好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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意を決すればいいと思ってる

「……え?そんだけ?」

 

 1から10まで全てを話したわけではないが、要点をかい摘んで話したリアクションがこれである。

 

「何もしてないって言ってるだろ……それで翌日から何故か小宮山さんが俺に好きと連呼するようになったってわけ」

「何があったんだよ」

「俺が知りたいんだよ…」

 

 振った振られたの話が広まったのは、小宮山さんが誰かしらに言ったか、好きと連呼しているのと、それを鬱陶しそうにしている小宮山さんと俺のことが広まったからか……

 

「うぅむ、まあ振り方も悪かったと言えば悪かったが、この場合小宮山がイカれてるパターンか…?」

「疑問系じゃなくてもどっかおかしいのは既知の事実だろ」

「お前があの子の精神をぶっ壊したパターンだってあんだろ?」

「実質初対面なんだぞ?それで告白されたらそりゃあ振るし…」

「いや俺なら付き合うだけ付き合って…」

「聞きたくない」

 

 光田、クズと聞いたことはあった覚えはあるがそれを包み隠そうともしないのはなかなかだ。付き合うだけ付き合ってどうするつもりだろうか、もはや言い方が既に相手を傷つける気満々だ。

 

「いやでもまあ、どっちもどっちにも思えるな」

「……食うの早いな、もう食べ終わったの?」

「メシがうめえ!!」

「黙っててくんない?」

 

 ……まあしかし、周囲からすれば俺もこいつと同類扱いなわけだ。嫌すぎる。静かで平穏すぎた俺の高校生活はどこに行ったんだ。少し前まで輪に入れてないなーとか思ってたら居場所すら無くなりそうになっている。

 

「まあクズ男の先輩としてアドバイスしておくと」

「勝手に後輩にしないでくんない?」

「さっさと決着はつけたほうがいい。互いのためにな」

「……クズがまともなこと言ってもクズな言葉にしか聞こえない」

「おいおい、俺は自覚のあるクズだぜ?」

 

 さも自信ありげに言ってくるが、自覚があるからなんだと言うんだ。クズはクズだろう。

 

「自覚のないクズよか幾分かマシだろ」

「俺のこと自覚のないクズって言ってる?」

「え?うん」

「………」

 

 ああ、確かにこいつの言う通りだ。決着をつける……とまではいかなくとも一度面と向かって話すべきだろう。

 

「腹を括るか…」

「おっ、必要なら手伝うぜ?クズ男仲間として」

「黙っててくんないかな」

「人の口に戸は建てられないからな!」

「使い方違うと思うんだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くるっちゃんくるっちゃん」

「はい来栖だよ」

 

 放課後、勉強を教えて欲しいと言われたのでカフェテリアで待っていると、明らかに関係ない話をする気満々の様子で席につかれた。

 くるっちゃん……そういう愛称で、彼女は中学から私のことをそう呼ぶ。

 

「私、気づいちゃったんだ」

「へぇ、しょうもないことだったら怒るよ」

「大丈夫。これからの私の人生を左右しかねないほどの事だから」

「へぇ」

 

 嘘でしかない。

 規模が大きすぎる。穂花は昔からそうだけどやたらと話を大袈裟というか、誇張して話す癖がある。

 まあ突っぱねるわけにもいかないのでちゃんと聞くけど。

 

「それで?何に気づいたの」

「蓮木くんのことなんだけどね」

「ペッ!!」

「くるっちゃん?」

「なんでもない、続けて?」

「うん、それでね」

 

 あいつのことを話している時の、穂花のこの顔が嫌いだ。

 目をうっとりとさせて、表情に薄らと紅色を乗せて、無我夢中で、あいつのことしか考えられないっていう、そういう顔。

 

「私、ずっと蓮木くんに好きって言ってるでしょ?」

「………そだね」

「でも全然私のことを好きになってくれないじゃない?」

「……そうだね」

 

 あいつに好きと言いまくり始めてからすぐに問いただしたけれど、正直会話にならなかった。何故好きと言えば相手が好きになると思うのか、それも振られた相手に。

 

「それでね、なんでかなって思って色々調べてみたんだ。そしたら一つの結論に達してね」

 

 さて、穂花が色んな意味でそんなに頭がよろしくないのは分かりきっているが、どんな答えが出てくるのかはわからない。

 そして怖い。彼女がどんどん狂っていくのが怖い。どんどん遠くへ一人で変な方向に行ってしまう。そろそろ同じ目線に戻ってきてほしい。

 

「多分ね、蓮木くんって、鈍感系主人公ってやつだと思うんだ」

「……………なんて?」

「あ、鈍感系主人公っていうのはね?」

「いやそれは知ってるけど」

 

 そう来たか。

 自分の好意が拒絶されているのを受け入れられず、好意が伝わっていないと解釈してしまったのかこの子は。

 

「鈍感……鈍感かぁ」

 

 鈍感系とは、さりげなく好意を伝えても全く気づかないことを指す……のだと思う。しかしあいつ……蓮木慎也をそのカテゴリに当てはめるのは少し……いや、だいぶ暴挙だと思う。

 

 だってストレートに伝えてるし。

 好きって言っちゃってるし、毎日言ってるし、一日何十回も言ってるし。火の玉ストレートだし、これで鈍感と言えるならそれなら相手はもう「好き」という言葉が辞書に載っていないんじゃないか。

 

「全く、蓮木くんにも参っちゃうよね」

「あーうん、そうだね」

「ちょっと、ちゃんと聞いてるの?」

「頭を抱えたくなるくらいには聞きたくなかったと思ってるよ」

 

 唇を尖らせて不満げな表情を見せてくる。表情がいちいちキラキラしてて可愛いところは昔から変わっていない。最近はそこに好きな人のことを考えている、恋から乙女の表情が加わっただけだ。

 

 また唾を吐き捨てたくなったが下品なので堪える。

 

「ねえくるっちゃん、私はどうすればいいと思う」

「諦めればいいと——」

「論外!」

「…だよね」

 

 何度も諦めさせようとした、しかし穂花の決意は固かった。何がなんでもあの男と付き合わなければ気が済まないらしい。だから今更強く止めはしない。

 しないけれど……

 

「はあ、鈍感なところも好き…」

 

 この愛らしいほど、そして哀れなほど頭の残念な親友に何をしてやれるのか、それが分からないのがとても心苦しい。

 それに応援してあげるべきなのか、意地でも止めるべきなのか、それすらわからない自分に嫌気がさしている。

 

「……勉強教えて欲しいんじゃなかったの?」

「あ、うん、今日の数学ぼーっとしてて…」

「普通に分からなかったのを怠惰のせいにしない」

「えへへ…ごめんなさい」

 

 ようやく本題に入れる。

 勉強を教えるとか、そういう今まで普通のことをしているときくらいは、今まで通りのやりとりをしていたい。

 

 なにやら急いでいるような足音が室内に響き、どんどんこちらに近づいていくる。

 放課後にこんな焦った足音は目立つけれど、まあ気にせずに勉強を教えてあげよう。

 

 

 

「おっ、いたいた。おうい小宮山……なんで俺睨まれてんのッ!?」

 

 しまった、いきなり水を刺されてつい敵意を向けてしまった。

 

「あ、光田くんじゃん」

「光田?」

「うん、同じクラスの男子」

 

 なんかどこかで聞いた名前のような……

 見た目は……チャラついてて話もしたくない。けれどどうやら穂花に用があるみたいだ。

 

「あー悪い、なんかしてたか?」

「ううん、大したことじゃないよ」

 

 大したことなんだけど?

 あなたに勉強教えてって頼まれてたんだけど??

 

「それで私に何か用?」

「ああ、蓮木がお前と話がしたいって」

「蓮木くんが!!!??」

「ペッ!!」

「え、なんで今唾吐いたのこの子、てか声でかいね君」

「あっごめん、くるっちゃんの癖なんだ」

「えぇ……」

 

 …いや、早計は良くない。

 今更ちゃんと話がしたいなんて言うってことは、向こうから改めてもうこれっきりにしようとか、そういう話が来るはずだ。

 そうなればまあ……ちゃんと諦めてくれたのなら、傷心のこの子を宥めてあげる必要は出てくるけれど、それさえこなしてしまえば今まで通りの日常に戻れる。

 

「どっどどこにいるの!?蓮木くんどこ!?」

「近い近い声でかい…南校舎の裏だって…」

「…!あの時と同じ場所だ…」

 

 鼻息を荒くして光田に詰め寄る穂花。まるで自分が期待している返事が返ってくると信じて疑っていない。

 …友達の恋が実らないことを願っている私は、酷いやつだな。

 

「ほんっとうにごめんくるっちゃん!勉強はまた…えっと……時間がある時にお願い!」

「…分かったから行ってきなって」

「ごめんね!ありがと!!」

 

 口だけは、彼女の親友で居られる。

 心の中ではどんなことを思っていたとしても……

 

 

 

 

「いやー、どう転ぶんだろなぁ」

「……面白がってんの?」

「え?そういうわけじゃ……睨むなよ怖いって……」

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