

「仕方ない、カニコロだから。抗えないよ」

 

 スマホで調べるの禁止、とルールを作ってしまった弊害がここに来て出ている、いつまで経っても住宅街を抜けられない。一瞬でも涼めた精肉店でカニコロを買い暑さに拍車をかけてしまう始末。

 

「流石に熱中症とか心配になってくるな……」

「ねっチューしよう!?」

「小宮山さんの頭も冷やさないといけないかもしれない」

「私の恋に燃える心は太陽より熱いけど?」

 

 そう言って向けてくる視線も熱い、元気いっぱいそうで何よりだ。

 でもあれだよな、これ完全に猛暑日だよな、日を間違えてるよな。帽子でも被ってこればよかったか……

 

「……小宮山さん日焼けとか大丈夫?」

「だいじょばない……急いで家出て来たから……」

「ノープランの弊害……」

 

 このままだと計画立てずに楽しもうという趣旨のお出かけのはずが、前もって計画を立てるのって大事なんだな、という再確認をして終わりそうだ。

 

「あっ!そういえば私日傘持ってた」

「入れっぱなしだったのか……」

「まともに使った記憶ないけどここで役に立つなんて……」

 

 「あ〜涼しい〜」と傘を開いた瞬間に気持ちの良さそうな声をあげる小宮山さん。と、目が合う。

 

「………よいしょ」

「……なんで日傘降ろしたの?」

「いやだって……悪いかなって」

 

 気まずい。

 

「いやいや暑いでしょ、差しなって」

「私だけそんな……私だけ日傘差すなんて」

「仕方ないでしょ俺持ってないんだから」

「だったら蓮木くんが使ってよほら!」

「なんでそうなる」

 

 他人の日傘奪ってまで涼みたくはない。

 

「分かった!相合傘しよう!」

「入らないよ」

「やってみなきゃ分かんないじゃん」

「分かるよちっさいもの、見ればわかるもの。絶対狭いもの」

「じゃあこのまま私たち二人とも熱中症でダウンだね!」

 

 なぜ共倒れする前提なんですか?日傘にそこまで命を預けるつもりはないんだけども………

 

「ほらほら、かもんかもん」

「はぁ……分かりましたよっと」

 

 抵抗を諦め、日傘を差して手招きしてくる小宮山さんの隣へと行く。

 

「………」

「………」

 

 なるほど、確かに直射日光を防げるのはいい、これは涼しい。

 しかし狭い、暑い、暑苦しい。明らかに人2人が満足して入れる大きさじゃなかったが、実際入ってみると思っていたよりさらに小さい。

 

「……ん?」

 

 なんか涼しくなったなと思って見てみれば、小宮山さんがこちらの方へ日傘を傾けていた。自分は顔以外日傘からはみ出しているくらい傾けて。

 

「いやいや流石にそれは……」

「相合傘はッ」

「……はい?」

「相合い傘は!濡れてる方が惚れているらしいので!私は蓮木くんに惚れているのでこれでいいのです!!」

「よくないから……」

 

 急によく分からない理論を展開されたが、そもそも降り注いでいるのは雨ではなく紫外線なので話が違う。

 

「てかやっぱり狭いよ……一周回って暑苦しいし俺やっぱり……小宮山さんなんか顔赤くない?」

「へっ?」

「やっぱり熱中症じゃ……」

「ねぇチュ———」

「それはもういいから」

「はい……」

 

 それはそうとやっぱり顔が赤い。日傘を差しているのにも関わらず……こんな気温だから冗談で茶化すには少し不安だ。

 

「ほんとにそれ大丈、夫…………なんで顔逸らすの?」

「いやその………近い…」

「近……え?」

 

 落ち着かない様子で、それでもこちらから顔を背けて続けながら話す小宮山さん。

 

「顔近くて恥ずかしいから……」

「………自分から相合傘しよって言っておいて?」

「仕方ないじゃん日傘小さかったんだから!!」

「だから言ったんだけどね!狭いって言ったんだけどね!」

 

 涼もうと言って恥ずかしがって赤くなってちゃ本末転倒だよ本当に。

 

「私の好きな人って自覚ちゃんと持ってよね!」

「そっちが入れって……まあもういいや、暑いし疲れた」

 

 ただでさえ暑いのにこんなやりとりして体力を無駄に消費することはない。とりあえず日傘は一人で使ってもらうことにした。

 

「とりあえずさっさと住宅街を抜けよう、このままだと日傘の相合傘に失敗してカニコロ食べた思い出しか残らない」

「賛成……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜……生き返るぅ」

「コンビニあって良かった」

「ほんとにね」

 

 大通りに出てすぐに見つけたコンビニで飲み物とアイスを買って食べて涼む。

 

「やっぱり事前のリサーチって大事だね……下手したら本当に倒れてたかも」

「まあ俺はそれなりに楽しかったけど」

「そうなの?」

 

 不思議そうに聞いてくる小宮山さんを横目に棒アイスから口を離して言葉を考える。

 

「それこそさっきとか、コンビニ見つけた時のあの感情……ほんとに砂漠のオアシス見つけたみたいな、そういうアレだったし」

「あ〜……言われてみれば確かに波乱ではあるのかなぁ」

 

 行き当たりばったり感そのものが普段なかなかないことで、大したことはしていないけど楽しいと思えている。

 

「小宮山さんは?ヘロヘロになってるけど……楽しい?」

「蓮木くんと二人っきりな時点で楽しい!」

「そっかぁ」

「ふふっ……まあ私は正直もうダメかもってなってたんだけど……蓮木くんが楽しいって言ってくれたからそれだけでお腹いっぱいかな」

「……そっか」

 

 結局結論が俺ありきな気がするけれど……まあ小宮山さんこういう人だしなあ。

 

「……それで、このあとどうする?」

 

 体力との兼ね合いもあるので本当に夏バテになってしまう前に戻らなきゃとも思っているが……流石に何もしてなさすぎだろうか。

 

「実はさっき流石に懲りて、この周りの地図見ちゃったんだよね」

「……行きたいとこあった?」

「うん。そこだけ行きたいなって」

「了解、付き合うよ」

 

 食べ終わったゴミをコンビニのゴミ箱へ捨てる。

 

「それで、行きたいところって?」

「ん、あそこ!」

 

 そう言って勢いよく小宮山さんが指をさしたのは、山。

 

「……山」

「いぇす、やま」

「山登り…?」

「いぇすいぇす」

 

 散々暑がったのに…!?山に登る…!?

 

「えっと……確かに夏は山か海かってのはよく議題に上がるけど……何も今日じゃなくたって」

「ああいや山登りがしたいんじゃなくって、上にある神社に行きたいんだよね」

「神社?」

 

 指をさした方向を改めて見ると、確かに何か神社……神社のようなものが見え……見……

 

「あっごめんあっちの山だった」

「………」

 

 なるほど、確かに上の方に神社が見える。山登りと言うほど高い山でもないけれど……行くのか、あそこ。

 流石に少し億劫に感じて、神社のある方を向いている小宮山さんの横顔を見てみる。

 

「………ん?なに?」

「……もうちょっと涼しくなったらにしない?暑いし」

「あー、それもそっか」

 

 随分とまあ、楽しみにしている表情だったから。

 あんなところにある神社に一体何を期待しているのかは知らないけれど、でもきっと小宮山さんのことだからと。

 

 自分も少しだけ、胸に期待を抱いておくことにする。

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