好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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自己主張を挟めばいいってわけじゃない

 

 始まりは彼女の俺への異常な執着だったけど。

 それでも確かに、小宮山さんとの出会いは俺が前に進むために……人として変わるための契機になった。彼女にそんなつもりはなくても、俺は俺のおかしなところを知ることができて。

 

「……与えてもらってばかり」

 

 俺は何一つとして彼女の気持ちに応えられていなくて、彼女に手を引かれるがままになっているだけで。

 何も返せている気がしない。

 

 彼女が俺を好きという気持ちに甘んじているだけ。

 

「……どうすればいいんだろなあ」

 

 今返したいからって、彼女と付き合うというのは彼女にとっても自分にとっても不誠実だ。それだけはできない。

 

「……」

 

 こんな俺と一緒にいて、彼女は何が楽しいんだろうか。

 正直言って、一緒にいるうちに俺のおかしさ、つまらなさに幻滅して離れていくだろうという考えも思っていた。でもそんな考えを吹き飛ばすくらい彼女は愚直に、ひたすらまっすぐに俺の方を見続けて。

 

 俺の色んなことを知っても、彼女はそれでもと言い続ける。

 

「……何ぼーっとしてんの?」

「………」

 

 何かを返したい。気づかせてもらった分も、変えてもらった分も。

 

「お〜い」

「………」

「死んでるの〜?」

 

 思えば俺は、小宮山さんのことをよく知らない。俺のことはついつい喋ってしまうけれど……彼女がどういう人なのかもいまいち。

 

「………うーん」

「……なんだこいつ」

 

 このままではダメだ、と思えたのも彼女のおかげだろうか。何かをしてもらうばっかりだと思えてしまう自分は、彼女のおかげでここにいるのだろうか。

 

「なあ結依」

「うわ生きてた」

「死んでないが。その……友達誘ってどこかに行くなら、どこがいいと思う?」

「何その人との関わりが少なすぎる人間みたいな質問」

「少ないんだよ言わせんな」

「悲しいやつ」

 

 人との関わりが少ないからこんなになったのか、こんなだから人との関わりが少ないのかは定かじゃないが。

 

「別になんでもいいんじゃないの。今ならそりゃあ夏祭りがあるけどさ」

「……あっ」

「あっ……って、何?」

「それがあったか……」

「嘘でしょ……」

 

 完全に頭から抜け落ちていた、というか考えないようにしていた。そういえばあったか、夏祭り。そうか………

 

「……他何かない?」

「知らないよバカ海でも行っときなよぼっち」

「言い過ぎ」

 

 海……海は別にいいかなあ。

 

「……結依は行くの?夏祭り」

「そりゃあ行くけど……友達と」

 

 ……友達。

 それなら知り合いみんなで行った方がいいのか……

 

「………よし」

 

 行動しないと変わらない。いつも連れ回してくれてるんだから、一度くらいこっちから何かしないと変わらない。

 

「結依、頼みがあるんだけどさ」

「……何?」

「教えて欲しいことがあるんだ、色々」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「息荒い、怖い」

「ごめ、んねっ、ふぅーっ、ふぅーっ」

「怖いってば」

「私のこの胸の高鳴りがくるっちゃんに分かる!?」

「分かんないよ……」

 

 さっきから鼓動がうるさい、動悸が激しすぎて死ぬ。もう死んでるんじゃないかって思うけど動悸は激しいから多分生きてる、何考えてんだろ私。

 

「だだだってね!?」

「うん」

「はっ、蓮木くんから夏祭り行こうって誘っ……誘ってくれたんだよ!!?」

「聞いたよもう……」

 

 お互いに浴衣姿で夏祭りの会場の入り口で待っている。

 そのうち誘おうとは思ってたんだけど、まさか蓮木くんの方から誘ってくれるとは微塵も思ってなくて……

 お誘いのメッセージを読んで内容を理解するのに30秒、5秒間絶叫して、内容を改めて見て5分間ベッドの上で悶絶して、返事の文章を考えるのに15分、送信ボタンを押すのに3分を要した。

 

「わ、私変なところないかな!?髪の毛とか跳ねてない!?鼓動は跳ね上がってるんだけど!」

「ないよ、かわいいしよく似合ってるよ、うん」

「ありがと!くるっちゃんも似合ってるよ!!」

「一旦落ち着きなって……」

「そ、そうだよね落ち着かなきゃだよねっ。ふっ、ふううぅうぅぅぅっっっ」

「ダメだこりゃ」

 

 だ、ダメだ緊張と興奮に殺される。

 

「今からそんな調子じゃ、実際に会ったらほんとに死んじゃうんじゃないの」

「蓮木くんを視界に収めて絶命できるなら本望……」

「こわ」

 

 みんなで夏祭り行こうって提案してくれてよかった、これでもし二人っきりだったら私は多分今頃バラバラに弾け飛んでる。心のドギマギに殺されている。

 

「普段あれだけ好き好きって言ってたくせに、なんで誘われただけでそうなるかなあ……」

「私打たれ弱いから……」

「カウンターしてこない前提でパンチしてるんだ、サンドバッグみたいに思ってるんだ」

「跳ねっ返りでダウンしちゃいそ……」

 

 でも本当にどういう心境の変化なんだろう……わざわざ誘ってくるなんて。蓮木くんのことはちょっと分かってきたし…誘わなきゃ夏祭りにも行かないのかなあとか思ってたんだけど。

 

「一昨日までは平静を装えたんだけど……」

「昨日からもう無理だったんだ」

「今日も1時間も早く来ちゃうし……」

「おかげで暑いよ」

「私のこの燃え盛るハートの方が熱いよッッ」

「張り合わないで?」

 

 ハァハァ、ここへ来て30分経過……っ!

 

「あと30分……私に耐えられる……っ!?」

「何と戦ってるの」

「自分自身…っ!」

「そりゃ結構」

 

 心なしか最近くるっちゃんの言葉が素っ気ない気がする。最初の頃なんて私が蓮木くんのこと話題に出すたびに悪態ついてたのに……

 

「ふぅ……せっかく早く来ちゃったんだし、約束の時間まで二人きりで回ってたらよかったかもね」

「急に冷静になるじゃん、まあ言われてみれば確かに……」

 

 ここの夏祭り会場結構広いし……ずっと息を切らしながら胸をバクバク言わせて立ち止まるくらいなら、多少回ってた方が気も紛れたような気がする。

 

「……あ、もうすぐ着くってメッセージ来た」

「ふぅん、意外と早いんだね」

 

 まあ蓮木くん割と時間に余裕持ってくるタイプの人だか、ら………

 

「もうすぐ来る……!?はっはっはっはっ、わた、わたし心の準備ががっ」

「どうどう、落ち着いて」

「あと30分猶予があるはずじゃ…!?」

「読みが外れたね」

 

 そうだ蓮木くん割と時間に余裕持ってくるタイプの人じゃんっっ、私全然蓮木くんのこと理解してないじゃんっっ。

 

「た、助けてくるっちゃん、鼓動が私を殺しにくるっ」

「あいつに会ったら好きって言えばいいんじゃない?いつもやってるじゃん」

「この状態で好きだなんて言ったら溶けるよッッ」

「溶けるんだ……とにかく落ち着きなって」

「死ぬまで落ち着かないよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュッ」

 

 光田と一緒に待ち合わせ場所に来たら先に小宮山さんがいて……俺の顔を見た途端に倒れて来栖さんに抱き抱えられ、困惑していると来栖さんが短く一言。

 

「死んだ…」

「死んだ…!?」

 

 何故か分からないが死んだらしい。

 

「おっ、蓮木ぃ、キッスしろよキッスぅ〜」

「せめて人工呼吸って言えよ馬鹿野郎」

「ほら蘇って穂花、蓮木来たよ」

「………ヘァッ!?」

 

 凄い声出しながら蘇生したな……

 

「あっご、ごめんちょっと死んじゃってた」

「ちょっと死ぬって何」

「わあっ、二人とも甚平着てきたんだ!」

 

 俺たちの姿を見てそう楽しそうに言う小宮山さん。せっかく集まるんだからと、面倒くさがる光田に無理やり甚平を着せてきた甲斐があった。

 

「そっちも浴衣で来てるし、これで正解だったかな」

 

 結依に女子だけ浴衣で着て男子は適当な私服で着ている時の謎の気まずさについて説かれていなければ、きっと今頃俺もそうなっていただろう。ありがとう結依。

 

「じゃ早速行こ行こ!あっちになんか変なリンゴ飴があってさあ!」

「変なリンゴ飴…?」

「毒リンゴ飴!」

「ポイズン……」

 

 小気味のいい下駄の音を鳴らしながら早歩きで進んでいく小宮山さんに三人揃ってついていく。

 

「なあ、本当に俺までついてきてよかったのか?邪魔じゃない?」

「知り合いみんなで行くつもりだったし……あとお前いると男女比が丁度いいんだよ」

「あっ数合わせ?」

「うん」

「うん、じゃねーよ」

 

 人数多い方が楽しいに決まってる、多分。

 

「別にこっちにまで気を遣わなくてよかったのに」

「そういうんじゃないから……」

 

 来栖さんの言葉にそうではないと否定する。別に遠慮してとかそういうのでは一切なく……

 

「じゃあ俺と2人っきりで回るか?来栖」

「死んでもごめんだね、それだったら帰るか殴る」

「殴られんの?俺」

「あぁいや……殴って帰る」

「殴られんの?俺」

 

 来栖さんと光田は……二人っきりにしたら光田がボコボコにされる可能性があるので会わせるのは良くなかったかもしれないけれど。

 でも光田と小宮山さんと来栖さんの三人は互いに面識があるから……完全に知らない人と一緒になって気まずい、という状況は回避できるはず。

 

「あっ金魚掬いあるよ?みんなどう?」

「俺は……いいや。静かに息絶えてたのがトラウマで……」

「水槽割っちゃってビチビチ跳ねてたのが忘れなくて」

「トイレに流したのしこたま怒られて」

「わあ、みんな哀しい別れを経験している……」

 

 光田、お前は普通にバカだろ。トイレに流すって……

 

「………」

 

 こうやって回ると、色々思い出す。

 そうやって思い出そうとする頭をぶんぶんと振って、今のこの時間に集中しようとする。ノイズになるその記憶を押し留める。

 

「あっ……射的は?全員銃の形したものにトラウマあったりしないよね?」

「あったらこの国の治安を疑わざるを得なくなるな。……やる?」

 

 光田と来栖さんの方を見て確認を取って、二人ともどっちでも、という反応だったのでやることにする。

 こういう別にどっちでもいいという反応を鵜呑みにして放っておくと、結局時間経っても何もしないみたいな事態になりかねない。迷うくらいならやるべきだ。

 

 ……と、結依が言っていた。

 

 お金を払って、コルク銃に弾を詰めて狙いをつける。一人だけ入りきれなくて、小宮山さんが後ろでじっと見ている。

 

「……あっ」

 

 すんなり当たってしまった。

 箱入りのキャラメル……

 

「来栖?なんでこっちに向けてんの?」

「仕留めるなら今しかないし」

「俺今日何もしてないよ…??」

 

 小宮山さんにキャラメルを手渡す。

 

「あげるよ」

「えっっっっ………ありがとう、飾るね」

「食べてください」

「家宝にします」

「食べてください」

「未来永劫子孫に受け継がせます」

「食べてください」

 

 俺たちの夏祭りは、始まったばかり。

 

「うぇーい外してやんの〜」

「くっ………撃ち殺す」

「私のハートは蓮木くんに撃ち抜かれました!」

「穂花、誰も聞いてない」

 

 賑やかだなあ……

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