好きって言えばいいわけじゃない   作:あぱ

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気づけばいいってもんじゃない

「お〜、なかなかのもんだったな」

 

 一通り花火が打ち上がって、隣にいるやつに向けて感想を述べる。別に顔は向けちゃいないが。

 蓮木と小宮山を置いて金魚掬いに興じ、その後も目についた輪投げとか型抜きとかで激しい争いに身を投じていたが、気づけば花火が打ち上がり始めていた。

 

 俺の感想なんか聞いていなさそうなあいつが、花火が消えていくのを見ながら口を開いた。

 

「……穂花とあいつどこ行ったんだろ」

「あ〜?………二人っきりで静かな場所で花火見ていい雰囲気になってたりして!」

「なわけないだろお前黙れよそんなわけないし穂花はそこまで尻軽じゃないしそんな簡単に雰囲気に呑まれてしまうような——」

「おう妄想はそこまでにしとけ、誰もそこまで言ってない」

 

 そんなに大事なら蓮木のこと近づけなきゃいいのに……

 

「………でもさあ、小宮山は蓮木のこと大好きだろ?」

「ペッ」

「蓮木がちょっとでもその気になったら、簡単にそういう風になっちゃうんじゃねえの?」

「そんなわけないだろ大体私たちがちょっと離れた瞬間にそんなことになるとか早いにも程があるしもしもそんなことになるんだったらスタンプ連打してムードをぶち壊しにしてやる」

「ははっ、おもしろ」

 

 そして不安になって本当にスタンプ連打しようとするな。

 

「……広場のあたりに向かってるってさ。俺たちも行っとこうぜ」

「…………はぁ」

 

 何想像して勝手に落ち込んでんだこいつ。さっきまで俺と罵詈雑言のキャッチボールしてたっていうのに。

 

「お前さあ、ほんとに小宮山のこと大好きだな」

「……好きだよ、あの子追ってこの高校に来たし」

「え、きも…」

「黙れ顔面モザイク」

「酷くね?」

 

 俺結構顔でモテてんだけどな……

 

「仲のいい友達と一緒の高校に行きたいって思うの、そんなに変か?」

「まあ人それぞれだろうけど……俺は新たな出会いを求めてここへ来たぜ?」

「黙ってろ顔面猥褻物」

「酷くね?」

 

 顔面猥褻……え、酷くね?すごく酷くね?

 

「……そんなに好きで大切でさあ、男が寄るの許せないんなら、ご自慢の暴力で虫が寄らないようにしたらいいんじゃねえの?」

「してたよ、中学の頃は思いっきり」

「こわ〜……」

 

 広場に向かいながら歩いていたが、来栖から距離を取る。普通に引く……自由意志の尊重とか……ないのか?

 

「だから辞めたんだよ、高校になって。………辞めた途端にあれで、流石に頭を抱えたけど」

「あー……まあ確かに小宮山ってちょっと異常だもんな」

「あ?殺すぞこの臭腺野郎」

「どんな罵倒?」

 

 正直言うと、よくもまあああやって普通に関わっていられるなと思う。まああの二人はどっちも良くも悪くも健全というか純朴というか………相性はいいんだろうと思うんだけどなあ。

 

「お前、結局あの二人が付き合わない理由聞いたか?」

「聞いたけど、二人だけのひ・み・つ、とか言われてファミレスの机を叩き割りそうになった」

「俺もなんかはぐらかされたんだよなあ……二人とも納得してるんだから、何か理由があってのことなんだろうが」

 

 なんか面白いことになればいいなと思って来栖をあいつらから引き剥がしたが……正直言ってあんまり期待してない。普通に屋台回って時間潰してそう。

 

「………何年も大切にしてた犬が、急に散歩中にどこの誰とも知れないやつに懐いて尻尾振ってたらどう思う?」

「それ、小宮山のこと?」

「どう思うかって聞いてんだよ搾るぞ」

 

 搾るて……

 

「まあそりゃあ、ショック受けるんじゃねえの?」

「ネットで調べたらこういう状態のことを寝取られというらしい」

「ぶっ」

 

 吹き出してしまった。急に何なんだこいつ。

 

「応援してあげたいって思う自分もいるにはいる……けどそんな奴認めないぞってナイフ振り回してる自分のほうが圧倒的に強いんだよな」

「なんか容易に想像できるな」

「これであいつがろくでもない野郎だったら、今頃……」

「………え?今頃何?え?」

「少年院……」

「こっっっわ。流石に冗談……ですよね?」

 

 その拳を握りしめて本当に悔しそうな表情をするのをやめろ。

 

「……ところで、なんで急にそんな話俺にしたの?」

「お前なら別にいいかなって……」

「え……」

「いつでも黙らせられるし……」

「えっ……………」

 

 …………逃げたほうがいいか、これ。

 

「幸か不幸か、あいつが変だけどいい奴だったせいでこうやって悩むハメになってる」

 

 変な奴同士お似合いなんじゃね?とかいうとまた殺気を向けられそうなので黙っておく。

 

「まああれだよ、そうやって受け入れようとしてるだけ偉いよ、うん」

「女漁ってるクズに言われてもな」

「ははっ、正論」

 

 とはいえここ最近は何もしてないんだけどな……

 

「……おっ、あいつらいたぞ。おーい!」

 

 広場にいた小宮山と蓮木に声をかける。向こうも気づいてこちらにやってくる、が………

 なんか……なんとなく、ぎこちない……?

 

 

 ま、まさかあいつら本当に……?

 来栖は……

 

「………」

「静かに涙を流している……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どこまで行ったんだよ」

 

 肘で蓮木を小突きながら問いただす。

 2回目の花火の打ち上げを見届けた後なんか俺以外の全員が憔悴しきったような表情をしたためお開きとなった男だけの帰り道。蓮木は本当に面倒くさそうな顔でこっちを見てくる。

 

「なんもないって」

「人を馬鹿にしちゃいけねえぜ、あの小宮山の顔見てたら誰でもわかるっつーの」

 

 来栖は茫然自失としてたし。

 面白かったけどこっちが何しても反応薄くなってつまらなくなった。

 

「あれはあれだよ、ほら………あれだよ」

「あれってなんだよ」

「夏バテ」

「………」

 

 うーん……

 

 時間的にも性格を考えてもせいぜいキスまでだろうが……これだけ問い詰めても一向に恥ずかしがったりする様子がないのが引っかかる。まさか本当に何も……?

 いやそうだとしても小宮山の反応に疑問が残るし……まあ最終的には二人ともいつものあの変な距離感に戻っていたけども。

 

「まあ言えないようなことしたってならそれでもいいけどよ」

「言ってろ。……心配してくれてんなら気は遣わなくていいよ」

「は?なわけねえだろ何言ってんだお前、馬鹿なの?」

「オーケー歯ぁ食いしばっていいぞ」

 

 拳を振り上げる蓮木を宥める。

 

「ったく……そういやお前ってさ」

「話題のすり替えか!?」

「今って彼女いないの?」

 

 チッ、逃げやがって……

 

「……え、なに、彼女?今?いないけど」

「いつから?」

「夏に入ったくらいから……?」

「夏バテのせいか…」

「なんでも夏のせいにするな、お前」

 

 別に理由なんかないが、いつの間にかそういうことをしなくなってしまっていた。いや、いいことなんだろうが。

 

「女を取っ替え引っ替えすんのは飽きたのか?」

「別にそうやって遊んでたわけじゃないって。ただ飽きて次の遊び相手探してただけで」

「つまり今は誰にも遊んでもらえなくなったのか、哀れだな」

「はっ、ちげえちげえ、何言ってんだお前。俺が遊んでやってたんだよ」

 

 それはそれで酷いか。

 

「まあ飽きたのかって言われたらそうかもしれないなぁ。中学からやってたし」

「最低」

「なんかなぁ、こう、高校生になってもやってたけど、なんかなあ……思ってたのと違ったんだよなあ……」

 

 なんて言えばいいのか。飽きたのはそうなんだが、期待はずれだったというか……

 

「もっとこう……大人なのというか、そういうのを求めてたというか」

「………」

「あぁそうだよもっと過激なの期待してたよ!!」

「なんも言ってないけど」

「中学も高校も結局ガキはガキなんだなあって」

「何悟ったふうに言ってんだこいつ」

 

 まあ、確かに俺のそんな身勝手な感情で振り回してしまった女の子たちに申し訳なさはなくはない。もう遅いけど今から心の中で謝罪してやらんこともない。

 

「なんかそもそも根本的で致命的なこととしてさあ」

「あ〜?」

「多分俺………俺みたいなやつ好きになる女が好きじゃないわ」

「………」

 

 つまりこれは………詰み?

 

「俺……もしかしたらクズかもしれない」

「女漁りみたいなことしてる時点で生きるに値しないから気にしなくていいぞ」

「あっそっかぁ!」

 

 もちろん女子は好きだ、かわいいし良い匂いするし、そもそも俺は男なので女のことを好きになるのは当然のことだと思う。

 そんでもってなんかモテるから、かわいい女の子と遊びたいって考えて……

 

「刺激的なのを求めてたけど別に中学とそんなに大差ないってのと、俺みたいなカス好きになるような奴がそもそも趣味じゃないという結論に達して………なんかそういうの飽きたなあって」

「へー」

「その興味ないみたいなのやめてくんない?」

「ないしな」

 

 俺は俺なりに転機となり得る気づきを得たんだけどなあ……

 

「まあ自分勝手に誰かを振り回すのはやめるよ。ビンタ痛いし」

「……へぇ」

「で?結局小宮山と何あったんだよ」

「もうすぐ夏休みも終わるなぁ〜」

 

 本当に言えないようなことあったのか…?

 まあいくら聞いても口を割らなそうだし期待はしないでおくか。

 

「朴念仁みてぇなやつだと思ってたが、意外とやるじゃねえか、このこの」

「うっせぇ」

 

 それはそれとして小突いておくけど、面白いから。

 

 

 これからどうすっかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「……何してんの」

 

 机の上に置いた画面のついていないスマホを眺めていると、結依が不気味そうにこちらを見ながらそう聞いてきた。

 

「今日一日お疲れ様のメッセージを送るかどうか悩んでいる」

「何それ……夏祭り一緒にいった相手?別にどっちでもいいんじゃないの?」

「それはそうなんだけども……」

「………もしかして、何かあった?」

 

 歯切れの悪い反応を見せる俺を見てそう聞いてくる。

 

「何かあった……といえばあったし、それに対して特に反応せずにいるか、ちゃんと話題に上げるかを悩んでいる」

「ち、ちなみにその、何か…って?」

 

 なんか食いついてきたな。

 ふぅん…………

 

「……お前にはまだ早い」

「嘘…………だろ………?」

 

 なんだその喋り方。

 

「おっおおお母さんに連絡しなきゃ」

「おいよせやめろ、絶対ダルいことになる」

「もしもしお母さん!?」

「やめろッッ」

 

 下手な冗談で揶揄ったことを軽く後悔した。

 

 

 結局例の件には触れずに、グループの方でお疲れ様と言うことにした。

 まあ……楽しかったな、うん。

 

 そう自分に言い聞かせながら、無意識に右頬をさすっていた。

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